小林紀子・バレエシアター「マクミラン・トリプルビル」まとめ-2


 「エリート・シンコペーションズ」

   音楽:スコット・ジョプリン 他
   美術:イアン・スパーリング

   ピアノ・指揮:中野孝紀
   演奏:東京フィルハーモニック管弦楽団(だよね?)

   カスケード:喜入依里(白にピンクの衣装)、萱嶋みゆき(23日、ピンクと緑)、真野琴絵(24日、同)、平石沙織(白に水色)

   ホット・ハウス・ラグ:後藤和雄、冨川直樹(23日)、上月佑馬(24日)、佐々木淳史、荒井成也(23日)、照沼大樹(24日)

   カリオペ・ラグ:喜入依里

   ザ・ゴールデン・アワーズ(恋人同士が照れながら踊るやつ):萱嶋みゆき(23日)、真野琴絵(24日)、後藤和雄

   ストップ・タイム・ラグ:

    高橋怜子(23日)、島添亮子(24日)、ジェームズ・ストリーター(23日)、アントニーノ・ステラ(24日)、
    後藤和雄、冨川直樹(23日)、上月佑馬(24日)、
    佐々木淳史、荒井成也(23日)、照沼大樹(24日)

   ザ・アラスカン・ラグ(背の高い女性と背の低い男性が踊るやつ):平石沙織、佐々木淳史

   ベセナ・ワルツ:高橋怜子(23日)、島添亮子(24日)、ジェームズ・ストリーター(23日)、アントニーノ・ステラ(24日)


  以前、ある方から聞いた話ですが、マクミランはこの「エリート・シンコペーションズ」を振り付けた同じ年に、あの『マノン』を作っているそうです。『マノン』が先で、「エリート・シンコペーションズ」がそのあと。重い内容の作品を作ったので、次は明るくて楽しい作品を作りたかったんではないか、というお話でした。

  この話を聞いて、してみると、マクミランはけっこうマトモな精神の持ち主だったんだな、と思いました。重い作品と軽い作品とを交互に作ることで心のバランスをとってたのなら、不健康で暗くて歪んだ作品ばかりを偏愛していた人物というわけではないですよね。

  装置と衣装はバーミンガム・ロイヤル・バレエから借りたそうです。ほー、バーミンガム・ロイヤル・バレエもレパートリーにしてるんかい。ジェームズ・ストリーターが所属しているイングリッシュ・ナショナル・バレエもそうなのかな。

  でも、アントニーノ・ステラが所属してるミラノ・スカラ座バレエ団は、さすがに上演したことないんじゃないか?イタリア人とラグタイム……うーむ、イメージ湧かない。マクミラン作品については、ステラは小林紀子バレエ・シアターに客演してるおかげで、良い経験積ましてもらってるよな。

  衣装が全タイなので、どのダンサーも身体のラインがばっちり出ます。ストリーターはガタイけっこういいです。ステラはやっぱり細身。島添亮子さんのボディ・ラインはすごくエロティックでした。島添さんは美しい脚を持っているのでマクミラン作品に向いている、と上演指導のアントニー・ダウスンが言ってたそうですが、こういう衣装でそれがよく分かります。同じ女から見ても激エロいっす。

  平石沙織さんと佐々木淳史さんが踊ったアラスカン・ラグが、とても楽しかったです。小柄でモテない男性が、勇気を振り絞って女性をダンスに誘う。その女性は、男性より頭一つ以上もデカい長身。小柄な男性はそれでも長身の彼女を一生懸命にエスコートし、彼女もときどき彼をエスコート(?)する。

  佐々木さんはわざとかがんだ姿勢をとり、背を更に低く見せていました。平石さんは身長がどのくらいあるのかは分かりませんが、確かに長身のようです。でも、標準身長のダンサーでも、舞台の上では大きく見えるものだからね。平石さんの堂々として自信に満ちた男らしい(笑)態度がよかったです。

  平石さんと佐々木さんの息はよく合っていました。平石さんが佐々木さんの頭上で脚をブン!と何度も高く振り上げたり、佐々木さんが平石さんをなんとかリフトすると、それが珍妙なポーズになっちゃったり。

  この踊りでは観客がゲラゲラ笑っていて、踊る側にとっては何より嬉しい反応だったろうと思います。私の近くに座っていた女の子たちもウケまくっていました。なんて素直な感性を持つ良いお嬢さんたちなのでしょう!彼女たちの笑い声を聞いた私もなんだかすごく嬉しくなり、声を立てて笑ってしまいました。

  ピアノは「コンチェルト」に引き続き、中野孝紀さんでした。今まで深く考えたことがありませんでしたが、一つの公演でまずショスタコーヴィチのピアノ協奏曲を全曲弾き、たった1時間の休みの後に、今度は1時間弱もラグタイムを弾きながら同時並行で指揮も行なうってのは、かな~りすごいことです。

  ポール・ストバートも、舞台上のダンサーたちに目を配りながら、まずショスタコーヴィチのピアノ協奏曲を全曲指揮し、25分の休みの後に1時間弱の『三人姉妹』でピアノソロ、やっぱり同時並行でギター・アンサンブルの指揮という激務ぶり。

  最も大変だったのは小林紀子バレエ・シアターのダンサーの方々です。振付の異なる3作品を連日踊ったのですから、疲労困憊だったでしょう。本当にお疲れさまでした。とても楽しかったです。

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小林紀子バレエ・シアター「マクミラン・トリプルビル」まとめ-1


  しつこい感想を書こうかと思っていましたが、感じたことは先週の感想であらかた述べてしまったように思います。そこで、この「まとめ」編はスタッフ・キャストの詳細と、なんか思い出したことがあったら付記する程度のものにすることにしました。


 「マクミラン・トリプルビル」(8月23、24日、於ゆうぽうとホール)

   監修:デボラ・マクミラン
   上演指導:アントニー・ダウスン  

 「コンチェルト」(音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ)

   美術:デボラ・マクミラン

   ピアノ:中野孝紀
   演奏:東京ニューフィルハーモニック管弦楽団
   指揮:ポール・ストバート

   第一楽章:真野琴絵、上月佑馬
   第二楽章:島添亮子、ジェームズ・ストリーター(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
   第三楽章:喜入依里(23日)、高橋怜子(24日)

   萱嶋みゆき、荒木恵理、廣田有紀、冨川直樹、佐々木淳史、杜海


  ロイヤル・バレエがこの作品で用いている衣装はオレンジ系と明るいのですが、小林紀子バレエ・シアターはブルー系です。私はブルー系のほうが好きですし、この作品、特に第二楽章の持つ雰囲気にも合っていると思います。

  明るく溌溂とした第一楽章、第三楽章とは異なり、第二楽章の振付は非常に静謐で幽玄な美しさに満ちています。でもどこか陰翳があって、死のような雰囲気すら感じさせます。この第二楽章を見ていると、「ソリテイル」と同じような、深くてほの暗い「底」みたいなものを感じます。孤独感のような物哀しさです。

  前の記事にも書きましたが、第三楽章でソリストが女性ダンサー一人だけな理由について、クレメント・クリスプがトーク・ショーで面白いことを言っていました。マクミランは1966年にベルリン・オペラ・バレエ(現ベルリン国立バレエ)の芸術監督に就任しました。ところが、当時のヨーロッパのバレエ団ではモダン・バレエが主流であり、ベルリン・オペラ・バレエも同様でした。

  ベルリン・オペラ・バレエのダンサーたちが、クラシック・バレエをあまり踊れないことに愕然としたマクミランは、この「コンチェルト」を作って踊らせることで、ダンサーたちにクラシック・バレエを基本から叩きこもうとしました。「コンチェルト」の振付がシンプルなのと、振付が音楽と分かりやすい形で密接に結びついているのには、こういう事情があったようです。

