五輪予選観戦に国立競技場を訪れるのは初めてだった。 どうも五輪予選と国立競技場との関係で言いもいでは無い。
初めて見た(テレビだけど)五輪予選は1976年3月のモントリオール予選の韓国戦。開始早々に失点を喫した。ゴールを決めた韓国人選手が膝ま付いて祈りを捧げているのを憶えている。中継していたNHKのアナウンサーは“金慎国のゴール”と言っていたけどずっと後に資料を見てそれが日本を苦しめ続けて来た李栄武だと解った。その後日本は猛攻を掛けるがゴールを割れず後半にも失点し 0-2 で敗れた。その後日本はソウルで韓国と釜本の2ゴールで引き分けたがイスラエルに連敗しあっさりと敗退した。
その後2大会はマレーシア ( モスクワ五輪 ) シンガポール ( ロス五輪 ) 海外で集中開催となり3大会ぶりにホーム&アウェー方式となったソウル五輪予選。引き分けても予選突破が決まるはずだった中国との予選最後戦は雨の中の国立競技場開催となった。開始早々抜け出した手塚がフリーでシュートを放つがGKの正面に飛び。以降は完全に中国ペース。前後半に1点ずつ失い 0-2 で敗れ中国に出場権をさらわれた。 そしてもう日本は永遠に五輪に出られないんじゃないかな…と悲観した。
7月7日ロンドン五輪アジア地区最終予選の組み合せが発表された時に私は4大会連続で組み合せが幸運に恵まれた事を感謝した。1996年3月マレーシアで集中開催されたアトランタ五輪予選を勝ち抜き28年振りの五輪出場権を手に入れて以来日本五輪チームはアジア予選を勝ち抜き続けて来た。しかしシドニー五輪以降の3大会は組分けに恵まれなかったとは絶対に言えなかった。
北京五輪では勝点を1つも取れずに1次リーグで敗退した為にロンドン五輪アジア予選はシードされないはずだった。
だが中国がオマーンに敗れてくれたおかげで日本は繰り上がりでシード権を獲得。しかも強豪のイラク、ウズベキスタン、カタール、サウジアラビアが全て他の組みに振り分けられてくれた。もし中国が最終予選に残っていたら日本は韓国かオーストラリアと同じ組になっていたかもしれない。まぁオーストラリア五輪チーム Olyroos は苦戦しているけど。そして日本がシードを外れていたとしたらシード国は日本が入ってくる事を最も恐れただろうけど。
日本と同組はマレーシア、バーレーン、シリア。 この組みなら勝ち抜ける。またそうでないと本大会で準々決勝には残れないと考えた。マレーシアとシリアはかつて五輪に出場経験があるがマレーシアはもうその力は無く、シリアとて出場したのはモスクワ五輪。
モスクワ五輪には思い出がある。元々この五輪にはアジア・オセアニア地区に3カ国の出場枠が与えられた。しかしオーストラリアは棄権しアジア諸国のみの争いとなった。
2月23日から3月12日まではシンガポールに6カ国(イラン、シンガポール、中国、北朝鮮、インド、スリランカ)が集って第3組の予選大会が行われた。総当たり後上位2カ国のイランとシンガポールが決勝戦を行いイランが 4-0 でシンガポールを降して出場権を得た。 そして3月22日から4月5日迄マレーシアで行われた第3組の予選はマレーシアが韓国、日本を抑えて出場権を獲得し、第1組は開催地、期間は解らないがクウェート、イラク、シリア、ヨルダン、イエメンの5カ国が出場権を競い2年後のワールドカップスペイン大会も出場を決めたクウェートが勝ち抜いた。
しかしアフガン侵攻に反対したアメリカ、日本、西ドイツの西側陣営はモスクワ五輪をボイコット。それに同調する国も少なくなくイラン、マレーシアも五輪をボイコットした。IOCは振り替え出場国として同じ組の2位、3位…の国に出場を打診するも日本を含めた国々は五輪そのものをボイコットあるいは振り替え出場は受けないという事で最終的に第一組の上位3カ国、クウェート、イラク、シリアがモスクワ五輪出場となった。
当時のジミーカーター米国大統領は1980年初めから指定した期日迄にアフガニスタンからソ連軍が撤退しないとモスクワ五輪をボイコットすると言い続けておりソ連軍もさっぱり動く気配が無かったのでアジア地区予選が始まる前からこうなるのでは…とも言われていたのを思い出す…
11月22日。アウェーでバーレーンを破りロンドン五輪にまた一歩近づいたと思った。 次の対戦相手シリアはホームでバーレーンを 3-1で破っているけどイラン、サウジアラビア、イラクに比べたら難しい相手では無い。日本はホームでもあるのでシリアを破って3連勝で最終予選前半戦を…バーレーンよりも苦戦はするけど・・・と胸算用していた。
しかしその胸算用はキックオフ直後に霧散した….
