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松井紫朗さんの作品と、展覧会全般について ■クロスオーバー (2017年6月17日~7月17日、苫小牧) 

2017年07月26日 19時18分00秒 | 展覧会の紹介-現代美術
承前

 苫小牧市美術博物館で開かれていた「クロスオーバー」展について、これが4本目で、最後の記事となります。

 5人の出品作家のうち、松井紫朗さんは、同展と、4月29日から8月26日まで開かれている「中庭展示」の2本立てとなっていました。

 クロスオーバー展の部分については「手に取る宇宙―アチラトコチラ 2017」と題されたインスタレーションです。
 宇宙空間をイメージした、空気圧でふくらむ大きな緑色の布製の空間や、ミッション「手に取る宇宙」を行おうとしている宇宙飛行士の短い映像など、いずれも札幌宮の森美術館での個展で見たものでした。ただし、布製の、中に入れる空間は、宮の森美術館のときよりもかなり短縮バージョンになっていて、奥の方まで探検していくという感じは薄れていました。

 また、松井さんの部屋とは別に、玄関の近くにも、「宇宙庭」の実験装置が置かれていました。

 一方、中庭展示は「Channnel」という立体で、雨どいに使われていたパイプが、中庭をまたいで、両方の廊下にらっぱ状の突起がとびだしています。
 伝声管のように、あちらとこちらで会話ができるようになっています。

 さらにこのパイプは、途中から枝分かれして、上の方にも伸びています。「運が良ければ上空を飛ぶ飛行機の音や船舶の汽船など苫小牧ならではの音を聴くことができるかもしれません」と、解説文にありました。

 さて、松井さんの作品には「あちら」と「こちら」をめぐる深い思想などが込められているようなのですが、そういう作品の根本思想について論じるには準備不足でもあるため、ここでは「宇宙」というモティーフについて、少しだけ感想を書いておきます。
 宇宙を封印したチューブ状物体を、宮の森美術館で手にしたときにも感じたことなのですが、1960年生まれの松井さんが「宇宙」を、いわばアートの「題材」としたり、「宇宙」と口にしたりするときに、いったいどのような思いを抱いているのか。そこが気になるのです。

 1960年代から70年代にかけて「宇宙」という語は、いまよりももっと希望に満ちたものだったという印象があります。
 米国とソヴィエトの激しい競争により次々と有人宇宙船が打ち上げられ、1969年にはアポロ11号が月面への着陸を果たします。
 このときの社会を覆った興奮はたいへんなものでした。新聞の1面には、月面から電送された巨大な写真が掲載され、テレビでは人形劇「ひょっこりひょうたん島」でも登場人物たちが月へ行く物語を放送していました。翌70年に大阪でひらかれた万国博覧会では「月の石」を見る人が長蛇の列をつくりました。
「人類は月に到達した。いずれ火星にも行くだろう。21世紀には、月や火星への旅行が本格化するとともに、太陽系外にもロケットが飛んで行くに違いない」
 そう信じた子どもは当時たくさんいたはずです。

 しかし、当時さかんにいわれていた「宇宙時代」は、ついに来ませんでした。

 「次は火星」どころか、米国の月への有人飛行も1970年代に終わってしまい、いまでは「ほんとうに人間は月まで行っていたのか」と疑う人まで出てくるありさま。
 宇宙や星空について抱いていた漠然としたあこがれは、どこかへ霧散してしまったようです。
 この気持ちは、ヤノベケンジ氏が、万国博覧会の跡地に、未来の終焉を見たのとどこかで共通しているような気がします。

 それでもなお「宇宙」を肯定的にとらえて作品の題材としていく気持ちのもとは、いったい何なのか。それを、いつか作者に尋ねたいと思っています。





 さて、作品はたいへん見応えのあるものでしたが、展覧会としてはいろいろ言いたいことがあるので、箇条書きで記しておきます。

・図録がない。売れないことはわかるのだが、カラーA4判4ページといった体裁の無料リーフレットでもかまわないので、なんらかのかたちで後世に残し、道内外の他の美術館に存在を知らせる手立てを考えてほしい

・音漏れに対する配慮に乏しい。中坪さんの音楽が、加藤さんのコーナーでもかなり聞こえてきて、集中力を妨げました。これは、展示室の境界に暗幕を取りつけるだけでも、だいぶ違うと思います

・松井さんの展示室は一部、靴を入口で脱ぐことになっているのに、なぜ靴べらが用意されていないのか

 まだ歴史の新しい施設だけに今後、利用者の目線に立った運営が行われることを、期待します。



2017年6月17日(土)~7月17日(月)午前9時半~午後5時(入場~4時半)、月曜休み(最終日は開館)
苫小牧市美術博物館(末広町3)


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