  第一、第二楽章と同じく、第三楽章も、本来は男女のペアがソリストを踊ることになっていました。ところが、第三楽章のソリストにキャスティングされていた男性ダンサーのほうが、初演を前に逃げ出してしまいました。直前のことで代役を立てる余裕がなかったため、マクミランはやむなく第三楽章のソリストを女性ダンサー一人だけとし、ソロを踊らせることにしたそうです。

  マクミランがベルリン・オペラ・バレエ芸術監督時代に振り付けた作品には、一幕版『アナスタシア』があります。現在の第三幕に当たります。第三幕の振付だけが完全にモダンでクラシック臭がありませんが、当時のベルリン・オペラ・バレエは、ああいう作品を得意としていたのでしょう。


 『三人姉妹』

   原作:アントン・チェーホフ
   音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー、ロシア民謡
   ピアノ用編曲:フィリップ・ギャモン
   ギター用編曲:トーマス・ハートマン
   デザイン:ピーター・ファーマー
   照明デザイン:ジョン・B・リード

   ピアノ・指揮:ポール・ストバート
   ギター:染谷光一郎、庄山恵一郎
   マンドリン:田中俊也、鳥居良次
   バラライカ:八田圭子、小林雄平

   オーリガ:喜入依里
   マーシャ:島添亮子
   イリーナ:高橋怜子

   アンドレイ:照沼大樹
   ナターシャ:萱嶋みゆき

   クルイギン:後藤和雄
   ヴェルシーニン:アントニーノ・ステラ(ミラノ・スカラ座バレエ団)

   トゥーゼンバッハ:望月一真
   ソリョーヌイ:冨川直樹

   チェブトゥイキン:村山 亮
   アンフィーサ:宮澤芽実
   メイド:荒木恵理
   将校たち:荒井成也、佐々木淳史、澤田展生、杜海


  下の記事に書いたので、付け加えることはあまりないんですが、トゥーゼンバッハ役の望月一真さんとソリョーヌイ役の冨川直樹さんが良かったことは、ぜひとも書いておかなくては。特に、冨川さんのソリョーヌイは短気で強引な性格なのがよく分かりました。冨川さんは個性が強いので、こういうアクの強い役に向いているんですね。ちなみに、このソリョーヌイの初演者はアダム・クーパーです。この11月に『雨に唄えば』で来日します。ぜひ観てね(←宣伝)

  トゥーゼンバッハ役の髪型は、あれが絶対条件なんかいな。望月さんは髪を真ん中からぎっちり分けて、びっちりとポマード漬けにして固めていたようです。眼鏡と演技と踊りだけで、トゥーゼンバッハの知的かつ優しい穏和な性格は出せると思います。ダンサーに無理にオールバックを強要しないでもいいんでは。

  マーシャ役の島添亮子さんは相変わらずすばらしかったと思います。印象に残ったシーン。ヴェルシーニンの前で、マーシャがちょっと変わった振付、片脚をゆっくりと上げながら膝を曲げ、片手のたなごころを顔に添えるようにする動き(ロシアの民族舞踊?)から始まる踊りを踊ったとき、表情が子どもっぽく、照れくさそうで、初々しいものになっていました。マーシャが「人妻」から「恋する少女」に戻り、ヴェルシーニンに対して素直に心を開いた瞬間です。好きな人に自分の踊りを見せてあげたい。自分の気持ちを知ってほしい。島添さんはさすがだと思いました。

  冒頭、酔っぱらったメイド(荒木恵理さん)が将校たち(荒井成也さん、佐々木淳史さん、澤田展生さん、杜海さん)と戯れるシーンでは、コミカルな振付に客席から笑いが起きていました。

  カーテン・コールで、ギター、マンドリン、バラライカの奏者の方々6名が姿を見せました。バラライカはかなりな大型のものと小型のものとが1台ずつでした。バラライカの実物を目にする機会はめったにありません。観客がしきりに感嘆していました。

  指揮と同時にピアノ独奏を担当したポール・ストバートの演奏はすごく良かったと思います。軽やかで流れるような演奏でした。ギター・アンサンブルの演奏も耳に心地よいものでした。大きなホールで、しかも舞台の奥で紗幕を隔てて演奏するので、アンプを使用していました。小型のホールで、『三人姉妹』の演奏だけを聴いてみたいと思いました。

  『三人姉妹』の装置と衣装は、英国ロイヤル・バレエからのレンタルだそうです。ストバートとギター・アンサンブルの方々も舞台衣装を着ていました。淡いカーキ色のロシア風シャツ、ズボン、軍帽です。ロシアの兵士っぽい感じでした。小型のバラライカを演奏した八田圭子さんは小柄な方でしたが、やはり兵士の格好をさせられていました(笑)。

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小林紀子バレエ・シアター「マクミラン・トリプルビル」(8月24日)


  今日も特濃な時間を過ごして参りました。連日の鑑賞でへろへろになりましたが、ダンサーの方々はもっとへろへろでしょう。お疲れさまでした。

  疲れちゃったんで、簡単な感想っす。重箱の隅をほじくるようなしつこい感想は後日。

  「コンチェルト」は、全体的に昨日よりもよかったと思います。第一楽章は最初からソリストの真野琴絵さんと上月佑馬さんはしっかり踊っていました。群舞も動きが揃っていて、また動きの連鎖がきれいでした。

  第二楽章はバレエの神様が降臨してました。島添亮子さんとジェームズ・ストリーターが舞台の真ん中で位置に着いたとたん、舞台の空気がビシッと引き締まって、静寂と同時に緊張感が張りつめました。

  島添さんはストリーターのパートナリングに任せきりにするのではなく、基本的に自分で自分を支えているので、動きがこの上なく安定しています。少しばかり二人の動きがずれても、また軸が曲がっても、即座に修正してしまうのです。

  といっても、ストリーターのパートナリングは非常に頼もしいものでした。ストリーターのレパートリーは、ムッシュG.M.、ヒラリオン、ティボルト、カラボスなどだそうで、良い意味でアクの強い演技派でもあるのが分かります。ストリーターは昨日、「エリート・シンコペーションズ」にも出演しました。故デヴィッド・ウォールが初演したソリストの役です。

  デヴィッド・ウォールは晩年、イングリッシュ・ナショナル・バレエでずっと教師を務めていたそうですから、ストリーターも教えを受けたことがあるでしょう。現役時代のウォールも極めて優れた演技派でした。なんか不思議な縁を感じさせます。

  『三人姉妹』では、アンドレイ役の照沼大樹さんと、その妻ナターシャ役の萱嶋みゆきさんとの踊りが何気にすばらしかったです。あの動きは難しいだろうと思うんですが、照沼さんは細かいステップを踏んで飛び跳ねながら、手足をバラバラに動かして踊り、能天気な坊ちゃんぶりを踊りで好演。

  萱嶋さんは苛立った表情で、前に上げた脚の爪先を同じく苛立ったように細かく動かし、これまた踊り、しかも爪先の動きだけで、能天気で無邪気な夫に苛立つ、気の強い女性であるナターシャを表現していました。

  ナターシャは確かに悪役といえば悪役なんでしょうが、この作品の中では最もパワフルで生命力に満ち、現実に強く立ち向かっている唯一の登場人物ともいえます。他の登場人物は、みんな現実逃避してばかりでしょ。マクミランがもっとこのナターシャという女性を描いてくれるとよかったんですが。「家政婦は見た!」的な演出だけじゃなくてね(笑)。

