あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

富士山はいつ噴火するのか?

2022-08-28 10:24:22 | 

 ブラタモリを観ていても実感しますが、山の成り立ちを知ると登山も楽しくなります。体力に知力が付加された感じです。富士山にも登りましたが、富士山は300年ほど噴火していないので、どうなるのか?東海・東南海・南海トラフの動きも気になります。本書を読めば、日本の火山の基礎知識を踏まえつつ、富士山の次の噴火、趣味レーション、また、どうすればよいかの示唆も書かれています。

 まず、特筆すべき点は、著者、萬年一剛先生の文章がとてもわかりやすい。火山の様々な動きに関しての比喩が巧みかつ満載です。マグマだまりに溜まったマグマがいかに噴火まで至るかの喩に、日本庭園にある鹿威しを利用したのはさすがです。また、かわいいイラストもふんだんで読みやすい。

 気になる富士山の噴火ですが、300年後、2330年に予測をしていますが、こればっかりはわからないと申されています。しかし、備えあれば憂いなし。国や自治体だけでなく、個人もそれに対することも考えながら、ライフスタイルや購買を検討せよ!と訴えておられます。最悪を考えて、しっかりと対処しましょう!

『富士山はいつ噴火するのか? ─火山のしくみとその不思議』(萬年一剛著、ちくまプリマ新書、本体価格840円、税込924円)

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黛家の兄弟

2022-08-23 13:42:45 | 

 昨年、『高瀬庄左衛門御留書』(砂原浩太朗著、講談社)を読んで、著者の次作も楽しみにしていました。今年の1月に出版されていましたが、やっと読むことが出来ました。また、この作品は第35回山本周五郎賞も受賞しています。

 前作と同じく、架空の藩、神山藩の代々の筆頭家老の黛家、当代の清左衛門には3人の息子長男・栄之丞、次男・壮十郎、三男・新三郎がいます。栄之丞は次期筆頭家老で藩主の次女との婚儀が決まり、壮十郎は遊里通いから家を空けることが多く、新三郎は大目付を司る黒沢家の娘に婿養子になる、三者三様の人生を歩み始めました。新三郎が目付の見習いを始めた頃に、遊里で悪行を働く一味を一網打尽にするお達しが出て、壮十郎と新三郎はある事件に巻き込まれます。そこから黛家の行く末に暗雲が垂れ込めます。

 藩の主導権争いの中にも、父と子、兄弟、友、そして、妻や女中と、新三郎との心の葛藤に、その都度、突き刺さるような言葉があり、また、各場面では庭の花々、聞こえてくる鳥の囀りなど、情景が色豊かに彩られており、物語を追うだけでなく、カット割りが目に浮かびます。

 来年には神山藩シリーズ3作目が刊行予定であり、とても待ち遠しい限りです。

『黛家の兄弟』(砂原浩太朗著、講談社、本体価格1,800円、税込価格1,980円)

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いまこそ、感性は力

2022-08-18 14:18:25 | 

 人生の生きる目的や生き方を深めるために、東洋哲学と西洋哲学と格闘した芳村思風先生。しかしながら、過去の哲学からは答えが求められず、自ら探究したのが「感性論哲学」です。「理性」ではなく、「感性」を求めていて生きていくことを重視しています。

 「理性」はなぜダメなのか?「人間は理性的に生きることによって自然環境を破壊し、また人間性が破壊される」からであり、「理性の底」にある自らの感性を前面に打ち出せば、個性も発揮できるし、自分の心を動かせるステージに上ります。

 それでは、「感性」とは何か?「感性とは人間の本質であり、生命の本質であり、宇宙の究極的な実在」であり、「人間性を大事にし、人間が理性を使いこなして人間的に生きるというのが感性哲学の目標」としています。

 ここまで読んでもらっても何のこちゃと思われますよね。しかし、人を動かす時も、理詰めで説得するよりも、感性、つまり、その依頼や要望、思いに心が動いた方が人は動きますよね。理性よりも感性のほとばしる言葉を発せる人、いまここですぐに動ける人の生き様が素晴らしいのです。

