あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

美 「見えないものをみる」ということ

2014-04-30 16:47:50 | 

 資生堂名誉会長、東京都写真美術館館長、文字・活字文化推進機構会長など、美や本物と向き合ったいらっしゃる福原義春氏の「美」についてのエッセイです。読書家の福原さんの著書はどれも核心を突くものばかりで、よく読んでいますが、この本も納得の一冊です。

  「世界の文明はますます発展しているが、文化は矮小化していく」

 科学技術は進展していますが、芸術、音楽は衰退しているというのは、人間そのものの劣化によるものと考えられています。その原因はグローバリゼーションであり、市場主義経済でしょう。効率化が均一化を生み、人間の創造力は衰える一方でしょう。

  「多様性を否定された人間は委縮せざるを得ず、それは不幸としか言いようがない。」

便利な機械は人間の感性や直感、そして、以前は持ち得ていた能力まで退化させています。使わないと衰退するのは当たり前です。それでは、いかにして退化せずにいられるか?その答えは

  「自然に触れること、美に触れること、そして本物に触れること」

です。自然と一体化した自己を取り戻し、美しいものを五感で感じることを強調されています。自然の一部である人間が素晴らしい自然美を経験すると、魂が入れ替わるような気がするのは私だけでしょうか。絶景に触れ、動植物の絶え間ない活動も感性を磨いてくれます。

 そして、その土台になるのが教養、「知の遺伝子」を身に付けることが大切です。いわゆる、「リベラルアーツ」を学ぶ姿勢は生涯必要です。それもデジタルで受けるのではなく、書籍の力を借りることが人間の想像力や思考力を鍛えてくれることを強調されています。今の生活に少し距離を置き、非日常を取り戻す、それがあなたの見えない力を向上させてくれます。

 (福原義春著、PHP新書、本体価格760円) 

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ネットで「つながる」ことの耐えられない軽さ

2014-04-26 14:10:28 | 

  言葉について多くの人は意識していないと思います。しかし、「全世界で、500年に一度の「ことば」の大転換期が始まっている」と告げられたら、言葉を使う人間としては誰しも無視できないと思います。大転換することばとは、『書きことば』から『ネットことば』への流れです。

 言葉を生み出した人類は、『話しことば』を多用しました。紙のない時代は木や石、岩壁に書いても、それが読むのは少数の人だけでした。日本の古事記を考えても、稗田阿礼の頭脳の中にあった神話を太安万侶が文字に起こして、初めて『書きことば』になりました。つまり、人類史上では『話しことば』、音声言語の時代が長かったことになります。

 グーテンベルクの活版印刷の発明で、『話しことば』から『書きことば』へ転換しました。ことばは語られて聞くことから、書かれて読むものになりました。この両者を比較すると

【話しことば】 話者も聞き手も感情的になりがち。話した尻から話しことばは消えてなくなる。話して側に主導権がある。

【書きことば】 書き手も読み手も感情的というより、内省的で思索的になる。紙が朽ちたり焼けたりするまで、書きことばは存在する。読み手側に主導権がある。

のように、ことばの種類が変わると、使う人間にも大きな影響を与えています。書きことばの出現で、例えば、憲法や教科書などが使用され、国民は一つの国家意識を持つようになりました。

 さて、携帯電話やスマートフォンが1人に1台の時代になり、『書きことば』は徐々に陰を隠れるような存在になっています。新聞、雑誌、書籍の退潮はまさにそのものであり、逆に『ネットことば』が台頭しています。今まで、『話す』あるいは『書く』ことによってことばは成立してきましたが、『打つ』ことでことばは現れるようになりました。『ネットことば』の特徴は

【ネットことば】 双方向性、即時性、短文性、そして、全世界(グローバル)性。ことばだけでなく、動画、画像、音声も含まれる。記録と保存が可能になる。コミュニケーションがメインとなる。コピペ、改ざんが容易にできる。メールやSNSの普及により、スピードが求められることで、ことばは劣化していく。