5日前のバーレーン戦では52分にボランチの山本に替って山口蛍が投入され、シリア戦ではその山口蛍がスタメン起用されていた。シリアの方はAFCの公式資料が無かったので解らなかったがベンチスタートの Marder Mardkian は前節マレーシア戦ではスタメンだったらしい。そして唯一手元にあった9月21日のバーレーン戦のメンバーと比べると日本戦もスタメン出場を果たした選手は5人だけでバーレーン戦の登録メンバーの内で日本戦でもベンチ入りした選手はわずか10人だった。
日本のキックオフで始まったこの試合。序盤から攻勢にでるのはアウェーのシリアだった。4分35秒、FKを得ると⑦ Mahammed Fares が入れたFKに⑨FW Nassouh Nakkdahh が酒井のマークを受けながらヘッドで合わせるがポストの右に僅かに外れて行く。もう1人のFW⑩ Omar Al Suma が囮となりDF濱田のマークを引っ張ってスペースを作っていた。
この一連のシーンを見ただけでイメージされる“中東諸国 ” とはちょっと違うなぁと思った。そしてその後もシリアが日本ゴールに迫るシーンが続いた。③ Yaseer Shahen のスローインを受けた Al Suma がシュートに持ち込むが扇原が何とかカバーに戻る。18分にはボランチ⑰ Solaiman Solaiman からのパスを受けた Al Suma がDF⑬鈴木をかわしてシュートを放つが Solaiman のパスもなかなかのもの。その直後にも Al Suma が鈴木、比嘉に囲まれながら出したヒールパスを受けた MF ⑧ Mahmoud Al Mawas がクロスを入れるが飛び込んだNakkdahh に僅かに合わない。19分にも左からのクロスを受けた Al Mawas が比嘉、山口をかわしてシュートを放つが僅かに外れてくれた。
シリアは個人突破のイメージがある湾岸諸国とは違う印象を受ける。全体的にパスできちっと繋いで来てFWの Nakkdahh, Al
Suma だけでなく2列目のAl Mawas, Fares らはなかなかいいパスも出すしシュートも撃ってくる上に “3人目の動き”も見せる。
トップの Al Suma にボールが入ると募る危機感は試合最後まで続いた。
日本は最前線の⑨大迫にボールが入り⑮山田が2列目からトップに上がって来た時に何とかチャンスが生まれる。
12分49秒には大迫のボールキープから⑭大津にパスが入りシュートに持ち込み、25分19秒には今度は大津からボールを受けた
大迫が③ Shahen のマークから上手く外れてミドルを放つがGK Ibrahim Alma がナイスキャッチでストップ。
27分18秒には大迫が左に流れてチャンスを作るがこれも大津とからんだもの。相手の右サイドを執拗に大津と共に突いていたが
相手攻撃陣も攻撃の展開が早いので日本のボランチから後ろの選手の押し上げ、フォローがやや遅かった。
しかしシリア守備陣も日本の早いボール回しに疲れが出て来たせいか前半も終盤になると日本の“3人目の動き”に釣られてマークがずれ始めた。36分17秒にはボランチが攻撃参加し扇原から大津に渡り山口蛍がシュートを放つが ③Shahen が何とかブロック。ここも攻撃に絡んだ扇原、大津、山口蛍が上手く相手DFを引っ張る動きを見せた為に生まれたチャンスだった。
そして前半はこのまま 0-0 で終わるかと思われた44分30秒、CKのチャンスを得た日本はCKから扇原の折り返しにCB濱田が
相手CB ② Ahmed Al Salih と競りながらヘッドをシリアゴールに突き刺し日本に先制ゴールを齎した。
バーレーン戦に続いて前半終了間際の先制ゴールであった。 貴重なヘッドを決めた濱田は浦和REDSのCB. 2010年シーズンの
最終戦、神戸戦ではスタメン出場だったが失点に繋がるミスをするなどし途中でベンチに下がったが今年は奮起し今では
Socceroos の Spiranovich に替ってCBのポジションを奪っていると息子に教えてもらった。この五輪予選でもレギュラーだ。
日本リードで前半を終えたがシリアの攻撃を見ると先に次のゴールが欲しいと思った。
シリアキックオフで始まった後半開始早々、にはボランチの ⑫ Mohamed Al Omari が山田のマークを振り切り ⑩ Al Suma に
送ると鈴木と競りながらシュートを撃たれる。最後は濱田の脚に当たってGK権田に渡ったが濱田の脚に当たらねばゴールインした
かもしれなかった。
後半は2列目の ⑦ Mahammed Fares が前線に入り3トップ気味になりDFラインも高い位置に上がって来た。
