mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

第11回Seminarのご報告(4) 中国の国内問題が日中戦争に転嫁される?

2014-12-09 15:01:57 | 日記

★ 共産党独裁の危機が迫っている

 

 中国の国内問題を考えるとき、現在中国の共産党独裁体制の特殊性を考慮しておかなければなりません。中国の「憲法」前文にも記載されているのですが、あらゆる政治支配を「共産党が領導する」となっています。どういうことか。立法・行政・司法・検察のあらゆる支配領域において、共産党が「指導する」のです。表向きの支配機関にぴったりと共産党の「指導」が張り付いています。共産党は「人民の前衛」という正義なのです。理屈からいうと、「人民の前衛」というのは「間違わない真理」を意味しますから、現実に出来するモンダイのある政治のコトゴトは、あたかもなかったかのように葬り去られなければなりません。幹部の賄賂も不正も間違った政策も、表面化しないように抑えつけるには、嘘に嘘を重ね不正に不正を重ね、終局においては力で弾圧するしかないのです。人民解放軍という軍事組織が「国軍」ではなく共産党に帰属する軍事組織である理由は、ここにあります。共産党の独裁を護っている窮極の暴力装置は、人民解放軍なのです。

 

 その正義が、ソ連の崩壊以来、共産主義理論における「正統性」を失いました。併せてちょうどその頃、「改革開放政策」の推進によって(「社会主義市場経済」と中国政府が呼ぶ)資本主義市場経済への参入が実を結び始めました。それは、急速な経済発展と多数人民の生活を豊かにしていったと同時に、人々の自由への希求を強めました。1989年の天安門事件はその象徴的な出来事でしたが、力で抑え込んでいます。また、農村部に取り残された人々や農村戸籍のままで都市住民になったために、社会保障の恩恵を一切受けられない人たちを大量に生み出しています。「共産党は人民の前衛である」という神話が崩壊していこうとしているのです。

 

★ 「反日」と「中華思想」が「前衛神話」に代わる

 

 その「前衛神話」の危機に際して、代わって中国で共産党独裁の「正当性」を支えてきたのが、「反日」という正義でした。1990年代の初めころから「反日教育」が小中学校に取り入れられてきました。共産党こそが「反日闘争」を戦ったという「歴史的正義」が「前衛神話」の中身に代わっていったのです。そのことについて、次のような記事が紹介されていました。

 

 《「歴史は中国人の宗教」と言われるほど、中国には歴史に対する特別な意識があります。リーダーたちは歴史上の苦難と栄光を強調してきた。特にアヘン戦争から日中戦争にかけての100年の恥辱の歴史は、人々に大きな影響を与えている。中国人は帝国主義者の侵略を中国の「国恥」だと思っています。……80年代までの方が戦争を経験した人は多かったにもかかわらず、中国人が日本を受け入れられたのは当時の日本政府や人々が非常に友好的だったからでもあります。中国の人々も日本から経済発展の経験を学びたい気持ちが明確にありました。2000年以降、中日関係に新たな変化が生まれました。中国の日本経済への依存度が落ち、人々の間に(優越的な意識をともなう)ナショナリズムが高まってきたのです。》(2014/11/15朝日新聞「政治化するナショナリズム」汪錚(ワン・チョン)アメリカ・シートン・ホール大学准教授)

 

 この「人々の間に(優越的な意識をともなう)ナショナリズムが高まってきた」というのが、単に「対日本」だけでなく、「世界における大国中国」という、まさしく「中華思想」なのです。報告では、「Wikipedia」の「第一列島線」から次のような引用をしていました。

 

