あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

アルプス席の母

2024-03-29 12:13:39 | 

 高校野球の球児とその母を描いた物語。航太郎は神奈川県のシニアリーグで投手として活躍し、高校のスカウトも注目する逸材。母で看護師の菜々子は彼の行きたい学校へ進学させたいと思っていましたが、まさかの思いの、とある大阪の新興校へ進みました。彼の入学と同時に、菜々子も大阪へ移住をし、寮に入った航太郎をサポートします。

 甲子園を目指す高校野球部の父母会の人間関係の気まずさや、肩を故障し、鳴かず飛ばずだった航太郎の変な大阪弁など、菜々子の大阪での生活も充実してきた3年目に、航太郎も甲子園の土を踏みます。航太郎が伝令でマウンドに駆け寄った時、母と息子の今までの野球人生で一番わかり合えた一瞬だったでしょう。母は息子に心から声援を送り、息子はその思いを背負う。アルプス席にいる母は輝いていると感じたからこそ、航太郎は次の試合からマウンドに立ち、快投を演じる。母強し、とともに息子も逞しく輝きを放っていました。

 著者の早見さんはデビュー作『ひゃくはち』で高校球児を書き、今回は球児の母を題材にされました。次は誰が登場するのか楽しみです。

『アルプス席の母』(早見和真著、小学館、本体価格1,800円、税込価格1,980円)

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落葉

2024-03-28 14:06:41 | 

 元気なころは空手の道場を開いていた、60歳の内藤はパーキンソン病を患っている。できるだけ自力で活動しようと、原宿を歩いていたが、足が前に出ず、最後は転倒。これを見ていた、全く見ず知らずの3人が彼を助け、自宅まで送り届ける。「死ぬまで自分でトイレに行く」と書かれた紙が部屋には貼られており、そのために空手の演武が基本になっている体操を自ら考案し実践していた。彼ら3人はこの体操を基本にして、パーキンソン病罹患者、そして、高齢者へのダンスに仕立て上げれるか模索します。

 現代のIT技術により、全世界を巻き込んだイベントを開催する計画にまで発展。瓢箪から駒ではないが、多くの人たちが助け合い、内藤も転倒騒ぎから生きがいを見いだすまで至る、世の中では何が起こるかわからない。彼らは社会の人たちの目から見れば、アウトロー的存在かも知れないが、長所を活かせば活路は拓けることが読み取れました。書名の「落葉」も、その現象を起これば新芽が芽生え、新しい息吹が感じられます。

『落葉』(高嶋哲夫著、幻冬舎文庫、本体価格710円、税込価格781円)

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人生を変える読書 人類三千年の叡智を力に変える

2024-03-28 12:35:33 | 

 読書をなぜしなければならないのか?読まないでも生きてはいけますが、大丈夫でしょうか?

 組織の中にいること、悪く言えば、組織にすがることが安心につながる場合もありますが、その組織が継続的に存在するか否か、またはあり方そのものが正義に立脚しなくなると、組織内の個人「の中にしっかりとした基軸」を持たないと自分の存在、存在価値も危ぶまれます。つまり、「自分のメタ認知能力を高めながら、自分自身の考え方や人生観を熟成させていく」必要があります。「人生を生き抜くための力」を保持し、増進させるためには読書は不可欠です。

 人間は他者と会うことで大いなる考え方や生きる力を得ることができますが、本を読めば時空を越えて、いまここでそれらを得ることができます。精神的支柱を高める読書は永遠に不滅です。

『人生を変える読書 人類三千年の叡智を力に変える』(堀内勉著、Gakken、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

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31センチの約束

2024-03-21 16:30:38 | 

 小学高学年の児童書ですが、涙しました。

 小学4年生のサラとゆいは大の親友です。バレーボールのクラブチームに入っている二人はおしゃれ好きで、同じ美容院でカットしてもらっています。その美容院で、女子高校生が伸ばした髪をカットしているのを見て、美容院さんに尋ねると「ヘアドネーション」と教えてくれました。

 二ケ月後、ゆいは入院し、病名は白血病。サラはなんとかゆいのためにと思い、「ヘアドネーション」を思いつきます。髪の長さ31センチは必要なので、ロングにしますが・・・。ここからは本書で泣いてください。

 他人のために何かをする、その気持ち、意識がいとおしいです。

『31センチの約束』(嘉悦 洋・文、えがん・絵、西日本新聞社、本体価格1,200円、税込価格1,320円)

