新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』-4


  一人になって憂いに沈む王子の前にリラの精が現れます。リラの精と王子との対話もすべてクラシック・マイムで行われました。嬉しいことです。イーグリング、ありがとう。

  それから眠るオーロラ姫の幻影が現れ、心奪われた王子はオーロラ姫と踊ります。イーグリングは、オーロラ姫の幻影と王子が踊るなんて非現実的な設定なので演出を修正した、っぽいことを述べていましたが、すみません、私にはどこをどう直したのか分かりませんでした。他の『眠れる森の美女』と変わらない演出に見えました。

  ここはリラの精と妖精たちを挟んで、オーロラ姫(の幻影?)と王子が踊ります。妖精たちの衣装が衝撃的でした。明るい緑のチュチュで、スカート部分がデカい葉っぱの重層構造になっていました。頭にも同じ緑色の葉っぱをかぶってたような?クリスマス・ケーキの上によく載っている、飾り物のあの葉っぱにそっくりです。まー、クリスマスが近いといえば近いからねえ。イギリスでは、11月はもうクリスマス・シーズンだしね。

  この超明るい緑の葉っぱのチュチュ軍団が、くすんだ灰色の地味で暗い舞台の上で目立つ目立つ。端的にいえば、色的に合ってないっちゅ~ことですが。葉っぱ軍団の衣装が浮きまくりになることは、衣裳デザインのトゥール・ヴァン・シャイクは当然分かっていたはずなので、よく分かりませんけど何かしらの意図があるんでしょう。分かったところで理解不可能な意図でしょうが。

  オーロラ姫の米沢唯さんの衣装は、うすいみずいろにぴんくやあおのちっちゃいおはなのもようがたくさんついたかわい~のでした。まるでガキが着るパジャマ柄。米沢さんが気の毒すぎる。ヴァン・シャイク、ロリコン決定。

  衣装の衝撃度の大きさのせいで、米沢さんとムンタギロフの踊りがどうだったのか、ほとんど覚えてません。でも、普通に良かったのだろうと思います。ひどければ記憶に残るはずなので。

  リラの精が王子をともない、眠るオーロラ姫の許へと案内します。リラの精と王子が乗り込む銀色の白鳥のゴンドラが登場。これが非常に大型で重厚な造りのゴンドラでした。

  これが動くわけですが、私は最初、これはよくある片面張りぼての装置で、舞台の奥を人力でまっすぐに横切るだけだろうと思っていました。ところがびっくり、ゴンドラは舞台上をぐる~り、とゆっくりS字走行したじゃありませんか!

  このゴンドラは片面張りぼてではなく、両面造り、つまり完全に舟の形をしている、遠隔操作で動く機械装置だったのです。英国ロイヤル・バレエ団が現在使用しているゴンドラと基本的に同じものです。一場面でしか使わない装置なんぞにカネかけんな、と言いたいところですが、正直言って感心してしまいました。装置のゴージャスさも大事なんですね。

  特に、リラの精と王子が旅するこのシーンはかなり長く、その間に踊りは設けられていません。ですから、どうしてもゴンドラや移り変わる周囲の風景といった舞台装置が「見どころ」になるわけです。

  デヴィッド・ビントリーが舞台装置によるエンタテイメント性を重視していることは、『美女と野獣』、『アラジン』、『パゴダの王子』などで明らかなわけですが、同じイギリスのバレエ界で活動してきたウェイン・イーグリングも、バレエといえど装置も舞台を構成する重要な要素、と考えていることが分かります。このあたりは、ロシア系のバレエ団、ボリショイやマリインスキーでさえも、舞台装置をさほど重視していないらしいこととは対照的です。

  王子がオーロラ姫の眠る城にたどり着き、リラの精とともにカラボス率いるコウモリ軍団と戦います。リラの精とカラボスとの直接対決で、リラの精が劣勢になったりしていたのが面白いと思いました。でも、そこでたとえば王子の愛の力とかでカラボスをはねのけるとか、演出にもうひと工夫ほしかったところです。王子もカラボスにはかなわなかったみたいなのに、結局、勝敗はどうなったのかが曖昧なまま、カラボスとコウモリ軍団は退いてしまいました。

  オーロラ姫の様子を見た王子が「彼女は眠っています、どうしたらよいのですか!?」とリラの精に助けを求めるマイム、リラの精が「自分でよくお考えなさい」と諭すマイム、王子がしばらく考えた後に「口づけをすればいいんですね!」と思いつくマイム、これらもちゃんと残してありました。ここまではありがとう、イーグリング。

  でも、こっからまた不満です。王子がオーロラ姫にキスして、オーロラ姫が目覚める「目覚めの音楽」が削除されていました。あの明るい音楽のおかげで、観ている側も気分が晴れやかになるといいますか、強い開放感を抱くわけです。ところが、あの音楽がないおかげで、私はフラストレーションを感じました。公演によっては、この音楽による目覚めの場面で、観客の間から拍手が起こったりするのですから、やはりこの目覚めの音楽は大事だと思います。それを削除したのはいかがなものかと。

  目覚めの音楽の代わりに始まったのが、今ではほとんど演奏されない『眠れる森の美女』間奏曲。長いヴァイオリンのソロがあるあれね。あの間奏曲に合わせて、王子とオーロラ姫が踊り始めました。「目覚めのパ・ド・ドゥ」(注:勝手に命名)らしいです。オーロラ姫はチュニック・タイプの白いネグリジェを着ています。

  オーロラ姫の衣装が白いチュニック・ドレスだったせいで、余計にそう見えたのかもしれませんが、このパ・ド・ドゥは、ケネス・マクミラン版『ロミオとジュリエット』の「バルコニーのパ・ド・ドゥ」にそっくりでした。気のせいではなく、イーグリングの振付も明らかにケネス・マクミランの影響を強く受けていると思います。

  イーグリングの振付による、この余計なパ・ド・ドゥのおかげで気づくことができました。『眠れる森の美女』の振付は、全体として形がかっちりと決まっているのです。踊りが同じ様式で統一されているのです。形や様式の異なる振付を一部に混ぜてしまうだけで、全体の形と統一感が崩れるのです。だから改訂振付や追加振付をする人々は、原型を壊さないよう、似たような動きの無難な振付にとどめるか、さもなければ原型をあえて壊して、まったく新しい振付を試みる(マリシア・ハイデ版、スタントン・ウェルチ版など)しかないのでしょう。

