新国立劇場バレエ団『カルミナ・ブラーナ』(4月27日)


  まず関係ない話から。最近WOWOWで夕方から夜にかけて、メトロポリタン・オペラの公演が放映されています。

  ワーグナーの『パルジファル』を観たことは前に書きましたが、先週はモーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』、オッフェンバック『ホフマン物語』、モーツァルト『皇帝ティートの慈悲』と立て続けに放映がありました。

  春愁というのか、疲れのせいなのか、今年はカレンダーの日取りがわるくてゴールデンウィークがないに等しいせいなのか、理由もなく欝々としていたある日、テレビをつけたら『ドン・ジョヴァンニ』が放送されていました。

  家事をやりながら『ドン・ジョヴァンニ』をなんとなく聴いていたら、落ち込んでいた気持ちがなぜか安らいでいきました。不思議だなあと思いつつも、ある農家が栽培する野菜にモーツァルトの音楽を聴かせ続けたところ、よく育って味も良かった、という逸話をふと思い出しました。また、最も好きな音楽家にモーツァルトを挙げる人も多いですね。

  私にはモーツァルトの良さがまだよく分からないのですが、聴いているうちに自分の気持ちが徐々に落ち着いていったこの不思議な現象を経験して、とにかくモーツァルトの音楽には何か特殊な力というか効果があるらしいと感じました。

  ドン・ジョヴァンニは、自分が殺した騎士長の亡霊によって地獄に引きずり込まれます。石像の姿の騎士長が現れ、ドン・ジョヴァンニを地獄に連れていくラスト・シーンは迫力に満ち、『レクイエム』に通ずる鬼気迫る凄絶さを感じさせます。

  ミロシュ・フォアマン監督の映画『アマデウス』(1984年)では、『ドン・ジョヴァンニ』を観たオーストリア皇帝ヨーゼフ2世が、騎士長の石像が現れるこのラスト・シーンで、退屈さのあまり大あくびをかまします(笑)。モーツァルトのオペラが当時は理解されなかったことを示すエピソードの一つですが、今から見ると、逆に退屈に感じたことのほうが理解不可能ですね。

  これまたモーツァルトの有名作である『魔笛』が、当時は大衆向けの俗っぽい出し物だったことも、映画『アマデウス』の中で示されています。モーツァルトとその作品に対する評価と位置づけが、当時と現在とではまったく異なることが分かります。

  メトロポリタン・オペラの『ドン・ジョヴァンニ』では、ドン・ジョヴァンニが地獄に堕ちる瞬間、本物の炎がドン・ジョヴァンニの周りを取り囲んで高く燃え上がっていました。消防隊が一応待機でもしていたんじゃないでしょうか。物凄い勢いでぶしゃしゃー!!!と燃え上がっていて、USJのアトラクションかと思いました。いかにもアメリカ人が好きそうな超ド派手演出で、ほんとカネ持ってんな、メトは。

  ようやく本題。結論から書くと、新国立劇場バレエ団の今日の舞台「ファスター」と『カルミナ・ブラーナ』は、最高の出来だったと思います。

  「ファスター」では、ダンサーたちの動きが非常にきびきびしていて、先週の少しちんたらしていた緩い感じが消えうせました。最後のほうの競歩は特によかったです。女子でやたら速い人がいましたが、どなただったのでしょう。ハーフ芸人のナポ(ポーランドとのハーフで、歩くのが異常に速い)といい勝負だと思います。

  カーテン・コールのときに、ニコニコ笑顔で競歩で舞台を横切る男子も最高でした。今日は拳を振り上げて、「やったどー!」とばかりに観客にアピール。

  先週よりも更にパワーアップしていた印象です。クラシック作品だとあんな動きでは踊れないですから、ダンサーたちが普段は表に見せない強靭さと力を前面に出し、思いっきりパワフルに踊っている姿を観られて、こちらも爽快な気分でした。

  本島美和さん、菅野英男さん、奥村康祐さんによる、走り高跳びと体操をモチーフにしているらしい踊りは、今日も力強く、そして美しかったです。本島さんの身体の美しさに見とれました。上半身が短くて、手足、特に脚がとても長い。空中でスプリットした両脚の線が非常にきれいでした。日本人であれほど体型に恵まれたダンサーはそういるものじゃありません。

  小野絢子さんと福岡雄大さんのパ・ド・ドゥは、先週観た奥田花純さんとタイロン・シングルトンよりもすばらしかったと思います。一つには、小野さんの身体能力のほうが優れていて、動きも鋭くて流麗だったこと、二つには、小野さんと福岡さんの息が合っていたことです。

