大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第102回

2017年08月14日 21時56分39秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shou & Shinoha / Shou~  第102回




川の流れる音が聞こえた。 瞑っていた目を開けると、川べりにシノハが背を丸めて座っているのがすぐに見えた。

「シノハさん、居てくれた」

気配に気づきシノハが振り向く。

「ショウ様!」 立ち上がると少しふらついた。

「シノハさん!」 急いで走り寄り、シノハを支えようと手を出した。

シノハの顔が引きつったが、シノハの身体を見ていた渉はそれに気づいていない。

「ショウ様、大丈夫です」 寸でで渉の手から身を引いた。

「あ・・・」 自分の手を拒まれたような気がして悲し気な顔になる。

「我なら大丈夫です」 シノハを見上げる。

「ショウ様に頼らなければならなくなったら、我は男ではなくなってしまいます」 渉の誤解を解きたいと笑みを送る。

「うん」 悲し気な笑を返す。

「シノハさん・・・どうしたの? 顔がやつれてる」

「え? そうですか?」 頬を触る。

「目も窪んでる」 眉尻を下げてシノハの顔を見る。

「何でもありません。 少し・・・疲れているだけでしょう。 それよりショウ様の方こそお顔が小さくなりましたか?」

「え? それって褒め言葉なんだけど、嬉しく思っていいの?」

「え? そうなのですか? 我はショウ様を心配して言ったのですが・・・」

「褒めてくれたんじゃなかったんだ」

「ショウ様は面白い。 ちゃんと飯を食べていますか?」

「うん・・・」

「嘘をついてはいけません。 食べていませんね。 ちゃんと食べないと」

「シノハさんこそ、そんなに窪んだ目をして。 沢山食べてしっかり体力をつけないから疲れが出ちゃうんだよ」

「そうかもしれませんね。 では、次に逢う時までには・・・あ、それ以降もお互いしっかり食べましょう」

「うん」 渉の口の端が上がった。

「今日も衣が違うのですね。 ショウ様は衣を沢山お持ちだ。 でも、暑くないですか?」 一歩引いて大袈裟に渉の服を見た。

一歩引いたのは、いつ渉と触れてしまうのかを避けたかったからだが、それを悟られないように大袈裟に見た。

「あ、ホントだ。 暑い」 ボタンを外すと前を開けバサバサと扇いだ。

「きっと我も幼子の時、そんな風だったんでしょうね」

「ふふ、もしかしたら私の見ていないところで、こんなことをしていたのかもね」 あの時の小さなシノハが目に浮かぶ。

「駄目だ。 暑い」 上着を脱ぐとその下にまだ分厚いセーターを着ていた。

「なんと。 それではさぞ暑かったでしょう」 シノハから笑いが漏れた。

「シノハさんが笑ってくれると嬉しい」 今度はセーターの胸元を掴んで前へ後ろへ動かすと川べりの涼しい空気を入れた。

「今日もゆっくりと出来ますか?」

「あ・・・それが、もう帰らなくちゃ」 シノハに残念そうな顔が浮かぶ。

「でも、また来られるはず。 上手くいけば今日もう一度来られるかもしれない。 来られないかもしれないけど」

「そうなのですか? 我はいつでもお待ちしております」 シノハの顔が明るくなる。

(奏ちゃんにバレてないはずだもん) 奏和の顔が浮かんだ。

シノハの目に渉の姿が歪んだ。


渉の目の前に磐座が見えた。

「帰ってきちゃった・・・」

(え? ・・・) 
磐座を見た時には渉はいなかった。 それなのに磐座から目を外そうとした時、磐座の前の空気が揺れたように見えた。 目を凝らして見ていると上着を片手に持っている渉の後姿が現れた。
あまりのことに身体が固まった。 だがすぐに足を忍ばせるとその場を去った。

