あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

努力論

2016-08-28 12:07:28 | 

 人間学を学ぶ上で、必ず通る道の1冊が『努力論』。明治の文豪・幸田露伴による、人生を歩むための手引書ですが、原書で読むとなかなか難解です。夏川賀央氏による現代語訳で、現代日本人には理解しやすい希望の本となりました。

 「努力」と聞いて、あぁ無理と思う人もあるでしょう。しかし、オリンピックを見て、自分の目の前にある課題に対して、「やらねば」と少しは心動いたことでしょう。リオ五輪のメダリストは言うまでもなく、各競技出場者においても並々ならぬ練習の結晶が光り輝く現実を生み出しています。努力の賜物しかありえません。頭ではわかっても、身体では表現できない人へ向けて、この『努力論』は明確な導きを与えてくれます。

 まず、努力する自分を作りだせ!自己改造を訴えています。そのためには「幸福三説」を目指せ!とは理解しやすい。幸せを取り尽くさず、将来のためにとっておく「惜福」、幸せは必ず、人と分かち合えという「分福」、そして、未来の人々も幸福であるよう、幸せの種を播く「植福」の観点から、努力を怠るなと教えられれば、何とかできそうな気がします。努力の目的が自分の幸福のためだけ、利己に留まるのではなく、将来にまで影響を及ぼすという視点を持って事を為す。自分の身体の外向きに付いている目が現実だけでなく、見えない将来を想像し、力を注ぐと結果が変貌します。今回の五輪出場者も、自分たちのベストな身体表現が2020年の東京五輪に結びつくというコメントを語っていましたね。

 努力しようにも気が散ることばかりで集中できない現実があります。特に、スマホの存在は気を散らす機械の象徴です。気を散らさないためには、いまここに全気全念でこれにあたれと言い、好きなことに没頭せよと述べています。全身全気で取り組めば、嫌いなことも好きになるのは禅僧の修行の姿に通じます。

 そして、気に関しては、「意識して気を張れ!」、すなわち、「私たちと私たちの信念が一致することの自覚」からしか結果が出ないと論じています。これはスポーツなどで言う「ゾーン」に入ること、努力しているのではなく、無意識のうちに努力しているようになっている状態になることでしょう。

 本書は青年ばかりでなく、10年に1度は読み、自らの人生の歩みの是正の書として活用できれば良いと感じました。

 『努力論』(幸田露伴著、夏川賀央訳、致知出版社、本体価格2,000円)

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小倉昌男 祈りと経営

2016-08-23 15:58:48 | 

  小倉昌男氏といえば、宅急便の産みの親で、官に対してモノを申す大経営者。倒産の危機のあったヤマト運輸をよみがえらせるだけでなく、宅急便という大市場を生み出し、現代のインターネット通販のインフラとなりました。

 ヤマト運輸引退後、私財を投げ打って、ヤマト福祉財団を設立し、障がい者の就労支援に焦点を当てた活動を開始されました。しかし、これには〈はっきりとした動機〉がないという疑問に著者は取材を始めました。ヤマトの関係者に訊いても満足な発言もなく、彼が関わった、障がい者の就労施設の人たちからも明確な答えが得られず終い。最後は、人・小倉昌男、そして家族に確信を求めました。

  その謎への回答は本書に譲りますが、小倉昌男氏の行動に関して、

 「彼のエネルギーの源は怒りなんだろう」

 「宅急便も障がい者も、弱者への視点は共通している」

ことが述べられています。そして、その基盤は、書名にある通り、彼のカトリックへの「祈り」だろうと思います。いかに生きるべきか」がはっきりしているか否かが、その人物を評価することに間違いないでしょう。

『小倉昌男 祈りと経営』(森健著、小学館、本体価格1,600円)

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一歩を踏み出すための道徳

2016-08-22 14:49:04 | 

 人が育つには越えなければならないハードルがあります。そのハードルのことをわかりやすく理解させるための言葉や考え方が提示できれば、人は動くのではないでしょうか。著者の平光雄さんは小学校の教師生活32年の経験から、簡明な思考を教えてくれます。

 例えば、「やる気」を湧きあがらせ、持続させることは大切です。それには、

  「あなたの性分を生かした、この世での役割がある」という認識を持ち、口癖は「心癖」だから、良い口癖でやる気を相乗し、「チャンスは貯蓄できない」からいますぐに取り掛かる。

 それと他者からの同調圧力に屈せず、それを振り切る覚悟で突き進む。「オタク」「変人」は偉人の入口と考え、人と変わっている「変さ値」を高める

と、やる気も継続し、自己の成果も輝かしい方向に進むでしょう。また、継続力を培う「不屈心」では、

 「百転一起」「心に偉人を」

の心構えで、努力がすぐに実を結ばないでも、壁にぶち当たり、挫折感を感じても、「やり続ける」ことに価値があることを説いています。

 その他、自信と勇気、自分の成長のために必要な人物など、人間力の向上への道筋を小学生に述べた話をまとめています。新しくて良い考え方に入れ替えましょう!

『一歩を踏み出すための道徳』(平光雄著、廣済堂出版、本体価格1,300円)

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運命を切りひらくもの

2016-08-17 17:03:21 | 

 盲ろう者の東大教授である福島智氏がどん底の時に読んで救われたのが北方謙三作品。「地球人でいちばん会いたい人」との対談集である『運命を切りひらくもの』はご両人の命のスパークを感じました。

「十年同じ場所で頑張っていると、見えるものは見えてくるし、できることはできるようになる」 

「生きることは書くことで、書くことは生きること」

「本や物語は、(中略)人間が人間たろうとした時に必要になってくる。肉体には必要ないけれども、精神に必要な栄養だろう」

という北方謙三先生に対して、

「言葉がないと、つまり具体的なコミュニケーションが難しいと、人間というのは生きていけない。言葉は人間にとって酸素のようなもので、それなくしては魂が死んでしまう」

「愚直に、一途に自分の人生を生きていく」

「人生いろいろあるだろうけれども、とにかく生きてさえいれば、それだけで人生というテストで八十点、九十点を取っているようなもの」

と応対する福島智先生。 お互い、言葉を大切にして生きていることこそが「筋を通した」姿になっていると思います。現代では、あまりに軽々しくなった言葉。メールやSNSで交わされる言葉、そして絵文字に至っては酸素とは考えられない。人間だけが持つ言語だからこそ、その能力を活かし、伝え、思いに向かって行動することが無視できないし、それこそが生きる道でしょう。

余談ですが、BARでのご両人の会話から、福島先生の「地」が垣間見えるのが楽しく感じました。

『運命を切りひらくもの』(北方謙三・福島智著、致知出版社、本体価格1,200円)

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やってはいけない脳の習慣

2016-08-16 15:06:03 | 

 スマホやSNS,そしてスマホゲームと、手のひらにパソコンがのるようになり、人間の興味はますますデジタルの方へ移っています。本当はリアルが第一にならないとダメだと思いながらも、科学的な知見があればと考えていました。本書でそのことが証明されるでしょう。

 小中高生7万人の脳の解析データから驚くべきデータが発表されています。

 「勉強時間にかかわらず、スマートフォンの使用時間が長い子どもから、せっかくやった学習内容がきえてなくなっていった。」 ~ 「算数・数学の勉強時間が2時間以上でスマートフォン使用が4時間以上の場合正答率は55%、勉強時間が30分未満でスマートフォン使用をまったくしない場合は60%である。」

 「LINE等の使用が学力低下により強い影響力を持つ」 ~ 「どんなに勉強してもLINE等を長時間使用した場合には、LINE等を使用しない子どもより成績が下がってしまう」

 これに関しては、 「パソコンやスマートフォンの使用習慣の強さと、脳の前帯状回(注意の集中や切り替えや、衝撃的な行動を抑えるといった機能に関わる重要な領域)という部分の小ささが関係している」と判断されており、脳の形が変わると結論付けられています。

 「どんなに長時間勉強してもゲームをしてしまうと、勉強した効果が打ち消されてしまう」 ~ 「長時間ゲームを行う子どもは、言語に関する能力が低く、長期的にその能力が発達しにくいこと、脳形態からも、記憶や自己コントロール、やる気などを司る脳の領域の細胞の密度が低く、発達が阻害されている。」

 以上は子どもに関するデータですが、大人に関しても同じことが証明されるのではないかと想像します。現在の大人の大半もスマホ、SNS、ゲームに明け暮れ、習慣化しています。子どもたちと違って自制心は働くでしょうが、幼少の頃からTVゲームに慣れ親しんだ世代が成人化する中、社会や会社でも同じ現象が起きているのではないかと危惧します。

 本書の第6章「習慣は、生まれつきの能力に勝る!?」には、「読書習慣が強いほど、神経線維のネットワーク(神経回路網)が発達する」と書かれています。そういう意味でも、子どもの頃から読書を習慣化することの大切さは脳科学からも証明されています。活字GOですよ!

