あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

機械仕掛けの太陽

2022-09-30 12:55:34 | 

 コロナ禍では医療従事者の方々は大変な経験に強いられました。得体のしれない存在に対し、懸命に医療行為をしていただいたこと感謝に耐えません。新聞やニュースなどの報道で見聞きをしていましたが、やはり活字で読むと、脳内で主人公の気持ちを追体験するので、過酷な業務に心身が蝕まれていたことがよく理解できました。

 本書は医者である著者・知念実希人氏が綴るコロナ関連に従事する3人を描いています。大学の附属病院の呼吸器内科の医師、そこでコロナ病棟に従事する看護師、そして、地域医療を守る町医者がいかにコロナに対応したかのドラマです。各々が時に挫けそうになっても、志高く、立ち向かう姿は美しいとしか言えません。特に、医師法第一条、「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活をかくほするものとす。」に書かれた、医師のあるべき姿に立ち返っていたり、今まで培ってきた看護技術をもって重篤な肺炎患者を助ける思いは非常に尊重すべきことです。コロナウイルスは一つの自然災害としてとらえれば、全世界の人々が被害者であり、これを助けるのは医療従事者しかないと考えていましたが、本書内ではすべての人の協力の下にコロナに対峙しているという言質は医師ならではの言葉です。

 これからもどんな感染症が発生するかわかりません。医療の大切さを改めて認識しました。

『機械仕掛けの太陽』(知念実希人著、文藝春秋、本体価格1,800円。税込1,980円)←10/20以降に発売

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菊池寛が落語になる日

2022-09-26 16:40:57 | 

 春風亭小朝師匠は自分の誕生日の3月6日に菊池寛が亡くなっているという共通点から、菊池寛の短編小説を新作落語へ書き換えて高座で披露されています。文豪の短編を新作落語にする手法は全く思いも及びませんでしたが、掲載されている9作はどれもおもしろい。中には、オチでゾクッとするものもあり、秀作ぞろいです。併せて掲載されている原作が人間の機微を表現している作品が多いので、落語としての品もあり、笑うポイントも多いですね。

 私もどれか覚えて披露しようかなぁと考えます。

 菊池寛さんも作品が落語になっているのを知ると、オチオチ眠ってられませんね。

『菊池寛が落語になる日』(春風亭小朝著、文藝春秋、本体価格1,600円、税込1,760円)

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70代現役!「食べ方」に秘密あり

2022-09-26 16:20:19 | 

 まだ60歳代ですが、将来を見据えて一読しました。

 生島ヒロシさんは自称健康オタク。ライザップのCMにも肉体改造を見せつけていました。芸能人は時間が不規則なので、十分に身体に気を使う必要があります。ラジオのパーソナリティとして、健康のコーナーでは医学界の先生をお呼びして話を引き出しています。

 石原結實先生は若い頃の病弱な体質改善に甲田式健康法を取り入れ、今も朝はニンジンジュース、昼はざるそば、夜は何を食べても良いという食事療法を提唱されています。新型コロナウィルスのワクチンも摂取することなく、自身の免疫力を高めることに注力されています。漢方の教えの「万病一元、血液の汚れから生ず」から、血液を汚さないように腸、そして、身体を温める(冷え対策)を強調されています。

 最後には、心の処方箋として、「利他」に生きることも語られています。他者への思いやりは喜びを生み、笑いが生まれる。穏やかな心の状態が健康に生きる道ですね。

『70代現役!「食べ方」に秘密あり』(生島ヒロシ、石原結實共著、青春新書、本体価格990円、税込1,089円)

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現代人のための仏教説話50

2022-09-20 15:41:42 | 

 仏教の教えを理解するには説話を読むのが一番良い。その出典元の「今昔物語集」や「日本霊異記」など、高校の古典や日本史の授業でしかお会いしませんでしたが、どれもこれも新鮮だし、その教えはずどーんと肚に刺さります。「利他」や「施し」「恩」「孝行」「欲」「真理」「怒り」「怨み」などについて、50の説話と、偉人の言葉を含めての解説で仏の道を説いていきます。

 私が特に興味を引いたのは、「毒にも薬にもなる牛乳」です。ある国の王は老医師を大事にし、十分な待遇で召し抱えていました。この医師はどんな病気にも「牛乳を飲め!」としか言わない。この国にすべての医術を身につけた若い医師が老医師の弟子となるが、老医師に対しても納得いかないために、王様に老医師のいい加減さを伝え、若い医師は王お抱えの名医となりました。そして、「牛乳を飲ませる治療を禁止する」ことを王はお触れとして出しました。しかし、王が病に罹り、その薬として牛乳を飲むことが最適であることが分かりました。王はそのことに怒りますが、名医は状況により薬が変わることを説いて、王は納得します。この説話には、この世は思い通りにならない「一切皆苦」があること、すべては移り変わる「諸行無常」、何ごとも多方面からの視点から見ることなどを教えてくれます。

 お寺での法話では説話を用いてお話されているんでしょうね。

『現代人のための仏教説話50』(窪島一系著、佼成出版社、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

   

 

