くぬぎのたろぐ

くぬぎ太郎の日常的視点

研ぎ屋

2014-04-18 19:45:54 | Weblog
自宅の近くでもないですが歩いて行ける距離にに気になっている店がありました。
小汚い商店街の入り口付近に位置し、
狭い軒先にはよしずが立て掛けられ中の様子を伺い知ることはできません。
まな板くらいの板に大きく店名が書かれ看板としてぶら下げてあります。

その名も「研ぎ屋」。

通りすがりによしずの裏を少し覗く限りでは、
バーゲンセールなどで商品を陳列するようなワゴンに
新聞紙を巻かれた包丁がたくさん並べられており、
薄暗い店内の雰囲気と不気味なコンビネーションを醸し出しているのです。

名前の通り刃物を研いでくれる店なのだろうと察しはつきますが、
そのただならぬ店構えに気圧されて入店する勇気が持てずにいました。

本当のことを言えば私だって家の包丁を研いでほしい気持ちはあるのです。
一応自分で研いではいるものの購入した頃の切れ味にまでは回復させることができず、
アマチュアレベルの技術に限界を感じていたのです。

しかしそんなある日のこと、
普段は人影が一切ない店頭に初老の男性が一人立っているではありませんか。
興味深そうに店内の様子を見ています。
その姿を見て私の中の入店へのハードルはぐっと下がり、
思い切ってよしずの裏まで足を踏み入れてみました。

新聞紙にくるまれた包丁に混じってワゴンには料金表なる紙が置いてあります。
刃物の種類や刃渡りの長さによって値段が細かく設定してあるのですが、
普通の三徳包丁であれば500円程度とのこと。
思っていたより安い価格設定に私の中のハードルはさらに下がって、
気がついたら店の中に入って店主にいろいろと質問していたのです。

歳の程は50くらいでしょうか。
ちょっと変わったお洒落眼鏡をかけ、
煙草のせいか金属粉のせいか笑うと真っ黒な歯が見える、
いかにも職人といった物腰の店主でした。

研いでほしい刃物を持ち込めばその日の内に仕上げてくれるというので、
さっそく翌日に家の包丁を持って再び店を訪れ、研ぎを依頼したのです。

研ぎあがった包丁を受け取りに行くと、
「ご確認ください」と言いながら店主が包丁を一枚の新聞紙に近づけました。
なんと次の瞬間には新聞紙が真っ二つに…。
「この男、出来る…!!」などと思いながら包丁を受け取って家へ帰り、
さっそく夕飯の支度に使ってみることに。

食材に包丁を当てて軽く引くとストンとまな板に刃が付いてしまいます。
何と言う恐ろしい切れ味でしょう。
光にかざせば刃が均一な幅でキラリと光り見た目からも凄みが感じられます。

千切りや薄切りもすごく楽になって、
包丁の切れ味がよくなると料理も楽しくなりますね。
まるで斬鉄剣を手に入れたような気分です。