行者小屋に着き、すぐ地蔵尾根への分岐点を見た。
正直言って驚愕した。
そして唖然としてしまった。
トレースの一切が消えていたのだ。
地蔵尾根と言えば、赤岳への登攀(或いは下山)として利用するメジャールートであり、ほぼ確実にトレースはあってしかるべきだと考えていた。
昨夜の降雪があったとしても、そのトレースに期待していた。
果たしてどこまで埋もれてしまうのだろうか。
果たしてこの先、樹林帯を抜けてからのルートファインディングは大丈夫だろうか。
真っ先にこの二点が脳裏に浮かんだ。
一歩足を入れてみた。
膝まで埋もれた。
「これからずっとこの調子か・・・」
予定していたルートタイム通りになど行くはずもないことは容易に推測できた。
幸いに新雪であり雪面はいたって柔らかい。
そして樹林帯の中に限って言えばルートはほぼはっきりしていた。
問題はやはりこの先だろう・・・。
樹林帯が途中で途切れれば一瞬戸惑う。
確実なルートを見極めるために立ち止まり先を読む。
尾根道であれば当然谷もあるわけだし、落ちないためにも読む力は必要だ。
それにしても雪が深かった。
雪が柔らかいその分、大したことのない斜度であっても状況によってはキックステップのお世話にならざるを得なかった。
また、一ヵ所だけかなりの斜度のポイントがあり、5~6m程度登っては息が切れた。
膝程度のラッセルとは言え、やはり体力は相当使っているのだ。
樹木がまばらになり、いよいよ森林限界線を越えようかという標高に来た。
予測していた通りの状況となった。
ルートが全く分からない、見えない。
いや、落ち着いて見れば何かヒントとなるポイントがあるはずだと思い、目を凝らしてみた。
ガスの先に鉄パイプの手すりらしき物が目視できた。
はっきりと目視できた訳ではないが、何となく自分の記憶にもあったものだ。
それでもそこに辿り着くまでがこれまた大変だった。
今度は胸まで埋もれてのラッセルとなった。
交代要員などいるはずもなく、当然すべて自分独りでこなさなければならない。
「そういえば、去年もここは吹きだまりでラッセルしたっけなぁ・・・」
そんなことを思い出した。
階段の手すりに用いられている鉄パイプが僅かでも雪面から覗いていればまだ良い方で、何らルートファインディングに役立ちそうな物体が目視できないポイントもあった。
もちろん地図とコンパスと高度計で現在地点を確認しながら登攀してはいるが、それでもこのまま稜線にそって真っ直ぐ登れば良いのか、それとも何となくではあるが右に変えるべきなのかかなり迷ったポイントがある。
「常識的に考えればこのまま真っ直ぐなんだけどなぁ・・・」
もう一度だけ周囲を見渡した。
一本の木の枝のようなものが20㎝ほど突き出ていた。
それとも鉄の杭か・・・。
鉄の杭であれば助かるのだが・・・。
右に7~8mほどトラバースし、突き出ている黒い棒状の物に触れてみた。
鉄の杭だった。
「あぁ~助かった・・・」
雪をかき分け大きく右にトラバースしながら進むことができた。
何カ所目もの鉄パイプを目印に登攀を続け、小休止をしている時だった。
「いやぁ良かったです。人がいてくれて助かりました。」
思わず振り向くと、緑色のアルパインジャケットを着た男性が一人下山してきたではないか。
「自分も助かりました。トレースがまったく無くて苦労しましたよ。」
これでこれから先はお互いがつけたトレースを目印に登下山すれば良いのだ。
「もうちょっと登ればナイフリッジがあります。ちょっと長いナイフリッジですけど、そこを越せば地蔵の頭ですよ。」
本当にありがたい言葉だった。
そして自分も「雪が深かったのでかなりはっきりしたトレースになってますから大丈夫ですよ。」
お互いの作ったトレースがお互いの安全のために役立つ。
この時の状況下においてこれほどありがたいことはなかった。
お互いにカメラを交換し写真を撮りあった。
この日、山で出会った人間はこの人だけだった。
正直言って驚愕した。
そして唖然としてしまった。
トレースの一切が消えていたのだ。
地蔵尾根と言えば、赤岳への登攀(或いは下山)として利用するメジャールートであり、ほぼ確実にトレースはあってしかるべきだと考えていた。
