散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

新自由主義時代の終焉、英EU離脱~トランプ現象も含めた経済的視点

2016年07月13日 | 先進諸国
経済的亭受が期待を生み、それが実現しないことによって、失望に変わったときが、政治危機(政治暴力の発生)になる。これをJ曲線理論と呼んでいるが、永井陽之助は「現代社会と政治暴力」(『柔構造社会と暴力』所収)において、更に、“情報空間の拡大”、“新しいユースカルチュアの登場”を視野に入れて、当時(1968年前後)の政治状況を分析している。

日本のおける金融関係の実務家は英国の政治現象を如何に見ているのか?これまで何度か取り上げた河野氏の論説を今回は紹介する(ロイター コラム 2016/07/06)。
以下のまとめを理解するうえで、上記の文献が役に立つと思われる。

『筆者(河野氏)が最も衝撃を受けたのは、1980年前後からグローバリゼーションの恩恵を享受していた英国において、離脱派が過半数を獲得したこと…同様のことは米国にも当てはまる』。従って、『英国、米国などを中心に広がった新自由主義的政策が曲がり角を迎えた可能性がある』との問題意識だ。

<サッチャー・レーガンの新自由主義時代1980~>
・2000年代はグローバリゼーション時代の絶頂期
・各国とも「大いなる安定(Great Moderation)」、マクロ経済は好調
・一方、生産拠点の新興国への移転継続、先進国は製造現場を喪失
・稼ぎ頭:金融、IT、新興国関連→陳腐なスキルはジリ貧
・低所得者層に落ちた人々:実質所得の継続的増加は困難
・ブッシュ政権(父):「アメリカンドリーム」実現=持家推進政策
・サブプライムローン問題→“バブル破裂”へ

 <低成長時代へ>
 ・金融システム崩落回避:米英、金融機関へ資本注入=金融緩和
 ・危機の基本的原因―収益性の高い投資機会減少、潜在成長率低下
 ・中央銀行:現象の囚人(バブル崩壊で低成長)→インフレ醸成で成長率高
 ・量的緩和(QE)時代到来 通貨安/株高、潜在成長率低=実質賃金回復緩慢
 ・原油高・通貨安→輸入物価上昇→実質賃金改善遅延
 ・株価上昇、富裕層・大企業だけ恩恵→苛立つ多くの国民
  (賃金低迷の主因:潜在成長率低下、労働分配率低下)

<経済統合の論理と実際>
・分業/自由貿易の利益 国全体の経済厚生改善
・実質所得増加―安価な財・サービスを購入可能
・配分の分極化「享受―高いスキル」、「被害―低いスキル」
・全体のパイ増加=国内の分配構造が分極化
・主流派経済学~分配問題には触れないでトリクルダウン理論を発案
 →自由貿易推進(GDP水準高)→ランプサム(一括)型の所得再分配政策
  (現実には、ランプサム型の所得移転は実行が難しい)
・サッチャー・レーガン革命 資源配分 小政府、民営化、規制撤廃、自由貿易
          所得分配 稼ぐ人が更に働く 最高税率引下げ

<ポピュリズム政治としての英国民投票>
・残留支持  :年齢―若者 、階層―中高所得者層
・EU離脱支持:年齢―中高年、階層―低所得者層
 *低所得者層=低い人的資本、経済統合・移民流入で更に収入目減り
・米国:トランプ現象…保護主義的、排外的、反グローバリゼーション的
 英国:ブレア、第3の道…社会政策充実の修正
    →トランプ現象と似ている

<「ヘリマネ」の危険性>
・ばら撒き政治:常習性が強く、抜け出すことは難しい
  →ポピュリズム政治に取り込まれる可能性高い

筆者コメント
「冒頭の政治暴力理論に戻る。
J曲線理論に永井が追加修正した二つの事象の中で、“新しいユースカルチュアの台頭”とは、学生運動・大学紛争の関連であり、“情報空間の拡大”とは、暴力行為をメディアに晒す露出の政治といわれる手法である。」

「トランプ現象に関して、後者は更にSNS等に拡大が進んでおり、顕著になっている。一方、若者はその現象の主体ではないようだが、サンダース現象において、ウォール街占拠運動の主体が雪崩れ込んでいるかのようである。」

「従って、永井が指摘したことは、今の時代からみても息の長い、重要な事項に感じる。現代的視野からの考察が必要となる所以である。」

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