らんかみち

童話から老話まで

死してなお辱め

2010年02月01日 | 暮らしの落とし穴
   人物
 HAL(40)会社員
 HALの兄(43)
 HALの姉2号(45)
 HALの姉1号(48)
 火葬場の男性係員(55)
 
○村の火葬場(昼)
   遺灰が載るストレッチャーを挟んで火葬場の係員と遺族が対面し
   お骨上げが始まろうとしている。
HAL「お世話様です」
   壁に「公務員ですので、お心付けはご遠慮させていただきます」とあり
   黒白の水引をコートのポケットにしまいながら頭を下げるHAL。
姉1号「温々やね」
   もみてしていた手を広げ、遺灰にあたるようにかざす姉1号
姉2号「み、右足が無い!」
   姉2号の指さすその先には毒々しい色の灰はあるが、骨が見当たらない。
係員「病んでいた部分の骨は焼け切ってしまうのです」
姉1号「わぁ、当たってる。足が悪かったんです」
   係員は占い師めいた重々しい語り口でさらに続ける。
係員「お父様は長く伏せっておられた」
姉1号「え、それも当たってる。病院で1年間闘病しておりました」
   係員の顔を見上げてポカンと口を開ける二人の姉。
係員「そうでしょう、これは紙おむつが焼けた跡です」
   遺骨の股間の辺りを指さして胸を張る係員。
姉2号「おぞましい色の灰は、飲んでいた薬のせいでしょうか」
係員「私は医者ではありませんから……」
姉2号「ごもっともです」
姉1号「あ、これ紙おむつ違ぅて、私が放り込んだ日記の燃えかすや!」
   姉1号に目をやり、口をへの字にゆがめる係員。
姉2号「あ、私はこの辺に筆箱を放り込んだの。これ、インクの色やわ!」
   ガクリと肩を落とす係員をよそ目に、姉1号が箸で毒々しい色の灰を
   かき回し始める。
姉1号「あった、あった。ほれ、万年筆のペン先」
   金色に光るいびつな金属片を箸でつまんで姉2号に見せる。
姉2号「お父さんって、金歯入れてたたよね?」
姉1号「してたしてた」
   遺骨の足元から頭蓋骨の辺りに移動する二人。
係員「あ、あのぅ、仏様の尊厳を……」
   係員の言葉を黙殺して喪服の袖をまくり
   頭蓋骨を箸でつつき始める二人。
   一連のやりとりを所在無げに見ていた兄の携帯が鳴りだす。
   「ゥワ~ハッハッハァ、ゥワ~ハッハッハァ、ゥワ~ハッハッハァ」
   
                           (了)
                           
 さてここで問題です。いずれ劣らぬ罰当たり兄弟ですが
 4人の中で1人だけ餓鬼道に落ちる者がいるとしたら、それは誰でしょうか?
 答は、この話を葬儀屋さんに売り渡して得た小銭で酒を飲んだぼくです。
 父ちゃん、ごめん!