北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

■大友真志展 Mourai (2016年1月12日~3月18日、札幌)

2016年03月18日 01時11分11秒 | 展覧会の紹介-写真


 昨年、道立近代美術館の意欲的なグループ展「もうひとつの眺め(サイト) 北海道発:8人の写真と映像」に出品した北広島出身の写真家による個展。1枚を除きすべて横位置のカラー写真16点が並ぶ。
(ツイッターで12枚としたのは誤りでした。すみません)

 ちなみに「Mourai」とは、石狩市厚田区の日本海沿いにある地名。
 いまは「望来」と書く。
 だいたい冒頭の地図のあたりである。

 会場には、平倉圭、倉石信乃両氏によるテキストを掲載したパンフレットが置いてあり、とりわけ倉石氏の「留まる光―大友真志「Mourai」私注」と題された文章は、望来の地名の由来、吉増剛造の詩、田本研造の写真にまで説き及んだ充実したもので、筆者ごときが付け加えることはほとんどない。

 ただし、これで終わってしまっては、あんまりなので、筆者なりに感じたことを記しておきたい。

 16点の写真には、壁面にはまったくキャプションがないが、パンフレットにはつぎのような注記がある。

1.ホルムスク 2008
2.北広島 2015
3.支笏湖 2015
4.平岸 2015
5.平岸 2015
6.精進川(平岸) 2014
7.平岸 2014
8.石狩川 2014
9.精進川(平岸) 2015
10.北広島 2015
11.音江別川(北広島)2015
12.鵡川 2014
13.望来 2015
14.望来 2015
15.鵡川 2014
16.望来 2015

 このうち、2.だけが縦位置、室内で、男性がひとりいすに坐っている。
 これは写真家本人であるらしい。実家の中だろうか。
 人物が写っているカットはこれだけで、残りはすべて無人の風景をたんたんと撮影している。
 そのたたずまいは、露口啓二さんの写真からさらに異質な要素をそぎ落としたような、静かなものに感じられる。

 1.はロシアで、残りはすべて道央の風景だ。
 タイトルの望来は3点のみ。8.は石狩川の下流だろうが、具体的にどこなのかはわからない。
 また、ここになぜ支笏湖や、太平洋側の鵡川が登場しているのかも、筆者には不明である。

 個人的に目を引いたのが「平岸」で撮影されたのが5点で、最も多いことである。フライヤーに印刷されていたのも、望来ではなく、6だ。冬に流れる小さな川がおさめられている。
 これらは、もちろん赤平市平岸ではなく、札幌の平岸である。

 写真家がかつて「photographers' gallery press」no.8 を責任編集したという経緯から、田本研造を想起するのはまちがってはいないと思う。
 ただ、平岸は広い。
 田本が撮ったのは、現在の平岸街道か、天神山の北西側である可能性が高い(明治の地図で、人家が確認できるのは、その2カ所しかない)。
 大友氏が撮ったのは、平岸の中でも最も北西の、中の島に隣接する一帯であると思われる。



 いずれの写真も、よく見ると団地が写っているが、これは北海道開発局石狩川開発建設部の職員住宅であると推測される。
 6.はまるで山奥のようにも見えるだろうが、やはりこの近辺であろう。
 精進川という、豊平川の小さな支流の下流域に沿った一帯は、この職員住宅のほか、寒地土木研究所やさけますふ化場など、北海道開発や石狩川の治水にかかわりの深い「官」の施設が、なぜか多く集まっているのだ。

(したがって、厳密にいえば、7.は、奥に見える団地は平岸だが、手前の低木と舗装部分は中の島ではないだろうか)

 それがなにを意味するのか、写真家がなぜ、一般的に「平岸」から連想される場所ではなくてこんな平岸のはずれにレンズを向けたのか、確たることはなにも言えない。
 8.石狩川の支流の支流であるということぐらいしかいえない。

 ただ、これらの写真は、団地が主役ではなく、レンギョウをはじめとした植物や、雪といった自然が前面に出ている。
 あるいは、望来が、ニシン漁で沸いたり石油が試掘されたりして栄えたころをとうに過ぎて、開拓前の様相に戻ろうとしつつあることと同様、田本研造の写真で、力強く切り開かれんとしている札幌・平岸も、自然を完全に屈従させているのではない、ということが示されているのかもしれない。
 それは「自然に帰れ」という強烈なアピールではなく、自然とともにあるというさりげない表明であるのだろうか。



2016年1月12日~3月18日(金)午前9時~午後5時、土日祝休み
北海道文化財団アートスペース(札幌市中央区大通西5 大五ビル3階)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。