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■第7回札幌500m美術館賞 入選展 (2019年1月26日~3月27日)

2019年03月26日 23時45分38秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 「札幌大通地下ギャラリー500m美術館」は、地下鉄大通駅と地下鉄東西線バスセンター前駅間の地下コンコースの壁面に続く展示施設である。
 大通駅側から行くと、丸井今井やルトロワの先、ロッテリアのあたりでもうワンフロア下に降りたところから、バスセンター前駅の西側改札口の近くまで、左側の壁に続いている。途中、地上への出口があるところは、施設が途切れている。
 ちなみに、右側の壁面には展示しない。

 西側(大通駅側)半分は、手前にガラスがある薄い箱形の展示ケースが並び、東側(バスセンター前駅側)半分は、スポットライトはあるが、ガラスなどはない。
 彫刻や立体造形、インスタレーションの展示にはあまり向いていなさそうである。

 「500メーターズ」というボランティア組織があり、展示の手伝いや、企画などにも携わっているのが特徴で、筆者が訪れたときには、来場者アンケートをとっていた。


 さて例年1~3月には、一般から応募された作品を、東京などからキュレーターや評論家を招いて審査する「500m美術館大賞」展と、札幌圏の学生から選んだ作品を展示する「冬のセンバツ」展を開いている。

 ことしの「500m美術館大賞」は、増山士郎さんであることを、会場を訪れるまで知らず、驚いた。

 増山さんは、各国のアーティスト・イン・レジデンスに滞在を続け、現在は北アイルランドの中心都市ベルファストを拠点に、欧洲や東京、あいちトリエンナーレなど各地で発表している作家である。
 道内ではこれまで、昨年、十勝管内豊頃町の白濱雅也さんのスペースで発表したことがあるぐらいだと思う。
 こんな、世界の第一線で活躍しているアーティストが、大きな美術館ではなく「500m美術館」のような施設に作品を並べ、しかも今回の「毛を刈った羊のために、その羊の羊毛でセーターを編む」ほか「Self Sufficient Life」のシリーズ全3点が国内で初めてそろうというのが、意外であった。札幌の人にはいささか失礼な言い方かもしれないが。

 失礼ついでに言えば、写真と映像を使い、いま世界で起きている問題にアートならではのユーモアも交えて切り込むプロジェクトという、このスタイルが、2010年代の現代アートの主流であると思う。
 「主流」という語が言いすぎであれば、少なくとも、各地で開かれている芸術祭やトリエンナーレなどでよく見かけ、しかも、札幌ではあまり触れる機会のないタイプの作品であることは間違いないだろう。

 なので、札幌の若いアート関係者は
「自分は絵画なので」
みたいなことは言わず、この機会を逃してほしくないのである。

 やたらと前置きが長くなってしまったので、後はかんたんに行こう。
 
 増山さんの作品は「毛を刈った羊のために、その羊の羊毛でセーターを編む」をはじめ、同趣旨の、アルパカやフタコブラクダのも並んでいる。

 やっていることは文字にするとバカバカしいのだが、作者は、羊の毛を刈り、洗って紡ぎ、地元の女性たちに編み物を教わり…といったプロセスに大まじめに取り組んでいる。この過程を通して、世界各地で伝統的な牧畜業がグローバリゼーションの荒波にどう覆われつつあるのか、問いを投げかけているのだろう。

 「農業と国際化」とは、まさに北海道が立ち向かわなければならない大きな課題でもある。人ごととして片付けられる作品ではないのだ。 


 中島洋「水の部屋、世界の窓」。

 中島さんは「札幌の作家」というよりも、札幌のミニシアター「シアターキノ」の代表として知らない人はいないだろう。
 この映画館がなかったら、どれほど多くの映画が道内で上映されることなく終わったか、想像もつかないほどだ。

 中島さんは、1980年代には自主制作映画を手がけていた。
 しばらく映画館運営に忙しかったが、一昨年の札幌国際芸術祭では「バンドメンバー」の一員として実行委の一角を担ったほか、昨年あたりから久しぶりにアートのフィールドに帰り、作品を発表している。

 今回は、学生時代に撮ったモノクロの8ミリフィルムと、水道管を組み合わせたインスタレーション。
 フィルムには陽光にきらめく木々の葉が映っている。
 それを三つのスクリーンで、それぞれ速度を変えて上映している。

「緑と水」という組み合わせはやさしく叙情的だが、中島さんは、昨今の水道事業民営化や、昨年9月の胆振東部地震にも思いを至らせているようだ。
 緑と水は現代社会にあって、決して優しいだけではないのだ。


 津田隆志「あたらしい山」。

 津田さんは愛知県出身、千葉県松戸市在住。
 この4人のなかで唯一、筆者が初めて知った人だ。

 今回の作品は写真で、駐車場や観光地で、除雪した後にできる雪山が被写体。
 写し方とプリントが巧みで、背景を白く飛ばしていることもあって、まるで本物の、峨々たる山脈のようだ。

 よく見ると、左から4枚目にはさっぽろテレビ塔がうっすらと見えている。これらの雪山は、道内各地の観光地で撮影したものを並べているのだが、どこで撮ったのかまったく分からないのはもちろんだ(笑)。

 大通駅側の雪の山脈は本州のショッピングセンターの駐車場に積み上げられた雪山にレンズを向けたものだが、北海道の観光地の雪山と見た目の区別はつかない。

 それにしても、わたしたちが1年の3分の1は毎日のように目にしているのに、多少じゃまに感じる程度でほとんど気に留めない雪山というものに着目する目の付けどころがおもしろいと、あらためて思うのだった。


 最も大通駅側は今村育子「白い部屋 黒い部屋」。

 今村さんは札幌を拠点に、コンスタントにインスタレーションの発表を行っている。

 近年は道立近代美術館や本郷新記念札幌彫刻美術館の企画グループ展に出品したほか、ことし1月には札幌のCAI02で個展を開いた。いま道内で最も活動している現代アート作家の一人。

 彼女のインスタレーションは、遠い昔、幼い日に見聞きした自室の明かりや音などを想起させるものが多かった。
 新作は、大通駅側は全体を白く、バスセンター前駅側は黒く塗り、内部には鏡や照明を配置。ガラス窓の前には、薄手のカーテンをひいている。

 全体像が見えそうで見えない、独特のもどかしい感覚は、今村さんの作品に特徴的だ。


 しかし、鑑賞者がひとつの視点に立って全体を見渡せるという事態が、すぐれて近代に特有のものの見方という気がしないでもない。
 今村さんの作品を、単なるノスタルジーで語ることをやめるとすれば、この「全体像の把握の不可能」という視点が欠かせないのではないだろうか。


2019年1月26日(土)~3月27日(水)午前7時30分~午後10時
札幌大通地下ギャラリー500m美術館

□増山士郎さんツイッター @ozingerm
□togetter 増山士郎「 毛を刈った羊のために、その羊の羊毛でセーターを編む 」の日本での評判 https://togetter.com/li/583367


□シアターキノのFacebookページ https://www.facebook.com/%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%8E-637158612968868/

BENIZAKURA PARK ARTAnnual -Festival of Contemporary Art (2018)


□津田隆志さんサイト http://taka42da.com/


□今村育子さんツイッター @imamuraikuko

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