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兎の眼

2024-03-20 07:51:34 | 

 神戸にゆかりのある人の本を読もうという読書会で取り上げた1冊。兵庫区出身の灰谷健次郎の子どもたちを見る目は温かく鋭い。

 新卒の女性の小学校教師・小谷先生は1年生を受け持ちます。クラスの一人、鉄三は一言も話さない。小谷先生は彼のことを知り、そして心を開こうと懸命に取り組みます。彼がハエを飼っていることから、先生もハエのことを学び、共同で研究に取り組みます。そこで鉄三は自信をつけ、ハエの博士とまで新聞に掲載され、閉じ切られた扉が少しずつ開いていきます。ちゃんと書けない綴りかたの彼の文章に先生は胸を熱くします。小谷先生も自身の弱さを認識し、悩める一人の人間として、誰もが一つの命の持ち主の子どもたちを分け隔てなく教育していきます。

 両親のいない鉄三を育てているパクじいさんの心意気や小谷先生の先輩の「教員ヤクザ」と呼ばれている足立先生の視点も素晴らしい。

「人間は抵抗、つまりレジスタンスが大切ですよ、みなさん。人間が美しくあるために抵抗の精神を忘れてはなりません」

 この小説の根幹には足立先生のこの言葉が宿っています。

『兎の眼』(灰谷健次郎著、角川文庫、本体価格600円、税込価格660円)

 

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おあとがよろしいようで

2024-03-15 12:06:41 | 

 群馬の写真館の息子・暖平は群馬から上京し、大学の新生活を迎えます。高校までと同じように、人との付き合いを避けて、アルバイトに励む大学生になるつもりが、入学式に向かうキャンパスで落語研究会の部長の碧(芸名は文借亭那碧〔あやかりていなあおい〕)の『強情灸』の語りに、話しかけられたかと勘違いし、オチまで聴いてしまいます。その後、こたつを秋葉原に買いに行った暖平は下宿までの送料惜しさに、こたつを背負った姿を碧に発見され、そのまま落研に入部します。

 全く知らなかった落語の世界を知ることになり、当初想定していた大学生活とは全く違い、落研のメンバーと濃密に付き合い、多くの影響を受けます。例えば、

・落語の登場人物たちはそれぞれクセはあるけど、お互いにそれを受け入れて仲良く付き合っていること
・相手に変わることを要求せずに、自分が変わらないと誰も受け入れてもらえない
・明日楽しむために、楽しむための準備をする
・徹底的に同じことをやってみないと、個性なんて発露しない
・今のお前はこれまで出会ったすべて。でも、未来のお前はこれから出会うすべてだ。

など、読者にとっては本当に有難い言葉です。

  落語をしている私にとって貴重な教えは、落語をしている時にどこを見ているかという問いの答えは
 「落語の登場人物の語りかける相手の目を見て話す」
ということです。現実でも同じですが、そこまでの意識を持ってネタを披露してませんでした、トホホ。

『おあとがよろしいようで』(喜多川泰著、幻冬舎、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

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もしも徳川家康が総理大臣になったら

2024-03-13 15:25:48 | 

 舞台は現代、コロナウィルスが政府官邸でクラスターとなり、首相が感染し死去。与党は後継首相を立てることができず、誠に今どきながら、AIとホログラムにより歴史上の日本の偉人たちを復活させ、最強内閣を組閣しました。その陣容は

首相   徳川家康
財務大臣 豊臣秀吉
経産大臣 織田信長
外務大臣 足利義光
厚労大臣 徳川綱吉
農水大臣 徳川吉宗
法務大臣 藤原頼長
防衛大臣 北条時宗
総務大臣 北条政子
官房長官 坂本龍馬

など、誰も文句のつけようがない。国民主権を理解しながらも、前世では独裁者であった彼らはこの国難に「明確に『あるべき姿』を示し、そのための『具体的な指示』を行った」政策とは、【太閤給付金】(1人50万円)、食料自給率の改善、【日ノ本リモート万博】、【楽市楽座】。

 その後、内閣内での確執が生まれ、一人ずつ暗殺(データの消去)され、疑心暗鬼になりますが、死と背中合わせに生きてきた偉人たちは「圧倒的なスケール感と構想力とリーダーシップ」を発揮します。家康や龍馬が吐露するように、今の政治家が選挙で当選するために四苦八苦しているのとは大違いで、家康や龍馬が吐露するように、「多くの人に当事者意識が少なく、何かといえば他人を批判し、自分を正当化することで自我を保っている」し、「政治にかかわる者たちのどうしようもない軽さ」を感じています。このあたりは自民党国会議員を差しているのか?

