新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』-1


 新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』(11月8日於新国立劇場オペラパレス)


   音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
   原振付:マリウス・プティパ

   改訂・追加振付:ウェイン・イーグリング
   衣装:トゥール・ヴァン・シャイク
   装置:川口直次

   演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
   指揮:ギャヴィン・サザーランド

  プロローグ:約35分、第一・二幕:約65分、第三幕:約45分


   オーロラ姫:米沢 唯
   デジレ王子:ワディム・ムンタギロフ(英国ロイヤル・バレエ団)

   リラの精:瀬島五月(貞松・浜田バレエ団)
   カラボス:本島美和

   国王:貝川鐵夫
   王妃:楠元郁子
   式典長:輪島拓也

   誠実の精:川口 藍
   優美の精:堀口 純
   寛容の精:若生 愛
   歓びの精:五月女 遥
   勇敢の精:奥田花純
   気品の精:柴山紗帆

   四人の王子:井澤 駿、田中俊太朗、池田武志、清水裕三郎

   伯爵夫人:湯川麻美子
   ガリソン(←目隠し鬼ごっこで女性たちにからかわれる人):マイレン・トレウバエフ

   エメラルド:細田千晶
   サファイア:寺田亜沙子
   アメジスト:堀口 純
   ゴールド:福岡雄大

   長靴をはいた猫:江本 拓
   白い猫:若生 愛

   フロリナ王女:小野絢子
   青い鳥:菅野英男

   赤ずきん:五月女 遥
   狼:小口邦明

   親指トム:八幡顕光


  衣装について。青、水色、グレー、藍色、白などの寒色系の色とえんじ色などの地味な色を基調にして、そこに真っ赤な色をアクセントで入れるというパターンのものがほとんどでした。そのせいで、舞台は全体的に寒々しい色合いでした。もっとも、これはプロローグと第一幕までのことですが。

  国王役の貝川鐵夫さんは長身でハンサムな王様。王妃役の楠元郁子さんは相変わらずさすがの演技力で、上品で優しい雰囲気の美しい王妃でした。

  リラの精役の瀬島五月さんは挙措や仕草がとても柔らかく、表情も穏やかで優しげな感じでした。きれいな顔立ちの人です。メイクも上手。何より、その役の雰囲気を作り出すのに非常に秀でています。ゆったりした余裕もあります。

  ただし、テクニック的には少し頼りないところがあるのではないかと思います。最も目についたのは足さばきで、爪先の動きが終始ごちゃごちゃしている印象を持ちました。リラの精のヴァリエーションの最後には、アラベスクでターン→かかとをついてパンシェ、を連続で続ける技があります。ずっと片脚で続けなくてはならない難度の高い技です。見どころなのですが、この部分は変更されていて、ターンをした後に両足を揃えて立ち、またターンという振りになっていました。ちょっと残念でした。

  瀬島さんのマイムはすごく良かったです。オーロラ姫に呪いをかけたカラボスと対話するシーン、オーロラ姫が倒れた後に現れて、オーロラ姫は眠っているだけだと人々を安心させるシーン、悩めるデジレ王子の前に現れて王子に問いかけ、王子をオーロラ姫の許へといざなうシーン、マイムがみなとても雄弁でした。

  瀬島さんのリラの精は優しく、でもどこか神秘的な善霊でした。アンソニー・ダウエル版『眠れる森の美女』映像版で、リラの精を踊っているべナジル・フセインを彷彿とさせました。役柄的には非常に向いていると思います。私好みのリラの精です。

  ヴァリエーションを踊る妖精は、リラの精を除いて通常は5人だと思うのですが、今回は6人でした。川口藍さん、堀口純さん、若生愛さん、五月女遥さん、奥田花純さん、柴山紗帆さんです。ヴァリエーションも6つです。どの精が「新顔」なのかは忘れました。でも音楽は聴いたことがなく、振付も見おぼえのないものでした。

  リラの精の衣装は淡い紫で、スカートに五重の塔みたいな重層フリルがついたチュチュでした。6人の妖精の衣装はなぜかみな同じデザイン、同じ淡い黄色のチュチュでした。それぞれ「○○の精」と役名があってヴァリエーションも踊るんだから、それぞれ違うデザインと色にすればよいのに、と思いました。予算の問題でしょうか。その割に、リラの精を含む7人の妖精が、みな贈り物をお付きの者(←ガキ)に持たせているという、英国ロイヤル・バレエ系の凝った演出だったのですが。

  全幕を通じて、コール・ドは非常によく揃っていて見ごたえがありました。ここでは妖精たちの群舞になりますが、彼女らはテンポ速めの演奏によくついていっていました。スカッと爽快、見ていて気持ちのいい群舞で、思わず「ほおお~」と唸ったほどです。

  去年末から今年初めにかけてのキエフ・バレエ日本公演で、コール・ドがやはりよく揃っていて、それが強い見ごたえ感を与えることを実感しました。通常はヒマくさく感じがちな群舞も、きちんと踊られると強い吸引力を発揮します。やはり揃っているコール・ドは、新国立劇場バレエ団の強みだよなあ、とあらためて思いました。

  (その2に続く)

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