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あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

晴れ、時々くらげを呼ぶ

2020-06-30 17:00:21 | 

 豊岡出身、兵庫県在住の大学生ということは神戸、もしくは阪神間の大学に通っているのかなぁ~第14回小説現代長編新人賞受賞作品でもあり、本への愛情を込めた物語です。

 主人公は高校2年生の越前亨(とおる)。小学校時代に小説家のお父さんを亡くし、「迷惑かけてごめんな、亨」という言葉、「迷惑の意味に囚われた」まま生活をしています。高校の図書委員の1年生の小崎優子は校舎の屋上で、クラゲを降らせようとするクラゲ乞いをやり続けているのを、亨はつきあっていました。「世界は理不尽だから、反乱を起こす。テロを起こす」というクラゲ乞いの目的を知り、亨も積極的に参加することになり…。ストーリーに登場する高校生の心の屈折を爆発させようとする、すべての人に迷惑を被らせる行動に興奮しつつ、その心情の解決に迫っています。

 亨の囚われを払拭するのは、父の本棚にある、父の小説2冊であり、彼の将来への導きを促すのは、父が亨のために書いたと思われる「未完成本」。そして、奇跡が起きます。

 誰しも置かれた環境で悩み、苦しみ、時には逃げ出したくなることをどう解決するのか?その答えを提示してくれる一つが本だなぁとしみじみ思いました。小説であり、歴史書であり、自分の経験や史実を書き起こし、訴える書物には偉大なる力があります。「枕元に置いておきたい芸術だし、誰かが手間暇かけて作ったものはそれだけで価値がある。」本をさらに好きになりました。

『晴れ、時々くらげを呼ぶ』(鯨井あめ著、講談社、本体価格1,300円)

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童の神

2020-06-29 08:03:38 | 

 源頼光と四天王が大江山の鬼を討伐した史実、そして、大江山の鬼伝説を基に、その頭領の酒仙童子を主人公にした物語は大スペクタクルです。京(みやこ)人 VS 童子(京人の)の手に汗握る合戦シーンは数多く、同じ人間でありながら、統治する側が独立心強い民を差別する構図は今も変わらないかもしれません。

 「すべての童と呼ばれる者たちへ檄を飛ばす。この国に問う。人はどうあるべきかを」

 あとがきでは、本書は三部作の一作品として、あと二作品を書くという著者の意気込みが感じられ、そうなると、すでになっていたマンガ化、続くアニメ、映画とキングダム級にならないかと期待をしています。そして、京都の大江山へ行きたくなりました。

『童の神』(今村翔吾著、ハルキ文庫、本体価格800円)

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言志四録一日一言

2020-06-28 11:25:44 | 

 井戸書店の大人の人間学塾の6月の課題図書の本書は生きる道筋を教えてくれています。2月29日を含めての1年366文が掲載されています。言志四録は言志録、言志後録、言志晩録、言志耋録で構成され、著者の佐藤一斎先生が42歳から82歳までの語録です。自分の年齢に合わせても読めます。

 私の胸を打ったのは3文。

 1月7日 なぜ生きるのか 「私は天が生んだものであるから、必ずや天から役割が与えられている。その役割を果たさなければ、必ず天罰を受ける」 自分の志は何かを改めて考えさせられました。

 3月16日 九族を楽しむ 自分は父母、そして、祖先の存在無くして生まれず、子孫も自分有ってのもの。自分の姿は先祖や子孫にまで及ぶことを考えれば、慎みながら生きていきたい。

 10月6日 心を養う方法 身体のためには食を喰らうが、最も養わなければならないのが心である。疎かにせず、日々精進する必要を感じました。

 さらには、井戸書店の経営理念「我々は感動伝達人である」に通じる、11月5日の「感応の原理」は肝に銘じたい。「我れ自ら感じて、而る後に人之に感ず。」現代語訳は「まず、自分が感動をして、そののちに人を感動させることが出来るのである。自分が感動しないで、他人を感動させることなどできるはずがない。」自分が感動するには受けるべき良き器が要り、器は磨き続けなければいけないし、そこには美酒や美味を選ぶことが不可欠になります。選べる人になりましょう。

『言志四録一日一言』(佐藤一斎著、渡邉五郎三郎監修、致知出版社、本体価格2,500円)

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しかけにときめく「京都名庭園」

2020-06-22 17:02:41 | 

 前回のブログが「美意識」を鍛えるがテーマでした。また、県をまたぐこともできるようになったので、今回は、京都の庭園デザイナーが案内する京都の名庭園の本を紹介します。