となり、もちろん、長所もありますが、ことばの変質により、例えば、政治家の暴言や失言、ストーカー事件など、ことばが軽くなっているように思われます。そして、活字で生きてきた人にとっては、

 「現在の事態は、足もとの地面がまわりから崩れていって、立っている場所がもう残り少なく、つま先たちでかろうじて落っこちないですむ」

感じでしょう。メディアによってことばは変わらざるを得ませんが、このままでは人間そのものも劣化していかざるをえない。

 「書くことは思考であり、その思考を深めること、継続することで、生きのびる力を得ることができる。同時にそれを読む現代の読者もまた、生きのびる力を得ることができます。(中略)孤立した思考世界で自己と対話することは、ネットではなく、本でなければならない」

という結論には、もろ手を挙げて賛成です。本の商売うんぬんより、人間の変質、悪化は避けなければならないですから。

『ネットで「つながる」ことの耐えられない軽さ』(藤原智美著、文藝春秋、本体価格1,100円) 

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もしあなたが、いま、仕事に追われて少しだけ解放されたいと思うなら。

2014-04-19 15:26:52 | 

 1997年、40歳の吉田宏司さんが、グアムから飛行機で1時間のトラック諸島の無人島を購入し、「日本人の心のよりどころになる楽園をつくる!」楽園構想を実行に移しました。島の名はジープ島。島は1周275歩、直径34メートル。手つかずの自然のままの島をできるだけ手は加えずに、宿泊施設を建設し、今では日本から年間1000人のお客さんを向かい入れています。2009年に放送されたテレビ番組「世界の絶景100選」で、ジープ島は第1位に選ばれています。

 その吉田さんは大学卒業後、ダイビングクラブを主宰しながら、約15年にわたり、ダイバーを世界中に案内し、世界中の海に潜り続けていました。バブル時にはゴージャスな生活をしていましたが、バブル崩壊し、自身の生き方に疑問を感じ、冒頭のような楽園構想に挑戦しました。20年弱の無人島生活で、忙しく、また悩める日本人に対してのメッセージが本書です。3つのアドバイスは

 ①ちょっとずつ捨てる

 ②少しずつ始める

 ③ゆっくり続ける

です。簡単なことだとお思いでしょうが、これがなかなか出来ることではありません。例えば、捨てる事象も、ただ単にモノだけでなく、「流される生き方」や「背負っているもの」、「肩書」、「執着」、「常識」、「スケジュール」、「ネット依存」も含まれます。自然の中に我が身を置くことで、本当の姿が見えてくるはずです。吉田氏の言葉は禅僧やタオイストのようであり、それは現代日本人の対極に当たります。つまり、「非日常」を楽しめ!、リセットせよ!ということですね。

 1年先まで予約が取れないジープ島。行ってみたいですね。

 『もしあなたが、いま、仕事に追われて少しだけ解放されたいと思うなら。』(吉田宏司著、KADOKAWA、本体価格1300円) 

 

 

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詩羽のいる街

2014-04-17 15:39:56 | 

 『里山資本主義』が売れていますが、著者の藻谷浩介さんが推薦している本書を読みました。

 主人公の詩羽(しいは)は、6年間に渡り、お金を持たず、家もなく、地域の人に親切を施すことで高い信頼を得て、その謝礼で生きている20代の女の子。彼女のことを親しい人は

 「自分は変化することなく、接触した周囲の人間の人生を変えてゆく『触媒』」

に例えています。彼女の周りの人たちは、触媒のお蔭で幸せになっていきます。彼女が親切をした人同士が仲良くなり、人的なネットワークができています。彼女の言葉を借りれば、

 「すべての人間の共通の目的は、幸福に生きることです。(中略)あたしはこの街のみんなに幸せになって欲しいんです。だからいつも、そのための方法を探しています。口先だけの愛じゃない、具体的な案を―それがみんなのためだし、あたしもそれによって生きていけるんですから。」

 利他の精神を持ち、それを実践する彼女のように、私たちも生きなければなりません。自利に走ると、つながりはなく、結果的に感動のない人生になるのでしょう。みなさん、詩羽を目指しましょう!

