朝顔

日々の見聞からトンガったことを探して、できるだけ丸く書いてみたいと思います。

西太后

2013-03-18 | もろもろの事
日本と中国との関係が政治的に厳しい状況に陥っています。現代中国の歴史的背景を理解するために、こんな新書を紹介してくれた友人がいたので、読んでみました。



加藤徹著 「西太后 大清帝国最後の光芒」 中公新書(2005年初版)

世界史を受験のために勉強したのはもう相当に昔ですし、その時も近代史はあまり入試に出題されないので軽視していました。現在の入試ではどうなのか知りませんが、むしろ近代史、現代史が社会人としての知識・教養としては大切だと思います。

西太后は、清朝を滅ぼした大悪女と広く認識されていますし、現代中国でも政治的にそう宣伝されています。

しかしこの本によれば、「現代中国の国家戦略は、世界における中国の存在感を西太后以前に戻すこと」にあり、「西太后の治世は現代中国の原点」だと言い切っています。

西太后は、1861年(数えで27歳)から46年間にわたって人口4億人の大清帝国を支配し続けました。1860年の日本は攘夷と尊王の嵐が吹き荒れてて桜田門外の変があった年であり、アメリカではリンカーンが大統領になって南北戦争が始まり、欧州の英仏を先頭としてドイツ、イタリア、ロシアが列強として拡張路線に走り始めていました。

西太后が死去した1908年、それまでには追い詰められて西安に逃避するも失脚はしていない、新興国のドイツ、アメリカは英仏を凌ぐ勢いを見せ、日本は日清日露の両戦争に勝利して一等国になっていました。

しかし見方をかえると、同時代のインドやトルコの帝国は完全に植民地化され消滅しています。それに比べると清朝はそれでもよく頑張ったといえるようです。

”俗に「中国四千年の歴史」などというが、真の意味での中国史は清朝に始まる。中国とか中国人という意識も、北京語も、京劇や満漢全席など「衣食住遊」の生活文化の多くも、清朝の産物である”(引用同書pp.5-6)

”中国人は、尖閣諸島や台湾、香港、新疆、チベットなどを中国固有の領土だと主張する。その理由は、それらの地域が清の版図に含まれていたとアプリオリに信じているからだ。今日の中国人に向かって、明の時代にはチベットも台湾も中国領ではなかったのだから、とか、元の時代にはバイカル湖あたりまで領土だったのにどうしてロシアにそれを主張しないのか、などと言っても無駄なのである”(引用同書p.6)

清朝末期におこった政治的な出来事の多くは、現代中国で形を変えて発生していると著者は説いています。「洋務運動」(西洋技術を取り入れて軍事、産業、教育等を近代化する運動。破綻した)、知識人の「反日愛国」運動、「義和団事件」(後の「文化大革命」に相当する排外的大衆狂乱)、「変法新政」(小平の「開放改革」に相当)など。

ともかくこの女傑はすごい人物でした。

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蛇足ですが、NHKドラマで日中共同制作された 「蒼穹の昴」(西太后を田中裕子が演じ、2010年-2011年放送、浅田次郎原作)はよく中国ロケができたものですね。

コメント
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