ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

劔岳・再びの奉納 「登頂 再びの奉納」

2023年12月05日 17時40分32秒 | Weblog
タテバイ核心部を越え、岩の裏側へとまわる。
するとごく短いクサリ場があるのだが、このクサリ場が何ともいやらしい。
はっきり言ってホールドポイントとスタンスポイントが無い!
いや、あるにはあるのだが、およそ突起と呼べる程の突起ではなく、ここはセオリーを無視して両手でクサリにつかまりながら登った方が確実だ。
短いながら斜度は厳しく、落ちればそれ相当の怪我は避けることはできない。
Uさんにもそこのとを伝え、先ずは自分から越えた。

「確かにこれじゃ厳し過ぎますね」
越えた後に思わず出たUさんの言葉だった。


タテバイを越え、裏側へとまわるポイント。
ちょうど真後ろに平蔵の頭が見える。

程なくして分岐点へと出た。
右へ登れば劔の山頂へ。
左へ下ればカニのヨコバイへと向かう。
「山頂までもう少しですよ。ここまで来たんだ。とにかく焦らず慎重に登りましょう。」

自分の一歩一歩が確実に劔岳山頂に近づいているという、そんな当たり前のことが嬉しくて仕方なかった。
何度も訪れている場所であるはずなのに、この山は特別だと感じる。
いや、初めて登っているUさんの方が思いは大きいかな・・・

祠が目視できるポイントまで来た。
「ほら、あそこですよ。もうほんの少しですよ。」
山頂に着いたら何と声を掛けてあげればいいのか考えながら登る。
いや、それよりは先に行ってもらおう。

「Uさん、俺はいいから・・・何度も来てるから。」
そう言って山頂への最後の道を譲った。
恐縮しながらも笑みがこぼれていた。


11時03分。
遂に劔岳初登頂!

かなりゆっくりのペースだったが、それでいい。
無理せず、安全第一で、そして自分のペースで登ることが大切だ。

「やりましたね! 劔岳初登頂おめでとうございます!」
「ありがとうございます。一人じゃ絶対に無理でした。本当にそう思っています。まだ下山がありますけど宜しくお願いしますね。」


山頂祠で先ずは記念の一枚。

腰を下ろし、アタックザックから奉納板を取り出した。
(「ここまで持ってきた甲斐があったなぁ。素人なりにも作って良かった。」)
そう思いながら祠に納め、両手を合わせ感謝の思いを伝えた。
実を言えば、アタックに際して最も苦労したのは、板の重さではなかった。
登攀時の姿勢が結構辛かった。
理由は簡単で、腰から上の背中の部分が板のために思うように曲がらなかったのだ。
ザックの中の板が背中にピタッとくっつくように密着し、上半身の動きに影響が出てしまったのだ。
(「まぁ仕方ないか・・・」)と思いつつも、危険箇所においては「それが原因で・・・」とだけはならないよういつもより慎重に登ってきた。


それなりに重さを感じた。
自己満足とはいえ嬉しい。

劔岳、不思議な山である。
数ある日本の山の中で、これほど強く惹かれ魅せられる山はない。
何度登ろうとも決して飽きることのない山であるどころか、毎回違った顔を見せてくれる。
そして毎回新たな発見や気付きがある。

*   *   *   *   *

随分と昔のことだ。
まだ登山を始めて数年目の二十代の時、仲間四人と奥穂高岳からジャンダルムを越え西穂高岳へと縦走した。
途中で休憩していると、西穂方面から単独で縦走してきた青年がいた。
自分よりは幾分年上かなと思ったが、彼も自分たちと同じポイントで休憩をした。
彼は水を飲みながら地図とコンパスを取り出し、なにやら始めた。
今にして思えば「山座同定」だとわかるのだが、地図読みなどろくに知らなかった自分にとって、その時の彼の行動はとてつもなく大人に見えた。
将に自立した単独登山者そのものだった。

「かっこいいなぁ・・・いつかは俺もあんな山男になりたい。」
そう思ったことを今でも鮮明に覚えている。
そしていつかは単独で北アルプスに挑戦したいとも思った。
それから紆余曲折はあったが、多くの山に登り、初めて独りで挑んだ北アルプスの山が劔岳だった。

とてつもない怖さがあった。
だからこそ最も多く事前の情報収集に努め、最も長く準備期間を設けた。
怖さが大きい分だけ思い入れも大きい。
その思い入れが今でも続いている、だから飽きない。

*   *   *   *   *


祠に納めた奉納板。
真新しいだけに目立つなぁ(笑)。


Uさんに撮ってもらった。


一緒にね。

他にも多くの登山者がおり、「せっかくなのでいいですか」と、板を持って撮っていた。

本来の予定ではこの先の北方稜線まで少しだけ足を伸ばし、安全なポイントで昼食を食べる予定だったが、「もう十分です。ここでいいですか。」とUさん。
それなりに疲労もあるし、メンタルにも影響が出ているのだろうと推測した。
「腹減りましたね。食べましょう!」
昼食はいつものカップ麺だが、今日は大盛りタイプ。
お湯が沸くまでゆっくりと一服した。


「美味しいですか?」

格別な味だろうと思う。(笑)