虎尾の会

幕末の草莽の志士清河八郎の会の名を盗用しています。主人は猫の尾も踏めません。

太平天国の乱

2007-10-14 | 読書
乱や一揆が好きだけど、乱・一揆となると本場はやはり中国だろう。そのスケールの大きさ、ダイナミックさは日本など比べられない。

今、陳舜臣の「太平天国」を読んでいる。太平天国の乱は近代中国最大の反乱だ。高杉晋作が上海にいったときも、太平天国の乱の最中だった。孫文は、太平天国の乱に感動し、第二の洪秀全を志したともいわれる。

陳舜臣の「太平天国」は全4巻だが、とてもこの巻数ではその全貌を描くには足らず、流れを追うだけで精一杯という感じでそれが物足りない。それほど、この歴史はおもしろい。10巻は必要だろう。

首領洪秀全は、村の知識人だが、科挙に何度も失敗し、その失望から病気になり、幻覚を見る。老人が現れ、現世の妖魔を取り除け、と説く。その6年後、町の伝道師からキリスト教のパンフレットを渡され、あの夢に現れた老人はエホバであり、自分はイエスの弟だと確信し、キリスト教的な世直しを布教する。

この洪秀全を助ける頭領たちも、それぞれおもしろく、例えば、楊秀清。炭焼き出身の文字も読めない人だが、頭がよく、太平軍の組織、軍の指揮に抜群の才能を発揮する。洪秀全は宗教面だけを受け持ち、実権はこの人が次第に握ってくる。決起前、この人は発狂し廃人になったまねをして、敵を油断させたりする。

1851年に太平天国を建国し、南京を占領、首都北京までめざすが、内紛などもあり、1864年、洪秀全は病死する。10年以上、中国全土を動乱にまきこんだわけで、その間、さまざまな人物、物語がある。ただ自分の保身だけを考えて戦意のない清国高級官僚や、天地会という武侠団体、女剣士(洪秀全の妹もそうだ)も登場し、三国志、水滸伝級の物語だ。

太平天国軍は、キリスト教的な平等、世直しを志向する理想主義を持ち、その軍は、規律も厳正で政府軍よりも民衆からは支持されていたそうだ。


世直し革命の壮大な実験とその挫折、これほどおもしろい歴史なのに、小説は陳舜臣の本のみで(わたしの知るかぎり)、研究書も数はとても少ないのが不思議だ。