 後半に、日本が平和国家を目指すなら、広島へ遷都をすべしという主張がなされています。これも理よりも感ですね。広島の都市としての意味には、原爆投下で亡くなった人たちや、そのために苦しんだ人たちの気持ちが色濃く含まれます。理よりも感性の思考は重要です。

『いまこそ、感性は力』(行徳哲男・芳村思風著、致知出版社、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

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ほどなく、お別れです

2022-08-16 16:33:28 | 

 大学4年で就活中の美空(みそら)はなかなか内定が得られず、悶々としながらも、半年も休んでいる葬儀場「坂東会館」のアルバイトへ出勤しました。彼女はこの仕事は楽しくやれていることに気付き、志望を変えて、そのまま葬儀ディレクターとして就職することにしました。

 訳ありの葬儀ばかり担当する漆原が教育係となりますが、彼女は霊が見える、あるいは感じ、霊と話しが出来ることで、死去した故人も、そして、残されたご遺族が満足してその日を迎えるように導いていく役割を担うように、漆原が誘導していきます。

 「人間が好きでないと務まらない仕事」と漆原が定義する葬儀業は、一生に一度の「いま、ここ」をコーディネートします。故人にも遺族にも寄り添い、どんな過去を背負っていようと、あの世への善き旅立ちを演出する、とても大変な仕事と感じました。ここに描かれた葬儀でのエピソードを知れば、しっかり生きようと思うし、長寿時代になればなるほど、誰に葬儀を任すかも考えざるをえないなぁと考えちゃいますね。いい生き様を示しておれば、ジエンドも美しいでしょう。

『ほどなく、お別れです』(長月天音著、小学館文庫、本体価格660円、税込価格726円)

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生まれかわりのポオ

2022-08-15 08:28:03 | 

 お盆ではご先祖様をお迎えして一家のだんらんをお見せして、心安らかにあの世へお戻りいただく。そんな中でこの物語を読みました。

 背中にハートの模様がある黒ぶち猫、名前はポオ。主人公ルイが生まれる前から、家族の一員として、ポオはママと最高のパートナーでした。ルイを温かく迎え入れたポオはルイとの時間を共有しますが、ポオは天国へ旅立ち、ルイはひどく悲しみます。ものがたりを書く仕事のママはルイのために3つのストーリーを提供します。そこで、ルイの感じたことは・・・。

 命あるものが何度も転生し、命あるものに生まれ変わるという輪廻転生の考えを想起し、「死」を恐れず、今の「生」をより良いものにしようとメッセージが伝わりました。また、命あるものはすべて平等であり、命の大切さもルイは感じたことでしょう。愛する者の死は哀しいですが、その人の生があったからこそ、自分の生も魅力的になったという思いも滲み出ていました。

『生まれかわりのポオ』(森絵都著、カシワイ絵、金の星社、本体価格1,400円、税込価格1,540円)

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人生、オチがよければすべてよし! 

2022-08-12 12:19:33 | 

 立川流の落語家でありながら、もう20冊も本を出されている談慶さん。今年の秋にはわたくし、笑喜転一頁との二人会も神戸新開地で開催予定であり、師匠の本をもっと読んどかなあかんという初々しい思いの下、手に取ったのが本書。この書名通り、わたくしも「人生は終い良ければ」と考えているので、納得の1冊でした。

 他の落語家に比較すると、9年に及ぶ長い前座期間があり、忸怩たる思いであったであろう談慶師匠は、談志師匠の教えをコンコンと叩き込まれ、それを最大の長所に変換されています。談志師匠の教え、考えは禅の思想に感じられ、ひとつの事象に出会っても、一局面だけではなく、その本質を突き詰めた先にある、素晴らしい他局面を創出されています。落語のネタそのものもまさにそのように作られ、演じられているので、笑いが生まれるのでしょう。

 釈徹宗と対談でも語られていた、当たり前の枠組みではない、「目の前にいる人の枠組みを揺さぶる」仕事を目指せば、明るい展望も開けるでしょう。仕事上は、井戸書店の理念、「感動伝達人」で揺さぶっていきまっせ!

