学問空間

【お知らせ】teacup掲示板の閉鎖に伴い、リンク切れが大量に生じていますが、順次修正中です。

斎藤幸平『人新世の「資本論」』についてのまとめ

2022-01-11 | 『鈴木ズッキーニ師かく語りき』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2022年 1月11日(火)11時20分31秒

そろそろ資本主義は「宗教」なのか、というコンニャク問答は終わりにしたいと思いますが、仮に資本主義が「宗教」であるとしたら、その神はヤヌスのように、少なくとも二つの顔を持っていますね。
ひとつは豊穣を約束する顔であり、もうひとつは生贄を求める残酷な顔です。
ただ、生贄を求めるのはコミュニズムも同じであり、資本主義が求めた生贄の人数とコミュニズムが求めた生贄の人数を比べたら、まあ、スターリンの大粛清や毛沢東の文化大革命、更にポルポト率いるクメール・ルージュの大虐殺等々の輝かしい歴史を誇るコミュニズムの方が優勢でしょうね。
さて、去年、というか先月の13日に「私も「新しい資本主義」について考えてみた。」という投稿をして以降、主として自称・経済思想家、客観的にはマルクス考古学者の斎藤幸平氏の著書『人新世の「資本論」』を検討してきました。

-------
【「新書大賞2021」受賞作!】
人類の経済活動が地球を破壊する「人新世」=環境危機の時代。
気候変動を放置すれば、この社会は野蛮状態に陥るだろう。
それを阻止するには資本主義の際限なき利潤追求を止めなければならないが、資本主義を捨てた文明に繁栄などありうるのか。
いや、危機の解決策はある。
ヒントは、著者が発掘した晩期マルクスの思想の中に眠っていた。
世界的に注目を浴びる俊英が、豊かな未来社会への道筋を具体的に描きだす!

https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1035-a/

ただ、これはもちろん同書が素晴らしい著作だからではありません。

斎藤幸平氏は「環境スターリン」?(その1)~(その7)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/a4c58d1fc98183db7e5fa73dbcea8237
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/523b1955e38c41d8c25648dfe43baf24
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/4b59cd9fd8deab7f5ecf991e6f726fc1
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/1e191c9b0b8147e060f16b1043387247
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/59f0e77a8582704c5292a1c4d65044fa
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/a3cbcc935bd33a63de22e15036fc061d
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/267ba48217dc75589e4b74151783c65e

斉藤氏がアメリカ出羽守でもドイツ出羽守でもなく、実は日本出羽守であったというのは私にとっても意外な発見でした。
斎藤氏は「Deutscher Memorial Prize(ドイッチャー記念賞)」を受賞したのが自慢のようですが、別にノーベル賞のように賞金がもらえる訳でもなさそうで、数少ないマルクス主義の研究者が仲間内で褒め合い、マルクス主義文献の売り上げに貢献するために作った賞のようです。
要は「マルクス互助会」の宣伝戦略ですね。

マルクスの青い鳥(その1)(その2)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/0538ac45b7dc4a14628bb3f552a56496
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/528e2c3ee75efff95a402193dc3f04b6

さて、そんな斉藤氏がマルクスの正統的な後継者かというと、私は疑問を感じます。
1818年にプロイセンで生まれたマルクスは、1883年にロンドンで客死するまで、自然科学を含め、諸学問の最新の動向に関心を持ち、自身の理論を、その時代において最新の水準に保とうと終生努力した人ですが、斎藤氏にそのような姿勢があるのか。
マルクスが死んでから104年後、1987年に生まれた斎藤氏は、「環境危機」の「解決策」が「晩期マルクスの思想の中に眠っていた」ことを「発掘」したのだそうで、マルクス考古学者としての斎藤氏の努力に対して、私も「ご苦労様」程度の言葉をかけるのにやぶさかではありません。
しかし、二十代という学者として本当に大切な時期を単調な「発掘」作業に従事していた斉藤氏は、その間、様々な学問分野の動向を学ぶ時間はなかったようで、「資本主義の際限なき利潤追求を止め」ると息巻きながら、およそ現代資本主義を理解しているとはいえず、その労働関係についての理解は未だにテーラーシステム段階に留まっているようです。

斎藤幸平氏とテーラーシステム
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/0a1a01e1a421733b0eb0c4ec97d4d944

また、斎藤氏は東大理Ⅱに合格する程度の理系の素養はあったものの、「発掘」作業に従事している間にすっかり時代から取り残され、コロナ禍への製薬業界の対応に窺われる現代資本主義の最先端の動向についてもあまりに鈍感なようです。

斎藤幸平氏とコロナ禍(その1)~(その9)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/f1283ba9fc4698ea8e7de2e3dade9847
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/cb273a064dc23ec48b9984f54b74ab39
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/706107a4e358513ad5187fd3fa8777cc
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/c46bede94acc3da8a4ada4b6dd0c27bb
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/e0c2cf27e30bb37d0ba9de9a5cbb8dd2
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/6fee6795ec9eaa49eb9a7d8c93f5687e
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/9142a5606e0cf2908c8836211c989511
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/a049ac48d21a09b363291210f3226d0f
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/be09ed44f8008b0be44031029df8f65b

投稿の順番は前後しますが、私は筆綾丸さんに紹介された池上彰・佐藤優『激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972』(講談社現代新書、2021)を読んでみて、佐藤氏の、

-------
佐藤 だから共産主義なる理論がどういう理論であって、それはどういう回路で自己絶対化を遂げるのか、そして自己絶対化を克服する原理は共産主義自身の中にはないのだということは、今のリベラルも絶対に知っておかなければいけないことなんです。
 そして私の考えでは、その核心部分は左翼が理性で世の中を組み立てられると思っているところにあります。理想だけでは世の中は動かないし、理屈だけで割り切ることもできない。人間には理屈では割り切れないドロドロした部分が絶対にあるのに、それらをすべて捨象しても社会は構築しうると考えてしまうこと、そしてその不完全さを自覚できないことが左翼の弱さの根本部分だと思うのです。

https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/e7083a71252c81209aa11af3fef15ac3

という見解には感心しました。
核心部分云々は、まさに私が『人新世の「資本論」』を読んでみた感想そのものですね。
斎藤氏は日本どころか世界全体を理性で組み立てようとしていますが、そんなことは全く無理です。
中国もロシアも、イスラム原理主義も存在せず、全人類が地球環境危機に一丸となって立ち向かって行く仮想世界ならば斎藤氏の思考実験も多少の価値はあるでしょうが、その前提が存在しないので、斎藤氏のようにファンタジーを語っても無意味ですね。
斎藤氏は自身が素晴らしい知性だと思っていて、既に「自己絶対化を遂げ」ていることが明らかですが、日本の左翼の歴史をざっと振り返っただけでも、斎藤氏程度の知性は掃いて捨てるほどいます。
斎藤氏レベルの頭の持ち主がそれなりに一生懸命考えた程度のことは、環境危機という要素を除けば、日本の左翼史の中で全てが出尽くしていますね。
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「矢内原忠雄夫人、ならびに... | トップ | 岸田首相とキリスト教の無関係  »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

『鈴木ズッキーニ師かく語りき』」カテゴリの最新記事