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さてここからは試合の話。3回戦の日、私の隣にはやはり学生とおぼしき男の子が座っていました。彼は他のガキどもとは違い、たった一人で観戦に来たようです。筋金入りのテニス・ファンらしくて、高そうなデカいカメラを持ち、試合を観ながら叫んだりつぶやいたりしていました。私は彼に話しかけていろいろ聞くことができました。
テニスの試合を生で観ると、テレビやネットで観るよりも、ボールは速く長く伸びて飛んでいる、フォールトやアウトは意外と目視で分かる、選手によっては相手に対して心理攻撃を行なっている、最初の1ゲームでもう両者のレベルの差が見て取れる、といったことに気づく経験をしました。
あと、私はテレビやネットで試合を観てるとき、フェデラーの対戦相手に常に怨念波を送ってる(「ダブル・フォールトしろ」、「アウトになれ」等)のですが、生で観てると対戦相手のモンフィスを自分でも意外なほど素直に応援できました。おまけに、フェデラーが負けてもさほど残念でなかったです。
フェデラー対モンフィスの試合は主にラリー戦でした。両者が打つボールの爆速さにまず驚愕。なんであんな速いボールを打ち返せるの?しかも途中までは直線的に飛んでいきますが、線の直前でいきなりぐにんと曲がって、線の内側に落ちます。アウトになるかと思ったボールがインになるんですね。フェデラーもモンフィスも凄かったです。
この日、フェデラーの最速サーブは時速195キロほどでした(200数キロ台のもあったけどアウトだった)。フェデラーのサーブはそう速くないそうですが、時速195キロ台でも、私は目で追えませんでした。だとすると、いわゆる「ビッグ・サーバー」と呼ばれる選手たちの時速220~230キロ台のサーブなんか、私にはまったく見えないでしょうね。
試合は終始ガエル・モンフィスが押し気味でした。フェデラーはモンフィスのペースに巻き込まれちゃってた印象です。モンフィスは非常に個性的な選手で、最も凄いと思ったのは、予測力がこの上なく高いらしいことでした。
フェデラーがどこにサーブを、リターンを打ってくるかモンフィスは読んでいて、その場所に自然に移動して待っているんです。翌日の準々決勝でも、モンフィスはジョコヴィッチのサーブやリターンをこの調子で返しまくり、ジョコヴィッチがついにブチ切れてラケットをコートに叩きつける場面が見られました。
これはモンフィスがわざとやっていたのかどうか分からないのですが、結果的に相手に心理的な揺さぶりをかけることになった行為も印象的でした。フェデラーが盛り返してきた第2セットの途中、リターンを返したモンフィスがつまづきました。
モンフィスはしばらく動きを止め、痛みをこらえているかのようなそぶりを見せました。それからです。モンフィスは各ポイントの前に上半身をがっくり折って、苦しげな表情で少しの間じっとしているのです。ゲームとゲームとの間の休憩時間にも、モンフィスはなぜか線審が立つ台の上に、ぐったりと疲れ切った雰囲気で座り込みます。
私が「モンフィスは怪我をしたのではないか」と隣に座っていた兄ちゃんに言うと、兄ちゃんも「捻ったのかもしれない。モンフィスは以前、膝を怪我して休養していたことがあった」と言いました。
しかし、いざゲームが始まると、オマエ、どこが痛いんじゃい!とツッコミたくなるほどの好プレーを連発。私見。フェデラーに対しては、意外にこの「痛いよお、僕、ケガしてるんだよお」アピール作戦は効果絶大です。フェデラーは結局優しい人なので、相手が痛がってると攻撃の手が緩んでしまう癖があるように思います。
翌日のジョコヴィッチ対モンフィス戦で気づいたんですが、モンフィスがポイントの前にいちいち上半身を折ってじっとしてたのは、痛がってたんじゃなくて、その都度シューズの紐を締め直していたんですな。それに気づいたとき、まぎらわしい真似すんなー!と心の中で大爆笑。
再度言いますが、モンフィスが対戦相手に誤解させるよう、対戦相手に精神的な動揺を与えるように意図して、わざとこういうことをしてたのかどうかは分かりません。ただ結果的に、観客はモンフィスは怪我したんじゃないかと思っていた、ということです。
翌日の準々決勝でも、モンフィスはジョコヴィッチ相手に同じことをしました。でもさすがはジョコヴィッチ、こんな作戦(?)には全然動じず。そこでモンフィスは更なる面白い心理攻撃作戦(←これも「?」だが)を実行。そのときのジョコヴィッチの反応がもっと面白くて、ジョコヴィッチのあの表情、今思い出しても笑えます。