『人生、オチがよければすべてよし!』(立川談慶著、晶文社、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

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父の声

2022-08-09 13:10:22 | 

   犯人捜しをするよりも、父の愛に涙するミステリー『父からの手紙』に続く、父の娘への愛情深いミステリー。妻を亡くし、一人娘の幸せを願う父。娘は地元の富山県高岡を離れ、大学から東京へ行き、そのまま就職して暮らします。しかし、悪い男に騙され、覚醒剤の中毒への道を進む娘を何が何でも救い出そうと決死の思いで父は立ち向かいます。

 麻薬取締官・篠田は事件を追求します。彼は薬学部で学び、製薬会社に就職が決まっていたが、覚醒剤使用者が起こした殺人事件に遭遇したり、少年野球の先輩が覚醒剤を使用して実刑を受けたことに衝撃を受け、「薬物の撲滅」の思いを強くし、麻薬取締官になりました。仕事に邁進した結果、妻は娘を連れて彼の元を去りました。彼の娘の名が覚醒剤に侵された娘さんと同じだったため、父と同じく助け出そうと懸命になります。

 前作では「手紙」が愛情の証でしたが、今回は「父の声」が娘を落ち着かせ、事件の解決にまでつながります。そして、篠田の娘も…。

 父が娘に寄せる思いはいつの世も強く、深い。だからこそ、物語は清く、感動を生みます。

『父の声』(小杉健司著、文春文庫、本体価格710円、税込781円)

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38億年の生命史に学ぶ生存戦略

2022-08-05 15:21:34 | 

 動植物の進化における戦略はまさにビジネスでも有効です。人間も自然の一部であることから、自然を学ぶことはすべてに応用が利くわけです。

 生存競争において、各々の動植物は「ナンバー1」であり、「オンリー1」の存在です。強者が生き残るのではなく、生き残った者が強者です。生き残りやすいニッチを求めて、自分の居場所を確保しています。つまり、「ずらす」ことによって、棲み分けを行っています。彼らの素晴らしい点は「戦わない」でずれる。

 しかしながら、環境の変化は激しく、特に、現代では人間の活動による攪乱が大きな影響を及ぼしています。これにも対応力を持てる生きものだけが生存していきます。自分の可塑性を可能な限り活かし、キリンやラクダのように自己変革を厭わないことが重要になります。そして、生きやすいように他の生物との共生も行われ、ビジネスでのコラボレーションを実践しています。

 自然からは学ぶことが多いし、すぐにベンチマーキングができます。今、その目で見たことがビジネスで活かせます。

『38億年の生命史に学ぶ生存戦略』(稲垣栄洋著、PHP研究所、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

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上田合戦仁義

2022-08-03 16:00:47 | 

 三河雑兵心得9巻が発売され、早速読みました。今回は徳川家康の子・於義丸を秀吉の養子、事実上は人質として、大坂へ向かうのに同行する植田茂兵衛から描かれています。茂兵衛は、徳川家臣の中では数少ない、対羽柴和平派の一人であり、大坂では史実では信じられない一場面に立たされ、読みながら緊張しました。

 浜松に戻ってきてからは、「表裏比興之者」と評される真田昌幸が徳川家に下ったため、茂兵衛が真田家担当者として、何度も上田城に出向き、盃を交わし、真田家と厚情を交わす一方で、真田家の実態調査も行います。真田家の飛び地である沼田を北条家へ返還し、その代わりに駿河に代替地を家康が渡すことまで納得しながらも、真田は次男信繁を人質にして上杉景勝に従属したことにより、家康は上田城攻撃に派兵し、茂兵衛も大久保忠世指揮下参戦。徳川方は散々な目を被り、殿軍を命ぜられ、生きて帰れるか?

 上田合戦は真田のいくさの真骨頂のひとつ。読んでいて情景も浮かび、続巻が待たれます。

『上田合戦仁義 三河雑兵心得9巻』(井原忠政著、双葉文庫、本体価格640円、税込価格704円)

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