 日本の庭園は、ヨーロッパや中国などのシンメトリック左右対称ではなく、見た目には秩序ないように思われますが、作庭家の強い思いが表現されています。また、海外の庭は庭単独で自立した存在ですが、日本は建物との調和や借景、石や白砂で海や島などを表すなど、観る者の想像力を掻き立ることによって成立します。

 この本に掲載されている20の庭には、庭のある社寺の謂れ、そこから由来する庭の心がひとつひとつ描かれています。日本の庭には桜と紅葉と二季は必ず訪れた方が良さそうですね。私は、京北の常照皇寺にお邪魔したいなぁと思いました。京都にここだけにある国の天然記念物の桜・九重桜があり、早春には色鮮やかな光景が広がっているでしょうし、自ずと美意識は高められること間違いありません。

『しかけにときめく「京都名庭園」 京都の庭園デザイナーが案内』(烏賀陽百合 著、誠文堂新光社、本体価格1,600円)

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世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

2020-06-20 07:46:17 | 

 ビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)受賞作品を今さらながら読了。

 書名の通り、「美意識」を鍛える理由は明解でした。テクノロジー、サイエンスの発達で課題は希少化しており、不便も便利に至っている状況下、解決すべき問題は不可解なものばかり。これを論理で解くことは難しく、そこで登場するのがアートという見解です。直感や感性を磨くこと、また、リーダーは自身の中に確固たる「真・善・美」を抱いて、諸問題に立ち向かう必要があります。とはいえ、経営は、サイエンスを考慮に入れての、アートとの統合であり、経営においては、「エッセンスをすくいとって、後は切り捨てる」、「選択と捨象」をすべしと目論まれています。そこにオリジナルの価値が潜むのでしょう。

 個人の美意識を高めるには、絵画などの芸術に向き合うだけでなく、「哲学」「文学」「詩」を親しみ楽しみ読め!とも。

 自社にとって、何が「エッセンス」なのかを十二分に考えること、つまりは自社がこの世界をどうしたいのか?を突き詰めていくことでしょうか。今までの顧客の視点から発進ではなく、「上から目線で」「わがまま」を発揮する、そして、それをサポートしてくれる人を生み出していく。そのための美意識研鑽に努めましょう!

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(山口周著、光文社新書、本体価格760円)

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世界観をつくる

2020-06-19 13:56:05 | 

 山口さんが会社にとって必要な人材としていると言う、一流のクリエイティブディレクター、水野学さんとのこの対談が盛り上がらないわけがありません。

 『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』でこれからの時代の経営者はアートを知る必要があると訴える山口周さん。サイエンスやテクノロジーの発展で、世の問題は解決し、不便は便利になり、問題は希少化、そして、これ以上便利にできない状況になっています。つまりは、企業にとって「役に立つという価値」が機能しなくなり、「意味があるという価値」を表現しなければならない。そのためには会社の世界観を構築し、アートやデザインで伝える必要があると説きます。

 そのデザインにはセンスが必要であり、「センスは知識の集積」と述べる水野学さんは、ビジョンをブランディングするには徹底的に精度、完成度を上げる、つまり、手を抜かず、企業が表現するものには圧倒的なこだわりと高質を求めています。

 これからは企業にとっては、『どんなに真っ赤っかのレッドオーシャンでも「意味」をつくればやりようがある』んだから、最後には、自らも含めて「意味のつくれる人材」こそが大事になりますね。

『世界観をつくる 「感性×知性」の仕事術』(水野 学・山口 周 著、朝日新聞出版、本体価格1,400円) 

 

 

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日本美術の底力

2020-06-13 08:04:36 | 

   日本美術の応援団を自負されている山下裕二先生の日本美術論の現時点での総決算的な1冊。過去から現在に至るまでの日本美術の強烈なパワーを教えてくれています。

 まずは、2点を押さえることをお奨めされています。

 その1.日本美術は「縄文と弥生のハイブリッドである」
 縄文の土器や土偶こそが「ジャパンオリジナル」であり、弥生以降は大陸からの影響を色濃く受けています。この差は大きく、「縄文的原型を構成する要素としては『動的』『有機的』『怪奇的』『装飾性』であり、対する弥生的原型は、『静的』『無機的』『優美』『機能性』によって構成されている」という岡本太郎の分析を引いています。

 その2.外来の刺激を換骨奪胎して独自の美に昇華してきた
 日本は常に「守破離」の言葉の通り、型を真似し、改善や改良を加え、新しい型を創造してきました。美術もその範疇にあります。