  このパ・ド・ドゥは、ウィリアム・フォーサイスほどではありませんが、身体を極限まで、また複雑に動かす難しい振りが多い上に、ゆっくりと動きながら二人の身体で一つの模様を作り上げていき、そのまま静止します。男女二人のダンサー個々の能力と同時に、二人の息が合っていることが必須条件でしょう。小野さんは普段、クラシック作品を優雅に踊っている姿しか想像できませんでしたが、今回はワイルドでマッチョな一面が見られて新鮮でした。

  この「ファスター」、2016年のリオデジャネイロ五輪、2020年の東京五輪のシーズンにも合わせて上演してみては?

  『カルミナ・ブラーナ』は、運命の女神フォルトゥーナが湯川麻美子さんでした。さすがというか、長身で存在感があり、長い手足で暗闇を大きく、鋭く切り裂いていく動きがすばらしかったです。動きにもキレがあり、メリハリがきいていました。

  冒頭と最後に踊られるフォルトゥーナのソロは、振付者のデヴィッド・ビントリーによると、非常に難しいんだそうです。「ハイ・ヒールを穿かせて、難しい動きの踊りを踊らせたら面白いんじゃないか」と考えたとのこと(んな簡単に)。でも、湯川さんは盤石の安定感でした。

  湯川さんには大人のセクシーさがあって、神学生3のタイロン・シングルトンとのパ・ド・ドゥは、ほどよいエロティックさが漂う印象的な踊りになりました。シングルトンのパートナリングもよかったし、ためらいなくシングルトンの身体の上に乗り上げていく湯川さんの度胸もすごかった。湯川さんとシングルトンの身体で作る形がとても美しかったです。

  ラストで、神学生3のタイロン・シングルトンが、自分と手をつないでいるのが運命の女神だと気づいたとき、湯川さんのフォルトゥーナはシングルトンのほうを凄味のある目つきでじろり、と睨みつけます。あの目つきは凄かった。そして、冷酷で容赦ない雰囲気の表情のまま、隙のない鋭い動きで、冒頭と同じソロを踊ります。フォルトゥーナはもう湯川さんの当たり役だよね。

  神学生1の菅野英男さんがすばらしい踊りと演技を見せました。まず、菅野さんの踊りの美しさに見とれました。ゆっくり丁寧に踊っていました。動きとポーズが、どこを切り取ってもきれいでした。それまではお堅かったであろう神学生が、思春期男子みたいな甘ずっぱい恋心を少女に抱く様もよく表現されていました。

  …ところで、淡い初恋を描いているのであろう第1部の神学生1のソロにも、けっこーアブない振りがあるよな。

  神学生2は八幡顕光さん。この日の最優秀ダンサー賞では。最初のソロでは、おそらく他のキャストはやらなかったであろう超絶技巧を次々とくり出していました。それらの技が決まる決まる。しかも、超絶技巧を売りにするダンサーにありがちな、音楽無視という弊にも陥ることがありませんでした。音楽にきっちり合わせて踊ります。テンポの速い音楽だったのに、動きが一々きれいで、ことごとく音楽のツボにはまってました。八幡さんのソロが終わると、たまらず観客から大きく拍手喝采。

  八幡さんが登場する第2部の男子の踊りはみなよかったです。「ファスター」と共通しますが、優雅な「おバレエ」とはほど遠い、男子らしい元気で生き生きした踊りでした。

  ビントリーの『カルミナ・ブラーナ』は、結局のところはセックスをテーマにしてると思います。第2部は、男の性的エネルギーが暴力、酒やドラッグの摂取という形で発散される様を描いています。バレエですからだだ漏れではありませんが、第2部の男性ダンサーたちの踊りには、抱えているフラストレーションを荒々しく発散させている感じがよく出ていました。

  第3部のラストは、相変わらずダイナミックでカッコよかったです。白い布が舞台いっぱいに大きく翻るとこなんか最高だね。そして、踊るフォルトゥーナたちと、その後ろで回る運命の輪。この『カルミナ・ブラーナ』とビントリー版『シルヴィア』は、これからも定番演目にしてほしいです。

  新国立劇場合唱団のみなさんは、今日も良い歌声を響かせていました。カーテン・コールでは、最も大きな拍手と喝采が送られていました。それを受けて、団員の方々が嬉しそうに笑っているのが見えて、胸に迫るものがありました。この人たちは、歌が好きで歌っているんだ、と。