本当のところは、モンフィスはああやって時間稼ぎをしていたんだと思います。少しでも休むために。かなり疲れて苦しかったんでしょう。
モンフィスのあれもいいね。相手のサーブを待つ間、最初に脱力した感じで上半身を折って、両腕をだら~んと下げて、顔だけをもたげて相手をじっと見つめるの。両眼だけがぎらぎら光って、かなり不気味な印象を与えます。これも効果絶大だと思うわ。特にフェデラーみたいな繊細な人には。
フェデラーはこの3回戦、途中で踏ん張るけれども、最後には根負けしてあきらめるという、今年に入って何度もあった負け方をしました。貪欲に立ち向かってくるモンフィスに押し切られた感じです。私の隣に座っていた兄ちゃん曰く「フェデラーはミスが多すぎた!」
上海マスターズの盛り上げ係という自分の役割を生真面目に果たすのは、いかにも責任感の強いフェデラーらしくて好感持てるけど、もっと自分のことを優先してわがままになってもいいんじゃないかと思います。イベントだの、果てにいきなり中国の選手と組んでダブルス出場だの、自分の試合に集中できない環境を受け入れすぎ。
話は変わりますが、スイス・インドアーズの準決勝を観ました。カナダのバセク・ポスピシルが相手でした。相手があまりにしつこく粘るので途中であきらめるという負けパターンを断ち切れたこと、相手の怪我や疲弊に動揺せず、逆に容赦なく攻撃して勝ったことは、上々の成果といえるのではないでしょうか。
最終セットの最後の数ゲーム、ポスピシルは汗だくで、ウェアが汗でべっとりと体に貼りついていました。肩を上下させ、口を開けて息してて、本当に苦しそう。途中で転倒することも数回。そのポスピシルを更に振り回すフェデラー。そうそう、試合では容赦は不要です。叩きのめしなさい。
何に驚いたかって、あれほどの接戦だったのに、23歳のポスピシルが汗まみれでゼイゼイ息してるのに、32歳のフェデラーはほとんど汗かいてなくて、息切れ一つしてなかったことです。
(続き)スイス・インドアーズの決勝を観ました。まさか、今のフェデラーが今のデルポトロ相手にあそこまで戦えるとは思わなかった!きっと6-2、6-1とかのストレートで負けるだろうと思ってたの(笑)。フェデラー、エースが14本だって!?最近のサーブの不調は何だったのか。
惜しくも負けはしたけど、ここ半年くらいの間で最も良いフェデラーのプレーを観られた気がします。あんなプレーを観ちゃったら、フェデラーはもう終了、とか迂闊に言えないわ。
表彰式、観客のフェデラーに対する拍手がいつまでもいつまでも鳴り止まない。なんて暖かい、優しい雰囲気なの。いつまでも鳴り止まない拍手に、フェデラーの目が潤んでいる。フェデラーの目のきれいなこと。私もついもらい泣きしてしまったよ。
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観客のほとんどは、なんと10代の子どもばかりだったんです。中高、大学生あたりね。20代半ば~30代初めの観客もいましたが全然少ない。年配の観客に至ってはごくたま~にいるくらい。
これらの10代の子どもたちがさ、選手の国の旗や応援プラカードを持って、「ロージャ!ロージャ!」、「レッツゴーロージーレッツゴー!」(←フェデラーへの応援)とか、「ゴー!ラファー!」(←ナダルへの応援)とか、「ノーレ!ノーレ!」(←ジョコヴィッチへの応援)とか声揃えてやってるわけ。
テレビに客席が映っただろうけど、それぞれの選手の国旗振って応援してた観客は、ほぼ全員が中国の青少年たちですよ。
3回戦のフェデラー対ガエル・モンフィス戦では、中国の子どもたちによる「フェデラー応援隊」がほぼ1ブロックの席を占めていて、声を揃えて賑やかに応援しておりました。100人近くはいたんじゃないかな。ひとかたまりに固まって座り、スイスの旗や応援プラカードを振ってフェデラーを応援してた。
フェデラーはこの3回戦で敗退しました。翌日の準々決勝にはジョー・ウィルフライ・ツォンガ、ファン・マルティン・デル・ポトロ、ジョコヴィッチ、ナダル、スタニスラス・ワウリンカという錚々たる面子が登場しましたが、この「フェデラー応援隊」ほど大規模な応援隊はいませんでした。フェデラーが最も人気があるってのは、こういうとこからも察せられるわけです。
