あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

らも 中島らもとの三十五年

2024-08-29 17:00:27 | 

 神戸に関わる人として、灘中学校、灘高校へ通った中島らもを選び、本書は彼の奥さまの美代子さんによる、らもと知り合った彼が18歳から死去する53歳までの生活を綴っています。奇想人らもはこのようにして出来上がったのがよくわかりました。

 彼らの暮らしは彼らだけでなく、らもの知り合いが彼らの家に集まって生活していたという奇妙奇天烈な毎日を送っていました。酒、睡眠薬、麻薬、セックス何でも有り。しかし、これが小説家、エッセイスト、コピーライター、芝居、バンドと多くの分野で活躍した根源だったのか。わかぎえふに支配される形で仕事も生活もすべて美代子さんから離れていたらもも、芝居でのスタンスの違いから元の鞘に収まります。

 二人にはそれぞれの世界がありながらも、「二人は一人だけど、一人は一人だからね。」という言葉は愛情表現の極みかも知れません。美代子さんかららもへのラブレターみたいな本なんだなぁ~。

『らも   中島らもとの三十五年』(中島美代子著、集英社文庫、本体価格560円、税込価格616円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まわり道を生きる言葉

2024-08-27 16:46:12 | 

 ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村先生は研究者でありながら、経営者でもあり、また、エッセイスト(日本エッセイスト・クラブ会長)でもあります。先生は定時制高校の教諭から社会人生活をスタートしました。勉強をやり直すために大学へ再度通い、その後に研究の道に入ったという、まわり道をした、人より遅れているという認識に立ち、暇さえあれば読書をしたと書かれています。そして、良い言葉、文章があればメモし続け、そのメモを「腹中有書」と名付けていました。その中から、「人生」「仕事」「教育」という視点から150以上の言葉が本書に詰まっています。

 いくつもの付箋を貼りましたが、その中でも一番心に刺さったのは

 損得ぬきで何かをやり「自分でもバカなことをやっているものだ」と思うような人間でなければ一流になれない

です。普通はダメ、人まねもダメ、独創的に取り組むこと、つまり、普通から見ればバカなことが道を開くのでしょう。そして、

 不可能の対語は可能ではなく挑戦です

が心を奮い起こさせます。

 感動を呼ぶのはその人の努力の結果である

は、感動伝達人を目標にする井戸書店には素晴らしい教えとなります。

『まわり道を生きる言葉』(大村智著、草思社、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まいまいつぶろ 御庭番耳目抄

2024-08-21 15:03:05 | 

『まいまいつぶろ』の感動冷めやらぬ間に、続編を読みました。本作では、徳川吉宗が紀州から江戸へ連れてきた青名半四郎、又の名を万里に焦点を当てて、吉宗、家重に仕えた隠密からみた幕府の内側を読み進めます。

 嫡男・家重を将軍にするかどうかについて、それに関係した人々はさまざまな意見を持ち、どちらかと言えば、家重を廃嫡にする方向へ導こうとします。そんな環境下、通詞の忠光の存在が聡明なる家重の将軍への道を開き、さらには、家重に長男が産まれたことから、吉宗の心は定まります。障がいを持つ家重には弱者を労わる思いが強く、享保の改革を推し進めるには大きな礎となります。家重将軍を支える人々のその強い気持ちが感動を生みます。最後はその情感に皆が行動を起こします。

 9月には、田沼意次を主人公にして、『まいまいつぶろ』をより深く知れる『またうど』が発売されます。これも楽しみです。

『まいまいつぶろ 御庭番耳目抄』(村木嵐著、幻冬舎、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

35年目のラブレター

2024-08-13 09:21:37 | 

 終戦前後、和歌山県の山奥で生まれ育った西畑保さんは、家の貧しさ、家から学校まで約12キロ、ボロを着ているために、真実を語っても嘘つき呼ばわりされ、小学校2年で学校を行かなくなりました。そのために読み書きができない。しかし、生きていくためには働かなければならない。手に職を付けるために食堂で職を得ますが、注文を取っても書けない、出前の電話の応対が出来ない理由で、職場でもいじめられます。職場を転々としつつ、寿司職人となります。ただ、読み書き不能というレッテルを自分で貼っているために、結婚もできないだろうと諦めていると、見合いの話が…。一目ぼれで結ばれますが、読み書きができないことは妻にも内緒でした。回覧板に署名をするときに、妻にも露呈し、離婚されるのではないかと心配していましたが、

 「それを心配していたの?全然気がつかんかったわ。ごめんな。ごめんな。今までようがまんしてきたな、もう苦しまんといてね」

という言葉が返ってきます。夫婦の愛ですね。

 西畑さんは65歳で退職した後、夜間中学校へ入学します。もちろん、読み書きできるように。そして、作文を書き、最後には妻へのラブレターを。

 来年3月には映画化もされます。昨日、電車で読んでいて、泣けてやばかったです。

『35年目のラブレター』(小倉孝保著、講談社、本体価格1,800円、税込価格1,980円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マスク越しのおはよう

