高校野球の球児とその母を描いた物語。航太郎は神奈川県のシニアリーグで投手として活躍し、高校のスカウトも注目する逸材。母で看護師の菜々子は彼の行きたい学校へ進学させたいと思っていましたが、まさかの思いの、とある大阪の新興校へ進みました。彼の入学と同時に、菜々子も大阪へ移住をし、寮に入った航太郎をサポートします。
甲子園を目指す高校野球部の父母会の人間関係の気まずさや、肩を故障し、鳴かず飛ばずだった航太郎の変な大阪弁など、菜々子の大阪での生活も充実してきた3年目に、航太郎も甲子園の土を踏みます。航太郎が伝令でマウンドに駆け寄った時、母と息子の今までの野球人生で一番わかり合えた一瞬だったでしょう。母は息子に心から声援を送り、息子はその思いを背負う。アルプス席にいる母は輝いていると感じたからこそ、航太郎は次の試合からマウンドに立ち、快投を演じる。母強し、とともに息子も逞しく輝きを放っていました。
著者の早見さんはデビュー作『ひゃくはち』で高校球児を書き、今回は球児の母を題材にされました。次は誰が登場するのか楽しみです。
『アルプス席の母』(早見和真著、小学館、本体価格1,800円、税込価格1,980円)