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七夕で驚きの変身。関根伸夫と環境美術研究所「上湧別開基百年記念塔」(オホーツク管内湧別町中湧別)

2019年07月10日 08時52分22秒 | 街角と道端のアート
 2013年にアップした
滝錬太郎「和と輪」 湧別町のパブリックアート(8)」 
という記事で

「筆者の知る限りでは、これまで挙げた以外に町内に野外彫刻は設置されておらず、このシリーズもこれで終了である。」

と書いたのだが、まさかその6年後に、オホーツク管内湧別町のパブリックアートについて新たな記事を書くことになるとは思ってもみなかった。

 理由は簡単。

 中湧別駅跡を訪れたことはあるのだが、この塔は

大きすぎて気づかなかった

のだ。

 制作にあたったのは「もの派」の創始者として戦後美術史に残る関根伸夫と、彼が主宰する環境美術研究所。

 湧別町と合併する前の上湧別町の「開基100年」を記念する事業として、1996年に建設された。
 9月29日の記念式典後、除幕式が行われた。

 高さは21世紀を目指すべく、21メートル。
 何をもって「野外彫刻」とするか、厳密な定義はないが、おそらく道内にある野外彫刻でも最大ではないだろうか。

 「開基百年 上湧別町史」には、次のようにある(275ページ)。

 関根伸夫(環境美術研究所)は、作品のタイトルを「かみゆうべつ われらの心の調べ」とし、「この記念塔は日本一の巨大な風のハープで、屯田兵がこの地に鍬をおろし安住の地と定めてから一〇〇年、過酷な自然と闘いながら、それでも美しいこの大地に理想郷を実現しようとしてきました。そして大きな節目となる開基百年記念塔は“もの”から“心”の時代を告げる二十一世紀を目指すものでなければなりません。そんな熱い心を受けて、私の提案する記念塔«かみゆうべつ われらの心の調べ»は巨大なハープ形、熱情を伝える赤いハート形、そして大地の底から放たれた矢がハート形を突き抜ける姿を形象化しました。風がハープの弦を鳴らし、環境音楽となってこの場に近づいた人々の心の調べと同調する…なお上部の形態は矢の先端で、未来を摑む手、風の音のイメージである」と述べている。


 建設費は約5千万円。
 上湧別開基百年記念塔建設事業協賛会が集めた2775件、総額約4千万円の寄附に加え、町の負担でまかなったという。
 寄附した人々の氏名は、周辺に、低く長い大理石を設置してそこに刻まれている。

 また、石の表面に刻まれている当時の町長の言葉は次の通り。

 この塔は、東京都の環境美術家、関根伸夫先生と、環境美術研究所の作品で、上湧別の屯田兵等の先人が厳しく辛い開拓に、皆で励まし助けあって頑張りつづけられた心意気を象徴して、開拓の源である「心」を開基百年記念塔に形象化されたものです。
 塔は巨大なハープを想像できますが、高い空から見るとハートに、その中央には一本の芯が入っているように見えます。これは町民の心が結集して大きく真っ赤に燃えたハートの威力によって宇宙に向けて飛翔する矢が放されようとしているものですが、正に上湧別町が未来に向かって繁栄する姿をイメージしたものであり、ハープの爽やかな音色は、あなたの心をときめかせてくれます。

 1996年(平成8年)9月26日
 上湧別町長 松田 隆


 このハープ、音が出るのか。

 知らなかった。

 オレンジ色の形が、上から見るとハートマークというのも、これを読むまで気づかなかった。

 なお「開基」という語は、現在、北海道新聞などではいっさい使わない。
 もっと昔から住んでいるアイヌ民族の側からすれば、たしかに「なんじゃそりゃ」というような言葉だからである。



 上湧別町は2009年、湧別町と合併して、新しい「湧別町」が発足する。
 町名は湧別で、役場所在地は上湧別という、平成の合併ではよくある「痛み分け」パターンである。

 ちなみにこの広場は、上湧別の役場の近くにあるのではない。

 旧湧別町と旧上湧別町の中間あたりに、中湧別という駅があった。
 ここが鉄道が四方に伸びる、交通の要衝となっていたため、お店も中湧別のほうが多い。
 電話局も北海道銀行支店も中湧別にあるのだ。

 この塔や広場などは、かつての中湧別駅や保線区などの鉄道施設跡の土地を利用して、設けられているのである。






 ところで、この塔のもうひとつすごいところは、「屯田七夕まつり」当日(ことしは7月7日)になると、オレンジのハート形のところに、七夕飾りが提げられることである。
 日本広しといえど、関根伸夫作品に七夕飾りを取り付けているところは、ほかにないのでないかと思われる。

(もちろん、それが悪いことだとは思わない。芸術だからとありがたがって敬遠するよりも正しい使い方ではないだろうか)







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