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■山田大揮×小田原のどか―2020年2月6~8日は13カ所(10)

2020年03月07日 20時10分38秒 | 展覧会の紹介-彫刻、立体
(承前。画像は2階の小展示室)

 今回(って、もう1カ月近くたちますが)の札幌行きの大きな目的の一つは、山田大揮さんの個展で行われる、小田原のどかさんとのトークイベント「<制作>行為に潜在する加害姓」に足を運ぶことでした(もう一つは、札幌国際芸術祭2020の記者発表で、このふたつが日程的にそろったことから札幌に帰省することにしたのです。異動後、夏休みと年末年始以外では初めて私用でオホーツク管内を離れたのでした)。
 小田原のどかさんは東京拠点の彫刻家です。これまで何度かこのブログで言及してきたので詳細は下のリンク先に譲りますが、筆者がいちばんすごいと感じているのは、彫刻をめぐる日本語の言説の在りようを根底から覆した論者の一人だというところです。彫刻を論じる言葉はロダン受容開始からこのかた、マッスやボリュームといった造形の観点ばかりに費やされてきた感がありますが、小田原さんは、社会や歴史のなかに在る彫刻を論じています。さまざまな媒体に執筆するだけでなく、自分で彫刻の論集を編集・出版するなど、実践の幅をどんどん広げています。
 そういう気鋭の書き手が、北海道教育大の集中講義で来道するタイミングで、トークイベントに登場するというのですから、これは駆けつけないわけにはいきません。

 山田大揮さんの設定したタイトルを見ると
「ううむ」
と、腕組みをして考え込んでしまいたくなりました。この理屈を純粋に突き詰めていくと、あらゆる制作行為は地球にやさしくなく、すべての人に快いわけでもなく、加害性を帯びているということになり、創作・表現行為を断念してしまうことにつながってしまいかねないからです。
 山田さんは
「リサーチベースも収奪的な面があると思う」
と言います。
 「自分がいいように使うということに葛藤がある」

 それに少し関連して、彼の発言でちょっとおもしろいな、と思ったのは
「名言が嫌い」
というものでした。
 ひとり歩きすることで、文脈から切り離されてしまう、というのです。
 なるほど。
(アプロプリエーションやカットアップを椹木野衣さんは推奨したけれど、文化的メインストリームに対してそれを行うことと違い、相手によっては文化盗用になってしまうもんなあ)
 このとき筆者がぼんやりと思い出していたのは、スイスの映画監督アラン・タネールが1975年に撮った「ジョナスは2000年に25歳になる」というフィルムで、この中で革命に目覚めた或るブルジョアはまず、革命党から金言やことわざによって世の中のことを学ぶという筋書きになっていました。

 すみません。どうでもいい話でした。
 ニコラ・ブリオーの「関係性の美学」をめぐって、いつまでたっても邦訳が出ないのに、「関係性の美学」ということばがなまじキャッチーなために、ひとり歩きしてさまざまに解釈されているという山田さんの指摘は、なるほどと思いました。たしかに今世紀に入ってからの日本の現代アート業界ではひとつの大きなトピックになっている感がありますが、人口に膾炙したフレーズのわりには、内実がよくわからないうちに、「地域アート」がどうこうと、派生的な話題が盛り上がっているような感もあります。

 さて、小田原さんも、自身の活動についてさまざまに語っていました。そのなかで、いちばん印象的だったのは、日本は切腹文化というか、失敗したらもう終わりという色合いが強い。民主主義社会は誰が声をあげてもいいし、批判があるのは当たり前で、そこで着地していくしかない。つまずいたらおしまいじゃなく、「つまずきの内実にこそ価値がある」―という趣旨のことでした。
「過去をときほぐすことで未来につなげていく、それを私はしたい」

 とても美しいし、良い言葉だと思います。
 歴史修正主義がはびこっている今だけに。

 戦争から70年以上を経て、関係者の方々が次々と鬼籍に入ってしまう。
「みないなくなってしまってからが重要」
というようなことも言っていました。「あったこと」を語り継いでいくのは、後の世代の責任です。

 あと、山田さんの作品に、キュンチョメさんの影響をみてとったのはさすがだと思いました。


(ところで、いま小田原のどかさんのツイッターアカウントを見たら、フォロワーが4500を超え、筆者のフォロワー数(3月5日現在で4691)に迫っているのでびっくり。筆者と相互フォローした時点ではフォロー、フォロワーとも100か200ぐらいだったと記憶しています)


□小田原のどかさんのツイッター @odawaranodoka
□公式サイト http://odawaranodoka.com/

□twitter @_yamadahiroki


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小田原のどか ↓(1923ー1951)  あいちトリエンナーレ:2019年秋の旅(66)
小田原のどか あいちトリエンナーレ:2019年秋の旅(65)
2018年に読んだ本(1) 『彫刻 SCULPTURE 1 彫刻とは何か』(小田原のどか編著、トポフィル)


山田大揮個展「あなたは石を見ている 石はあなたを見ていない」
500m美術館vol.28 500メーターズプロジェクト006 「冬のセンバツ」〜美術学生展〜 (2019)
塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展 (2018)
七月展 北海道教育大学岩見沢校 美術文化専攻の学生による自主制作展 (2018、画像なし)




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