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加藤広貴 ■クロスオーバー (2017年6月17日~7月17日、苫小牧) 

2017年07月25日 07時39分00秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
承前

 筆者にとってほとんど未知の画家であった加藤広貴さんの作品を知ることができたのも、この「クロスオーバー」展の大きな収穫でした。
 苫小牧市美術博物館のサイトによると、加藤さんは1972年苫小牧生まれ、苫小牧在住の由。
 団体公募展は、晩年の北浦晃さんが会員だった、歴史の新しい団体である新作家展に出品しているようです。
 筆者は、2002年か03年のサッポロ未来展(札幌時計台ギャラリー)で加藤さんの絵を見ているはずですが、残念ながらまったく記憶がありません。

 加藤さんの絵の多くは、幻想的な都市風景を題材にしています。
 とはいえ、筆致は写実的で、組み合わせが風変わりという、よくあるタイプ(遠藤彰子や矢元政行など)とは少し異なります。
 建物の描き方が、リアリズムとキュビスムの中間といえば、良いのでしょうか。
 
 ブラックの「レスタックの家」を見ると、茶色の面の集積は、家と言われればそう見えるといった程度のものです。加藤さんの絵にもたくさんの茶色の平面が描かれていますが、ブラックほどではないにせよ、家として精緻に描写されているのではありません。ただ、茶色の矩形や三角の組み合わせは、それだけで家の密集に見えてしまうもののようです。

 例えば、今回出品されている「バベリング」は、おそらくバベルの塔にインスパイアされたもので、タワーマンションをさらに高くしたような細長いビルが中央に描かれているのですが、その周囲を、画面の四辺のうち三辺を取り囲むように、茶色の家々が埋めつくしているのです。
 もちろん、現実にはそのように家々が垂直にたつことはあり得ないのですが、絵画としては成り立っています。

 また「アパート」も、メインのモティーフである6階建ての古いアパートはすぐにそれとわかりますが、その周囲に配された、信号機やテーブル(?)、尖塔のある建物などは、なんともあいまいに描かれています。これは、日本的フォーブにおける省筆とも異なり、言葉ではなかなかうまく説明することができません。
 ただ、独特のあいまいさによって、見る人が自由に想像できる余地が広がっていることは、まちがいのないことだと言えるでしょう。

 出品作のうち「静かなスタート地点」は、やはり架空の街並みを、俯瞰の視点から描いていますが、個々のモティーフは比較的はっきりと、形状が把握できるように描いた、この画家には珍しい作品です。
 手前に描かれたヘアピンカーブが印象的です。ただ、屋外には人も車も見当たりません。屋内には人の気配があるのが、窓を通して感じられますが…。カーブの路面は黒く、歩道の部分が白く塗り分けられているのは、現実の北海道でもしばしば見られる光景ですが、では、カーブの両サイドに並べられた色とりどりのタイヤ状の物は何かなど、不思議な部分も多いです。
 ただし、とりたてて奇抜な建物が描かれているわけでもないのに、赤や青の屋根を持つ家や小屋が、なんともいえないノスタルジックな感情を見る人にかきたてるのは、たいした力量だと思います。

 とにかく、文章では言いたいことが尽くせない魅力のある絵画ですので、また機会があれば見たいと思わせる作品でした。


2017年6月17日(土)~7月17日(月)午前9時半~午後5時(入場~4時半)、月曜休み(最終日は開館)
苫小牧市美術博物館(末広町3)

■「静かなスタート地点」が載っている、新作家協会のページ http://www.shinsakka.jp/23_exh_katou.html


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