  イーグリングが新しく振り付けたこのパ・ド・ドゥは、マクミラン版『ロミオとジュリエット』の「バルコニーのパ・ド・ドゥ」を想起させるだけで、振付の上で見るべきものは何もないように感じました。演出の上でも特に必要な場面とは思えません。したがって、新演出としても、また追加振付としても大きな失敗だと思います。

  (その5に続く。今度こそ次で終わります。)

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本日のアダム・クーパー3


  本日最終日でした。本当に当日券が売り切れだと貼り出してあったので驚きました。立ち見券も出ているという話でしたが、どこに立ち見席があるのかは分かりませんでした。

  キャストたちは全員が超リラックスしているようでした。楽日名物のおふざけやお遊びもありました。でももちろん度を越すものではありませんでした。振付を即興で変えて踊ったり、演技をほんのちょっと変えたり、アドリブでセリフを追加したりなど。

  ああ、みな楽しんでるな、と思い、観ている側も楽しくなってしまいました。

  アダム・クーパーの踊りは、今日は体力をセーブせずに大盤振る舞いでした。ピルエットの回転数も普段より2回は多かった気がします。

  第一幕最後の「雨に唄えば」では、降りしきる雨と床にたまった水の中で、いつまでもぐるぐる回っていました。その姿に、客席から一斉にため息が漏れました。

  第二幕の「ブロードウェイ・メロディ」の最後でもぐるぐる回り続けているので、へー、こんなに回れる人だったのか、やればできるんじゃん、と感心しました(←ごめんね)。

  やっと踊りがキレキレになってきたのに、もう終わりなのは残念です。

  コズモ役のステファン・アネッリも今日はやりたい放題で、"Make'em Laugh"ではクーパーが思わず「はっはっは~!」と声を立てて笑ってしまったほどでした。"Moses Supposes"では、アネッリが発声教師の陰からアドリブで頻繁にギャグを入れてくるので、クーパーは笑いをこらえるのに必死なようでした。

  そういえば、今日の発声教師役はいつものルーク・ダウリングではありませんでした。こんなことを書いて申し訳ないですが、滑舌がダウリングほど良くありませんでした。それで「チェダーチーズがチェスナットでうんたら」の早口言葉もちょっと不明瞭でした。でもそのかわりに超早口で一息に発音してみせ、観客の拍手を引き出すことに成功しました。

  第一幕の「グッド・モーニング」が終わると、例によって万雷の拍手と大喝采。キャシー役のエイミー・エレン・リチャードソンが仰向けに横たわったまま、両手で顔を覆いました。泣きそうになってしまったのでしょう。アネッリも横たわったまま腕だけを上げ、観客の拍手と喝采に応じました。

  休憩時間には、スタッフが総出で水のふき取り作業です。最後に2人のスタッフだけが残るのですが、これはどうもイギリス側のリーダーと日本側のリーダーのようです。作業が終わると、二人はがっちりと握手をし、イギリス側のリーダーが日本側のリーダーの腕をぽんぽんと叩きました。それを見ていた観客の間から大きな拍手が湧き起こりました。イギリス側のリーダーはハンチング帽を手で上げて会釈をし、親指をぐっと立てて嬉しそうにほほ笑みました。

  最後のシーン、キャシーはリナの吹き替えをしていたことが明らかになっていたたまれなくなり、舞台から下りて駆け去ろうとします。それをドンが呼び止め、観客に向かって「みなさん、その女性を止めて下さい!彼女こそが真のスターなんです!キャシー・セルドン!」と叫びます。観客が拍手します。その拍手が今日はいつにもまして大きく、リチャードソンはまたしても泣き出しそうな表情になっていました。

  カーテン・コールは、今日はすぐに総スタンディング・オベーションになりました。最終日とあって、何度も行われました。観客の拍手が止まなかったせいもあります。最近よくある、主催者側による「無理やりスタオベ」ではありません。みなが熱狂的な拍手を送っています。

  カーテン・コールがくり返されるたびに、拍手は逆に大きくなっていきます。私も、まだ終わらせてなるものか、と必死に拍手しました。隣の男性客たちも「ヒュー!」と何度も叫んでいます。

  シンプソン社長役のマックスウェル・コールフィールドは渋くニヤリと笑い、キャシー役のリチャードソンはついに手で両眼の涙をぬぐいました。リナ役のオリヴィア・ファインズも手で涙をぬぐっていました。

  途中で、バチン!という音とともに、お祝いの金色のテープが客席に大量に舞いました(記念に1本持って帰りました)。

  いつもはクーパー、アネッリ、リチャードソンの三人だけがカーテン・コールの最後に残るのですが、今日はキャストたちが全員舞台上に残りました。そして、いつものように観客に水をぶっかけると、次にはなんとキャスト全員が互いに水のぶっかけ合いを始めました。主役、脇役、アンサンブルの関係なくです。

  アダム・クーパー(43歳、妻子あり)は主にアネッリと水をぶっかけ合っていました。しまいには水の中に大の字になって寝っ転がるキャストも出る始末(笑)。ガキのように水かけ合戦をやっているキャストたちの様子に、観客は大爆笑でした。

  最後にアダム・クーパーだけが残り、客席に手を振りながら舞台奥の扉へと向かいました。いつもは扉は開けっぱなしなのですが、今日は扉が閉められました。クーパーは両側からゆっくりと閉まっていく扉の陰に立ち止まって、扉が閉まるまで観客に手を振り続けていました。やがて扉は完全に閉まり、『雨に唄えば』日本公演が終わりました。

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新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』-3


  オーロラ姫に求愛する4人の王子は井澤駿さん、田中俊太朗さん、池田武志さん、清水裕三郎さん。4人の王子の衣裳はセンス良かったです。全員が白地に金糸の刺繍というのを基調にした衣装なのですが、デザインがそれぞれ違うので、異なる国からやって来たのだと分かります。

  ターバンのようなデザインの帽子をかぶっている王子はアジア(インド?)から、チェック柄の布を肩からかけている王子はスコットランド(?)から、マントをかけ、ブーツを履いている王子は東欧かロシアから、裾長のロココ調の上衣を着ているのはおそらく西欧(フランス?)から、といった具合。

  ローズ・アダージョでの米沢唯さんは立派でした。アティチュードで上げた脚がまったく下がりません。どうしても脚が徐々に落ちていってしまうバレリーナが多いのに。バランス・キープの力はそれほど強くはないようでしたが、身体の軸が非常にしっかりしており、ポーズをあれほどしっかりと保ち続けていたのはすごいと思います。

  ロシアのバレリーナでも、ローズ・アダージョをあれほどしっかり踊れる人は多くないのでは?