 《中国の中学校歴史教科書には、かつて朝貢貿易を行っていた地域(シンガポールからインドシナ半島全域、タイ、ネパール、朝鮮半島、琉球など広大な地域)は、「清の版図でありながら列強に奪われた中国固有の領土である」と明記されており、中国では、これらの地域を本来の国境とは別の「戦略的辺疆」と呼んでいる。中国政府が東シナ海ガス田問題等の国際問題で発言する「争いのない中国近海」とは、「戦略的辺疆」の内側海域を指しており、中国固有の領土であるこの地域の安全保障・海洋権益は、中国の手により保全すべきというのが、中国の考えである。第一列島線とは、まさに「戦略的辺疆」のラインである》

 

 この「反日教育」を受けて育ってきた世代が、いま28歳から40歳、目下の働き盛りということも気に留めておく必要があるように思います。彼らの内面にふつふつとたぎる「反日/国恥」感情は、実体験がないだけに、純粋化されてメンタリティに巣食っていると思えます。ちょうど太平洋戦争の実体験がない世代が米国によって追い込まれて真珠湾攻撃に向かっていった過程を聞くと、敗戦も東京裁判の記憶も、屈辱にまみれて感じられ、我が方の難点を見失ってしまうように、です。

 

★ 中国の大国戦略「G2」

 

 第一列島線というのは、2010年までに制海権を手に入れると中国人民解放軍が目標設定した戦略ラインです。奄美群島から琉球諸島の東側を通りフィリピンの西側を抜けてボルネオ島の西側からインドネシア間直に迫ってからベトナムの東側を通って海南島に達する海域を囲む範囲です。「制海権を手にれる」とは、アメリカから制海権を奪うことを意味しています。同じ趣旨で、伊豆七島から小笠原を経てニューギニア西部に届くラインを第二列島線と名づけ、2020年までに制海権を手に入れると目標設定しています。さらにその戦略は、2040年までにアメリカ軍のインド洋太平洋における独占支配を打破して、アメリカ海軍と対等な海軍建設し、太平洋を中米2大国で分けあうという構想を展開しています。「G2」というのは、世界支配の2大国秩序のこと。まさに中華帝国の復活です。

 

 この太平洋支配は、軍事的には海上、海中の自由秘密航行を指していますが、同時に海底資源の開発を意味しています。つまり中国は、今後の経済的発展を支える資源的基盤を自らの軍事力を背景に構築する戦略、それがやっと経済大国になった現段階でこそ、実行に移せると踏んでいるのかもしれません。

 

★ 尖閣諸島をめぐっての日中対立

 

 2010年の尖閣での漁船との衝突以来、尖閣周辺での中国公船との接触が常態化しています。その流れの中で懸念されているのが、日中の軍事的衝突です。2013年11月には、中国が防空識別圏を設定し、通過する航空機は事前に通知せよと発表しました。この防空識別圏は日本や米軍の識別圏と重なっています。つまり、「挑発している」とも受け取れます。ただ一部の専門家は、日本が防空識別圏を設定しているのであれば、中国にも防空識別圏を設定する「権利」はある、と言います。つまり、双方が角突き合わせる状態になったのですが、肩怒らせて、文句あっか! と威嚇してくるのを相手にするのは、よほど用心しなくてはなりません。

 

 実際、その後にしばしば自衛隊との危ない接触が起こっていると、「緊張の前線」を麻生幾が報告しています(《知られざる国境防衛の「真実」》文藝春秋、2014年12月号)。子細な「接触」は省きますが、自衛隊機の30mにまで接近したり、海自護衛艦に射撃レーダーを照射したり、中国戦闘機が中国レーダーの圏外を飛行するという「中国戦闘機の狂気」が見られると、麻生幾は述べています。そのことは、「《習近平国家主席率いる中国共産党中央は、人民解放軍をシビリアンコントロール下においていない。両者は、対等の位置にさえある》と米空軍横田基地はみている」というのですが、とすると、中国国内の権力闘争が、「尖閣での日中衝突」を媒介にして勃発することさえあることを意味しています。つまり私たちにとって、中国の国内権力闘争がじかに日中戦争に跳ね返ってきかねない事態もありうることになります。

 

 困ったものですね。(つづく)