 最後に、日米首脳会議後の家康の演説では、民主主義の肝を述べています。「自由と不自由、この折り合いをつけることこそが人を率いる者に必要なこと」が忘れ去られているんでしょうかね、今のリーダーには。

 この夏にはこの小説は映画化されますが、その時まで今の政権は存続するのでしょうか。

『もしも徳川家康が総理大臣になったら』(眞邊明人著、サンマーク出版、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

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じゅげむの夏

2024-03-08 14:40:20 | 

 この児童書を読んだのは、ダイナミックな絵を描いている、長田区在住のマメイケダさんの、最寄りの駅が板宿だから。もう一つは登場人物のかっちゃんが将来落語家志望で、いつも「寿限無」を口ずさんでいるから。やっぱり、マメイケダさん推しですか。

 山村に暮らす小学4年生のなかよし4人が夏休みに入って、かっちゃんの家に集まります。「四年生の夏休みを、最高の夏休みにしようよ。」「四年の夏は冒険だよ。」筋ジストフィーのかっちゃんの申し出にみんなも賛成!冒険と言っても集落内での未知の体験。特に、来年は体験できないことをかっちゃんはこの夏にしたい!という思いが強い!身体にとって一番危険な、橋の上から川へのダイブや、棚田の上の千年トチノキ見学ではかっちゃんは一輪車に乗せられます。

 かっちゃんの病気のことを認識するからこそ、かっちゃんのペースが自分たちのペースと信じ、4人の思い出を自然のなかで積み上げていくのは素敵だなぁと感じました。子どもならできますよね、冒険。いやいや、いくつになっても冒険心は抱きたいですね。

『じゅげむの夏』(最上一平 作、マメイケダ 絵、佼成出版社、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

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天才を育てた親はどんな言葉をかけていたのか?

2024-03-06 15:29:29 | 

 子どもの家庭教育は親に教えられたようにするのが一般的ですね。子どもの時に自分自身に刷り込まれているから逃れられないのでしょうね。しかし、本書に登場する偉人の親は子どもを良き道へ導く、まさしくリーダー。もしくはサポーターです。我が息子たちが生まれる前に学んでおけば良かったと後悔します。

 親はどうすればよいか。まず、子どもの意見を聴いてあげる。子どもの好奇心は素直に育んであげる。子どもの「好き」なことは得意分野になる可能性がある。向上する意欲に共感し、褒めてあげる。

 親としては自らの子どもですから、その命、存在そのものを全面的に肯定し、子どもの挑戦を後押しする立場になることが大切です。私は孫育てに役立てつつ、会社などの組織での人材育成にも活用できますね。何事も枠にはめずに、イキイキと活動できるようにしたい。

『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたのか?』(真山知幸・親野智可等、サンマーク出版、本体価格1,400円、税込価格1,540円)

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神様の絆創膏

2024-03-04 16:58:33 | 

   落語ストーリーだから『噺家ものがたり~浅草は今日もにぎやかです~』を読み、兵庫県書店商業組合の中高生の読書推進事業「どっぷりつかるなら読書がいいね!」で現役学生からの推薦図書『西由比ヶ浜駅の神様』で涙して、同じ著者である村瀬健さんの本書も楽しみに読みました。

 東京浅草にある日和神社には、隣接する春日野病院にかかる人たちが訪れます。乳がんで手術をする決意をした女性、うつで不登校の男子高校生、これからスターになろうとしていながらケガで下半身不随になった女優、父が脳梗塞で入院する役者志望の息子、そして、ステージ4の大腸がんに罹患した60過ぎの宮司の元妻は日和神社の宮司に悩みを吐露し、心を軽くしつつ、前向きに生きようとします。

 なぜ生きるのかという問いに対して、「次の出会いのためだ。(中略)いつだって自分のことを大切に想ってくれる人との出会いだ」と宮司は言います。それを受けて、宮司の元妻は「自分の人生に納得したいの。幸福というのは、納得することだと思う。」とつぶやきます。自分のしたいと思うことをやり抜く姿にこそ美しさが滲み出るのでしょうね。

『神様の絆創膏』(村瀬健著、メディアワークス文庫、本体価格690円、税込価格759円)

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