それでも55分を過ぎると再び日本も攻勢に転じる時間が出てきて両者“撃ちあい”が続いた。50分には山田の強烈なミドルが
飛び55分には大迫がドリブル突破でシリアゴールに迫り倒されるがノーホイッスル。 PKを貰っても良いシーンだった。
69分8には⑧ Al Mawas が Al Omari のクロスを受けてミドルを放つが権田が右に倒れてナイスセーブ。 65分46秒には
⑦ Fares が入れたクロスがフリーの ⑩ Al Suma に渡る寸前に権田がキャッチ。
69分40秒リードされているシリアが先に動きボランチの ⑰ Solaiman を下げて⑥ Hamid Mido を入れる。その直後に日本にビッ
グチャンスが訪れた。大津が相手のパスをカットし大迫に送ると③ Shahen ⑤ Mohamed Daas をかわしてシュートを放つがGK
Alama が弾く。そのこぼれ球を東が放つがそれが山田に当たってしまいゴールは決まらなかった。絶好のチャンスだった。
このすぐ後にFW永井がベンチに呼ばれた。 誰と交替するのだろう… と思っているとシリアに同点ゴールを決められた。
中盤から前線に出たボールは一旦クリアーされるもそのクリアーボールが⑩ Al Suma の脚に当たり更に濱田の脚に当たって再び⑩ Al Suma のところに戻ってくるとそのままドルブル突破を許し⑬鈴木がマークに入る前に撃たれたシュートはグラウンダーでそのまま日本ゴールに“入ってしまった”。 クリアーボールがピンボールの様に選手達の脚に当たり最後は Al Suma のドリブルの位置にこぼれると言う幸運もあったがここは中東選手らしいドリブルシュートを決められた。
国立競技場は一瞬にして静寂に包まれ僅かに数人のシリア人の歓声が聞こえる。目を移すとアウェーサポーターゾーンには彼ら
数人しかおらず、別に代表のレプリカを着るわけでも無く騒ぐでもなかったのでロケーションも悪くないのでこちらでゆっくりと観戦しても良かったなぁと思った。試合前にこちらから争う声も聞こえた。そこに日本人が乱入でもしたのかと思ったけど後で国内情勢の不安の影響で現体制下の国旗と新体制を目指す国旗のどちらを掲げるかでもめていたらしい。改めて平和の有難さを感じた。
同点にされた日本は⑨大迫を下げて⑪永井を投入した。 あぁ大迫を下げるのか…と思った。引分けでは次のアウェーでのシリア
戦に得失点差から見ても勝たねばならなくなる。FWを増やした方がいいのでは..と思ったけどベンチの方は何か考えがあったのだろ
う。同点ゴールを決めた ⑩Al Suma はその直後にもDFのマークを引きずる様にシュートを放つ。その弾道に肝を冷やした。
そして80分15秒にはMF ⑦ Fares を下げて⑪FW Mardek Mardkian を投入し ⑩ Al Suma と2トップを組んだ。 Mardkian
は注意すべきFWであったがここでMFかDFを入れて守りに入られる方が嫌であった。
シリアベンチは何故アウェーなのにこの試合勝に来たのだろう…
81分に山田を下げて⑦山崎を入れて2列目左サイドに置く。⑩東が真ん中に入り⑭大津が左から右に回って来た。
この選手交替と言うよりもポジションチェンジが決勝ゴールを導く。84分酒井から大きく出されたロングパスは山崎の頭上を越えて逆サイドの比嘉に渡る。比嘉は胸でワントラップし ③Shahen をかわして前線にドリブルで上がり⑫ Al Omari がマークに入る前に再び逆サイドの左に大きくボールを出すとそこに走り込んだ大津がスロービデオを見る様にダイビングヘッドを決めた。
大歓声が国立競技場を包む。GK Alma が⑨ Nakkadahh に何故大津が走り込むのに気付かなかったんだ、てな様相を向ける。
大津のバーレーン戦に続く見事な2試合連続ゴールは貴重な決勝ゴールとなった。この2連戦MVP級の活躍を見せた大津はこ
の五輪予選に参加できること自体が所属先のBorussia Mönchengladbachではさっぱり出場機会に恵まれていないと言う事なので
あるが、日本の為にはこの五輪予選では大活躍をしてくれた。
この試合後ドイツの顧客には“Mönchengladbachには是非大津を起用せずどんどん五輪予選に派遣してくれ。そうすれば来年の
シーズン前にはかれはもっといいクラブに移籍して行くだろう。“と電話で話した。
しかし彼はMönchengladbachのサポーターでもなければ五輪サッカーにもさっぱり興味が無いので何も反応は無かった….