  後藤和雄さんのクルイギンの踊りは、昨日よりも良かった気がします。昨日はなんかただ単に変わった振付の踊りにしか見えませんでしたが、今日は感情を露わにしようとしてもつい踏みとどまってしまう、クルイギンの不器用さが伝わってきました。クルイギンの初演者は、当時もう50歳に近づき、まさに円熟期にあったアンソニー・ダウエルでした。後藤さんはこれほどの難役をよく頑張ったと思います。

  チェブトゥイキン役は村山亮さんでした。椅子踊りは健闘していましたが、両日とも正直いまいちだったかな。今日よりは昨日のほうが上手くいっていたと思います。チェブトゥイキンの踊りは、英国ロイヤル・バレエ団のザ・レジェンド、デレク・レンチャー(当時60歳近く)に合わせて振り付けられたので、仕方ないです。

  アントニーノ・ステラのヴェルシーニンの役作りと踊りは大いに疑問です。初演者のイレク・ムハメドフの物真似をしろとはいいませんが、チェーホフの原作をちゃんと読んだのでしょうか?ムハメドフがほとんど無表情でありながら、しかしその踊りに非常な力強さと奥に込めた情熱のようなものを感じさせるのは、ヴェルシーニンが心の内の苦しみを押し隠し、最後までマーシャへの愛情を堪えたまま去ってゆく人物として描かれているからだと思います。

  一方、ステラのヴェルシーニンはまるでロミオでした。ヴェルシーニン役に必要なのは、分かりやすい「ミ・アモーレ~!!!」的なイタリア男の情熱ではなく、骨太なロシア男、しかも洒脱だけどどこか冷徹な軍人男性の情熱です。別れのパ・ド・ドゥで、ステラは荒々しく息吐いて踊っていて、そのムハムハした息づかいがなんだか不快にエロく、私はちょっと引いてしまいました(ごめんね)。

  ステラの踊り方も、あれはヴェルシーニンの踊りではないと思いました。もっと手足を伸ばして、大きく空間を切り取り、舞台をいっぱいに使って、キレよく直線的に、力強く踊らなくちゃ!これはテクニックの問題ではなく、踊り方の問題です。マーシャ役の島添さんと同じ動きで並んで踊る部分も、あそこは二人の動きをきちんと揃えて踊らないといけないと思います。マーシャとヴェルシーニンの気持ちが共鳴しているんですから。

  振付を勝手に(?)変えたのも言語道断。重箱の隅つついて申し訳ないけど、ヴェルシーニンが去っていく瞬間は、大きなジャンプ2回です。あのジャンプ2回も音楽にきちんと合わせて振り付けられたものです。でも、ステラはもうスタミナが切れたようで、ジャンプ1回と回転という振りに変えていたように覚えています。

  ステラはヴェルシーニン役に向いていない、と正直なところ思いました。ヴェルシーニン役のダンサーは、本家の英国ロイヤル・バレエから呼んだほうがよかったかもしれません。ネマイア・キッシュあたりでも、ステラよりはヴェルシーニンとしてしっくりくるでしょう。

  「エリート・シンコペーションズ」に、本当に島添さんが出ました(驚)。相手役はステラです。昨日は高橋怜子さんとジェームズ・ストリーターでした。甲乙つけがたいです。バトンを持っての女性の踊りと、ベセナ・ワルツのパ・ド・ドゥは、島添さんとステラのほうが良かったですが、その前に女性陣と男性陣が背中にゼッケン付けて踊るやつは、高橋さんのほうがなめらかだった印象です。

  今日は上月佑馬さんがソロ(ベセナの次)を踊りました。これが断然すばらしかったです。テクニックが強くて安定していて、見ごたえがありました。

  ところで、ベセナ・ワルツを聴くと、どうしても映画『ベンジャミン・バトン』を思い出してしまいます。劇中曲として使われてたので。『ベンジャミン・バトン』は時間を巻き戻すという不思議な内容の映画でしたから、その印象もあってか、ラグタイムを聴いていると、なんだか懐かしいような、もの哀しいような気分になりました。

  今日はこれでおしまい。

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小林紀子バレエ・シアター「マクミラン・トリプルビル」(8月23日)


  明日も公演があるので、さしさわりのない程度に(なるか?)。

  午後5時に始まって、終わったのが8時近く。間に25分、20分の休憩を挟んだとはいえ、内容の濃い贅沢な公演でした。大満足です。

  オーケストラは今回も東京ニューフィルハーモニック管弦楽団です。去年の『マノン』では、ある奏者の凡ミスをきっかけに演奏が全面崩壊しました。今日の公演でも、最初の「コンチェルト」でやらかしてくれました。第一楽章の冒頭部分で、管が弦から大いに遅れてしまい、音が完全にズレて、またしても演奏が崩壊。

  この他にも、ソロで演奏していた管楽器の音程が外れた上に、途中で何度か切れるということがあり、なんかもうここまでくると、管楽器はもう演奏自体をやめたほうがいいんではないかと思ってしまいました。へっぽこ演奏ならまだ許せますが、ダンサーたちの踊りを邪魔して、ダンサーたちを危険にさらすような演奏なら、いっそないほうがマシ。

  第一楽章のソリストは真野琴絵さんと上月佑馬さんでした。最初の演目とあって、真野さんは緊張気味のように見えました。それが、おそらくは演奏がズレを起こしたせいで、音を取れなくなってしまったようです。踊りがいっそう不安定になりました。しかし、大きなミスはなく、よく持ちこたえたと思います。第三楽章では完全復活していたのでよかったです。

  上月さんは動揺を見せず、力強く踊っていました。去年のNHK「バレエの饗宴」よりもすばらしくなったと思います。

  群舞は、第一楽章はちょっとバラつきがありました。でも第三楽章ではみな興に乗ってきたのか、きれいに揃っていて見ごたえ充分でした。

  島添亮子さんとジェームズ・ストリーターによる第二楽章は圧巻。冒頭、横を向いた島添さんが上半身をゆっくりと前に落とし、腕でゆるやかに円を描いていくのを見ただけで、涙がこぼれそうになりました。それほど美しかったです。

  喜入依里さんが「コンチェルト」第三楽章でソリストを、『三人姉妹』ではオリガを、「エリート・シンコペーションズ」でもソロを踊りました。白とピンクの衣装で頭にお花畑を乗っけてる人です。

  今日の公演を観て、この喜入さんはいったい何者なんだ、と衝撃を受けました。小林紀子バレエ・シアターが『マノン』を初演したとき、喜入さんはレスコーの愛人を踊りました。そのとき、この役を踊るのが初めてだとはとても思えないような、強靭な技術に裏打ちされた安定した踊りっぷりと表現豊かな演技とで、すごく驚いたのを覚えています。

  正直、『三人姉妹』のオリガはどうかな、なにせ若すぎる、と観る前は思っていたのです。ところが、まったく違和感なし。「コンチェルト」第三楽章では、喜入さんはちょっと緊張していたようでした。しかし、オリガ役と「エリート・シンコペーションズ」での喜入さんの踊りは衝撃的なほどに見事でした。

  「コンチェルト」での振付が、シンプルな美しさを強調したクラシカルなものであるのに対して、『三人姉妹』でのマクミランの振付は非常に独特かつ複雑です。ストーリーよりも、それぞれの登場人物の性格、心理や感情を表現することに重きを置いている振付だからです。

  「エリート・シンコペーションズ」の振付はコミカルなように見えますが、実はかなり難しいものであるのは、英国ロイヤル・バレエ団が上演した映像を観ると分かります。

  喜入さんのオリガの踊りは、技術的に安定しているのはもちろん、妹たちであるマーシャとイリーナ、マーシャの夫であるクルイギンを案じつつ見守るオリガの母性的な性格がよく出ていました。喜入さんの踊りは非常に雄弁で、その踊り方も、何と表現したらいいのかなあ…、DNAにマクミランを上手に踊れる遺伝子が入ってる的な?