  イギリス系のローズ・アダージョの振付は、ロシア系とは異なる部分があります。オーロラ姫がアラベスク→パンシェを3回か4回くり返すところです。イギリス系では、オーロラ姫は自力でこれをやります。一方ロシア系では、オーロラ姫は4人の王子あるいはお付きの者たちの肩に手をかけ、それを支えにしてやります。

  今回は、オーロラ姫が友人たち(?)の女性ダンサーたちの肩に手をかけながらやりました。ロシア系と同じ振付です。無理してバランスを崩すくらいなら、難度のハードルを下げて、踊りの美しさを保つほうをウェイン・イーグリングは選んだのかもしれません。でも、個人的にはちょっと残念でした。あの連続自力アラベスク・パンシェは、イギリス系ローズ・アダージョの見どころの一つだったので。

  一息つく間もなく、今度はオーロラ姫のソロ。音楽に合わせてのゆっくりした回転がてんこ盛りな、あの拷問ソロです。

  これも米沢さんは実に見事に踊り切りました。回転→キメのポーズが音楽とバッチリ合ってました。米沢さんは音楽に合わせるのに秀でているようで、特にキメのポーズを音楽に気持ちよく合わせてきます。マリアネラ・ヌニェス(英国ロイヤル・バレエ団)を想起させます。

  最後のほうでは、米沢さんはさすがにスタミナが切れてきたらしく、素早く回転しながら舞台を一周するところでは脚が上がらなくなっていました。もう限界だったのでしょう。根性で上げられるものではないですから。でもスタミナをつける、途中で燃料切れを起こさないよう体力をうまく配分する、これらの努力をすることは可能だと思うので、米沢さんのこれからの課題の一部はスタミナの持続と体力のペース配分かな~、と思いました(ごめんねエラソーに)。

  それでも、米沢さんの最後のキメのポーズが凄かった。両足揃えてトゥで立つポーズをやりやがりました。これがまったくグラつかない。ほとんどのバレリーナはこれをやると多少はグラつくものなのですが(それで結局かかとを落としてしまうことが多い)。あえてこのポーズをやるってのは、自信がある証拠です。初日で緊張もしていたでしょうに、米沢さんのこの強い精神力はすばらしいです。

  主役を見事に踊って見せる人、新国立劇場バレエ団でいえば小野絢子さん、米沢さん、長田佳世さん、あと私のお気に入りである、小林紀子バレエ・シアターの島添亮子さんに共通してるのは、高い技術に加えて、強靭なメンタルを持ってることだと感じます。バレエのような(観る側にとっては)華麗な世界でも、最後にものを言うのは、やっぱり強いメンタルなんだよねえ。

  オーロラ姫が糸巻き針で指を傷つけてしまうシーンは面白かったです。マントを頭からすっぽりかぶって正体を隠したカラボスが、オーロラ姫に花束を贈ります。花束を受け取ったオーロラ姫は、踊りながら花を一輪ずつ抜き取って周囲の人々に配って回ります。花がなくなると、中から銀色の糸巻き針が現れます。小さい演出だけど、工夫があっていいと思います。

  呪いを成功させたカラボスが姿を消すシーンでは、カラボス(本島美和さん)はなんと、歌舞伎やマジックで用いられる蜘蛛の糸(投げテープ)をパッと放って消えました。けっこー長いやつでした。ウェイン・イーグリング、まさか『テレプシコーラ』を読んだのだろうか?六花ちゃんも確かカラボスの踊りでこれを使ったんじゃなかったか?『テレプシコーラ』は実家の母に全巻を譲ってしまったので、正月に実家に帰省したら確かめてみよう。

  リラの精が城をいばらで閉ざしてしまう第一幕最後のシーン、いばらのセットが大がかりなものでした。幕の一種なんでしょうが、厚みを感じさせる質感で、見るからに薄っぺらい幕ではありませんでした。

  今回の『眠れる森の美女』はチケット代が異常に高かったので、セットや衣装にもそれなりのものを期待していました。プロローグと第一幕では、セットは豪華というほどではなく、衣裳も寒々しい色合いで地味な感じだったので、少し不満でした。でも、セット、小道具、衣装におカネをかけはじめたのは、どうやらこのへんからのようです(色的、質感的には)。

  時は経って百年後(だっけ?)。森で狩猟をする貴族様御一行が登場。服装はどうやら18世紀末~19世紀初期のようです。従僕たちが獲物の鹿(←けっこうリアル)を木に吊るして通り過ぎたり、細部にも凝っていました。

  どうやら王子に気のあるらしい伯爵夫人は湯川麻美子さん。『ジゼル』のバチルド姫みたいに権高で、王子にモーションをかけるけれども、王子に慇懃無礼にすげなくされると、きっぱりした態度で振り返りもせずに去っていく、プライドの高い貴婦人でした。

  キャスト表によると「王子の知人」だというガリソンは、マイレン・トレウバエフが演じました。あわて者で、目隠し鬼の遊びで女性たちにさんざんからかわれる役です。そんな役でも、やはり演技力と存在感はピカ一でした。

  デジレ王子はゲストのワディム・ムンタギロフ(英国ロイヤル・バレエ団)です。確かに顔が小さくてハンサム。確かに長身で均整のとれた体型をしている。ソロを踊ると確かに技術や踊りのダイナミックさではダントツにすばらしい。なのに、なんだか影が薄い。どうしてこんなに地味なんだろう?イングリッシュ・ナショナル・バレエ在籍時代に、ダリア・クリメントヴァと踊っていたときのような圧倒的な輝きが、どうして今は感じられないのだろう?

