「枝豆の莢(さや)から紙はできないだろうか。できるなら,見たい」。そんな疑問と要望がある方から寄せられました。これまで作ってみたことがないので,自身は「さあ,どうだろうか。豆の皮が残ってできないかも」と思ったのですが,「試してみなくちゃ,わかならい」の気持ちでいつかはやってみようと思っていたのです。
秋の今,ようやくチャンスがやって来ました。畑では,大豆が実,つまり緑色をした莢を付けてどんどん生育を続けているところです。大豆とはいっても,わたしの栽培しているのは,正確にいうとそのなかまの倉掛豆です。
先日,枝豆を収穫。それを煮て味覚を味わいました。お酒の友としても,初物の味としても,極上の食卓となりました。
さて,食べ終わって捨てるだけの莢から紙ができるか,試す段階です。ここからが本番。莢の量は両手に山盛り。それをアルカリ(重曹)で煮ること2時間。ここまでは夜の作業。
翌朝,作業再開。まずは,篩のなかで揉み洗いをしました。とても柔らかくなっているものの,莢のかたちがはげしく崩れるというわけではありません。ただ,莢の両縁を固定している長くて太めの繊維がたくさん混ざっています。「こんなもので紙が作れるだろうか。繊維だけを集めればなんとかなるかもしれないが……」。そんな不安を感じさせるものでした。
叩解作業は,臼では無理だと判断。ミキサーを使うことにしました。ミキサーを使って細かく潰し,篩で洗ってびっくり。皮らしいものはなに一つ残っていないのです。あとは短くて,そのわりには硬めの繊維だけ。「これなら紙が作れるかも」と予感させはしましたが,それにしてはゴワゴワ,ゴツゴツ,パサパサし過ぎています。
このままでは,繊維同士が絡み合ってもパラパラと分離してしまいそうな気がしてきました。やむなく,もっと叩解して繊維を細かくしてみようと思い,徹底的にミキサーで砕いてみました。そうすると,意外に繊細な繊維に近づいてきたのです。とはいっても,良質な他の繊維とはちがって,太短くて,パサッとした感じの繊維の集合体です。
これで「まあ,なんとか紙が作れるのでは?」と不安が和らいできました。それで,紙漉きの準備を整えて,漉き枠に紙料を流し込みました。木枠を外すと,湿紙の出来上がり。これを水切りしながら,乾燥させます。
秋晴れの好天日だったので,どんどん乾いていきました。繊維が繊維だけに,薄くて丈夫な紙といったものとはちがって,「厚めのシートかな」と思うような紙です。このままでは実用性に乏しくなるので,表面処理を施すことに。ほぼ乾いた頃,薄めた膠液を塗布するのです。こうしたサイジング工程は,用剤こそちがいますが,洋紙製造ではふつうに行われていることです。
こうして,夕方にはついに枝豆紙が完成!
手にした紙は,紙のイメージからひどくかけ離れたものに見えます。表面はざらざらしています。折り曲げると,原型が崩れそうです。したがって,実用性には乏しい紙です。しかし,絵なら描けるでしょう。枝豆の絵を描くとどうでしょうか。字もなんとか書けるでしょう。マットにも使えるでしょう。ですから,ちょっぴり,紙といっても差し支えないでしょう。だって,水のなかで繊維同士を絡み合わせて,それを乾かしたものなのですから。
この枝豆紙を目にした人はどうおっしゃるでしょうか。依頼者がご覧になるとどうおっしゃるでしょうか。今回の紙づくりは,わたしにはとても新鮮なチャレンジだったのですが。