  「エリート・シンコペーションズ」でも、喜入さんのソロ(カリオペ・ラグ)を見ていて、音楽を巧みに捉えてるし、手足の動かし方が絶妙だし、膝から下の線は弓なり、足の甲は三日月形に突き出ていてきれいだし、いたずらっぽいフェミニンな雰囲気を醸し出してるしで、うーん、あらゆる面で天賦の才に恵まれてる人って、やっぱりいるんだな~、と思わざるを得ませんでした。

  喜入さん礼賛になってしまいましたが、今日はそれほど「喜入さんショック」が大きかったということで。もちろん、他のダンサーのみなさんもすばらしかったです。『三人姉妹』は、これが初演とは思えないほどの出来でした。

  アントニーノ・ステラは、今日は『三人姉妹』のみの出演でした。「エリート・シンコペーションズ」は客席で観ていたらしく、終演後に客席で見かけました。緑色のTシャツにジーンズ姿でした。小柄でほっそりした人でしたが、やっぱりダンサーだけに人目を引くというか華があるというか、人の顔を覚えるのが苦手で目も利かない私がすぐに気づいたくらいです。カッコよかったです。

  全公演が終わってから、詳しい感想をあらためて書きたいと思います。

  ではでは今日のところはおやすみなさい。

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お盆帰省中


  実家に帰省してます。といっても、田舎のお盆って忙しい。お盆は先祖供養をするための節気なので、仏壇のお盆用デコレーションやら、坊さんにお経をあげてもらうやら、家でもいろいろとやらなきゃいけないし、外に出て墓参りのはしご(自分の家と親戚たちの家のお墓)や親戚周りもしなくちゃいけない。

  ウチみたいな小さな家ですらこうなのだから、まして大きな家は本当に大変だと思います。特にその家の主婦は、お盆のこと一切を差配してやらなくてはならないので、休む暇なんてないでしょう。それに加えて、兄弟姉妹とその家族がお盆休みで押し寄せて(帰省して)来て、彼らのおもてなしもしなくてはいけません。

  それこそ目の回るような忙しさでしょうね。本当にお疲れさまです。家を切り盛りするって、本当に大変な仕事。頭が下がります。ウチの従姉を見てこう思ったんですが、同じような立場にあるみなさまのことも尊敬です。

  さて、羽越線を走る特急「いなほ」っていう列車があります。いかにも昭和チックな ボロい レトロな車輌だったのが、今回乗ったら、なんと ピッカピカの新型車輌 になってました!!!いつ廃止になるかと思ってたほどのローカル特急だったので、ほんとにびっくりしました。

 

  でもなんかそっけない先頭車両だなあ。「いなほ」とか全然書いてない。前は先頭車輌の正面にプレートがはめ込まれていて、稲穂の絵と「いなほ」っていうロゴが書いてあって、それがレトロ感満載で良かったのに。

  見た目新しげだけど、たぶんどっかの特急列車の中古なんでしょ、と思ったのですが、車内に入ったら、車内もどー見ても新品だし、新しい車輌独特の匂いが漂っています。

 

 

  座席の背面中央に黄色いプレートが見えますが、この下には「チケットホルダー」と書いてありました。切符を差し込めるような逆さのクリップ状になっています。これは果たして必要なんだろうか。

  車輌内部の入り口は自動ドアで、「SERIES E655」と書いてあるようでした。きっと「E655系」という意味でしょう。車輌側面の電光表示板に「いなほ」と表示されているだけで、外装も内装もまだ手つかずな感じでした。

  「いなほ」は、冬はダイヤどおりに運行できれば奇跡なくらいですが、夏は台風や強い低気圧が通過する場合を除けば、ほぼ通常どおりに運行されていると思います。下り(酒田・秋田・青森方面行き)だったら左側、上り(新潟方面行き)だったら右側の窓席がおすすめです。

  理由は、海の風景がとてもいいから。同じ日本海でも、秋田の海の風景は映画「砂の器」に出てくるような、典型的な北国の砂浜で、山形から新潟の海は断崖絶壁にエメラルド・グリーンの水という、まるで南国の海のようです。

  そういえば、たしか数年前、山形か新潟かの海際を通過した際に、浅瀬に座礁した大型のロシア船が、錆びついた姿で波に洗われているのを見ました。どこが撤去費用を出すかでモメて、放置状態だったんですね。今はもう撤去されたのでしょうか。

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ロイヤル・エレガンスの夕べ(8月9日)-3


 『ベアトリクス・ポター物語』~ピーター・ラビットと仲間たち~より「まちねずみジョニー」(振付:フレデリック・アシュトン、音楽編曲:ジョン・ランチベリー)

   五十嵐脩

  踊り手は子どもさんでしたが、開演前に場内アナウンスがあって、藤本琳さんに変更すると言ってた気がするんですが…記憶が確かじゃありません。間違ってたらごめんなさい。五十嵐さんはダンス・ツアーズ「未来の星」賞を受賞されたんだそうです。これはコンクールとかではなくて、講習会で教師のみなさんに高く評価された受講者さんだということです。

  あっという間に終わりましたが、とても上手でした。ステッキさばきもなかなかのものでした。


 「ディアナとアクティオン」よりパ・ド・ドゥ(振付:マリウス・プティパ、アグリッピーナ・ワガノワ、音楽:リッカルド・ドリゴ)

   佐久間奈緒、ツァオ・チー

  なんでこのお二人は、日本でのガラ公演では、『海賊』のパ・ド・ドゥと「ディアナとアクティオン」のどちらかしか踊らないんでしょう?レパートリーは他にもたくさんあるでしょうに。

  『海賊』のパ・ド・ドゥや「ディアナとアクティオン」みたいな作品を、日本にやって来て公演を行なうロシアや東欧のダンサーたちと同じか、もしくはそれ以上のレベルで踊れるのならともかく、毎度毎度、可もなく不可もないような程度の踊りしか見せられないのなら、あまり意味がないと思います。

  佐久間さんはヴァリエーションの後半をイタリアン・フェッテに変え、コーダで本来なら男性ダンサーが連続ピルエットをする部分で、チーは回転をせず、佐久間さんがグラン・フェッテを披露しました(確か)。頑張って観客を楽しませようとしていたのは分かるのですが、気持ちばかりが上滑りしちゃった感じです。

  佐久間さんとチーは、バーミンガム・ロイヤル・バレエのダンサーならではの作品で勝負したほうが、断然よいんじゃないでしょうか。権利や許可などの事情があるのかもしれませんが、次の機会には『海賊』のパ・ド・ドゥと「ディアナとアクティオン」以外の作品でお願いしたいです。


 「Rotaryrotatory(ぐるぐるまわる)」(振付:クリスティン・マクナリー、音楽:ビョーク)

   崔由姫、ダンス・ツアーズ「未来の星」受賞ダンサー4人

  「ぐるぐるまわる」って、本当にこう書いてあるんだもん。4人は全員女子です。崔さんはどういう衣装だっけ…。上がレース生地の、白い短いツーピースだったかな?忘れた。振付者のマクナリーは、『不思議の国のアリス』で料理女をやったダンサーです。

