私の実家の裏は山の斜面になっている。
そこにはどこにでも見られるような広葉樹の木々が生えていて、
ちょっとした自然林になっている。
生えている木々の高さはマチマチではあるが、
高いものは2階建ての実家を通り越す程で、
ちょうど2階の窓から、木の幹が枝に変わる辺りがよく見える。
枝の上を歩くリス、巣を作って子育てをしているカラスが見えたり、
実家の裏は平和な景色が日常となっていたのだが、
ある日ちょっとした事件が起きた。
それは6年前、まだまだ寒い2月のこと。
ある背の高い木に一匹の野良猫が登った。
猫は2階の窓から10mほどの距離にいて、
幹が枝に分かれるあたりで丸くなり、こっちを見ている。
前述したように木は斜面から生えており、
幹が枝に変わるあたりが2階の窓と同じ高さなので、
猫は地上からは建物4階分くらいの高さにいることになる。
猫を見つけた家族達は
「すごいねぇ、あんな高いところまで登れるんだねえ!」などと、
当初はのんきなことを言っていたが、
時が進むに連れて徐々に事の重大さを認識し始めた。
猫を見つけた次の日、猫はまだ同じ場所で丸くなっていた。
その次の日もまだ同じ場所にいる。
そのまた次の日も同じ場所にいる。
よほどその場所がお気に入りなのだろうか。
いや、そうではない。
どうやら高いところまで登りすぎて降りられなくなっているようだ。
時折少し下にある枝の分かれ目まで降りるが、
それより下には降りられずにまた元の場所に戻ってしまう。
我が家とは何の関わりもない野良猫ではあるが、
2階の窓から見える所で衰弱死されるのも気分が悪いし、
死骸がカラスについばまれながら朽ちていくのなんて見たくもない。
衰弱させないために、せめてエサでもあげたいところだが、
ちょっと距離が遠くてエサを与えることもできない。
もちろん応援したところで何の効果もない。
困った家族はついに消防署へ相談してみることにした。
電話をかけて間もなく、レスキュー隊の方々が3人で家を訪ねてきて、
状況を確認した後、早速解決策を見出した。
それは、実家の裏にあるフェンスから猫がいる木までハシゴを渡して、
隊員が猫を捕獲するという実にシンプルな作戦だった。
レスキュー隊員達はすぐに作戦を行動に移した。
2人がハシゴを保持し、一人がハシゴの上を渡り始める。
キシキシとはしごをしならせて隊員が猫に近づき、
衰弱した猫は逃げ場もなくあっさりと捕獲された。
よかったよかったと安堵しのも束の間、猫を捕獲した隊員は言った。
「そっち投げますんで受け取ってください!」
確かに猫を抱えながら不安定なハシゴを渡るのは危険だ。
しかし残る2人のレスキュー隊員はハシゴを保持している。
「私たちか!?」
突然の大役を賜り、家族の間に緊張が走り笑顔が消えた。
「いきますよぉ!」という声をあげ、隊員が猫を放り投げようとした瞬間、
それまでぐったりしていた猫が突然暴れだし、
隊員の手を振りほどいてそのまま下へ落ちていってしまった。
地上までは建物4階分くらいはある。
その場に居合わせた誰もがもう駄目だと思ったが、
猫はフカフカに降り積もった落ち葉の上に着地し、
何事もなかったかのように走って逃げていってしまった。
「始めから自分で降りろよ!」とは誰も口には出さなかったが、
予想外の結末で事件は解決された。
レスキュー隊員達は家族からお礼を言われながらも、
すっきりしない達成感を抱いて消防署へと帰還していった。
家族は「テレビ局にも連絡すればよかったね。」などと事件を振り返っていた。
そしてまた裏の林に平和が訪れたのであった。
めでたし、めでたし。
そこにはどこにでも見られるような広葉樹の木々が生えていて、
ちょっとした自然林になっている。
生えている木々の高さはマチマチではあるが、
高いものは2階建ての実家を通り越す程で、
ちょうど2階の窓から、木の幹が枝に変わる辺りがよく見える。
枝の上を歩くリス、巣を作って子育てをしているカラスが見えたり、
実家の裏は平和な景色が日常となっていたのだが、
ある日ちょっとした事件が起きた。
それは6年前、まだまだ寒い2月のこと。
ある背の高い木に一匹の野良猫が登った。
猫は2階の窓から10mほどの距離にいて、
幹が枝に分かれるあたりで丸くなり、こっちを見ている。
前述したように木は斜面から生えており、
幹が枝に変わるあたりが2階の窓と同じ高さなので、
猫は地上からは建物4階分くらいの高さにいることになる。
猫を見つけた家族達は
「すごいねぇ、あんな高いところまで登れるんだねえ!」などと、
当初はのんきなことを言っていたが、
時が進むに連れて徐々に事の重大さを認識し始めた。
猫を見つけた次の日、猫はまだ同じ場所で丸くなっていた。
その次の日もまだ同じ場所にいる。
そのまた次の日も同じ場所にいる。
よほどその場所がお気に入りなのだろうか。
いや、そうではない。
どうやら高いところまで登りすぎて降りられなくなっているようだ。
時折少し下にある枝の分かれ目まで降りるが、
それより下には降りられずにまた元の場所に戻ってしまう。
我が家とは何の関わりもない野良猫ではあるが、
2階の窓から見える所で衰弱死されるのも気分が悪いし、
死骸がカラスについばまれながら朽ちていくのなんて見たくもない。
衰弱させないために、せめてエサでもあげたいところだが、
ちょっと距離が遠くてエサを与えることもできない。
もちろん応援したところで何の効果もない。
困った家族はついに消防署へ相談してみることにした。
電話をかけて間もなく、レスキュー隊の方々が3人で家を訪ねてきて、
状況を確認した後、早速解決策を見出した。
それは、実家の裏にあるフェンスから猫がいる木までハシゴを渡して、
隊員が猫を捕獲するという実にシンプルな作戦だった。
レスキュー隊員達はすぐに作戦を行動に移した。
2人がハシゴを保持し、一人がハシゴの上を渡り始める。
キシキシとはしごをしならせて隊員が猫に近づき、
衰弱した猫は逃げ場もなくあっさりと捕獲された。
よかったよかったと安堵しのも束の間、猫を捕獲した隊員は言った。
「そっち投げますんで受け取ってください!」
確かに猫を抱えながら不安定なハシゴを渡るのは危険だ。
しかし残る2人のレスキュー隊員はハシゴを保持している。
「私たちか!?」
突然の大役を賜り、家族の間に緊張が走り笑顔が消えた。
「いきますよぉ!」という声をあげ、隊員が猫を放り投げようとした瞬間、
それまでぐったりしていた猫が突然暴れだし、
隊員の手を振りほどいてそのまま下へ落ちていってしまった。
地上までは建物4階分くらいはある。
その場に居合わせた誰もがもう駄目だと思ったが、
猫はフカフカに降り積もった落ち葉の上に着地し、
何事もなかったかのように走って逃げていってしまった。
「始めから自分で降りろよ!」とは誰も口には出さなかったが、
予想外の結末で事件は解決された。
レスキュー隊員達は家族からお礼を言われながらも、
すっきりしない達成感を抱いて消防署へと帰還していった。
家族は「テレビ局にも連絡すればよかったね。」などと事件を振り返っていた。
そしてまた裏の林に平和が訪れたのであった。
めでたし、めでたし。