「バレエの巨匠たち」(8月6日、プログラムC)-2*建設中



 「牧神の午後」(「ニジンスキーの肖像」より)

   ファルフ・ルジマトフ、カテリーナ・カザチェンコ

  これは以前にルジマトフとユリア・マハリナで観たことがあります。だいぶ前の話です。もう10年くらい前?

  不思議なことに、今回のほうが見入ってしまいました。以前にこれを観たときは、たぶんニジンスキーの原振付の「牧神の午後」をまだ観ていなかったと思います。だからルジマトフのこの改訂版を観てもピンと来なかったのでしょう。でも今回の上演を観て、ルジマトフの改訂版がニジンスキーの「牧神の午後」の雰囲気を受け継いでいて、しかし違う作品に創りあげていることがよく分かりました。

  ルジマトフの「牧神ポーズ」もビシッと決まってカッコよかったです。カザチェンコもセクシーでした。でも今回は、ルジマトフはカザチェンコのドレスの首のホックを外すだけで、上半身をがばっと脱がしてはいませんでした。マハリナのときは思いっきり脱がしてましたが。

  あとはやはり録音とはいえ、ドビュッシーの音楽の力は大きいと思いました。


 「イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド」より

   カテリーナ・マルコフスカヤ、マクシム・チャシェグロフ

  シルヴィ・ギエムとローラン・イレールだったかマニュエル・ルグリだったかが踊ってる映像が残ってるパ・ド・ドゥ部分です。

  去年に上演された日本の某バレエ団によるクソみたいな踊りとは比べ物にならないほど良かったです。でも非常に言いにくいんですが、マルコフスカヤ、あのレオタードが似合ってない…よね?アナスタシア・マトヴィエンコ、イリーナ・ペレン、カテリーナ・カザチェンコ、エレーナ・フィリピエワの後にマルコフスカヤを見ると、踊り以前に体型が気になってしまったというか。また30年前にギエムが踊っている映像と比較しても、ギエムって身体能力ばかりでなく、時代に先駆けた体型の持ち主でもあったんだなというか(←今さら)。

  向こう10年くらいは、このパ・ド・ドゥは日本で上演しないほうがいいかもしれません。


 「アイス・メイデン(氷の姫)」より

   イリーナ・ペレン、マラト・シェミウノフ

  旧ソ連時代の1927年に作られた作品だそうですが、いやすばらしい!旧ソ連のバレエ独特のアクロバティックなリフトがてんこもりなパ・ド・ドゥでした。シェミウノフがペレンを目を疑うような難度の高いリフトで持ち上げていきます。消防署の出初め式や秋田の竿燈まつりをイメージするとよいと思います。

  ペレンとシェミウノフのパートナーシップは完璧。やっぱり夫婦だとこういう踊りのときにはいいですね。強い信頼関係がないと無理だもんね。

  ペレンは淡い水色の全身レオタード。その身体のラインが美しいのなんの!周りの観客もペレンの肢体のあまりな美しさに目が釘付けになったようでした。

  この「アイス・メイデン」(どうも「アイアン・メイデン」と言ってしまうw)って、全幕残ってないの?日本で上演すればいいのに。このパ・ド・ドゥもまた観たいし、全幕も観たいわ。


 「瀕死の白鳥」

   エレーナ・フィリピエワ

  フィリピエワの両腕のうねりっぷりが人外。美しかった。フィリピエワの腕が螺旋状にねじれていくたびに客席から自然と湧き起こる拍手。周囲から「うわあ…」、「すごい!」という声が聞こえてくる。「瀕死の白鳥」はそういう演目じゃないんけどなあ、と思ったけど、でもすばらしいものを目にしたら感嘆の声を漏らし、拍手するのは自然な反応。劇場で「マナーをわきまえている通な観客」を気取ることほど野暮なことはない、とすぐに思い直す。

  フィリピエワの腕のうねり、本当に美しかったです。


 「トゥオネラの白鳥(Black Swan)」

   ファルフ・ルジマトフ

  「瀕死の白鳥」の後に持ってくるとは粋ですな。ルジマトフは黒の衣裳で、ロットバルト、カラボス、「火の鳥」のカスチェイ、デーモン小暮閣下などのようでした。メイクは映画「ブラック・スワン」でのナタリー・ポートマンみたいでした。