  この作品は、オルゴールに付いている、鳴らすと回り出す人形をイメージしたものだと思います。今回が世界初演で、つまりこの公演に合わせて作られた新作です。

  こういう機会を利用して、振付家としてのキャリアを積むのもけっこうですが、だったらある程度は質の良い作品を提供してほしいです。こんな習作ともいえないような、振付者の自己満臭がプンプンな、観客にとってはまったくもって意味不明な作品、端的に言いますと駄作を、わざわざ日本で最初に披露する必要はないと思います。

  ロンドンには、新進の振付家たちが自作を出品するための公演が多くあるのですから、そうした公演で一定の評価を得た作品を上演するとか、そういうふうにしてほしいです。


 「瀕死の白鳥」(振付:ミハイル・フォーキン、音楽:カミーユ・サン=サーンス)

   サラ・ラム

  プログラムの作品紹介の写真に載っているように、ラムは黒いチュチュで踊ればよかったのに!!!黒鳥の「瀕死」なんて、実に面白いじゃありませんか。強い衝撃を与えられたと思います。もったいない。

  ラムは白いチュチュで踊りました。マイヤ・プリセツカヤの「瀕死の白鳥」に雰囲気が似ていました。プリセツカヤのような枯淡という境地にはほど遠いですが、白鳥が迫りくる死と必死に戦い、抗っているという印象です。

  ラムの腕の動きと、爪先を小刻みに交差させながら細かく進む動きは粗かったです。この作品を踊るには、腕の動きがなめらかであること、パドブレが震えるように細緻であることが技術的な絶対条件で、それに加えて、ダンサー個人の解釈に基づく表現が必要になってきます。

  直近で観たのと比べると、ウリヤーナ・ロパートキナ(マリインスキー劇場バレエ)、ベアトリス・クノップ(ベルリン国立バレエ)、ヤーナ・サレンコ(同)に及ばないように感じました。


 「キサス」(振付:ウィル・タケット、音楽:映画『花様年華』サウンドトラックより)

   ラウラ・モレーラ、リカルド・セルヴェラ

  ラテン系の音楽に乗せた、振付もサンバみたいな動きがメインでした。モレーラは、スペインとか南米の女性が着ているような淡いピンクのワンピース姿、セルヴェラは…忘れました。たぶんTシャツにズボンとかでしょう。

  コミカルな雰囲気いっぱいで、恋人同士がいたずらっぽく戯れているような明るい作品です。モレーラもセルヴェラも楽しそうでした。セルヴェラのユーモア溢れる表情と仕草が笑えました。

  この記事は文句ばかりですが、これは偶然です。と前置きして書きますが、ちょっとダンサー個人の思い出を優先させすぎてはいませんか。プログラムによると、この作品は、ロイヤル・オペラ・ハウス内にあるクロエ・スタジオという小劇場で、数日間の「スペシャル・イベント」で「内輪だけに発表された」ものであり、今回は12年ぶりに「初再演」されたのだそうです。

  今回の公演は、前回に比べると、ダンサー個人の思い入れや事情を優先させた作品選択になってしまった感が強いです。残念ながら次もそう。


 「チャルダッシュ」(振付:スティーヴン・マックレー、音楽:ヴィットーリオ・モンティ)

   スティーヴン・マックレー

  タップ・ダンスです。振付はバレエの回転、フィギュア・スケートのスピン、タップの複合技でした。今回は少しやり過ぎです。マックレーがタップも上手なのはよーく分かりましたが、タップにはタップの世界的トップ・ダンサーたちがいるでしょう。たとえばセヴィアン・グローヴァーの前で、これを踊ってドヤ顔ができるでしょうか。しかも、今回は技を混ぜ過ぎて、タップが雑で粗いように感じました(床の材質や、会場の音響の問題もあったと思いますが)。

  観客は、バレエを観に来たのであって、タップ・ダンスを観に来たのではありません。部分的にタップを取り入れるのはかまいませんが、バレエがメインであってほしいです。また、自慢や自己顕示欲が先に立った踊りをすれば、観客は即座にそれを悟ります。マックレーは優れたダンサーですし、聡明でもあると思うので、こういう踊りをトリでやってしまう感覚が、私には理解できませんでした。

  総じて、今回は作品選択にダンサー個人の事情が反映され過ぎていた印象です。3回目もあるのなら、もうちょっと観客に歩み寄って、ダンサーが踊りたいものと、観客が見たいものとの中庸を得た作品を選んでほしいと思います。

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ロイヤル・エレガンスの夕べ(8月9日)-2


 「ルーム・オブ・クックス」(振付:アシュリー・ペイジ、音楽:オーランド・ガフ)

   ラウラ・モレーラ、リカルド・セルヴェラ、ネマイア・キッシュ

  日本初演。スティーヴン・チャンバーの同名画を元に創作された作品だそうです。プログラムにチャンバーの原画が掲載されています。台所を思わせる空間に四角いダイニング・テーブルがあります。妻らしき女性が大きな包丁を振り上げて、テーブルの上にじかに置かれた野菜を切ろうとしており、椅子に座った夫らしき男性がおののくように両手をあげている、というものです。

  アダム・クーパーがかつてこの作品を踊ったことは知っていましたが、そもそもモレーラ、セルヴェラ、クーパーが初演者なのだそうです。ついでに書くと、今回の公演のプログラムは買いですよ。作品情報と説明が詳細な上に、すべての作品にモレーラのコメント、各作品を踊るダンサーたちのコメントも掲載されています。

  3人の出演者の役ですが、妻がモレーラ、おそらくはその夫がキッシュ、妻の愛人がセルヴェラだと思われます。妻は雑にまとめただけのぼさぼさの髪で、ワンピースを着てエプロンをかけています。夫は白い長シャツにデニムというイギリスのブルーカラー風の服装です。夫はテーブルの上に突っ伏しています。同じテーブルの上に、大きな包丁が突き立てられています。やがて夫が起き上がり、大きな包丁はテーブルの引き出しの中にしまわれます。

  夫は当初、妻に対して横暴に振る舞います。しかし、次第に状況が変わってきます。セルヴェラがいかにもジゴロ風な出で立ちで現れます。妻はその男と戯れます。夫の態度は徐々に弱気なものになっていきます。妻は愛人と夫とに交互にしなだれかかり、妻は夫に対して完全に優位に立っていくようでした。

  しかし愛人の男は去ってしまいます。妻と夫がいつもの生活に戻っていくかに見えた次の瞬間、愛人の男が闇の中から再び姿を現します。愛人の男が見つめる中、大きな包丁がしまわれた引き出しが開けられます。夫はテーブルの上に突っ伏します。そして…

  そこで終わり。うわ~、ラストがどうなったのかすっごい気になる~!!!妻は結局、夫を殺してしまったのか?それとも最初と最後は同じ時間を表わしていて、作品は妻が夫を殺すに至る過程を描いていたのか?振付はモダン?コンテンポラリー?分かりませんが、 振付は大したことない 振付よりも物語の結末が気になる作品でした。

  モレーラがコメントで述べていることには、「ネマイアにとっては新しい作品ですが、彼の持つ人間性とカリスマは、かつてのアダム・クーパーを思い出させるものです」だそうです。この作品の初演時の批評で、クーパーが褒められていたのを読んだ覚えがあります。モレーラにもこう言ってもらえると、なんか嬉しいですね。あと、キッシュは確かにこうした作品に向いていると思います。

  夫役のキッシュの演技は非常に良かったのです。妻に対して横暴な夫だったのが、妻に浮気されて立場が逆転し、弱々しい、情けない態度をとるようになっていく様子がすごくリアルでした。キッシュはキラキラ王子様より、こうした複雑な演技が重要な役のほうが適しているかもしれない、と思いました。