追加点を決められたシリアは一気に前掛かりになる。終了直前には嫌な位置でFKを献上するがFKのスペシャリスト Mohammed
Fares は既にベンチに下がってくれているのでそれほどのピンチにはならなかった。
そしてオーストラリア人の Green Peter Daniel 主審の試合終了のホイッスルが鳴り響き。辛勝ではあったが日本がロンドン五輪に一歩近づいた。 これで次のアウェーでのシリア戦には引き分ける事が出来ると思った。もっとも国内情勢不安定のシリアはホームゲームもシリア国外で行わねばならないけど…
国立競技場での五輪予選の翌日、外電はアラブ連盟のシリアへの経済制裁を決議したと伝えた。
その数日後、英国紙では今年の3月からこの9ヶ月間の国内情勢下での死者は5,000人にも登るとも伝えられた。
今でも Assad 現大統領を支持する人達と新体制を望む人達との争いそして軍隊からの弾圧は絶えないと伝えられている。
それでもこの日のシリアの戦いぶりには非常に好感を持った。2位通過して最後はプレーオフを勝ち抜いてロンドン五輪出場を決めて欲しいと願った。最も次の日本戦には勝ってほしくないけど…..
そして国立競技場からは驚くほどスムーズに帰れて早く家に着いた.....
初めて見た(テレビだけど)五輪予選は1976年3月のモントリオール予選の韓国戦。開始早々に失点を喫した。ゴールを決めた韓国人選手が膝ま付いて祈りを捧げているのを憶えている。中継していたNHKのアナウンサーは“金慎国のゴール”と言っていたけどずっと後に資料を見てそれが日本を苦しめ続けて来た李栄武だと解った。その後日本は猛攻を掛けるがゴールを割れず後半にも失点し 0-2 で敗れた。その後日本はソウルで韓国と釜本の2ゴールで引き分けたがイスラエルに連敗しあっさりと敗退した。
その後2大会はマレーシア ( モスクワ五輪 ) シンガポール ( ロス五輪 ) 海外で集中開催となり3大会ぶりにホーム&アウェー方式となったソウル五輪予選。引き分けても予選突破が決まるはずだった中国との予選最後戦は雨の中の国立競技場開催となった。開始早々抜け出した手塚がフリーでシュートを放つがGKの正面に飛び。以降は完全に中国ペース。前後半に1点ずつ失い 0-2 で敗れ中国に出場権をさらわれた。 そしてもう日本は永遠に五輪に出られないんじゃないかな…と悲観した。
7月7日ロンドン五輪アジア地区最終予選の組み合せが発表された時に私は4大会連続で組み合せが幸運に恵まれた事を感謝した。1996年3月マレーシアで集中開催されたアトランタ五輪予選を勝ち抜き28年振りの五輪出場権を手に入れて以来日本五輪チームはアジア予選を勝ち抜き続けて来た。しかしシドニー五輪以降の3大会は組分けに恵まれなかったとは絶対に言えなかった。
北京五輪では勝点を1つも取れずに1次リーグで敗退した為にロンドン五輪アジア予選はシードされないはずだった。
だが中国がオマーンに敗れてくれたおかげで日本は繰り上がりでシード権を獲得。しかも強豪のイラク、ウズベキスタン、カタール、サウジアラビアが全て他の組みに振り分けられてくれた。もし中国が最終予選に残っていたら日本は韓国かオーストラリアと同じ組になっていたかもしれない。まぁオーストラリア五輪チーム Olyroos は苦戦しているけど。そして日本がシードを外れていたとしたらシード国は日本が入ってくる事を最も恐れただろうけど。
日本と同組はマレーシア、バーレーン、シリア。 この組みなら勝ち抜ける。またそうでないと本大会で準々決勝には残れないと考えた。マレーシアとシリアはかつて五輪に出場経験があるがマレーシアはもうその力は無く、シリアとて出場したのはモスクワ五輪。
モスクワ五輪には思い出がある。元々この五輪にはアジア・オセアニア地区に3カ国の出場枠が与えられた。しかしオーストラリアは棄権しアジア諸国のみの争いとなった。
2月23日から3月12日まではシンガポールに6カ国(イラン、シンガポール、中国、北朝鮮、インド、スリランカ)が集って第3組の予選大会が行われた。総当たり後上位2カ国のイランとシンガポールが決勝戦を行いイランが 4-0 でシンガポールを降して出場権を得た。 そして3月22日から4月5日迄マレーシアで行われた第3組の予選はマレーシアが韓国、日本を抑えて出場権を獲得し、第1組は開催地、期間は解らないがクウェート、イラク、シリア、ヨルダン、イエメンの5カ国が出場権を競い2年後のワールドカップスペイン大会も出場を決めたクウェートが勝ち抜いた。
しかしアフガン侵攻に反対したアメリカ、日本、西ドイツの西側陣営はモスクワ五輪をボイコット。それに同調する国も少なくなくイラン、マレーシアも五輪をボイコットした。IOCは振り替え出場国として同じ組の2位、3位…の国に出場を打診するも日本を含めた国々は五輪そのものをボイコットあるいは振り替え出場は受けないという事で最終的に第一組の上位3カ国、クウェート、イラク、シリアがモスクワ五輪出場となった。
当時のジミーカーター米国大統領は1980年初めから指定した期日迄にアフガニスタンからソ連軍が撤退しないとモスクワ五輪をボイコットすると言い続けておりソ連軍もさっぱり動く気配が無かったのでアジア地区予選が始まる前からこうなるのでは…とも言われていたのを思い出す…
11月22日。アウェーでバーレーンを破りロンドン五輪にまた一歩近づいたと思った。 次の対戦相手シリアはホームでバーレーンを 3-1で破っているけどイラン、サウジアラビア、イラクに比べたら難しい相手では無い。日本はホームでもあるのでシリアを破って3連勝で最終予選前半戦を…バーレーンよりも苦戦はするけど・・・と胸算用していた。
しかしその胸算用はキックオフ直後に霧散した….
5日前のバーレーン戦では52分にボランチの山本に替って山口蛍が投入され、シリア戦ではその山口蛍がスタメン起用されていた。シリアの方はAFCの公式資料が無かったので解らなかったがベンチスタートの Marder Mardkian は前節マレーシア戦ではスタメンだったらしい。そして唯一手元にあった9月21日のバーレーン戦のメンバーと比べると日本戦もスタメン出場を果たした選手は5人だけでバーレーン戦の登録メンバーの内で日本戦でもベンチ入りした選手はわずか10人だった。
日本のキックオフで始まったこの試合。序盤から攻勢にでるのはアウェーのシリアだった。4分35秒、FKを得ると⑦ Mahammed Fares が入れたFKに⑨FW Nassouh Nakkdahh が酒井のマークを受けながらヘッドで合わせるがポストの右に僅かに外れて行く。もう1人のFW⑩ Omar Al Suma が囮となりDF濱田のマークを引っ張ってスペースを作っていた。
この一連のシーンを見ただけでイメージされる“中東諸国 ” とはちょっと違うなぁと思った。そしてその後もシリアが日本ゴールに迫るシーンが続いた。③ Yaseer Shahen のスローインを受けた Al Suma がシュートに持ち込むが扇原が何とかカバーに戻る。18分にはボランチ⑰ Solaiman Solaiman からのパスを受けた Al Suma がDF⑬鈴木をかわしてシュートを放つが Solaiman のパスもなかなかのもの。その直後にも Al Suma が鈴木、比嘉に囲まれながら出したヒールパスを受けた MF ⑧ Mahmoud Al Mawas がクロスを入れるが飛び込んだNakkdahh に僅かに合わない。19分にも左からのクロスを受けた Al Mawas が比嘉、山口をかわしてシュートを放つが僅かに外れてくれた。
シリアは個人突破のイメージがある湾岸諸国とは違う印象を受ける。全体的にパスできちっと繋いで来てFWの Nakkdahh, Al
Suma だけでなく2列目のAl Mawas, Fares らはなかなかいいパスも出すしシュートも撃ってくる上に “3人目の動き”も見せる。
トップの Al Suma にボールが入ると募る危機感は試合最後まで続いた。
日本は最前線の⑨大迫にボールが入り⑮山田が2列目からトップに上がって来た時に何とかチャンスが生まれる。