 『詩羽のいる街』(山本弘著、角川文庫、本体価格781円) 

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仕事に活きる禅の言葉

2014-04-14 15:44:06 | 

 禅の考え方にはまり、生き方、仕事に活かせないかと本を読み漁っております。

 著者の島津清彦氏は、経営コンサルタント業を営みながら、禅を経営に活かすために「禅トレプレナー協会」を立ち上げました。禅と経営の共通点は

 「禅が思考(禅語)と行動(座禅)の両方を大切にするように、ビジネスマンも思考力と行動力の両軸を伸ばしていかなければなりません。」

と説いています。ビジネスでも使う言葉は禅から発しているものも多く、その語源を知れば、仕事に対するスタイルも変わります。例えば、利潤や儲けを指す「利益(りえき)」とは、禅語の「利益(りやく)」に当たります。

 「利益(りやく)」とは「他人を益すること」

です。「相手に利益を与え、それにより自分も益を得ることができる」という考え方です。「利他の精神」があって、自利が生まれます。

 本書に掲載されている禅語31を学んで、仕事力を伸ばしましょう!

『仕事に活きる禅の言葉』(島津清彦、サンマーク出版、本体価格1,400円)

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弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー

2014-04-12 10:49:29 | 

   開成高校と言えば、東京大学合格者数日本一の進学校。同校の野球部が平成17年夏の東東京予選にベスト16まで勝ち進みました。選手たちはどんな指導を受け、練習し、野球に対してどう考えているのかを取材した本書を読むと、弱者には弱者なりの兵法があるのがわかりました。

  高校野球なら、守り勝つ、バントで進め、僅差でものにしていくいう先入観があります。しかし、開成野球は全く違います。狭いグランドのため、週一日だけの練習、選手はずぶの素人集団のため、守備はエラーの連発。そこで選んだ戦法は、空振りを恐れず振り抜くバッティングで打ち勝つ、それも目指すはドサクサに紛れてのコールド勝ち。つまり、相手が力を発揮するまでに、自分たちのスタイルで野球をして、自らの土俵に相手を引きずり込む。野球に対しては、東大志望の選手には理屈で教え、イメージを大切にする。

  自らの勝ちパターンをしっかりと持つことは重要であり、余計な欲は捨て、勝つという目的に邁進する。野球のことがわからなくても、この本は誰にも勇気を与えてくれます。(高橋秀実著、新潮文庫、本体価格490円) 

 

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下りのなかで上りを生きる 「不可能」の時に「可能」を見つけろ

2014-04-03 15:41:37 | 

 本当に生き難い世の中になりました。グローバリゼーションと金融資本主義は格差を生み、健常な人の精神を病み、なかなか生きがいさえも感じない空気が流れています。

 しかし、私たちはこの世に命を授かり、なんとしても幸せな生涯を送りたいと思っています。そのために必要なことを本書は教えてくれます。

「人間が生きるためには3つのつながりがどうしても必要。人と人、人と自然、体と心のつながりが大切。下りを生きる時は特にこの3つが大事なのだ。」

「しっかりお金を稼ぐこと。そして運よく得たお金は止めずに、ためずに、回していくこと、回転していくこと。」

「隣に苦しんでいる人がいたら、その人の苦しみや悲しみに共感してあげたい。悲しみや苦しみを知っている人は人を癒すことができるんだ。」

「つながりながら、自分のペースを失わないこと。くっつくことだけを考えず、くっつきながら自立している自分を守って生きること。」

 やはり、人間は「人の間」と書く以上、「つながり」を無視することができません。かかわることが煩わしい風潮ですが、「つながり」がライフラインの一歩、幸せのスタートです。

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