 メタモルフォシス:ティツィアーノ2012「トレスパス」よりパ・ド・ドゥ(振付:アラステア・マリオット、クリストファー・ウィールドン、音楽:マーク=アンソニー・タネジ)

   サラ・ラム、スティーヴン・マックレー

  これも日本初演。「メタモルフォシス:ティツィアーノ2012」とは、英国ロイヤル・バレエ団が上演したトリプル・ビルの名前で、「トレスパス」が作品名です。モニカ・メイスン前監督の退任記念に作られたそうです。

  ラムはオフホワイトの短いレオタード、マックレーは同色のショート・パンツだけでしたが、上半身と脚を白く塗っていたようです。振付は中国雑技団の軟体組体操みたいでした。マックレーとラムの身体能力を十二分に活用した振付で、人体の驚異といった観点からは良い振付といえるのかもしれませんが、これを「踊り」に分類するのはちょっと無理があるように思います。

  ラムとマックレーの動きはなめらかとは言い難かったし、動きが音楽(だっけ?)にも合ってないし。ウィールドンがこんな振付を?と奇妙に思いましたが、プログラムによると、このパ・ド・ドゥはマリオットが振り付けたんだそうです。私個人にとっては、なにか釈然としない作品でした。


 「エリート・シンコペーション」より「スウィート・ハート」(振付:ケネス・マクミラン、音楽:スコット・ジョプリン)

   崔由姫、リカルド・セルヴェラ

  セルヴェラの踊りと演技にまたもや感嘆。本当に作品によって雰囲気を自在に変えられる人だわ。セルヴェラもそうだし、崔さんもそう。というか、ロイヤルのダンサーたちはほとんどみなそうなんだよねえ。瞬時に舞台をその作品の世界にしてしまうことができます。

  おそらくはじめてガールフレンドを踊りに誘ったのか、セルヴェラ演ずる青年がリードに慣れなくて慌てる様子がほほえましかったです。しかも、あわてる様がちゃんと踊りになっている。そういえば、『マノン』のレスコーもセルヴェラの当たり役だな(第二幕の酔っ払い踊り)。


 「アスフォデルの花畑」より第2楽章(振付:リアム・スカーレット、音楽:フランシス・プーランク)

   ラウラ・モレーラ、ベネット・ガートサイド

  モレーラは黒に近いグレーのワンピース、ガートサイドは同色の上衣にズボン。モレーラが着ていたワンピースのデザインが、シンプルだけど非常にセンスが良かったです。「アスフォデルの花畑」は、ギリシャ神話にある冥界で、死者の魂が最初に行く場所のことだそうです。

  この作品は、私は気に入りました。振付が不思議に美しくて、とても印象的です。スカーレットが4年前に作ったものだそうですが、なるほど、ロイヤル側が推すだけあるな、とはじめて思いました。この前のコジョカルのガラで上演された「ノー・マンズ・ランド」と雰囲気は似ていますが、こちらの作品のほうがとっつきやすいと思います。

  女性と男性が左右対称で踊るときの両腕の動きや、複雑で美しいリフトが特に印象に残りました。処々にクランコやマクミランぽい振りが出てきますが、まったくの物真似ではありません。プログラムによれば、スカーレットの振付にはアシュトン的な要素もあるそうですが、この作品を見る限りは分かりませんでした。

  スカーレットは2012年にダンサーを引退し、現在は振付に専念しているそうです。スカーレットの特徴は、クラシック音楽を徹底的に聴きまくっているらしいこと、意欲的に広汎な知識を吸収し続けていることのようです。スカーレットは振付で何を表現したいのか、何を言いたいのか、何を問いたいのか、いずれそういったものが見えてくるかもしれません。そうなったら、もう立派な振付家でしょう。

  (その3に続く。ひえ~、長いわこの公演)

  
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ロイヤル・エレガンスの夕べ(8月9日)-1


 ロイヤル・エレガンスの夕べ(8月9日、於日本青年館ホール)

  会場の日本青年館ホールにははじめて行きました。国立競技場と神宮球場の隣です。前の数列の席は、ダンサーの爪先どころか足がほとんど見えませんが、そうわるいホールではないと思います。客席の傾斜もほどよく、前の人の頭で舞台が見えないということもありませんでした。

  ところで、神宮球場って、「明治神宮野球場」の略だったのね。球場の入り口にかかっていた「明治神宮野球場」っていう看板見て、「へ~、明治神宮に球場があったのかあ、知らなかったな~」と一瞬思ってしまった。

  牛丼食ってビール飲みながら野球観戦したいなあ。


 『真夏の夜の夢』よりタイターニアとオベロンのパ・ド・ドゥ(振付:フレデリック・アシュトン、音楽:フェリックス・メンデルスゾーン)

   ラウラ・モレーラ、ツァオ・チー

  英国ロイヤル・バレエ団のモレーラとバーミンガム・ロイヤル・バレエ団のチーがペアを組んでの踊り。こういう試みは良いと思います。モレーラは金髪ではなく、地毛と同じダーク・ブラウンのウィッグ。

  モレーラの動き方がいちいちツボにはまる絶妙さ。特に腕の形や動きがいかにも妖精らしくて良かったです。今回の公演は、「演技が良かった」などと書く必要は端からないようなダンサーばかりが出ているので書きません…といきたいが、やはりモレーラは雰囲気作りが上手い。妖精独特のいたずらっぽさと、女王らしい気の強さとを併せ持つタイターニアでした。


 「レクイエム」よりパ・ド・ドゥとソロ(振付:ケネス・マクミラン、音楽:ガブリエル・フォーレ)

   崔由姫、ネマイア・キッシュ

  キッシュは白に淡い色合いの模様が入った全身レオタード、崔さんはチュニック型の簡素な白のワンピース。

  パ・ド・ドゥの振付が絶品でした。男女ともに四肢を長く伸ばした動きがメインで、リフトはやや複雑、しかし流れるような美しさを持ち、マクミランキター!と思いました。身体を折り曲げた状態の女性ダンサーを男性ダンサーが回転させて、次の瞬間に女性ダンサーが身体をぐっと伸ばして開脚するとこなんかは、「コンチェルト」第2楽章に似てます。

  崔さんの身体の線がきれいでした。キッシュは例によってリフトがちょっとガタガタしてましたが、崔さんを美しくぶんぶん振り回してました。


 「エニグマ変奏曲」よりトロイトのソロ(振付:フレデリック・アシュトン、音楽:エドワード・エルガー)

   リカルド・セルヴェラ

  このソロは日本初演だそうです。じゃあ、「エニグマ変奏曲」の全篇上演は、日本ではまだ行なわれていないということ?これは意外。英国ロイヤル・バレエ団の日本公演や、Kバレエあたりでもうやってると思ってたよ。

  トロイトというのは、エルガーの友人の名前だそうです。セルヴェラはからし色のコーデュロイの上着、茶色のチェック柄のベストに茶色のコーデュロイのズボンで、ちょびヒゲ。

  こっちはアシュトンキター!という感じで、とにかく細かくて速い動きとステップで構成されていました。セルヴェラの動きを見て、なぜか「プロの登場だ」と思いました。踊りにたるみやぎこちなさがなく、音楽にバッチリ合わせて完璧に踊ります。このトロイトさんはせっかちな人物らしく、細かい速い動きにも関わらず、こういう人っていそうだよな、と思わせるリアリティを感じさせます。

  セルヴェラはちょっと上向いた気取った表情で、コミカルな雰囲気を漂わせていました。これほどのダンサーなのに、ロイヤルがセルヴェラをプリンシパルに昇進させないのは本当に不合理なことだと思います。能力的にはプリンシパルになれないはずのダンサーだって、プリンシパルになってるっていうのに。