12分49秒には大迫のボールキープから⑭大津にパスが入りシュートに持ち込み、25分19秒には今度は大津からボールを受けた
大迫が③ Shahen のマークから上手く外れてミドルを放つがGK Ibrahim Alma がナイスキャッチでストップ。
27分18秒には大迫が左に流れてチャンスを作るがこれも大津とからんだもの。相手の右サイドを執拗に大津と共に突いていたが
相手攻撃陣も攻撃の展開が早いので日本のボランチから後ろの選手の押し上げ、フォローがやや遅かった。
しかしシリア守備陣も日本の早いボール回しに疲れが出て来たせいか前半も終盤になると日本の“3人目の動き”に釣られてマークがずれ始めた。36分17秒にはボランチが攻撃参加し扇原から大津に渡り山口蛍がシュートを放つが ③Shahen が何とかブロック。ここも攻撃に絡んだ扇原、大津、山口蛍が上手く相手DFを引っ張る動きを見せた為に生まれたチャンスだった。
そして前半はこのまま 0-0 で終わるかと思われた44分30秒、CKのチャンスを得た日本はCKから扇原の折り返しにCB濱田が
相手CB ② Ahmed Al Salih と競りながらヘッドをシリアゴールに突き刺し日本に先制ゴールを齎した。
バーレーン戦に続いて前半終了間際の先制ゴールであった。 貴重なヘッドを決めた濱田は浦和REDSのCB. 2010年シーズンの
最終戦、神戸戦ではスタメン出場だったが失点に繋がるミスをするなどし途中でベンチに下がったが今年は奮起し今では
Socceroos の Spiranovich に替ってCBのポジションを奪っていると息子に教えてもらった。この五輪予選でもレギュラーだ。
日本リードで前半を終えたがシリアの攻撃を見ると先に次のゴールが欲しいと思った。
シリアキックオフで始まった後半開始早々、にはボランチの ⑫ Mohamed Al Omari が山田のマークを振り切り ⑩ Al Suma に
送ると鈴木と競りながらシュートを撃たれる。最後は濱田の脚に当たってGK権田に渡ったが濱田の脚に当たらねばゴールインした
かもしれなかった。
後半は2列目の ⑦ Mahammed Fares が前線に入り3トップ気味になりDFラインも高い位置に上がって来た。
それでも55分を過ぎると再び日本も攻勢に転じる時間が出てきて両者“撃ちあい”が続いた。50分には山田の強烈なミドルが
飛び55分には大迫がドリブル突破でシリアゴールに迫り倒されるがノーホイッスル。 PKを貰っても良いシーンだった。
69分8には⑧ Al Mawas が Al Omari のクロスを受けてミドルを放つが権田が右に倒れてナイスセーブ。 65分46秒には
⑦ Fares が入れたクロスがフリーの ⑩ Al Suma に渡る寸前に権田がキャッチ。
69分40秒リードされているシリアが先に動きボランチの ⑰ Solaiman を下げて⑥ Hamid Mido を入れる。その直後に日本にビッ
グチャンスが訪れた。大津が相手のパスをカットし大迫に送ると③ Shahen ⑤ Mohamed Daas をかわしてシュートを放つがGK
Alama が弾く。そのこぼれ球を東が放つがそれが山田に当たってしまいゴールは決まらなかった。絶好のチャンスだった。
このすぐ後にFW永井がベンチに呼ばれた。 誰と交替するのだろう… と思っているとシリアに同点ゴールを決められた。
中盤から前線に出たボールは一旦クリアーされるもそのクリアーボールが⑩ Al Suma の脚に当たり更に濱田の脚に当たって再び⑩ Al Suma のところに戻ってくるとそのままドルブル突破を許し⑬鈴木がマークに入る前に撃たれたシュートはグラウンダーでそのまま日本ゴールに“入ってしまった”。 クリアーボールがピンボールの様に選手達の脚に当たり最後は Al Suma のドリブルの位置にこぼれると言う幸運もあったがここは中東選手らしいドリブルシュートを決められた。