2024-08-11 09:13:47 | 

 コロナ禍ではマスクは絶対の必須アイテムでした。マスクなしで外出するなど、ウイルスに無防備そのものでした。ある中学校2年生の同じクラスの5人を取り上げ、それぞれのコロナでのマスク生活での思いを綴っています。

 マスクは自分の弱さを隠すものであったり、変身するためのものだったり、また、マスクではなく、透明のフェイスガードをつけて、自分の顔をみんなに見せることでイメージを良くしたいという付加価値を持ち合わせていました。コロナ禍での複雑な家族の状況や友だち関係、不登校や勉強のおちこぼれなど、中学生みんなの心に大きな影響を及ぼしていました。個々には大切にしたいものは変わりますが、それでも彼らは逆に強く生きていく姿を見せてくれてます。

「世界は変わったんだ!今、チャンスなんだよ。悔しかったらお前らも、変われ!」

 チャンスをつかむかどうかは自分次第。

 第63回日本児童文学者協会賞を審査員満場一致で受賞した作品です。

『マスク越しのおはよう』(山本悦子著、講談社、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まいまいつぶろ

2024-08-11 08:32:51 | 

 日本史でも江戸幕府8代将軍・徳川吉宗の享保の改革は学んだけれども、その世継ぎにこんなドラマがあったとは知らなかった。吉宗の嫡男の長福丸は誕生時にへその緒が首に巻き付き、誕生後長じても、話している言葉が聞き取れない、麻痺で片頬が引き攣(つ)り、手にも麻痺があるために筆談もできず、片足を引きずって歩き、最悪なのは尿を始終漏らすため、座ったり歩いた跡にはシミが残るために「まいまいつぶろ」と揶揄されてました。幕閣の中でも長福丸は廃嫡し、優秀なる弟が継嗣すべしという声が大きい。

 しかし、彼の言葉を解する小姓・大岡兵庫が現れました。つまり、兵庫は長福丸の通詞役を背負うことになります。出仕するにあたり、兵庫の叔父・大岡越前守忠相は兵庫にこう告げます。

 「そなたは決して、長福丸様の目と耳になってはならぬ」

 すなわち、通詞だけに徹せよ、幕府組織の中で徹底的に公正な立場を維持せよ。

 この後の物語は本書に譲りますが、長福丸、元服しての家重は障害はあっても、聡明な頭脳の持ち主であり、弱者の立場を理解する人そのものでした。兵庫は家重にとってはなくてはならない存在であり、主従とはいえ、二人で一役、一心同体の間柄。彼らには友情も培われたとしか考えられません。

 ともかくも、山本周五郎の『さぶ』、百田尚樹の『影法師』と共に、感動の友情歴史時代小説に位置付けたい!

『まいまいつぶろ』(村木嵐著、幻冬舎、本体価格1,800円、税込価格1,980円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

バリ山行

2024-08-01 14:22:49 | 

 今回の芥川賞受賞作品の一つ、『バリ山行』は六甲山が舞台なので、これは読まなかん。六甲山からインドネシアの『バリ』?と勝手な思い込みをしてましたが、『バリ』はバリエーションの略で、登山道ではなく、道なき道を探索する山行ー行けたルートが登山道になる-です。実際には絶対やりたくありませんので、小説上で経験しましょう。

 建外装修繕を専門とする新田テック建装に途中入社して2年経つ波多は社内でのつきあいも可能な限り避けていました。しかし、六甲山への登山に誘われてからは少しずつ人間関係を築き始めます。職人肌の妻鹿さんは藤木常務の鶴の一声で。有馬への道をバリ山行で下りました。こんな山行もあるのだと認識した波多は妻鹿さんに「バリ山行」へ連れて行って欲しいとお願いします。その時は、常務が退任し、社長が会社の構造改革に臨み始めたタイミングで、会社の先行きが思わしくなく、リストラの空気が社内に流れた頃でした。山行はどうなったのか?また、自分の立場はそうなるのか?

 人間個人の行動上の主義は仕事でも趣味上でも同じように貫き通すのが趣向になるのか、それとも仕事と山は別なのか?そこでバリ山行専門の妻鹿さんの言葉が響きます。「誰にも会わずに淡々と、ずっとこんな径を歩くとき、(中略)もう、自分も山も関係なくなって、境目もなくて、みんな溶け合うような感覚。もう自分は何ものでもなくて、満たされる感じになるんだよ。」自然との一体感はゾーンに入った感覚ではないかと思います。山に身を置いてどう感じるか?現代人に一番必要なことかもしれません。

『バリ山行』(松永K三蔵著、講談社、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする