豊岡出身、兵庫県在住の大学生ということは神戸、もしくは阪神間の大学に通っているのかなぁ~第14回小説現代長編新人賞受賞作品でもあり、本への愛情を込めた物語です。
主人公は高校2年生の越前亨(とおる)。小学校時代に小説家のお父さんを亡くし、「迷惑かけてごめんな、亨」という言葉、「迷惑の意味に囚われた」まま生活をしています。高校の図書委員の1年生の小崎優子は校舎の屋上で、クラゲを降らせようとするクラゲ乞いをやり続けているのを、亨はつきあっていました。「世界は理不尽だから、反乱を起こす。テロを起こす」というクラゲ乞いの目的を知り、亨も積極的に参加することになり…。ストーリーに登場する高校生の心の屈折を爆発させようとする、すべての人に迷惑を被らせる行動に興奮しつつ、その心情の解決に迫っています。
亨の囚われを払拭するのは、父の本棚にある、父の小説2冊であり、彼の将来への導きを促すのは、父が亨のために書いたと思われる「未完成本」。そして、奇跡が起きます。
誰しも置かれた環境で悩み、苦しみ、時には逃げ出したくなることをどう解決するのか?その答えを提示してくれる一つが本だなぁとしみじみ思いました。小説であり、歴史書であり、自分の経験や史実を書き起こし、訴える書物には偉大なる力があります。「枕元に置いておきたい芸術だし、誰かが手間暇かけて作ったものはそれだけで価値がある。」本をさらに好きになりました。
『晴れ、時々くらげを呼ぶ』(鯨井あめ著、講談社、本体価格1,300円)