『2時間の学習効果が消える! やってはいけない脳の習慣 実証データによる衝撃レポート』(横田晋務著、川島隆太監修、青春出版社、本体価格880円)

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+1cm

2016-08-12 06:42:39 | 

 1cm(センチメートル)は僅かの長さに感じますが、競争の世界ではその僅差が順位を決する大差となります。逆に言えば、この僅差にフォーカスすれば、この本の副題である、

「たった1cmの差があなたの世界をがらりと変える」

に変わります。つまりは僅差を大切にする心を持つこと、僅差を大差にするOS(オペレーションシステム)をインストールすることを強調している本書は、胸を差す言葉と楽しい絵で構成されて、どこを読んでも、どこから読んでも飽きません。

 私が唸ったページが60ページの「ひとりぼっち」。孤独の居た堪れなさを切々と書いていますが、61ページの点線を谷折りすれば、62ページの「じゃない」に結びつき、60ページと62ページが融合して、「ひとりじゃない」に大変身。1ページを挟むだけで、「ひとりぼっちじゃない」気分にしてくれます。

 また、175ページの「明日の降福確率」。奇跡は幸福ではありません。今あることが幸福であると思う心こそが「僅差を大切にする」心ですね。

 最後にもう一つ。44ページの「Video Kills the Radio Star,Smartphone Kills Smart People」。スマートフォンの登場は世界を変えましたが、それで幸せになったのか?スマートフォン依存症は全世界に拡大しています。

「信じられないかもしれないけれど、わずか数年前わたしたちは〔    〕がなくたってとても幸せだったのです。」

 リアルの方が大切と言われなくても理解できるけれども、すぐそばにある存在に引かれて(魅かれて)しまう人間の弱さこそが僅差かもしれません。

『+1cm』(キムウンジュ/文 ヤンヒョンジョン/イラスト、文響社、本体価格1,430円)

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ローマ法王に米を食べさせた男

2016-08-06 16:49:37 | 

  昨年にTBS系でドラマ化された原作です。「限界集落を救う」という大命題をたった60万円の予算で取り組んだ、実に面白い内容でした。

 石川県羽咋市神子原(みこはら)地区は約1000ヘクタールの中山間地域、住民の多くは農家、耕作地は110ヘクタールでほぼ棚田です。人口減少と高齢化の好サンプルのような地域に何も施していなかった行政に憤りを感じ、市役所職員・高野誠鮮氏は

 ①過疎高齢化集落の活性化 ②農作物を1年以内にブランド化

の2つの案件に対し、「脚本を書いて、ドラマを作ることができれば村は動くと考え、ドラマを演じてくれるのは、村の人」として、創造的なシナリオを書き上げました。「犯罪以外は、全部責任を取る」という上司の下、わずか60万円の小予算で、都会の若者を呼び込み、定住してもらい、神子原(みこはら)地区で起きた出来事やニュースを内外のマスコミに積極的に取り上げてもらい、棚田オーナー制度の契約者の第1号はイギリス領事館員というおまけも付きました。人が注目し、動き始めました。

 神子原(みこはら)とは英訳すると、「the highlands where the son of God dwells」 となり、神の子からキリスト教を連想し、ローマ法王に米を献上することを思い付き、実際にローマ法王へお手紙を書きました。運よく、ローマ法王に献上した初めてのお米としてお墨付きを得て、マスコミにガンガンと登場。ブランド化は大成功でした。

 高野誠鮮氏の考え方は

「可能性の無視は、最大の悪策」「強い信念があればゴーイング(強引)マイウェイ」

という徹底主義、チャレンジあるのみですね。すぐに先を見通して、無理だと感じるのでなく、失敗してから次に移ることの大切さを学びました。勇気づけられる1冊です。

『ローマ法王に米を食べさせた男』(高野誠鮮著、講談社+α新書、本体価格890円)

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