 「コンチェルト」よりパ・ド・ドゥ(振付:ケネス・マクミラン、音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ)

   佐久間奈緒、ベネット・ガートサイド

  当初参加予定だった平野亮一さんは、怪我により出演できなくなったそうです。そこで、英国ロイヤル・バレエ団お笑い担当であるベネット・ガートサイドが急遽登板ということらしい。プログラムのダンサー紹介の写真からしてふざけてるでしょ(笑)。なんでよりによってこんな写真を(笑)。

  第2楽章です。衣裳は佐久間さんもガートサイドもオレンジでした。この作品は、小林紀子バレエ・シアターの公演で何度か観ていて、個人的に島添亮子さんの繊細な動きが基準になってしまっています。それに比べると、佐久間さんの踊りはやや大味な感じでした。

  ガートサイドは真面目にパートナリングをしてました(当たり前だ)。でもなんだろう、そこはかとなく漂うこのお笑い感は。


 『眠れる森の美女』より第3幕のパ・ド・ドゥ(振付:マリウス・プティパ、音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー)

   サラ・ラム、スティーヴン・マックレー

  英国ロイヤル・バレエ団の高偏差値ペア。ふたりとも金髪碧眼に純白の衣裳で、本当に絵本から抜け出したようなお姫様と王子様でした。ラムは髪を上にまとめて、まばゆいほどの白い肌、ほっそりした頤、長くて華奢な首と肩とがいっそう美しい。

  マックレーは、先日のコジョカルのガラで「黒鳥のパ・ド・ドゥ」を踊ったときは、わざと悪い王子様を演じてました。でも今回はちゃんと良い王子様でした。マックレーは作品のTPOをきちんとわきまえられる人です。

  アダージョは最高でした。こんなにツボにはまるアダージョを観たのは久しぶりかも。英国ロイヤル・バレエ団の『眠れる森の美女』独特(?)の、3回連続逆さまリフトがバッチリ決まりました。力持ちのマックレーもすごいし、空中で体勢を決して崩さないラムもすばらしい!3回目はキープが非常に長く、客席から拍手が湧き起こりました。

  ヴァリエーションは、マックレーは少し振付を変え、ダイナミックな技を入れてました。ただし、この間の「黒鳥のパ・ド・ドゥ」ほどではなく、やはり作品の雰囲気を壊さない程度にやってるようです。ラムのヴァリエーションも丁寧できれいでした。オーロラ姫のあの両腕の動きは、花嫁のヴェールを手繰っている様を表現しているんだそうです(と吉田都さんが言ってた気がする)。

  ラムのオーロラ姫は、初々しい笑顔で、つつましく、嬉しそうにヴェールの感触をいとおしんでいるようでした。

  コーダですが、マックレー、さすがにやりすぎです。ま~た「仰向けジャンプ」で舞台一周。ラムもやりすぎ。なにもグラン・フェッテをわざわざ入れる必要はないでしょ。おかげで、ラムは最後、ちょっとバテちゃったようでした。最後にスタミナ切れするような凄技や、作品の雰囲気を壊してしまうような改変はやってはダメです。

  マックレーが最後に「長時間ろくろ回し」をしてたけど、これも頑張りすぎで、終わりのポーズでラムが少し遅れました。すんでのとこで二人は動きを揃えましたが。コーダはちょっと羽目を外しすぎた感がありました。

  (その2に続く)

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ロジャーズ・カップ ロジャー・フェデラー総括


  まずはじめに、ダジャレみたいな大会名ですな。


 2回戦 対ピーター・ポランスキー(カナダ)

   6-2、6-0

  スコアと試合時間(51分)ほどには良い試合じゃなかったのでは?「フェデラー完勝」とか、「フェデラー、ポランスキーを料理」とかいう表現は合わないと思います。

  フェデラーは第1セット、自分の最初のサービス・ゲームをブレークされるわ、凡ミスは多いわ、ダブル・フォールトを何度もやらかすわ、プレーに一貫性の感じられないバラバラ感が満載だわで、観ていてつまらなかったです。フェデラーの勝因は、ポランスキーが弱すぎて、勝手にどんどんミスしてくれたからじゃないでしょうか。

  でも、このポランスキーは1回戦でイェジィ・ヤノヴィッツに勝ったんだよねえ。ポランスキーとヤノヴィッツの1回戦はたまたま観ましたが、激戦なように見えました。ポランスキーのあの戦意と根性はどこに行ったのでしょう。それとも、ヤノヴィッツがよほど調子が悪かったのか?髪の毛を金髪にしてパーマをかけたとこを見ると、ヤノヴィッツはグレたのかもしれん。

  ウィンブルドンから1ヶ月ぶりの大会、しかも約半年ぶりのハード・コートの試合で、フェデラーは勘が戻っていなかったのかもしれません。GAORAの解説者は、フェデラーのミスの多さについて「フェデラーはいろんなショットを試しています」、「練習しています」などと言ってました。こうした言い方はポランスキーに非常に失礼です。

  確かにフェデラーは試合を通じていろいろ試してたようでした。しかし、それはそれで、見ていて決して愉快なものではありません。また、鼻ほじりながら片手でテキトーに打ってるような印象のプレーでした。もっと気迫が感じられればよかったのですけどね。

  もっと深刻なのは、フェデラーがウェアのカラー・コーデで再びやらかしてしまったことです。我が日本の誇る新幹線清掃チームの制服に似たデザインのアマガエル色のシャツに、シャツと色がまったく合わない青パンを穿いていました。

  一方、ポランスキーのシャツはスイカ柄だったので、試合はさながらアマガエル対スイカの様相を呈することとなりました。

  そういえば、去年の全米オープンの夜試合で、フェデラーが着ていたウェアのカラー・コーデも変でした。どうも秋のハードコート・シーズンになると、フェデラーの色彩感覚は誤作動を起こすようです。お願いだから、誰かフェデラーに教えてやって下さい、「そのウェア、シャツとズボンの色が合ってないよ」と。

  でも、フェデラーのシャツのデザインが新幹線清掃チームの制服と似てるのは、たった7分間で車内清掃を完璧に終わらせる彼らを見習って、試合を更に驚異的な速さで完璧に進めたいという、フェデラーの強い意思の表れなのかもしれません。(FedExがいじけないといいんですが。)


 3回戦 対マリン・チリッチ(クロアチア)

   7-6(5)、6-7(3)、6-4

  試合は現地(トロント)時間の7日夜、日本時間では今日8日の午前に行なわれたので、録画予約して家を出た。帰宅して録画を確認したら、最後が切れてた。それも、第3セット、フェデラーが5-4とリードしてのフェデラーのサービス・ゲーム、つまり、フェデラーがキープすれば試合に勝つっていう重要なゲームで。しかも、ポイント30-15といういいところで。嫌がらせにはこの上なく絶妙なタイミングである。見事だ。

  最後は、チリッチの絶体絶命な顔のどアップで静止した。それを前に、私も絶体絶命な顔で静止したことは言うまでもない。

  番組が延長されたら、録画も延長するように設定してあるんだけど、なぜこうなった?理由は不明だが、GAORAは今日の夜11時から、フェデラーとチリッチの試合を再放送するという。おそらく視聴者から苦情が殺到したに違いない。ということは、GAORAのほうに何か気まずい事情があるのだろう(番組表用の番組情報を更新しなかったとか)。

