新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』(5月6日)‐2


  そうそう、このイーグリング版は、

プロローグ、休憩時間、第一幕・第二幕、休憩時間、第三幕

という構成で上演されます。この作品は上演の割り振りが本当に難しい。第一幕と第二幕をまとめて上演するのでは、オーロラ姫役のバレリーナの負担が半端ないと思うのですが、まあ仕方ないのかな。

  第二幕での村人と貴族が一緒に踊る群舞がやはり見ごたえがありました。八幡顕光さんがさりげなく村人代表で踊っていたり、リーディング・ダンサーが大勢紛れ込んでいたから当たり前ですが、やはり振付の出来そのものも良いんだろうと思います。

  ただ、次の葉っぱ軍団(「森の精」らしい)、あれだけはなんとかならんか。いや踊りじゃなくて、あのミドリムシみたいなド緑のチュチュ。あの衣装にはどーもまだ違和感があります。

  日本はアベノミクス効果で好景気なのか、それとも隠れ不景気なのかどうかは知らんが、この作品の舞台装置には見るからにカネかかってます。背景幕は一切使用せず、セットはぜーんぶハコモノ。プロローグでカラボスが乗って来るデカい蜘蛛も機械仕掛け(足がわさわさ動く。ひえ~)、第二幕でリラの精が王子を眠れるオーロラ姫の許へ導く銀の舟もハリボテじゃなくて、遠隔操作で全方位に動きます。ああいう大がかりな装置が大好きな前芸術監督のデヴィッド・ビントリーが羨ましがるだろうなあ。

  ウェイン・イーグリングは、目覚めたオーロラがデジレ王子といきなり恋に落ちて結婚するのは不自然だという理由で、現在はほとんど演奏されなくなっている『眠れる森の美女』の間奏曲を使って、あの「目覚めのパ・ド・ドゥ」を新たに加えました。初演時に観たときに、なんだかマクミランの『ロミオとジュリエット』の「バルコニーのパ・ド・ドゥ」みたいだな、と思ったのですが、今回もそう思いました。というか、あれは明らかにマクミランへのオマージュですね。二人で踊って、途中で王子のソロがあって、複雑なリフトがあって、最後、極めつけにデジレ王子がオーロラ姫に濃厚なキスをするもん。

  でも、あの目覚めの音楽がないのは、なんだかカタルシスがないというか、ユーリー・グリゴローヴィチの『白鳥の湖』最終幕で、王子がオデットを探して現れるべき音楽になっても、王子がいつまでも現れないときのイライラにも似たもやもやした感じを抱かせます。

  第三幕のディヴェルティスマンは、宝石(エメラルド・サファイア・アメジスト・ゴールド)、青い鳥、長靴を履いた猫、赤ずきん、親指トムの踊りとなっています。最後の親指トムの踊りは、確かイーグリングが八幡顕光さんのために特に付け加えて振り付けた踊りだったと思います。今日も八幡さんが踊りました。

  宝石の踊りでゴールドを踊った渡邊峻郁さんが非常に!!!すばらしかったです。真横に跳ぶ開脚ジャンプの力強くまた美しいことよ。筋肉が強いんでしょうね。王子を踊る日も近いと思われます。それとももうとっくに踊っているのか?

  ブルーバード・パ・ド・ドゥはなんと小野絢子さんと福岡雄大さん。正直いまいちな出来だったと思います。あの小野さんが2回もかかと落としたし(これらはたぶん福岡さんのサポートミスのせい)、福岡さんの踊りはどこか重くてキレがありませんでした。でも、フロリナ王女のヴァリエーションは、やはりイギリス系統独特の振付です。聡明な小野さんはもちろんロイヤル・スタイルを念頭に置いているのでしょう、きびきびした動きで踊っていました。小野さんの動きは実に艶やかですねえ。磨きぬかれた輝きという感じ。

  福岡さんは、主役じゃないと踊りがどこかおぼつかなくなるんでしょうね。といっても、本人が意識的に手を抜いているという意味では決してなく、福岡さんは主役を踊るべきダンサーなんです。だから主役でないといけない。そういうダンサーはいると思いますし、そういうダンサーがいけないとは思いません。
  
  長靴を履いた猫の中身は中家正博さんだったらしいです。これまたジャンプ力が凄かった。白い猫の中身は若生愛さんで、脚がきれいで色っぽかったです。

  カーテンコールで、長靴を履いた猫と「赤ずきんの踊り」の狼とが、かぶりものキャラ同士仲良くどつき合っていました。新国立劇場バレエ団の長所は、こういう遊び心が許されるところですね。

  オーロラ姫とデジレ王子のグラン・パ・ド・ドゥでも、ムンタギロフは英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルですから、あの3回連続片手リフトも難なくこなして、ガタつくことなくがっつり決めていました。米沢唯さんのヴァリエーションも優雅でたおやかでした。

  旧ソ連系の『眠れる森の美女』とは違い、クラシック・マイムがふんだんにあり、振付の難度が高く、演技重視、舞台装置がゴージャスなイギリス系『眠れる森の美女』はつくづくよいなあ、どうせなら『ジゼル』も『白鳥の湖』もイギリス系にしてくれないかなー、と思いました。

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