  腕をまっすぐに上に伸ばして、手首から先を直角に曲げたポーズをしょっちゅうしていて、それがまるで鳥の翼のようでもあり、長い頚のようでもあり。でも踊りとしては印象に残るというほどではありませんでした。メイクと衣裳が強すぎて踊りの邪魔をしている気がしました。


 「海賊」よりパ・ド・ドゥ

   デニス・マトヴィエンコ、アナスタシア・マトヴィエンコ

  マトヴィエンコもパートナリングが上手いよね~。妻とはいえ、トゥで立つと自分と背丈がさほど変わらなくなるアナスタシア・マトヴィエンコを、グラつくことなくがっちり持ち上げてました。

  メドーラのヴァリエーションは、ガムザッティのヴァリエーションとまったく同じものでした。メドーラのヴァリエーションとして、『ドン・キホーテ』の森の女王のヴァリエーションと同じ踊りが踊られるのは見たことありますが、ガムザッティのは初めて観たかな?

  コーダでは、デニス・マトヴィエンコがなんと3連続で540をやりました。お祭り男(?)の本領発揮です。その後もマトヴィエンコ独特の電光石火かつむじ風のごとき怒濤のマネージュ。観客が沸きました。アナスタシア・マトヴィエンコの32回転では手拍子が起きました。これも内心いいのかな?と思いましたが、すべてシングルで回っていましたから、テンポが乱されることはなかったでしょう。最後はデニス・マトヴィエンコがこれまた豪快な連続ピルエットを披露しました。


 フィナーレ

  全員が順番に出てきて、自分たちが踊った作品の一部をくり返して踊る、よくある形式のフィナーレでした。おかしかったのがルジマトフ。ブラック・スワンのキャラとポーズを崩さず、カーテン・コールでも上に伸ばした腕に顔を付ける鳥さんポーズのまんま。でも口元にはニヤリとした悪戯っぽい笑みを浮かべていて、なんかユーモラスでした。ルジマトフなのに。

  拍手は止むことがありませんでした。その理由は分かりました。みなさんルジマトフのピルエットが見たいんです。しかし、ルジマトフは知らん顔をして相変わらずブラック・スワンのままです。しかし、わざとじらすように、面白そうな笑みを浮かべています。事情が分かっているマトヴィエンコが、まず自分が超絶技巧を織り交ぜたピルエットを見せました。回転しながら片脚を徐々に下ろしていって、ゆっくりとスピードダウンして止まりました。マトヴィエンコがルジマトフのほうを見やります。「さあ、あなたの番ですよ?」という感じで。

  その瞬間、ルジマトフの顔から笑みが消え、いきなりがっ、とピルエットの構えに入りました。構えた瞬間、ルジマトフの雰囲気とその周囲の空気が一気にがらっと変わったのが凄かったです。ルジマトフも年齢を感じさせない豪快で大きな動きのピルエットを披露しました。総立ちになっていた観客はもはや総ヒステリー状態。いやー、面白い人だよね、ルジマトフって。

  なぜか休憩時間なしの110分という公演で、密度の濃い楽しい時間を過ごさせて頂きました。

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「バレエの巨匠たち」(8月6日、プログラムC)-1*建設中


  リハビリがてらゆっくりいこうかい。マトヴィエンコ&ルジマトフ「バレエの巨匠たち」プログラムCです。会場は東京国際フォーラムC。


 「ウィスパー」

   デニス・マトヴィエンコ、アナスタシア・マトヴィエンコ

  デニス・マトヴィエンコを見て、一瞬誰このおっさんと思いました。衣裳が野暮ったい。アナスタシア・マトヴィエンコはブルーのドレス。白い長い美脚に見とれました。振付はつまんなかったです。


 『眠りの森の美女』よりグラン・パ・ド・ドゥ

   カテリーナ・チュピナ、ミキタ・スホルコフ(キエフ・バレエ)