  直近でムンタギロフを観たのは、この夏の「アリーナ・コジョカル・ドリーム・プロジェクト」でした。そのときにも同じことを思いました。ムンタギロフは同じ英国ロイヤル・バレエのローレン・カスバートソンと、『眠れる森の美女』グラン・パ・ド・ドゥ、『パリの炎』パ・ド・ドゥを踊りましたが、どうも地味で影が薄いように感じました。

  私には今もって、ダリア・クリメントヴァと踊った『くるみ割り人形』グラン・パ・ド・ドゥ(2012年、「アリーナ・コジョカル・ドリーム・プロジェクト」)、『ジゼル』(2013年、新国立劇場バレエ団)のほうがはるかに強く印象に残っています。

  踊る相手によって魅力が増減する現象というのは確かにあるようです。ムンタギロフの場合、クリメントヴァのような良いパートナーに再び出会うのを待つか、もしくは自分から努力して良いパートナーシップを築き上げるか、でなければ、自分一人でも充分に輝けるダンサーになれるよう精進するかしかないわけで、ムンタギロフがこれからどういうダンサーになるのか、しばらく様子見ですね。

  (その4に続く)

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『雨に唄えば』立ち見券販売へ


  『雨に唄えば』公式フェイスブック上で、22日(土)昼・夜2公演、23日(日)1公演、24日(月)1公演について、当日券が売り切れになった場合に限り、立ち見券(7,000円)を販売する旨発表されました。ただし、立ち見券も「若干枚数」のため、必ずしもチケットが購入できるとは限らないそうです。

  公演が始まってから評判が広がり、チケットの売れ行きが良くなるだろうとは思っていましたが、まさかこれほどのことになるとは。

  楽日に向けて、こちらもなんだかドキドキ感が高まってきました。

  


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本日のアダム・クーパー2


  第一幕の"Good Morning"が終わると、舞台の右手前方、舞台の縁から両脚を垂らして倒れ込んだドン、コズモ、キャシーの三人に大きな拍手と喝采が飛ぶ。

  今日は面白いことが起きた。いつにもまして、拍手がなかなか鳴りやまない。ドン役のアダム・クーパーが顔を上げ、次のセリフ「でも、リナはどうするんだ?」を言おうとする。しかし拍手が止まないため、なかなかこのセリフに移れない。

  このセリフを言うとき、ドンは左手をコズモとキャシーに向かって差し出す。クーパーは左手を差し出しかけていたが、肝心のセリフに移れないため、差し出しかけた左手が泳ぐ。それからもクーパーの左手は何度も何度も泳ぐ。

  しばらくして、クーパーが「参った!」という表情で、左手を下に落とし、顔を横にガクッと傾けて、パッと明るい笑顔を浮かべた。素の笑顔だった。その笑顔に、観客がドッと笑った。そして、いたずらっぽく更に大きく拍手し始めた。

  クーパーはなおもセリフを言うタイミングをうかがっている。観客はそれを知っていて、わざとますます大きく拍手する。"Good Morning"はタフなシーン。キャストたちはヘトヘトなはず。観客はそれを知っている。だからなるべく長く拍手したい。キャストたちに少しでも長く休んでほしいから。でもいたわる風じゃなく、からかう風で。まだ起きちゃダメ!寝てなさい!寝てなさい!簡単に次のシーンには行かせないよ!って感じ。

  大きくなる一方の拍手と喝采に、ついにクーパーが大きく肩を震わせ、堰を切ったように、声を出さずに笑い始めた。コズモ役のステファン・アネッリも、キャシー役のエイミー・エレン・リチャードソンも、仰向けに横たわったまま、声を出さずに笑っている。

  持久戦となったクーパーVS観客のこの争い(?)は、ついにクーパーがケリをつけた。笑いながらアドリブで「オーライッ!!!」と大きく怒鳴る。観客がまたドッと笑い、しぶしぶ拍手の矛を収めた。

  舞台上のキャストたちと観客、また観客同士が示し合わせたわけでもないのに、なんだろうこれは。この公演は、こんなことがしょっちゅう起こる。


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カヴァレリア・ルスティカーナ


  NHK Eテレの『クラシック音楽館』を聴いてます。マーラーの交響曲第5番と、アンコール曲に『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲。指揮はズービン・メータ、演奏はイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団。

  『カヴァレリア・ルスティカーナ』の間奏曲は、映画やCMでよく使われている有名な曲です。

  何度も聴いている曲なのに、今、聴いていて涙が出そうになった。なんて美しい曲なんだろう。

  音楽は、人の心にまっすぐにくい込んできて、積もった感情を涙のようにあふれ出させて、洗い流してくれる。


  感傷に浸っていたいので、新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』感想の続きはまた来週~。(来週まで忘れなきゃいいけど…)
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新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』-2


  カラボスが登場。蜘蛛の形をした毒々しい緑の車に乗っています。車からは長い蜘蛛の足が何本も前や横に伸びていて、カラボスが座っている車体部分はぶっくりした蜘蛛の腹になっており、いかにも毒グモっぽくて非常にグロい(笑)。手下たちも蜘蛛かコウモリをイメージしているらしく、とがった帽子、口裂け女みたいなメイク、黒っぽい衣装といういで立ちでした。

  カラボスが車から降りてきます。黒に緑を織り込んだドレスで、レース部分は蜘蛛の巣の模様をしています。頭には同じ緑と黒の羽根飾り。美空ひばりか小林幸子を想起させます。黒のストッキングに黒のトゥ・シューズ。

  本島美和さんが本日のカラボス役でした。アイライナーを引いて目を大きく見せ、まぶたには銀色のラメが入ったシャドウを塗っています。舞台の前面に出てきた本島さんを見た瞬間、その強烈なオーラと圧倒的な美しさに、一気に目が引きつけられました。

  ここからカラボスが主にマイムで国王夫妻を詰問し、式典長を責め、オーロラ姫に呪いをかけます。本島さんの表情の作り方と仕草はとても魅力的でした。マイムの意味と演技がぴたりと合っています。自分がこのマイムと演技によって何を表現しようとしているのかを熟知しているようで、実際見ていてカラボスの感情や言っていることがよく分かりました。