 その上で、「実物を『観る』という経験を積み重ねよ!」、つまり、外の情報に惑わされずに、自分の中に美術を見る目を育てようという提言です。海外のものが素晴らしい、日本の美術は2流であり、海外の評価こそが日本の美術の担保とされてきた流れを阻止しようとしています。

 コロナ禍で芸術、美術、文化は大ダメージを受けています。観る側、聴く側、エンターテイメントを楽しむ側が自覚を持つためにも読まれることを希求します。

『日本美術の底力 「縄文×弥生」で解き明かす』(山下裕二著、NHK出版新書、本体価格1,200円)

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ミモザ

2020-06-13 07:36:57 | 

 『THE LIFE STORY OF TERUKO』と書かれている通り、107歳のピアニスト・長谷川照子さんの人生を1冊にまとめ上げられています。

 老いて、ピアノも弾けず、「何のために生きているのか わからなくなることがある役に立たない 役に立たない」と思いつつも、「『幸せ』って思った方が得」と淡々と述懐する。思い起こせば、長い人生の中でさまざまなつらいこともあったでしょうし、老いの自分も、頭と身体のアンバランスで挫ける気持ちになるかもしれない。しかし、その心の強さがあるからこそ、長寿を存えて居ると思います。

 とても素敵な絵本です。シンプルな生きる指標です。多くの人に手を取ってもらいたいし、プレゼントしてもらいたい。書名の『ミモザ』の花言葉は「秘密の恋」「友情」「思いやり」だそうです。

『ミモザ 107歳のピアニスト・長谷川照子さんのストーリー』(黒川由紀子・文、Dasha Mussienko・絵、木楽舎、本体価格1,500円)

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満月と近鉄

2020-06-09 13:27:43 | 

 なんとローカルな書名(近鉄さん、ごめんなさい)と思いつつ、読んでみると面白い!4作の短篇は奈良が舞台。どれも不思議な感じを味わえます。

 特に傑作だったのが、万城目学さんの作風を彷彿とした「ランボー怒りの改新」は、ベトナム戦争帰りの戦士ランボーが大化の改新の時代に立つという構想は鬼気迫るものでした。日本史で学んだ歴史上の人物が登場し、蘇我氏の陰謀をランボーがぶっ潰す。

 最後の「満月と近鉄」は、著者が小説家を目指す青年の夏を描いています。小説家の仁木英之さんが書かれているこの本の解説「在野の遺賢」は、フィクション「満月と近鉄」の現実の続きとなっており、小説として世に出るまでの流れを描いています。これで「満月と近鉄」をさらに楽しめます。

 著者・前野ひろみちさんはこの1冊しか書いておられず、奈良の畳屋の経営者を地道にされています。この才能は小説界に是非とも再登板してもらいたい。

『満月と近鉄』(前野ひろみち著、角川文庫、本体価格640円)

 

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コケはなぜに美しい  

2020-06-08 13:53:40 | 

 コケと聞いて思い浮かべるのは、初めて陸に上がってきた植物であり、お寺の庭や日本庭園には瑞々しい苔の庭があるぐらいです。しかし、今や、コケブームらしく、そう言えば、「コケテラリウム」の実用書も出版されていましたね。本書はコケの入門書。美しいコケの写真がカラーで満載しています。

 海から上陸したコケが一番気にするのは、もちろん乾燥対策であり、乾燥に弱いところを集中的に守る進化を遂げています。その構造は非常にシンプルで、体の表面から水分や養分を吸収できます。

 日本人にとってのコケのイメージは、日本庭園のように「わび・さび」であったり、屋久島やトトロの森のように「神秘的」であったりします。

 コケの生息地は海以外、都会から渓流、農村、里山、深山、高山まで広範囲です。高山のコケは、中国から偏西風に乗ってやってくるPM2.5に曝されている研究結果が出ており、季節によってはマスクが必要になりますね。コケが森で果たす役割は①小さなダム(すぐに土へ浸透させず、じわじわと蒸発し、森を潤す)②ミネラルなどの栄養素の貯蔵庫となっています。コケは枯れると土になり、シダ類以降の植物の土台となってもいます。屋久島では一枚岩で形成されており、コケが屋久杉を作ってきたそうです。

 そんなコケに人類は大注目しなければなりません。地球環境の急変動、悪化、特に温暖化において一番先に影響を受けるのがコケであり、我々は猛暑でもエアコンを使用すればいいですが、直に曝される彼らが我々からも指標となることを認識しなければなりません。人間も生命の進化では大先輩のコケに敬意を示し、地球環境の改善に注力するべきです。

『コケはなぜに美しい 』(大石善隆著、NHK出版新書、本体価格1,200円)

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