国立競技場は一瞬にして静寂に包まれ僅かに数人のシリア人の歓声が聞こえる。目を移すとアウェーサポーターゾーンには彼ら
数人しかおらず、別に代表のレプリカを着るわけでも無く騒ぐでもなかったのでロケーションも悪くないのでこちらでゆっくりと観戦しても良かったなぁと思った。試合前にこちらから争う声も聞こえた。そこに日本人が乱入でもしたのかと思ったけど後で国内情勢の不安の影響で現体制下の国旗と新体制を目指す国旗のどちらを掲げるかでもめていたらしい。改めて平和の有難さを感じた。
同点にされた日本は⑨大迫を下げて⑪永井を投入した。 あぁ大迫を下げるのか…と思った。引分けでは次のアウェーでのシリア
戦に得失点差から見ても勝たねばならなくなる。FWを増やした方がいいのでは..と思ったけどベンチの方は何か考えがあったのだろ
う。同点ゴールを決めた ⑩Al Suma はその直後にもDFのマークを引きずる様にシュートを放つ。その弾道に肝を冷やした。
そして80分15秒にはMF ⑦ Fares を下げて⑪FW Mardek Mardkian を投入し ⑩ Al Suma と2トップを組んだ。 Mardkian
は注意すべきFWであったがここでMFかDFを入れて守りに入られる方が嫌であった。
シリアベンチは何故アウェーなのにこの試合勝に来たのだろう…
81分に山田を下げて⑦山崎を入れて2列目左サイドに置く。⑩東が真ん中に入り⑭大津が左から右に回って来た。
この選手交替と言うよりもポジションチェンジが決勝ゴールを導く。84分酒井から大きく出されたロングパスは山崎の頭上を越えて逆サイドの比嘉に渡る。比嘉は胸でワントラップし ③Shahen をかわして前線にドリブルで上がり⑫ Al Omari がマークに入る前に再び逆サイドの左に大きくボールを出すとそこに走り込んだ大津がスロービデオを見る様にダイビングヘッドを決めた。
大歓声が国立競技場を包む。GK Alma が⑨ Nakkadahh に何故大津が走り込むのに気付かなかったんだ、てな様相を向ける。
大津のバーレーン戦に続く見事な2試合連続ゴールは貴重な決勝ゴールとなった。この2連戦MVP級の活躍を見せた大津はこ
の五輪予選に参加できること自体が所属先のBorussia Mönchengladbachではさっぱり出場機会に恵まれていないと言う事なので
あるが、日本の為にはこの五輪予選では大活躍をしてくれた。
この試合後ドイツの顧客には“Mönchengladbachには是非大津を起用せずどんどん五輪予選に派遣してくれ。そうすれば来年の
シーズン前にはかれはもっといいクラブに移籍して行くだろう。“と電話で話した。
しかし彼はMönchengladbachのサポーターでもなければ五輪サッカーにもさっぱり興味が無いので何も反応は無かった….
追加点を決められたシリアは一気に前掛かりになる。終了直前には嫌な位置でFKを献上するがFKのスペシャリスト Mohammed
Fares は既にベンチに下がってくれているのでそれほどのピンチにはならなかった。
そしてオーストラリア人の Green Peter Daniel 主審の試合終了のホイッスルが鳴り響き。辛勝ではあったが日本がロンドン五輪に一歩近づいた。 これで次のアウェーでのシリア戦には引き分ける事が出来ると思った。もっとも国内情勢不安定のシリアはホームゲームもシリア国外で行わねばならないけど…
国立競技場での五輪予選の翌日、外電はアラブ連盟のシリアへの経済制裁を決議したと伝えた。
その数日後、英国紙では今年の3月からこの9ヶ月間の国内情勢下での死者は5,000人にも登るとも伝えられた。
今でも Assad 現大統領を支持する人達と新体制を望む人達との争いそして軍隊からの弾圧は絶えないと伝えられている。
それでもこの日のシリアの戦いぶりには非常に好感を持った。2位通過して最後はプレーオフを勝ち抜いてロンドン五輪出場を決めて欲しいと願った。最も次の日本戦には勝ってほしくないけど…..
そして国立競技場からは驚くほどスムーズに帰れて早く家に着いた.....