  最もすばらしかったのは本島さんの目の演技です。目が大きく見えるメイクをしているのに加えて、歌舞伎役者が見えを切るときのように大きく目を見張り、国王夫妻、式典長、リラの精たちをぎろりと睨みつけます。そのまま唇をぐにっと大きくひん曲げて、ニヤ~リと笑う表情がツボに入りました。

  あの美人の本島さんが、あんなに表情を大きく歪めたのを見たのははじめてで、人間の口ってあんなにひん曲がるんだ、と新鮮に思いました(笑)。もはや変顔の域です。国王夫妻に対して、あざ笑うかのようにわざと大きく身をくねらせて、大仰なお辞儀をするシーンもよかったです。

  カラボスは舞台じゅうをジャンプして回り、手下たちに次々とキャッチされていくという踊りをします。これは振付としては特に優れているわけではないと思いますが、かといって劣った振付というわけでもありません。普通。今回の演出と改訂・追加振付を担当したウェイン・イーグリングは、もっともらしいことを言う割には、演出や振付にさほど秀でているわけではないらしいと、このへんから感じ始めました。

  カラボスを招待客のリストに加え忘れた式典長は輪島拓也さんで、すっかり演技派になりました。『ラ・バヤデール』でも大僧正をやってたように思います。大僧正はシリアスな役、式典長はコミカルな役ですが、コミカルな役もハマってました。

  カラボスの手下たちに引きずり出されて、カラボスに縦ロールのロン毛ヅラをひんむかれ、枯渇寸前の希少資源となっていた残り少ない地毛の髪を引き抜かれていくときの表情が、「あれえ~、お助けを~!!!」という感じで笑えました。もう新国立劇場バレエ団のお笑い担当決定ですね。もう『シンデレラ』の姉たちとかも充分にイケるのでは?(もう踊ってたらごめんなさい)

  そこへリラの精が割って入り、カラボスとマイムで会話します。このマイムはロシア系の『眠れる森の美女』にはなく、すべて踊りになっています。物語のこれからの展開と結末とを予言する大事なマイムなのに加え、マイムの一つ一つが音楽ときっちり合っているので、マイムのほうが踊りよりも適切なように感じます。カラボスとリラの精がマイムのみで静かな対決をくり広げるという見ごたえもあって、私は大好きです。

  更に、こーいう一連のバカバカしい演技を、舞台の上にいたダンサー全員が大真面目にやっていたことに感動しました。これ、嫌味じゃないからね。大いに褒めたい。カラボスの呪いに恐れおののいたり、式典長が枯山水な頭から更に毛髪を引き抜かれているのを見て痛々しい表情をしたり、リラの精がカラボスの呪いの結末を良いものに変えたのを見て安堵したり。

  国王夫妻の貝川鐵夫さん、楠元郁子さんだけでなく、宮廷に集まった人々役のダンサー全員が真剣に演技していました。これぞザ・ロイヤルな『眠れる森の美女』の演技です。おとぎ話だからって手を抜くんじゃなくて、おとぎ話であってもリアルさを追及して大真面目に演技する。まさにプロです。

  プロローグが終わって、第一幕、オーロラ姫16歳の誕生日。国王夫妻がちゃんと年をとって、衣装も変わっていたのになにげに感心。同じ衣装でとおすところも多いから。国王役の貝川さんはヒゲが多くなっていました。王妃役の楠元さんも髪型がプロローグとは変わっていました。

  カラボスの呪いを避けるための、「編み針・縫い針・糸巻き針類の宮廷内持ち込み禁止令」を知らずに編み物をしていた3人の女たちに対して国王が激怒し、斬首を言い渡すマイムがありました。王妃が国王の手を優しく握って女たちの命乞いをし、怒りを解いた国王は女たちを許します。この国王と王妃の一連の演技も、細やかに演出されているのが嬉しい。ロシア系の『眠れる森の美女』では、女たちを殺すよう国王が命じても、王妃はそれを黙って見ているだけ、という演出が多数です。

  国王が女たちに許しを与えると同時に、花のワルツの群舞が華やかに始まります。この花のワルツは誰の振付でしょう?かなりな見ごたえがありました。振付が良かったこともあるでしょうが、やはり新国立劇場バレエ団の群舞のレベルが高いことが大きいでしょう。群舞の踊りはきちんと揃っており、動きにメリハリがありました。

  私はこの花のワルツを、いつもヒマくさく感じていたのです。今まで観たどの版でもダメでした。英国ロイヤル・バレエが現在上演しているモニカ・メイスン版の花のワルツは、クリストファー・ウィールドンの振付です。そのウィールドンの振付でも途中で飽きてしまって、早く終われと思ったくらいです。でも、今回はうんざりしなかったどころか、むしろ見惚れていました。

  オーロラ姫役の米沢唯さんが登場。その衣装を見たとたん、なんだこりゃ?と思いました。純白のチュチュだったのですが、生地の見た目の質感は白い木綿のような素朴な感じで、デザインも、なんていうのかな、すごく子どもっぽい。丸首の襟、胸元に白ボタンとその両脇に数本のタック、カボチャ状にふくらんだ短い袖、飾り気のないスカート。子どもが着る白い木綿のワンピースによく似てる。

  16歳といっても、これから結婚相手を選ぼうっていう年頃のお姫様でしょ。どーもキラキラ感が感じられない衣装で、あまりに地味すぎない?何か意図があるんだろうけど、米沢さんはあのとおりすごく細身で華奢な人で、メイクも超ナチュラルだったせいもあって、うーん、はっきりいって、衣装デザインを担当したトゥール・ヴァン・シャイクはロリコンの気でもあるのか、と思ってしまいました。

  (その3に続く)

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本日のアダム・クーパー


  踊りが超キレキレだった。初日と動きがまったく違う。ここまで戻すのに、初日から2週間かかったか。やはり舞台に立つことは大事なのだなあ。よかったよかった。

  歌は本当に上手くなったが、声量があり、伸びもよく、しかも声が非常に長く続くので驚いた。

  第二幕のブロードウェイ・メロディ・バレエの途中、現れたキャシーに駆け寄ろうとした瞬間に足を滑らせ、片膝をついた姿勢で転倒した。彼にしては珍しい。でも表情は一切変えずにすぐさま立ち上がり、何事もなかったかのようにキャシーと踊り始めた。リフトはいつもどおりこなしていたし、その後の踊り、タップやバレエもちゃんと踊っていたので、怪我などはしなかったと思う。

