らんかみち

童話から老話まで

鍼灸師のとっつぁんが、針で麻酔をかけられるって言うから

2010年02月26日 | 暮らしの落とし穴
 モミ爺(座頭のとっつぁん)が呼んでいる気がしたのは、慣れない急須などろくろで作ったからでしょうか。按摩してもらいに行きました。
「兄さん、しばらくぶりでございますなぁ、エヘッヘッヘ」
 このところ陶芸も手抜きだし、熱めの風呂に入って養生していたからか、肩凝りは耐えられないほどではなかったんです。
「とっつぁんが熱い風呂入れ、酒やめろ言うから実行してたら調子良かったもんでね」
「兄さん、嘘をついたらいけませんねぇ、酒はやめとりゃせんでしょう、分かるんでございますよ、えぇ」
 とっつぁんの言う通り、正月からこのかた酒を抜いたのは2日ほどしかありません。酒飲みすぎて調子が悪いから揉んでもらいに来たわけです。
「足が痺れとるのは椎間板ヘルニアでしたわ、MRI撮ってはっきりしましてね。友だちが大阪の按摩さん紹介してやる言うてくれとるんですが、揉んで治るもんですかい?」
「いいえ、揉んで治ったりしませんねぇ。治った言う人がおられますが、からくりがあるんでございますなぁ」

 とっつぁんの言うには、生活習慣を指導されてしばらくすると、ぼくのような軽傷の患者は痺れが分からなくなるらしい。治癒したように感じるけど、それは錯覚なのだとか。
「悪固まりするんでございますよ、えぇ。治っとりゃせんのですが、固まってしまうと痺れを忘れてしまうんですなぁ、体が勝手に」
 レーザーで手術できるそうで、やるなら速い方が良かろうけど、失敗したら更に痺れるそうな。早い話が「治らんよ」と無情な宣告をしてくれたわけです。
 
「ところでとっつぁん、按摩で人を殺すことができますんか。いえね、練達の格闘家に聞いたことがあるんですよ、あんたなら一突きで人を葬れるのかってね。そしたらなんと、答えをはぐらかすじゃないですか。殺せるんやって確信しましたがな」
 先日、狭心症かと慌てて病院に行った話をしたら、とっつぁんは肋間神経痛の一種じゃないか、なんて診断するもんで、ちょいと気になっていたことも聞いてみました。
「兄さんはテレビの観すぎじゃないですか、按摩では人を殺めることなんかできません。座頭市は剣で人を殺しても、按摩で殺したことがありますか、無いでしょう、そういうわけでございます、エッヘッヘッヘ」
「……って、按摩ではって……針ならできるんですかい!」
「エッヘッヘッヘ」
 
 とっつぁんが針を打ってやろうかなんて軽口を叩いとったけど「気持ちようございました」と遠慮して、ネットで「針 死亡」で検索したら、実際に事故が起きて逮捕されているじゃないですか。
 
 鍼灸院経営者ら2人逮捕=無資格はり治療で女性死亡-業過致死容疑など・大阪府警(時事通信) - goo ニュース

「針で麻酔をかけられますよ、大きな手術では無理でございますがね」
 とっつぁんはそう言い切ったことがあります。針で麻酔をかけられるんなら、人を殺めることができても不思議じゃないですよね。これからは針を打たなくても済むように健康に留意して生活したい所存にございます。