  後日、もっとしつこい感想を書くかもしれません。今日はこれにて終わり。

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ボーン版『白鳥の湖』日本公演2014


  この秋の9月6日(土)から21日(日)までの2週間にわたって行われるそうです(6日と7日はプレビュー公演)。会場は 東急シアターオーブ です。渋谷ヒカリエの中にある劇場だそうで、私はまだ行ったことがありません。写真を見ると、なかなか大型の劇場のようです。

  日本公演公式サイトが見つからないんだよね。公演チラシももらったんだけど、それにも記載されてない。東急シアターオーブの公式サイトに「オフィシャルサイトはこちら」のリンクがあったのでクリックしたら、ローソンチケットの公式サイト につながりました。

  ザ・スワン/ザ・ストレンジャーの日本公演特別ゲストは、なんとアメリカン・バレエ・シアターのプリンシパル、マルセロ・ゴメス。ローソンチケットの公式サイトにはゴメスのインタビューも載ってます。ゴメス、相変わらずイイ男だ。

  インタビューが行われた時点では、ゴメスはまだ個別リハーサルに入ったばかりのようで、作品の最新の内容についてはよく知らなかったようです。ゴメスも驚いていて、読んだ私もびっくりしたんですが、インタビュアーの方が「オリジナル版にはあった王子の少年時代がなくなってしまった」と言っているんですね。

  これは大きな改変点です。どんな場面に直されたんでしょう。そうだとすると、プロローグ、まだ子どもの王子が寝ていて、白鳥の幻影を夢で見てうなされて起き、母親である女王が王子の様子を見に部屋に入って来るものの、まだ怯えている王子を冷たく突き放して去ってしまう場面、子どもの王子が公務での仕草を厳しくしつけられる場面、そしてラスト・シーン、子どもの王子を白鳥が抱きかかえている場面は、完全に変えられている可能性が高いですね。

  子どもの王子がいなくなると、王子の白鳥に対する感情は同性愛ではなく、親の愛情を求める気持ちだという設定がどうなってしまうのか、興味のあるところです。

  ボーン版『白鳥の湖』はいまやひっきりなしに世界中でツアーが行なわれています。数年前の日本公演を観に行ったとき、舞台装置が変わったのに気づきましたが、あれは運搬と設置をスムーズに行なうために変更したのだと思います。2003年に初めて日本公演が行われた時点では、装置はオリジナル版のままでした。その装置が舞台の最中に倒れたり、動かなかったりしたアクシデントが起きたので、世界中のどの劇場に設置してもアクシデントやトラブルが起きないような装置に変えたのでしょう。

  王子の子ども時代がなくなったのも、おそらく子ども時代の王子役のキャストの問題なのでは?就学期にある子どもを連れて世界中を長期間回るわけにはいきませんから。

  今のところ、日本公演の王子役、女王役、執事役は発表されていません。Matthew Bourne's Swan Lake on Tour によると、公演は春から夏にかけてはイギリスとヨーロッパを、秋にはアジアとオーストラリアを回ることになっています。王子、女王、執事役以外のキャストのほとんどは、このサイトに載っている面々が来るのではないかと思います。

  あと、王子役とザ・スワン/ザ・ストレンジャー役は、少なくとも3組は揃えないといけないと思うので、主要キャストについてはこれから追加発表があるかもしれません。

  どのキャストが踊るのかは当日発表だそうです。これはいつものやり方です。アダム・クーパーが参加した2003年の公演でもそうでした。バレエの現役トップ・ダンサーであるマルセロ・ゴメスが毎回踊るはずはもちろんなく、ゴメスの出演頻度は普通に考えると3回に1回程度だと思います。ゴメスが観たいという方は、チケットを複数枚購入しておくしかありません。ゴメスはプレビュー公演(9月6日と7日)には出ないそうなので、本公演期間でなんとかあたりをつけるしかないです。

  ボーンの『白鳥の湖』か…。私にとっては「もう終わった作品」です。作品がつまんなくなったというのではなく、もうさほど興味が持てなくなったという意味ね。手作り感の漂うオリジナルの姿を離れて、完全に機械的なコマーシャル・ショウと化したことを思い知らされた時点で、さーっと冷めた。

  これはあくまで私個人の感覚です。ボーンの『白鳥の湖』は、一度は観ておいて損はありません。ただし、正統派のきちんとしたバレエじゃないと耐えられない、という方にはお勧めしませんが。