  アドリブも快調。コズモ役のステファン・アネッリ、キャシー役のエイミー・エレン・リチャードソンとの息もぴったり合っていた。これも初日とは大きく異なる。互いに信頼関係ができあがった上でのパフォーマンスは全然すごい。

  ステファン・アネッリは"Make'em Laugh"でのアクション中、着けていたマイクが頭から剥がれてしまった。どうするのかと思っていたら、アダム・クーパーが、アネッリが自分に近づいた瞬間にアネッリの顔を手でなでるフリをし、アネッリのマイクを元の位置に戻そうとした。それでもマイクは再び剥がれてしまう。アネッリはマイクが垂れ下がっていた間は地声で歌った。ほんの短い時間だったけど、凄い声量だった。

  "Make'em Laugh"の終盤、コズモが壁を破って舞台の奥に下がる。アネッリはその隙にマイクを元に戻したようだった。コズモが壁の中から再び出てきたときには、マイクはいつもの位置に付いていた。アネッリもクーパーもアクシデント対応が見事で、さすがはプロ、と感心した。

  復活したキャシー役のエイミー・エレン・リチャードソンは、歌、踊り、演技がみなすばらしく、さすがは第一キャストだと思った。透きとおった美しい歌声を持ち、踊りは動きがなめらかで、非常に緻密で細やかな演技をし、表情が豊か。キャシー役のアンダースタデイ、ローレン・ホールもわるくないと思ったけれど、リチャードソンとはやはり差がある。比べてみて違いがはっきりした。

  他のキャストたちもこなれている。でもマンネリに陥っていない。各自がアドリブを適切に入れて変化をつけている。これはクーパーやアネッリ、リナ役のオリヴィア・ファインズも同じだった。特に、ファインズのリナは演技とセリフ回しが毎回違うので面白い。"What's Wrong with Me?"の歌い方も公演ごとにやっぱり異なる。リナ最高!

  監督デクスター役のポール・グルナートの演技も、いつも微妙に違っている。このおっさんは超笑える。トーキーで映画撮影するシーン、デクスターとリナとのやり取りでは毎回大爆笑。

  「舞台」として全体的に熟してきたなあという印象が強く残った。

  カーテン・コールで、指揮のロバート・スコットは両手にミッキーみたいな超巨大手袋をはめ、観客に向かって手を振っていた。おちゃめ。


  会場は今日も大盛況でした。今回の『雨に唄えば』日本公演のチケット売り上げは、すでに東急シアター・オーブ開館以来の最高記録を出したそうです。
  こちらもおめでとう。

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新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』-1


 新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』(11月8日於新国立劇場オペラパレス)


   音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
   原振付:マリウス・プティパ

   改訂・追加振付:ウェイン・イーグリング
   衣装:トゥール・ヴァン・シャイク
   装置:川口直次

   演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
   指揮:ギャヴィン・サザーランド

  プロローグ:約35分、第一・二幕:約65分、第三幕:約45分


   オーロラ姫:米沢 唯
   デジレ王子:ワディム・ムンタギロフ(英国ロイヤル・バレエ団)

   リラの精:瀬島五月(貞松・浜田バレエ団)
   カラボス:本島美和

   国王:貝川鐵夫
   王妃:楠元郁子
   式典長:輪島拓也

   誠実の精:川口 藍
   優美の精:堀口 純
   寛容の精:若生 愛
   歓びの精:五月女 遥
   勇敢の精:奥田花純
   気品の精:柴山紗帆

   四人の王子:井澤 駿、田中俊太朗、池田武志、清水裕三郎

   伯爵夫人:湯川麻美子
   ガリソン(←目隠し鬼ごっこで女性たちにからかわれる人):マイレン・トレウバエフ

   エメラルド:細田千晶
   サファイア:寺田亜沙子
   アメジスト:堀口 純
   ゴールド:福岡雄大

   長靴をはいた猫:江本 拓
   白い猫:若生 愛

   フロリナ王女:小野絢子
   青い鳥:菅野英男

   赤ずきん:五月女 遥
   狼:小口邦明

   親指トム:八幡顕光


  衣装について。青、水色、グレー、藍色、白などの寒色系の色とえんじ色などの地味な色を基調にして、そこに真っ赤な色をアクセントで入れるというパターンのものがほとんどでした。そのせいで、舞台は全体的に寒々しい色合いでした。もっとも、これはプロローグと第一幕までのことですが。

  国王役の貝川鐵夫さんは長身でハンサムな王様。王妃役の楠元郁子さんは相変わらずさすがの演技力で、上品で優しい雰囲気の美しい王妃でした。

  リラの精役の瀬島五月さんは挙措や仕草がとても柔らかく、表情も穏やかで優しげな感じでした。きれいな顔立ちの人です。メイクも上手。何より、その役の雰囲気を作り出すのに非常に秀でています。ゆったりした余裕もあります。

  ただし、テクニック的には少し頼りないところがあるのではないかと思います。最も目についたのは足さばきで、爪先の動きが終始ごちゃごちゃしている印象を持ちました。リラの精のヴァリエーションの最後には、アラベスクでターン→かかとをついてパンシェ、を連続で続ける技があります。ずっと片脚で続けなくてはならない難度の高い技です。見どころなのですが、この部分は変更されていて、ターンをした後に両足を揃えて立ち、またターンという振りになっていました。ちょっと残念でした。

  瀬島さんのマイムはすごく良かったです。オーロラ姫に呪いをかけたカラボスと対話するシーン、オーロラ姫が倒れた後に現れて、オーロラ姫は眠っているだけだと人々を安心させるシーン、悩めるデジレ王子の前に現れて王子に問いかけ、王子をオーロラ姫の許へといざなうシーン、マイムがみなとても雄弁でした。

  瀬島さんのリラの精は優しく、でもどこか神秘的な善霊でした。アンソニー・ダウエル版『眠れる森の美女』映像版で、リラの精を踊っているべナジル・フセインを彷彿とさせました。役柄的には非常に向いていると思います。私好みのリラの精です。

