デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

「バレエ大国」日本の夜明け チャイコフスキー記念東京バレエ学校1960-1964

2020-01-03 18:54:00 | 買った本・読んだ本
書名 「バレエ大国」日本の夜明け チャイコフスキー記念東京バレエ学校1960-1964
著者 斎藤慶子 出版社 文藝春秋 出版年 2019

ボリショイバレエ日本初公演は、赤い呼び屋と言われた神彰が手がけた最初の大きなソ連ものの招聘だった。この前後にソ連と協力して日本でバレエ学校をつくる動きがあった。これを手がけたのは林広吉という共産主義者であった。この男は実際に東京バレエ学校」を世田谷に開き、ソ連から指導者を招き、日本のバレエ発展の礎を築く。この書はその立ち上がりの、いままで知られることのなかった経緯を主に新たにアルヒーフにあった資料を繙きながら明らかにすることを根幹に、背景となるソ連におけるバレエ教育の歴史、実際の教育内容、この学校から生まれた作品であったアイヌの民話をテーマにした創作バレエ「マリモ」が作られるまでの過程、また『白鳥の湖』という名作バレエがバレエ学校で指導したロシア人たちの手によって現在のかたちができあがったことなども描き、さらには閉鎖に至った原因などにも迫っていくという、実に骨太な一冊となっている。ひとつのバレエ団の歴史を追いながらこれだけの広い視野の中で、丁寧に分析することによっていままで知られることがなかった東京バレエ学校の全体像が明らかになったといえる。それを可能にしたのはロシア側の一次資料、創業者である林広吉とソ連側の交渉の過程と内容が書かれた文書を解析したことである。私が『虚業成れり』という神彰の評伝を発刊したあと、半谷史郎氏が、ロシア側にあったソ連共産党の資料を駆使し、神彰に対する評価や思惑を明らかにした論文を読んで、こうしたことが可能なのかと思って驚いたものだが、これと同じような手法をとって、いままでまったく知られていなかったバレエ学校設立の裏側にあった事情を初めて知ることになった。さらに設立当初の関係者たちがまだ存命している方も多いということで、数多くのインタビューをしているのも奥行きをだすことになった。
バレエ団の歴史を追うだけでなく、「マリモ」や「白鳥の湖」という具体的な作品がつくる過程をしっかりと押さえたことは、バレエ学校指導のため来日したソ連バレエ団の教師たちの具体的な教育指針やさらには人間像まで明らかにするのに大いに有効だったと思う。おそらく手こずったのだろうなと思わせるのはこの本の主人公である林広吉のことであろう。彼はバレエが好きだったというよりは、共産主義に立脚した運動家であり、60年から70年代にかける共産党陣営の内部闘争などもあり、かなり複雑な軌跡をたどっている。つまりそう簡単な男ではない、東京バレエ団を引き継ぐ佐々木忠次のようにバレエが好きだとか、舞台が好きだというだけなら、追うのもそんなに難しくはないと思うが、この林という男は一筋縄ではいかない。武田泰淳の「上海の蛍」にも出てくるようなくせ者である、自分はとうていそんな力はないが、評伝の対象にしたら実に面白いものができるのではないかと思う。長野、木下尚江、上海での活動がとても重要になるのではないかと思う。そのあたりの彼が何をめざそうとしていたのか、その原点が明らかになると、少しであってもこの巨人に近寄ることができるのではないか思う。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784160089631
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

帰って来た千円札

2020-01-03 10:59:28 | デラシネ日誌
正月恒例の冨岡八幡に初詣。途中道端にくしゃくしゃの千円札を発見。思えば去年横浜パンの家に行く途中千円札を落としたままだった。この千円札はあのときの千円札にちがいない。戻ってきてくれたのだ、ということでいただいておく。
冨岡八幡は早朝ということもあってガラガラ、ゆっくりお参りができた。ついでに金沢七福神のひとつ長昌寺もお参り。箱根駅伝は早稲田が今年も予選落ちかとおもったがなんとか7位入賞。ネットでライブ配信されていた高校ラグビーを見る。どれも実力伯仲見応えのある試合ばかりだったが、第四試合の大阪と京都の闘いは劇的な大阪の逆転トライでけりがついた。
正月に明けに提出する原稿のブラッシュ。大事な原稿になる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カレンダー

2020年1月
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

バックナンバー