ちがっているのは、時間の感覚なのか、外国人への親切の感覚なのか。
はたまた、通訳さんとのミスコミュニケーションだったのか。
本当のところは定かでないけど、St.Petersburgでお世話になったロシア人のガイドさんは、ともかくそのへんの感覚が突き抜けていた。
「これこれこういう見所があるけど、行ってみたいですか?」
これ。
このセリフがくせものなのだ。
――えー、ほんとですかぁ、行きたぁい♪
などと答えようものなら。
詳しい詳しい歴史の薀蓄を嬉しそうに語りながら、懇切丁寧にガイドしてくれる。
え? スバラシイじゃないかって?
ええ、スバラシイんですよ…。
ただ、スバラシイガイドとしてのひと時の次に、怒涛の“すべりこみアウト”が襲ってくるんですわ。
思わず、St.Petersburg到着の翌日に、ロシア美術館で見たIvan Aivazovskyの絵画を思い出す。
有名な『The Ninth Wave(第九の怒涛)』の手前に『The Wave』という画も並べて展示されていた。
連作なのか、『The Ninth~』で難破しかかっていた船は、『The Wave』ではほとんど水没。
すべりこんどいて、アウト!というのは、まさにこういう感じ。
ロシアの都市部は、幹線と思われる道路の車線数も本数も少なく、とにかく交通渋滞がひどい。
St.Petersburg郊外のPushkin市に滞在していたから、都心に出るのに、渋滞を見越して2時間みてあった。
そういう環境を熟知してるはずのスバラシイガイドさんに従って観光を満喫したあと、移動バスに乗り込んで、ふと時計に目をやると。
――!!!!!!!
ケイタイの数字が示していたのは、本番30分前の時刻。
車内は一気に、上を下への大騒ぎ。
着替えも化粧も楽器の調弦も!
この調子を毎日繰り返したSt.Petersburg。
公演のある日も、飛行機に乗らなきゃいけない日も。
ここから得られた教訓。
スバラシイガイドさんの薦めるスポット観光は、断固、断るべし。
ロシア人のスバラシイガイドさんから、
「これこれこういう見所があるけど、行ってみたいですか?」
と訊かれたら、すかさず訊き返しましょう。
――そこに行っても、その次の予定に確実に間に合いますか?
きっと彼は親切そうな笑顔で、こう答えるはずです。
「いいえ、間に合いません。」