只今、ロードショー中の『碁盤斬り』は落語の「柳田格之進」をベースにした作品。実直で曲がったことの嫌な浪人・格之進の囲碁の物語に、彦根藩在籍当時のストーリーを加味した話にぐっと引き込まれました。
裏長屋で娘のお絹と貧しい暮らしを送る格之進。書や篆刻を作り売り生計を立てようとするも、お絹の縫物の手間賃の方が足しになりながら、さりとて真っすぐな性格はそのまま、囲碁と少しの酒を楽しみに長屋住まいを楽しんでいます。囲碁の対局を通して質屋の萬屋の源兵衛と親しくなったが、月見の宴を楽しむ日に萬屋の離れで二人は碁盤を挟んで対局しますが、貸していた五十両が戻り、源兵衛の手元に手代が渡すも、源兵衛が小用をした折に五十両の行方が分からなくなります。格之進が盗んだのではないかという嫌疑を萬屋はかけるも…。このあたりは落語そのものです。
格之進が覚えのない罪をきせられた事件を理由に彦根藩を去る前、妻が琵琶湖で自死してしまったその訳も分からなかったが、当時の同僚が真相を格之進に伝えることから、仇討ちの旅に出ます。ここからが落語に付け加えられたストーリーで緊迫した場面が続きます。
さて、囲碁を通して、人とはが語られています。「碁を打てば人間が磨かれます。自ずと気品が備わってくるものです。それが勝負の本当の目的のように思うのです。」勝ち負けに終始すれば、心が卑しくなります。「正々堂々嘘偽りなく」は今の世にも響きます。
『碁盤斬り 柳田格之進異聞』(加藤正人著、文春文庫、本体価格720円、税込792円)