  ボーンの『白鳥の湖』にあまり興味が持てなくなったといっても、アダム・クーパーのザ・スワン/ザ・ストレンジャーこそが、私の中で絶対であることは変わりないです。永遠にそうだろうと思います。

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新国立劇場バレエ団『カルミナ・ブラーナ』(4月20日)


  (美輪明宏主演『愛の讃歌』ポスター。於新国立劇場中劇場前。ここに貼っておけば何かいいことあるかも♪)

  この日、中劇場では美輪明宏様主演の『愛の讃歌』が上演され、中劇場のほうがはるかに黒山の人だかり。新国立劇場の職員さんたちも、オペラパレスよりも中劇場の案内にかかりきりでした(笑)。当然です。私も、バレエより美輪様のほうを観たいなあと思ったもん。エディット・ピアフの物語なら、もちろん美輪さんがシャンソンを歌うシーンもあるんでしょう?美輪さんのシャンソン、凄い迫力だったろうなあ。

  と、(美輪さんの公演はどうせ完売だったんだろーけど)後ろ髪を引かれながらもオペラ・パレスへ。

  ほぼ2か月ぶりのバレエ鑑賞だったので、席に座ったときには、あれ、オペラパレスの席って、こんなにスプリングが強かったっけ?とちょっと慣れませんでした。

  先週日曜日の「N響アワー」(NHK Eテレ)は、奇しくもカール・オルフの『カトゥリ・カルミナ』と『カルミナ・ブラーナ』(2014年1月25日収録)でした。ちょっとした面白い偶然です。こんなことってあるんだよね~。これで脳内が一気に『カルミナ・ブラーナ』モードになり、この一週間は頭の中で『カルミナ・ブラーナ』が鳴りっぱなしでした。

  本日の公演は『ファスター』と『カルミナ・ブラーナ』の二本立て。ともにデヴィッド・ビントリーの振付作品。

  最初に上演された『ファスター』は、2012年ロンドン・オリンピックを記念して作られたんだそうです。初演はバーミンガム・ロイヤル・バレエ。上演時間は40分ほどです。音楽はオーストラリアの若手作曲家、マシュー・ハインドソンのオリジナル曲。衣装はベックス・アンドリュースで、みな競技用ウェアをモチーフにしたデザインでした。体にフィットしたランニングシャツと短パンみたいな。

  振付もオリンピックで開催される各種競技をモチーフにしています。クラシック臭はもちろんなく、でも、かといって各種競技の動きをただ単純に再現しただけのような振りでもありません。奇抜や凡庸に陥ることなく、ときに躍動感と力強さ、ときに静かな緊張感の張りつめる、けれど美しさに満ちた動きの連続で、ビントリーの振付の幅の広さをあらためて実感します。

  ただ、オリンピックを盛り上げる作品として、オリンピック開催年とかに上演して雰囲気を高めるにはいいと思いますが、ぜひまた観たい、しかも定期的に、と思えるほどの作品ではありませんでした。

  ソリスト以外は、新国立劇場バレエ団のダンサーがほぼ総出演だったのでは。「より速く、より高く、より強く」がモチーフなのですから、動きにもう少しキレのよさと鋭さがあればもっとよかったと思います。今回は振付と音楽に追いつくのとで精いっぱいな感じがありました。

  この作品では全体的に走るシーンが多いのですが、今回出演したほとんどのダンサーたち、とりわけ女子たちの走り方は、アスリートの走り方じゃありませんでした。乙女走り。バレエ作品とはいえ、陸上選手たちの動きをモチーフにしている以上は、走り方にももっと力強さがほしいところです。この作品に必要なのは、男女ともにマッチョな美しさだと思うので。「より強く、より美しく。」

  ゆっくりな動きの踊りでは、奥田花純さんとタイロン・シングルトン(バーミンガム・ロイヤル・バレエ)のデュエットが見どころだったと思うのですが、今日は二人のタイミングがあまり合っていないようでした。タイミングさえ合えば、まさに生ける彫刻のような美しい踊りになるでしょうよ。

  その前にあった本島美和さん、菅野英男さん、奥村康祐さんによるリフト耐久レースみたいな踊りは見ごたえがありました。あれは体操をモチーフにしてる踊りなのかしらね?本島さんが空中高くリフトされ、男性ダンサーの両手に自分の両手を置いて、それだけを支えにしながら、180度開脚してそのまま長くキープしていました(鞍馬、鉄棒、吊り輪などでやるような技)。そのポーズがすごく美しかったです。あれには客席からもため息が漏れていました。