  ヴァリエーションを踊る妖精は、リラの精を除いて通常は5人だと思うのですが、今回は6人でした。川口藍さん、堀口純さん、若生愛さん、五月女遥さん、奥田花純さん、柴山紗帆さんです。ヴァリエーションも6つです。どの精が「新顔」なのかは忘れました。でも音楽は聴いたことがなく、振付も見おぼえのないものでした。

  リラの精の衣装は淡い紫で、スカートに五重の塔みたいな重層フリルがついたチュチュでした。6人の妖精の衣装はなぜかみな同じデザイン、同じ淡い黄色のチュチュでした。それぞれ「○○の精」と役名があってヴァリエーションも踊るんだから、それぞれ違うデザインと色にすればよいのに、と思いました。予算の問題でしょうか。その割に、リラの精を含む7人の妖精が、みな贈り物をお付きの者(←ガキ)に持たせているという、英国ロイヤル・バレエ系の凝った演出だったのですが。

  全幕を通じて、コール・ドは非常によく揃っていて見ごたえがありました。ここでは妖精たちの群舞になりますが、彼女らはテンポ速めの演奏によくついていっていました。スカッと爽快、見ていて気持ちのいい群舞で、思わず「ほおお~」と唸ったほどです。

  去年末から今年初めにかけてのキエフ・バレエ日本公演で、コール・ドがやはりよく揃っていて、それが強い見ごたえ感を与えることを実感しました。通常はヒマくさく感じがちな群舞も、きちんと踊られると強い吸引力を発揮します。やはり揃っているコール・ドは、新国立劇場バレエ団の強みだよなあ、とあらためて思いました。

  (その2に続く)

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新国立劇場バレエ団が2015年にピーター・ダレル『ホフマン物語』を上演する件


  記事の題名がとかく長くなりがちな今日このごろ、みなさまいかがお過ごしですか?

  今日、新国立劇場バレエ団の新作、ウェイン・イーグリング版『眠れる森の美女』を観に行きました。詳しいことは後日書きたいと思いますが、米沢唯さんのオーロラ、ワディム・ムンタギロフのデジレ王子、そして米沢さんとムンタギロフのパートナーシップはほとんど問題なしです。

  今回上演された『眠れる森の美女』はイギリス系のマイムと振付です。マイムは全残ししています。また、イギリス系の『眠れる森の美女』の振付は、ロシア系よりも難しい箇所がありますが、今回はダンサーの能力を考慮してか、ごくごく一部が簡単なものに変更されていました。

  リラの精を踊った瀬島五月さんは優しく母性的な雰囲気で、リラの精にぴったりでした。非常に美しいお顔立ちをしています。

  しかし!最もすばらしかったのは本島美和さんのカラボスです。本島さん、見事に新境地を開拓したと思います。もともと美しくて華やかなオーラのある人でしたが、今回は加えて強烈な存在感がありました。いびつに歪めた表情は逆に魅力的で、そしてあの大きな眼の迫力といったら!本島さんのカラボスはマジおすすめです。

  本題。今日、新国立劇場でもらったチラシに、新国立劇場バレエ団が来年2015年の10月30日から11月3日にかけて、ピーター・ダレル振付『ホフマン物語』を上演する旨書いてありました。

  「装置と衣装を一新して新制作」だそうです。音楽はジャック・オッフェンバック(オペラ中心)、編曲はジョン・ランチベリー、台本・振付はピーター・ダレル。

  チラシの裏には、スコティッシュ・バレエが上演した『ホフマン物語』の小さな公演写真が3枚掲載されていました。そしたらびっくり、ホフマン役で写っているのは、なんとアダム・クーパーではありませんか!

  写真はとても小さいですけど、クーパーに間違いない…と思います。98年4~5月にクーパーがスコティッシュ・バレエの『ホフマン物語』に客演した際の写真でしょう。

  すっかり忘れていたんですが、私はかつて、クーパーが『ホフマン物語』に客演したことについて調べていました。 ここ に詳しく書いてるので、よかったらご一読下さい。よくもまー、こんなに調べたな。マニアックすぎ。我ながらキモい。恥ずい。

  この記事によると(←本当に自分で書いたことをすっかり忘れていた)、ピーター・ダレルの『ホフマン物語』は上演自体がかなり難しい作品で、ダレルの振付も相当手ごわいみたいよ。

  新国立劇場バレエ団が上演するときには、ホフマン役は誰がやるんだろう?ゲストはたぶん入るだろうね。(でももちろん、アダム・クーパーがやる可能性はナッシング・アット・オール。)

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スコティッシュ・バレエ団日本公演


 ※この公演は中止になりました(2015年2月9日発表)。詳しくは ここ をご覧下さい。

  『雨に唄えば』の会場でもらった公演チラシの中に入っていました。23年ぶりの日本公演だそうです。

  公演チラシは片面印刷で、詳しいことはまだ決まっていないようです。

  とりあえず公演期日は2015年3月26日(木)、27日(金)、28日(土)、演目は『ロミオとジュリエット』(振付:クシシュトフ・パストール、音楽:セルゲイ・プロコフィエフ)、会場はオーチャード・ホールです。

  チケット発売は2014年12月6日(土)10:00より。

  チラシによると、クシシュトフ・パストール振付の『ロミオとジュリエット』は「現代に舞台を移して」のストーリーだそうです。チラシの写真に写っているジュリエットはトゥ・シューズを穿いています。現代が舞台ですが、ジュリエットがオフ・ポワントで踊るのではないようです。

  公演の詳細は、ローソン・チケット公式サイトにアクセスして、ローソンWEB会員(登録無料)に登録しておくと、決定次第メールで知らせてくれるそうです。

  チケット料金はS席12,000円、A席10,000円、B席8,000円、C席6,000円。音楽は「録音テープを使用」とのことです。

  振付者のクシシュトフ・パストール(Krzysztof Pastor)は、ポーランド出身の振付家。現在はポーランド国立バレエ団の芸術監督を務めているようです。パストール版『ロミオとジュリエット』は2008年にスコティッシュ・バレエ団によって初演されました。

  スコティッシュ・バレエの現在のレパートリーは多岐にわたっています。かつては、スコティッシュ・バレエといえばピーター・ダレル(Peter Darrell、1929~87)の作品が有名でしたが、ダレルの死後はレパートリーが迷走状態になり、それが現在も続いている模様です。