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相続人はいっしょに暮らしてください

2022-09-20 14:46:30 | 

 10/13発売予定のゲラを読ましてもらいました。

 3人の相続人が新潟の邸宅に呼び出されます。遺書には相続完了するまで、3人が一緒に暮らすことから始まって、遺産分割協議に納得してもらえない人との交渉、どこにあるかわからないダイヤモンドやなつかない猫を相続?、遺書に書かれている相続内容を期日中に行うのは、3人ともなかなか困難を極めますが・・・。そして、3人の相続人と遺言執行者が遺書に導かれる先はどのような風景になるのか、最後までわかりません。

 『水底のスピカ』(乾ルカ著、中央公論新社)でも書きましたが、互い理解し合える関係になるには相手の悩むこと、仏教での言われる四苦八苦をどう受け入れるかしかありません。悩みを明らかにすることだけでも恥ずかしいことでしょうが、それを開示し、その上で人間関係を結ぶことが難しいからこそ、物語が書けるのでしょうし、読む人も存在するんですね。

『相続人はいっしょに暮らしてください 』(桜井美奈著、祥伝社文庫、税込予価825円)

 

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駅の名は夜明け 軌道春秋Ⅱ

2022-09-09 15:44:36 | 

 「みをつくし料理帖」「あきない世傳 金と銀」で多くのファン読者をお持ちの髙田郁先生の現代短編小説です。発売は10月中旬です。9つの物語はどれも鉄道がベースで、ミレニアムの頃のストーリーが多いです。

 どんなにつらくとも、心が平安になるように、また、明日から気合を入れて生きていこうと思えるように、鉄道は連れて行ってくれます。不安に囚われていようが、心配せずに乗り込むと、目的地では新しい地平が広がり、また、絶妙のタイミングで手を差し伸べてくれる人が存在します。

 私も学生時代に冬の北海道へ一人旅で急行「日本海」に大阪から乗車した、隣の席には同じ年恰好の自衛官。彼は北海道へ帰省するために乗り込み、私との話が盛り上がり、北海道での1泊目の宿が決まっていないのであれば、実家へ来いと言われ、そのまま泊まりました。どこでどう転ぶかわからない。40年前の出来事だから、今の世の中では考えられないですね。

 さて、本書に戻ると、「途中下車」「駅の名は夜明」「背中を押すひと」では涙腺攻撃に遭い、あえなく撃沈でした。発売予定の秋の夜長に是非読んでもらいたいなぁ。

『駅の名は夜明け 軌道春秋Ⅱ』(髙田郁著、双葉文庫)

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水底のスピカ

2022-09-08 14:59:45 | 

 北海道札幌の2年から3年の中学生の物語です。2年の2学期に東京から転校生が1人いました。汐谷美令という名の女の子は容姿端麗かつ頭脳明晰で、学校中の生徒から注目を浴びるも、友だちが出来ません。学校祭の準備で共にチラシ配布を行った松島和奈や、最初はなかなかそりが合わなかったが、修学旅行から近い存在になった城之内更紗との距離が縮まり、友情を深めていきます。

 三者三様の隠しておきたい個人的な事情があるが、真の友になるにはどうすればよいかを三人とも悩みます。親友になるには、また、生涯の友として付き合うにはどうすればよいか?を松島和奈は深めていきます。それをまとめたのが下です。

 10月7日刊行のゲラを読ましてもらった感想を図式にしました。人は上から見て他人を判断しがちであり、それは左上のようになります。受け入れられない、受け入れたくない領域を見下すスタンスです。友として付き合うのであれば、上下ではなく、並列になり、できるだけ受け入れ領域を広げていきます。その根底にある考えは、本書の中に引用のあった、アメリカの天文学者でSF作家でもある、カール・セーガンの言葉、「We are made of star stuff」です。誰もが宇宙のチリからできているのだから変わりはない。「比較」するのではなく、「受容」することが生きていく上では重要になるという教えですね。思春期の友だち関係からも哲学ができます。

『水底のスピカ』(乾ルカ著、中央公論新社、予価本体価格1,600円)

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神楽坂スパイス・ボックス

2022-09-05 13:08:22 | 

 イタリアレストランのオーナーシェフの和史と5年間の交際に終止符を打たれた、料理雑誌編集者のみのりは、彼への悔しさを胸に秘め、自分の飲食店を立ち上げて有名店にして、彼を見返してやろうと準備を始めました。スパイスに造詣が深く、千葉の館山のリゾートホテルのシェフとして働いていた夫を亡くし、実家に引き込もっていた、みのりの姉のゆたかを引っ張り出して、神楽坂の路地の奥にある古民家風の木造家屋にスパイス料理専門店「スパイス・ボックス」を開店。

 世界中にある「魔法の粉である」スパイスを使った料理でお客様の身体の不調を整え、お客様の話を傾聴することによって、身体だけでなく、心のもやもやも解消してくれる、「食は医なり」を実践しています。「食べた客を幸せにしたい」という思いはお客様に伝わり、繁盛店への道を歩んでいきます。「美味しいと感激したり、初めての味に驚いたり、そういう感覚が刺激となって心を潤して、私たちのエネルギーになる」、スパイスの世界に読者も刺激を受けます。

『神楽坂スパイス・ボックス』(長月天音著、ハルキ文庫、本体価格720円、税込価格792円)

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