  というわけで、とりあえず録画されている部分を観といて、残りは再放送を録画して後で観るしかない。

  昨夜はスタニスラス・ワウリンカとケヴィン・アンダーソンの試合が面白くて、結局最後まで観戦してしまいました。アンダーソンは、大島渚監督『戦場のメリー・クリスマス』に出ていたデヴィッド・ボウイそっくりの美青年です(残念なことに既婚。奥さんもすごい美女)。

  打ち合いになるとワウリンカが圧倒的に上手いんだけど、ワウリンカはサーブが不調でした。一方、アンダーソンは打ち合いになるとミスが多かったのですが、とにかくサーブがすばらしかったです。最後までよく我慢して、自分から崩れることがありませんでした。

  ワウリンカはアンダーソンのサーブを崩すことができませんでした。試合は接戦だったのですが、運のわるいことに、まず第1セットのタイブレーク、アンダーソンのセット・ポイント、次に第2セットの第12ゲーム、アンダーソンのマッチ・ポイント、これらの大事なところで、ワウリンカはミスをしてしまいました。

  サーブは大事なこと、途中のプレーがどうあれ、重要なポイントを取れるか取れないかで勝敗は決まってしまうことをあらためて思いました。

  
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小林紀子バレエ・シアター「マクミラン・トリプルビル」主要キャスト


  今月の23日(土)、24日(日)に行われる、小林紀子バレエ・シアター「マクミラン・トリプルビル」の主要キャストです。コジョカルのガラを観に行ったとき、会場入り口でもらったチラシに書いてありました。


 「コンチェルト」

  第1楽章:真野琴絵、上月佑馬(両日)
  第2楽章:島添亮子、ジェームス・ストリーター(両日)
  第3楽章:喜入依里(23日)、高橋怜子(24日)


 『三人姉妹』

  オリガ:喜入依里(両日)←ほお~。でも、レスコーの愛人をあれほど見事に踊ったもんね。
  マーシャ:島添亮子(両日)
  イリーナ:高橋怜子(両日)
  アンドレイ:照沼大樹(両日)
  ナターシャ:萱嶋みゆき(両日)←うん、萱嶋さんならうまく演じられると思います。
  クルイギン:後藤和雄(両日)
  ヴェルシーニン:アントニーノ・ステラ(両日)


 「エリート・シンコペーションズ」

  ベセーナ・ワルツ:
   高橋怜子、ジェームス・ストリーター(23日)
   島添亮子、アントニーノ・ステラ(24日)←ええっ!?びっくり!!!

  カリオペ・ラグ:喜入依里(両日)

  フライデイ・ナイト:冨川直樹(23日)、上月佑馬(24日)

  ザ・ゴールデン・アワーズ
   萱嶋みゆき(23日)、真野琴絵(24日)、後藤和雄(両日)


  今回は、ダンサーのみなさんにとってすっごいタフな舞台となりそうです。いちばんの驚きはやはり、「エリート・シンコペーションズ」に島添さんとステラが出ることですね。小林紀子バレエ・シアターがこの作品を上演するたびに観てると思いますが、島添さんがこの作品に出演したことはなかったと思います。

  もう一つの注目点である演奏(ピアノ)では、ポール・ストバートが『三人姉妹』(チャイコフスキー)、中野孝紀さんが「コンチェルト」(ショスタコーヴィチ「ピアノ協奏曲第2番」)と「エリート・シンコペーションズ」(スコット・ジョプリン)を担当するそうです。

  これはすごい面白いことになりました。楽しみです。

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『雨に唄えば』一般発売


  明日8月2日(土)午前10時より、『雨に唄えば』のチケット一般販売が始まります。事前にチケットが売り切れる可能性はまずないと思いますが、土日や祝祭日はさすがに混むだろうと思われます。

  どうしても土日や祝祭日しか観劇の時間が取れないというみなさまは、お早めのご購入をお勧めします。席は断然、前の方がよいと思います。『雨に唄えば』は舞台近くで観たほうが楽しめるタイプの作品です。

  『雨に唄えば』ウエスト・エンド公演が行なわれたパレス・シアターは、ロンドンの老舗劇場基準では大きいうちに入るとはいえ、日本の大規模劇場に比べると小さいです。また、パレス・シアターは古いだけに座席が小さく、列と列との間隔もすごく狭かったのです。それだけに空間密度が濃かったといいますか、多少後ろの席でも舞台との距離をさほど感じない作りでした。

  一方、日本公演の会場であるシアター・オーブは最新の劇場ですので、座席はゆったり、列間隔は広く、天井も高いのではないでしょうか?座席表と写真を見る限り、客席は縦長で奥行きが深いように見受けられます。もし後方センターか前方サイドかで迷われた場合は、サイドでも前方席のほうがよいと思われます。

  『雨に唄えば』公式フェイスブックに、アダム・クーパー来日記者会見のダイジェスト(10分ほど)がアップされていました。アダム、この宣伝活動のために、わざわざシェイプ・アップしてきたのかしらね?めっさ痩せてますね。それはともかく、このインタビューの中で、アダムは日本のファンについて興味深いことを言っています。

  「自分がまだ若いバレエ・ダンサーだったときから、ずっと僕のキャリアについてきてくれています。僕のキャリアが多岐にわたっていたため、僕のやることについていけない人々もいたと思います。でもここ日本のファンのみなさんは、僕のキャリアをずっとフォローしてくれました。そのことに対して、僕は感謝の気持ちでいっぱいなのです。」

  普段は飄々としてお気楽な感じのアダムですが、やはり自分のファンの人々のことをよく見ている、と感じました。アダムがバレエから遠ざかったとみるや、アダムを見下した発言をし始めた人々が、特にバレエ関係者の中には複数いました。私もアダムがバレエから完全に離れることには反対でした。何にチャレンジしてもいいけど、バレエはちゃんと踊り続けてほしい、とずっと思っていました。

  でも、『雨に唄えば』を観たとき、私は心の底からアダムに降参しました。アダム、あなたの選んだ道は正しかった、あなたが頑張ってきたことがようやく実を結んだね、私の負けだよ、ごめんなさい、と。

  『雨に唄えば』の舞台の上にいたのは、「ダンスを得意とするミュージカル俳優」というシンプルな語では表現しきれない人物でした。彼は実に軽々と、なんでもない様子で、凄まじいほど鋭いタップを床に刻み、降りしきる雨の中で、靴が水にどっぷり浸かりながらも、水の重さを感じさせずに跳躍し、水を自由自在に操って、水の線を自分の手足の延長にしていました。

  そして、どんなに激しく踊ろうが、女性出演者たちを次々とリフトしようが、息切れひとつせずに自然にセリフを言い、歌までも歌ってのけました。彼は最初から最後までほぼ出ずっぱりの状態でしたが、最後までパワーが落ちることはありませんでした。なによりも、彼はすごく楽しそうで、すごく幸せそうでした。

  それでもう充分でした。彼は勝ったのです。

  彼のやることを、どこか皮肉な目で見続けていた私は負けました。負けてあんなに嬉しいことはありませんでした。

  さあ、みなさんも、アダム・クーパーが降らす雨に打たれに行きましょう!「幸せになれるよ、雨の中で、歌い、踊れば!」


  念のため:インタビューで、ジーン・ケリー主演のオリジナル映画を、子どものころはもちろん観て大好きだったけど、今回の公演に当たっては観なかった、とアダム・クーパーは答えています。が、これは本人が言っているように、前人の演技の影響を受けるのが怖いせいなのです。ジーン・ケリーに挑戦しようとか、超えようとか、大それたことを考えているわけではありません。

  以前、他の作品についても、彼は前人の演技を見て物真似に陥るのが怖いので、あえて見ないようにしている、と答えていました。ジーン・ケリーとフレッド・アステアは、クーパーが憧れ尊敬している存在です。

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