  今回の指揮はポール・マーフィー、演奏は東京フィルハーモニー交響楽団でした。東京フィルハーモニー交響楽団による『ファスター』の演奏は、…ひどい部類に入るんじゃないでしょうか?たぶん。特に冒頭部分。東京フィルハーモニー交響楽団の演奏は演目によって出来不出来が激しく、おそらく演奏し慣れていないのであろう曲は徹底的にひどく、演奏し慣れているのであろう曲は徹底的にすばらしくなります。

  『カルミナ・ブラーナ』。ソプラノは安井陽子さん、テノールは高橋淳さん、バリトンは萩原潤さん、合唱は新国立劇場合唱団、合唱指揮は三澤洋史さん。バリトンの萩原さんの声、私は最高に好みです。暖かみと深みがある柔らかい歌声で、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのような声です。

  この『カルミナ・ブラーナ』の歌詞はラテン語と中世ドイツ語とで書かれているらしいんだけど、ラテン語の脚韻を踏んだ歌詞は実に美しいですね。第4曲の「太陽はすべてをいたわる」なんて最高。

  新国立劇場合唱団のみなさんは、相変わらず良い仕事してました。

  以前、待遇改善を求めた合唱団団員を新国立劇場側が辞めさせ、訴訟に発展した件がありました。実質的には雇用なのに、裁判では雇用関係ではないという判決が出て、私は理解できなかったのです。

  でも最近ようやく理解できたのですが、ひょっとしたら新国立劇場は、表向きは「業務委託」形態で団員を働かせているのではないですか?あくまで私の推測ですけどね。違ってたらごめんなさい。

  もし「業務委託」形態だとしたら、「雇用」には相当しないわけです。この実質的には雇用、表向きは業務委託っていう労働形態は、文部科学省が推進している労働形態らしいですね。利点は、働かせている側が働く側を随時随意にクビにできること、働かせている側の税負担が軽くなること(その代わりに働く側の税負担が重くなる)、働かせている側が働く側を労働保険(雇用・労災)に加入させなくていいこと(つまり保険料を半分負担しなくていい)、などだそうです。

  もちろん新国立劇場がこんなセコいことをやっているとは思いませんが、団員を劣悪な労働条件で働かせることは絶対にやめてほしいですね。

  運命の女神フォルトゥーナは米沢唯さん。冒頭のソロはやや不安定でしたが、第3部での踊りはきちんと正確に踊っていたと思います。ただ、迫力不足、威厳不足、冷酷不足、色気不足な感は否めなくて、このへんが物足りなかったです。

  第2部、神学生2の福田圭吾さんがこの日は最もすばらしかったと思います。最後まで息切れしないでダイナミックに踊り続けました。技も抜群の安定感。動き速いけど丁寧。あと、神学生2の「もうこんな禁欲的な生活は真っ平だー!!!神なんていらねー!!!好きなことやって徹底的に欲にまみれてやるー!!!」というフラストレーションをよく表現していました。

  そうそう、第1部の小野絢子さん(恋する女)の踊りは別格に抜きん出ていました。なんで今回はフォルトゥーナを踊らないんだろう?

  また来週観に行くので、今日はこのへんで。

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デビス・カップ スイス対カザフスタン-2


 2日目

  スタニスラス・ワウリンカ/ロジャー・フェデラー対アンドレイ・ゴルベフ/アレクサンドル・ネドビエソフ

   6-4、7-6(5)、4-6、7-6(6)

  私はダブルス観戦の楽しみ方のツボがまったく分からないので、なんかぼんやりしながら観てました。ただ、ゴルベフとネドビエソフのほうが、きちんと戦略を練って、マメに相談をしながら試合していたように思います。ゴルベフとネドビエソフに比べると、ワウリンカとフェデラーはそんなに熱心に打ち合わせをしているように見えませんでした。試合終盤にはそれなりにエキサイトしてたようですが(特にフェデラー)。

  シングルスではワウリンカとフェデラーのほうが強いんでしょうが、シングルスの試合での強さに頼って、ダブルスの試合を力ずくで勝とうとしても無理なんだということが分かりました。

 3日目

  スタニスラス・ワウリンカ対ミハイル・ククシュキン

   6-7(4)、6-4、6-4、6-4

  早ければこの試合の結果で勝敗が決まってしまうわけで。1日目のシングルス第1戦でのワウリンカの調子を見て、大丈夫かいな~、と心配してました。また長引いてるんだろーな、と思いつつ、フェデラー対ゴルベフの試合開始予定時間の夜11時(現地時間6日午後4時)にネット観戦したら、やっぱりセット・カウント1-1で、第3セットに突入中。