ちなみに、この「フェデラー応援隊」の3分の1ほどは、準々決勝で「ワウリンカ応援隊」に変貌して再登場しました。こうなるとフェデラーを応援してるのか、スイスを応援してるのか、基準がよく分かりません。
ナダルの応援隊もいたけど少数。10~20人くらいのかたまり。あとはバラけてあちこちに座り、個々で、または2、3人単位で、スペイン国旗振ってナダルに声援を送っていました。ジョコヴィッチの応援隊もいました。10人くらい。3回戦ではセルビアの旗を持ってかたまりで応援してましたが、不思議なことに、準々決勝では彼らの姿が見えませんでした。3回戦での試合でちょっと騒々しすぎたんで、準々決勝では騒がないよう公安に注意されたのかもしれません。
面白かったのが、なにせ子どもでしょ?ファン同士で敵視しあってるの。フェデラー対モンフィス戦では、私の近くに高校生か大学生くらいのきれいな女の子がいました。この子はモンフィスのファンらしくて、「アレ!ガエール!」とひっきりなしに声援してましたが、この子、「フェデラー応援隊」がフェデラーに声援を送るたびに、フェデラー応援隊が座っている方向をガチでキッと睨みつけるんですよ。
フェデラー対モンフィス戦はフルセットの試合になり、第2セットあたりからフェデラーがどんどん調子を上げてきました。試合が白熱し始めると同時に、気分が盛り上がった観客のほとんどがフェデラーの応援に回り、会場は「ロージャ!ロージャ!」の大合唱(←私も便乗した)。モンフィスのファンの少女はもう周囲を睨みつけるので大忙し、更に負けじと「アレ!ガエール!」と絶叫しまくり。
前に書いたように、上海マスターズのチケット代は非常に高いのです。でも学生割引のチケットが売り出されていましたから、というより、学生向けの安価なチケットのほうが、一般向けの高価なチケットより多く売り出されていたのだと思います。彼らは学生向けのチケットで観に来たものでしょう。
観客の大部分が子どもであることに気づいて、去年の「フェデラー暗殺予告騒動」も理解できました。あの騒動を起こした「藍猫」というネットユーザーも10代の学生で、フェデラー嫌い、且つ熱烈なナダル・ファンだそうです。
しかし、「藍猫」君があんなことをした動機は、ナダルがジョコヴィッチに連敗してた時期があって(←2011年のことらしい)、それが面白くなかったから、という理解不能なもの。その怒りがジョコヴィッチにではなくフェデラーに向けられたのは甚だ不可解ですが、子どもは時おり理屈の通らないバカをしでかすものです。
「藍猫」君の「フェデラー暗殺予告」を、大会側とフェデラー側に言いつけたフェデラーのファンたちも、やはり「藍猫」君と同じような年齢の子どもたちでしょう。だから後先考えず軽率に事を大きくし、マスコミに事の次第をペラペラしゃべりまくり、当のフェデラー本人と家族に無意味な恐怖心を与え、大きな迷惑をかけてしまったのです。
中国のテニス・ファンのほとんどが10代の子どもなのは、テニスはほんの10数年くらい前にやっと中国に入ってきた、比較的新しいスポーツだというのが最も大きな理由だと思います。テニスは金持ちのスポーツですから、90年代後半あたりから始まる中国の急速な経済発展と同時に普及してきて、そのせいで主に「90後」(90年代生まれ)と呼ばれる青少年の間での人気が特に高いのでしょう。
「フェデラー暗殺予告」事件は本来ネット上での口論に過ぎず、それが現実世界での騒動に発展したのは例外中の例外です。上海マスターズの観客の大部分が、上海に居住する学生たちであることは、治安維持の面からいって非常に好都合です。学生たちは素直で従順で頭がいい知識分子ですから、客席でファン同士のほほえましい応援合戦や睨み合いはやっても、暴動を起こすことはまずありえません。これは中国当局が反日・反米デモを学生にやらせることと同じ理屈です。
要は、反日デモで日本の国旗や日本の首相の写真を燃やしてはしゃいでいた連中が、同じノリで上海マスターズではスイス、スペイン、セルビアなどの国旗と選手の名前を書いたプラカードを振ってはしゃいでいると思われるわけです。
観客ウォッチングをしながらこんなことを考えていましたが、スポーツは元来、選手やチームを応援することを通じて、群れなしてはしゃいで楽しむことも面白さと醍醐味の一つだと思うので、まあいいんじゃないすか。それに、中国の観客がみな「良い子」だったおかげで、私も安心して観戦を楽しむことができましたし。
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