(どういうことだ) 奏和が山の中を足早に歩く。

(今のはなんだったんだ) 分かれ道で山を登り、切り株に腰を下ろした。

朝起きると渉がいなかった。 雅子から境内の掃除をしていると聞いて境内を見回したがどこにも居ない。 まさかと思い、磐座に探しに来たところだった。

「見間違い・・・じゃない。 イリュージョンなんて有り得ない。 ・・・でも」 考えられない。 頭を抱える。

「いったい何がどうなってるんだ」


山を歩く音がした。

「渉・・・」 木々の隙間から渉を見る。

「あの上着・・・間違いない。 渉だ・・・」

「寒っ。 体が冷えてきた」 言うと手に持っていた上着を羽織る。

「何がどうなってるんだ」 今目の前を歩く渉さえ分からなくなってきた。

「待て、俺。 冷静になれ」 両手で顔を覆った。


「ただいまー」 玄関で一度言うと、台所に入った。

「ただいま・・・って、あれ? 小母さん?」 台所には朝食の用意がしてあったが、雅子がいない。

点けられていたストーブに手を当てていると、廊下から雅子が小走りにやって来た。

「あら、渉ちゃんお帰り。 有難う、ご苦労様だったわね。 寒かったでしょ? すぐに温かいお味噌汁を入れるわね」

「小父さんとカケルは?」

「もう帰ってきて朝ごはんを食べたわよ。 今は二人で授与所に居るわ。 あ、奏和に逢わなかった?」

「え? 奏ちゃん?」

「境内の方に行ったはずだけど」 渉の顔から血の気が引いた。

ガラガラ。 玄関を開ける音がした。 

(奏ちゃんだ・・・) 顔が引きつってくる。

奏和が台所に顔を出すと平静を装って話し出した。

「おっ、渉帰ってたのか」

「う、うん」 こちらも平静を装うが、引きつった顔がなかなか完全には戻らない。

「境内の掃除ちゃんとしたか?」

「うん」

「嘘つけ」

「えっ!?」 必要以上に大きな声、十分に疑わしい。 

戻りかけていた顔がまた引きつった。

「ゴミが落ちてたぞ」

「まだそんなに明るくなかったから見落としちゃうわよね。 あら、渉ちゃん顔が真っ青よ。 寒かったんでしょ。 早くお味噌汁飲んで身体を温めて」 ご飯と味噌汁を渉の前に置いた。

「奏和も一緒に食べるでしょ?」

「うん」 言いながら渉の前に座った。

(一緒に食べなくていい) 顔を戻した渉が心で拒否る。

雅子が奏和のご飯と味噌汁を奏和の前に置くと「食べててね」 と言って台所を出た。

「境内の掃除をしてくれてたんだな」 両手の肘をテーブルにつき指を組むと、その手の甲の上に顎を置いた。

「うん」 目が泳ぐ。

「かなり汚れてた?」

「え? そ・・・そんなことない」

「ゴミが落ちてたのに?」

「ごめん。 気付かなかった」

「まぁ、母さんも言ってたもんな。 まだ薄暗かったしな」 組んだ手を解いて箸を手に取った。

「うん」

「境内だけ?」 味噌汁の椀を手にしながら渉の表情を見る。

「えっ!?」 表情を見る必要もないほど声だけで判断がつく。

「なに? そんなに驚いて」

「あ、何でもない」

「で?」  味噌汁の具、豆腐を箸でつまみながら渉に問う。

「え? なに?」

「境内だけ?」 豆腐を口に入れた。

「どうして?」

「手水舎とかは?」 直接的に磐座とか山とかとは聞かない。

「手水舎の仕方は分からないし、境内しかできないから」

「そっか。 じゃ、俺があとでやっとく」

「あ・・・そういう意味だったの・・・」

「なに? 他になにかある?」

「な、何にもない」

(あれは完全に渉だな・・・。 でもどうしてだ・・・) 味噌汁を啜る。

渉がいつまで経っても箸を手にしない。

「渉、食べないのか? 身体も冷えてるだろ。 温かいうちに味噌汁飲めば?」

「あ・・・うん」 食べたくない。 喉が何も受け付けない。 味噌汁をじっと見る。

「おい、見てるだけじゃなくて」 持っていた味噌汁の椀を置いた。

「うん・・・あんまり食べたくない」 

「何言ってんだよ、朝から。 ほら、食べろよ」 おかずが乗った皿を渉に寄せる。

「うん・・・」

「頬が痩せてきてるぞ」

「え?」 シノハとの約束を思い出した。

「あ・・・食べる。 けど・・・」 言うと席を立ち、椀に入っているご飯と味噌汁を半分以上返してから箸を取った。

「ダイエットとかしてんのか? それなら無駄だからやめろ」

「そんなのしてない」

「じゃ、ちゃんと食べろよ」

「朝はあんまり食べたくないから」

(そんなはずないじゃないか。 いっつもガッツリ食べてるくせに。 って、渉の朝飯に付き合ったことはなかったっけ。 でも、夕べもほとんど食べてなかったはずだ。 ・・・頬がこけてきてる・・・。 そのこととさっきのことは関係あるのか?)

「なに?」 箸を止めた渉が奏和に言う。

「え?」

「何をじっと見てくれてるの?」

「え、あ、ちゃんと食べるか見てんじゃないか」

「食べてるよ。 奏ちゃんこそ食べてないじゃない」

「え? あ・・・」 豆腐を一口と、味噌汁を啜っただけで箸が止まっているのに気付いた。

「しっかりと食べないと大きくなれないよ」

「・・・これ以上大きくなってどうすんだよ」 顔を顰めかけたが、いつもの渉らしい台詞に表情が緩んだ。


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