昨夜の降雪があったとしても、そのトレースに期待していた。
果たしてどこまで埋もれてしまうのだろうか。
果たしてこの先、樹林帯を抜けてからのルートファインディングは大丈夫だろうか。
真っ先にこの二点が脳裏に浮かんだ。
一歩足を入れてみた。
膝まで埋もれた。
「これからずっとこの調子か・・・」
予定していたルートタイム通りになど行くはずもないことは容易に推測できた。
幸いに新雪であり雪面はいたって柔らかい。
そして樹林帯の中に限って言えばルートはほぼはっきりしていた。
問題はやはりこの先だろう・・・。
樹林帯が途中で途切れれば一瞬戸惑う。
確実なルートを見極めるために立ち止まり先を読む。
尾根道であれば当然谷もあるわけだし、落ちないためにも読む力は必要だ。
それにしても雪が深かった。
雪が柔らかいその分、大したことのない斜度であっても状況によってはキックステップのお世話にならざるを得なかった。
また、一ヵ所だけかなりの斜度のポイントがあり、5~6m程度登っては息が切れた。
膝程度のラッセルとは言え、やはり体力は相当使っているのだ。
樹木がまばらになり、いよいよ森林限界線を越えようかという標高に来た。
予測していた通りの状況となった。
ルートが全く分からない、見えない。
いや、落ち着いて見れば何かヒントとなるポイントがあるはずだと思い、目を凝らしてみた。
ガスの先に鉄パイプの手すりらしき物が目視できた。
はっきりと目視できた訳ではないが、何となく自分の記憶にもあったものだ。
それでもそこに辿り着くまでがこれまた大変だった。
今度は胸まで埋もれてのラッセルとなった。
交代要員などいるはずもなく、当然すべて自分独りでこなさなければならない。
「そういえば、去年もここは吹きだまりでラッセルしたっけなぁ・・・」
そんなことを思い出した。
階段の手すりに用いられている鉄パイプが僅かでも雪面から覗いていればまだ良い方で、何らルートファインディングに役立ちそうな物体が目視できないポイントもあった。
もちろん地図とコンパスと高度計で現在地点を確認しながら登攀してはいるが、それでもこのまま稜線にそって真っ直ぐ登れば良いのか、それとも何となくではあるが右に変えるべきなのかかなり迷ったポイントがある。
「常識的に考えればこのまま真っ直ぐなんだけどなぁ・・・」
もう一度だけ周囲を見渡した。
一本の木の枝のようなものが20㎝ほど突き出ていた。
それとも鉄の杭か・・・。
鉄の杭であれば助かるのだが・・・。
右に7~8mほどトラバースし、突き出ている黒い棒状の物に触れてみた。
鉄の杭だった。
「あぁ~助かった・・・」
雪をかき分け大きく右にトラバースしながら進むことができた。
何カ所目もの鉄パイプを目印に登攀を続け、小休止をしている時だった。
「いやぁ良かったです。人がいてくれて助かりました。」
思わず振り向くと、緑色のアルパインジャケットを着た男性が一人下山してきたではないか。
「自分も助かりました。トレースがまったく無くて苦労しましたよ。」
これでこれから先はお互いがつけたトレースを目印に登下山すれば良いのだ。
「もうちょっと登ればナイフリッジがあります。ちょっと長いナイフリッジですけど、そこを越せば地蔵の頭ですよ。」
本当にありがたい言葉だった。
そして自分も「雪が深かったのでかなりはっきりしたトレースになってますから大丈夫ですよ。」
お互いの作ったトレースがお互いの安全のために役立つ。
この時の状況下においてこれほどありがたいことはなかった。
お互いにカメラを交換し写真を撮りあった。
この日、山で出会った人間はこの人だけだった。
自分なら登るの諦めて転がり回って遊んでるかも・・・
_(^^;)ツ アハハ
と言うよりは、自分の登った「地蔵尾根ルート」は、登るよりも下山の方が安全なんですよね。
今回はあくまでも「横岳」が目標でしたから、地蔵ルートを選択せざるを得なかったんです。
行者小屋に着いた時はテントが数張あったのですが、どうやらみなさん「文三郎ルート」を選択したようです。
まぁ普通に考えれば当然なのですが・・・。