  両人とも純白のキラキラ衣裳で美男美女。やっぱクラシックはええなあ、と思いました。でも両人とも踊りは発展途上。アダージョはガタガタ。スホルコフはパートナリングを精進しましょう。チュピナちゃんはスタミナつけましょう。今後に期待。


 「Escape~終わりなき旅~」

   ファルフ・ルジマトフ、デニス・マトヴィエンコ

  御大ルジマトフ登場。上半身裸なんだけど、何このすごい筋肉。ゴールドジムサンクトペテルブルク店とかで鍛えているんでしょうか。最初の「ウィスパー」ではなんか精彩がなかったマトヴィエンコが激変、キレのよい動きでダイナミックな踊りを見せます。ルジマトフはまるでマトヴィエンコに挑むように、これまた迫力ある動きで踊ります。ルジマトフがどんどんマトヴィエンコに詰め寄っていくような雰囲気でした。男二人ならではのマッチョな振付で、マトヴィエンコがルジマトフをリフトしたり、見ごたえ充分な踊りでした。

  舞台には白いポリエチレン製(?)の大きな布が舞台上に敷きつめられていました。二人の動きによって起こる風でポリエチレンが舞い上がります。ルジマトフがポリエチレンを両手で高くかざした瞬間に、ルジマトフの後ろから白い照明が当てられました。ルジマトフの姿が白い幕の内側で影となって浮かび上がります。その前に立つマトヴィエンコ。演出も照明もすばらしかったです。この二人が踊るならまた観たい作品です。

  踊りが終わって二人でお辞儀をするところで、ルジマトフがなぜか丸いサングラスをかけて一瞬ジョン・レノン化してたんだけど、あれはお遊びだったのかな?幕が下りてまた出てきたときにはサングラスはかけていませんでした。


 「Blind Affair」

   イリーナ・ペレン、マラト・シェミウノフ

  なんとイワン・ワシーリエフの振付作品だそうです。ペレンとシェミウノフは黒い目隠しをしていました。ペレンちゃんはやっぱりスタイル抜群。ほっそりした、しかし均整の取れた身体のスタイルと美脚に見とれてしまいました。あとやっぱりテクニックが半端ないです。回転とかではシェミウノフのサポートが必要ありません。自分で勝手にぐるぐる回ってます。

  でも、振付には特に見るべきものはなかったです。


 「カルメン」

   エレーナ・フィリピエワ、ドミトロ・チェボタル

  曲はロジオン・シチェドリン編曲の「カルメン組曲」よりアラゴネーズ。でもアロンソ版ではなく、セルゲイ・シュヴィドキという人の振付だそうです。コンクール用に創作された小作品で、「カルメン」とストーリー上の関係もないようです。

  フィリピエワは背中が大胆に開いた黒いロングドレス、チェボタルは上半身裸に黒いロングスカートでした。踊りと関係ないですが、フィリピエワの衣裳はいわゆる「肌襦袢」がなかったです。生の背中、肩、腕でした。で驚いたのが、フィリピエワがすごく筋肉質な身体になっていて、ルジマトフと筋肉の付き方がそっくりに見えたことでした。特に背中。

  フィリピエワは終始鋭い目つきで笑顔を見せずに踊り、踊りが終わっても表情を変えることはありませんでした。男前モードのフィリピエワでしたが、アラゴネーズなら、やっぱりアロンソ版の冒頭シーン、カルメンのソロを見たかったなあ。フィリピエワのカルメン、超絶カッコよかったから。


 「タンゴ」より

   デニス・マトヴィエンコ、アナスタシア・マトヴィエンコ

  マトヴィエンコ夫妻が冒頭で踊った「ウィスパー」とこの「タンゴ」は、ともにエドワード・クルグの振付です。ほら、「レディオとジュリエット」の振付家。

  「ウィスパー」は少し退屈でしたが、この「タンゴ」はコミカルな作品で楽しかったです。マトヴィエンコは明るい陽性男だと思うので、ドロドロした陰気な作品よりはこういう陽気な作品のほうが合っていると思います。激しくケンカしていた二人が、しかめっ面のまま肩と腕組んでタンゴを踊るところが面白かったです。


  (その2に続く)

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