  スコティッシュ・バレエの設立者、首席振付家、芸術監督であったピーター・ダレルが87年に死去した後、芸術監督はガリーナ・サムソヴァ(Galina Samsova)が90年から97年まで、その後はロバート・ノース(Robert North)が99年から2002年まで、2002年から12年まではアシュリー・ペイジ(Ashley Page)が務めました。ペイジは、今年の夏の「ロイヤル・エレガンスの夕べ」で上演された「ルーム・オブ・クックス」を作った人です。

  ピーター・ダレルの作品は演劇性が濃く、振付も独自色がかなり強いそうなのですが、ダレルの後を継いだサムソヴァが他の振付家たちの作品をレパートリーにどんどん加え、その次のノースは更にコンテンポラリー作品をレパートリーに加え、その後のペイジは自分の振付作品を積極的に上演してきた、という経緯があるそうです。

  ちなみに今『雨に唄えば』日本公演に出演中のアダム・クーパーは、ピーター・ダレル振付『ホフマン物語』のタイトルロール、ロバート・ノース振付『ロミオとジュリエット』のロミオ役で、スコティッシュ・バレエに客演したことがあります。クーパーの奥さんのサラ・ウィルドーも、フレデリック・アシュトン振付『二羽の鳩』の少女役で客演しています。

  スコティッシュ・バレエは、芸術監督が変わるたびにレパートリーもコロッと変わる、ということをくり返しているみたいです。スコティッシュ・バレエは組織内の人間関係がかなり難しい、とイギリスの新聞は書いていました(10年も芸術監督を務めたアシュリー・ペイジも、最後はバレエ団の経営陣とケンカして辞めたそう)。でも、組織内の人間関係なんてどこも難しいものでしょう。スコティッシュ・バレエの迷走の根本的な原因は何なのか、結局よく分かりません。

  スコティッシュ・バレエの現在の芸術監督はクリストファー・ハンプソン(Christopher Hampson)で、1973年生まれの41歳とまだ若い人です。2012年に就任しました。ロイヤル・バレエ学校を卒業した後はイングリッシュ・ナショナル・バレエに入団し、ダンサーとして踊るかたわら、振付家としても活動していました。

  ハンプソンがスコティッシュ・バレエ芸術監督の仕事で注目を浴びたのは、マシュー・ボーンの『ハイランド・フリング』をバレエ団のレパートリーに加えたことです。

  私個人は、『ロミオとジュリエット』よりは、『ハイランド・フリング』を日本で再演(10年近く前にボーンのニュー・アドヴェンチャーズが日本初演した)してほしいんですが…。あれは良い作品だったので。

  また、『ハイランド・フリング』は、ボーンの『スワンレイク』以上にバレエの要素が強い作品で、バレエ団が上演するほうが向いていると思えるので、スコティッシュ・バレエ団で観たいです。来年の公演ではもう無理でも、その次の日本公演ではぜひお願いしたいところです。

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Soaking wet!


  とりあえず初日は満員御礼、観客の反応は上々(拍手と喝采と爆笑の渦)、カーテン・コールは総スタンディング・オベーションという大成功に終わりました。

  日本の観客に慣れてるアダム・クーパーは想定内的な表情でしたが、コズモ役のステファン・アネッリ、キャシー役のエイミー・エレン・リチャードソン、リナ役のオリヴィア・ファインズは気圧されたような、戸惑ったような笑顔を浮かべ、映画会社社長シンプソン役のマックスウェル・コールフィールドに至っては、驚きを通り越して呆れた顔をしていました(笑)。

  アダム以外のキャストは、日本での公演に参加するのははじめてなようなので、日本の観客にこんなにウケるとは思ってなかったんでしょう。

  初日ということもあり、観客の中には招待客(←つまりこの作品に興味があるとは限らない人々)が数多くいただろうと思います。しかし意外なことに、観客の反応はとにかく良いの一言で、同じ観客の私も心中びっくりしていました。言葉がネックになるだろうと思っていたのです。でも、結局のところ、言葉はさほど重要ではありませんでした。キャストの演技と歌と踊りで充分に楽しめたからです。

  2012年3月に観て以来2年半ぶりですが、この作品はストーリ構成と脚本が本当によくできていると実感。演出も振付もすばらしい。照明もすごく効果的ですね。

  アダム・クーパーのパフォーマンスは、踊りの面はまだ本調子ではないように思いました。舞台への出演からしばらく遠ざかっていたことが原因でしょう。もっとも、彼のことですから、日を追うごとにどんどん良くなっていくと思われます。前回の来日公演『兵士の物語』もそうでしたから。1週間後にはあの強烈なオーラを発散する動きを取り戻していることと思います。

  言葉はさほど重要ではなかった、と上に書きましたが、今回は字幕の日本語がすばらしいです。言葉が重要なシーンや歌の訳ほど秀逸でした。リナの発声練習シーン、ドンの発声練習シーン、"Moses Supposes"などは、なるほど、そうきたか!と唸るほどの名訳でした。

  今日は前列のほうで観たので、もろに水をかぶりました。3列目までは確実に水がかかります。4、5列目も水しぶきが飛んで来ると思います。水がかかる可能性のある列の席には、各席にビニール・シートと注意書きがあらかじめ置いてあり、また事前にスタッフの方からも説明を受けました。

  でも、濡れるのが嫌なら、はなから前列の席などは買わないので、存分にアダムが蹴り飛ばす水の直撃を喜んで受けました(←ちょっとM)。

  今日は外は雨、屋内も雨で、すっかりびしょぬれになりました。コートとセーターとスカートを干しています。なんと良いお天気の日だったことでしょう。


  付記:会場の東急シアターオーブは、渋谷駅前の渋谷ヒカリエ11階にあります。東横線旧ホーム跡前から伸びている連絡通路を通れば、渋谷駅構内から直にヒカリエに行けます。ヒカリエ内に入ったらエレベーターで11階に行くことになりますが、11階にあるのは劇場入口で、入口に着いたら更にエスカレーターあるいは階段で上の階に行かなくてはなりません。けっこう歩くし時間かかります。なので、遅くとも開演30分前には渋谷駅に着くようにするほうがよいと思います。

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