  正直、ワウリンカ~、なーんでククシュキンなんぞにセット取られちゃうんだよお(泣)、と思いましたが、ククシュキンだって必死だったんですよね。自分さえ勝てば、その時点でカザフスタンの準決勝進出が決まるわけですから。それにククシュキンは中1日の休みがありました。ワウリンカは前日のダブルスにも出ていましたから、疲労度も違うでしょう。

  1日目の対ゴルベフ戦とは違い、ワウリンカはイライラした様子を見せることなく、良い感じで非常にエキサイトしているようでした。気合いが物凄くて、ポイントを取ると腕を振り上げて雄たけびを上げ、自分で自分を奮起させていました。当然スイス・チームも観客も大興奮の盛り上がり。

  今回もラリー戦が主体でしたが、技の引き出しはワウリンカのほうが圧倒的に多くて、要所要所でいろんなボールを織り交ぜて返していました。対ゴルベフ戦ではそんなことがなかったので、ワウリンカ、今日は余裕があるんだな、と思いました。それでも最後まで食らいついていったククシュキンもすごかった。

  ロジャー・フェデラー対アンドレイ・ゴルベフ

   7-6(0!!!!!)、6-2、6-3

  スコアこそストレート勝ちですが、やはりゴルベフは強かった。第1セットはフェデラーが先にブレークしたのですが、その後にブレークバックされて、結局タイブレークになりました。第3セットもフェデラーが先にブレークしましたが、その直後のゲームでブレークし返されてしまいました。という紆余曲折があったので、試合時間は2時間10分ほどでした。

  フェデラーもワウリンカと同じく連戦の疲れがたまっていたようでした。表情には出しませんでしたが、間を見つけては屈伸運動をしたり、軽いランニングをしたりしていました。ミスが多かったのもそのせいだと思います。

  試合を観た限り、ゴルベフの対フェデラー作戦は、フェデラーのバックハンド側を集中的に狙う、フェデラーを左右に振り回す、そうしてフェデラーにミスをさせ、また空いたスペースにウィナーを決める、というもののようでした。ゴルベフはククシュキンに比べると技も豊富で、ネットに出る回数も多かったと思います。ゴルベフ、恐ろしい子…!(笑)

  でもフェデラーが負ける気配は全然ありませんでした。ブレークした直後にブレークし返されるのは、他のトップ選手の試合でもよく見ます。これが連続すると「ブレーク合戦」と呼ばれるわけです。観ているほうはうんざりなのですけどね。

  第1セットのタイブレークは、フェデラーがなんと7-0でさっさと取ってしまいました。7-0なんてスコア、初めて見たかも。このへんが経験の差なのかもしれません。ゴルベフは緊張して硬くなっちゃったのでしょう。フェデラーはそこで流れをがっちりつかんで、ゴルベフが落ち着く前に、手早く第1セットのケリをつけました。

  第2セットはフェデラーが一方的に試合を進めました。自分のサービス・ゲームは鉄壁でキープする一方、相手のサービス・ゲームでは攻撃をしかけます。こうして第2セットはフェデラー優勢のままさっさと終わりました。

  ゴルベフの対フェデラー作戦、特にフェデラーをコートの両端に左右に振る作戦は功を奏していましたが、これは諸刃の剣で、試合が進むにつれて、ゴルベフの打ったボールがサイドラインを越えてしまうミスが増えてきました。また、ゴルベフのネット・プレーでもミスが増えました。打ったボールがネットに引っかかってしまいます。

  第3セットは、先にフェデラーがブレークして3-1としたのですが、その直後のゲームをブレークされて3-2のタイになりました。ところが、その直後のゴルベフのサービス・ゲームをフェデラーが再びブレークし、4-2としてしまいました。

  相手のサービス・ゲームをブレークすると、ブレークできたことからくる気持ちの緩みや、自分のサービス・ゲームを守らなくてはならないという緊張が選手を襲うということなんでしょうか。

  フェデラーは4-2で迎えた自分のサービス・ゲームはしっかり守りました。これで5-2。こういう気持ちの切り替えと立て直しはやはりすごいと思います。このあたりからフェデラーが勝つことが決定的な流れになってきました。

  フェデラーは次のゴルベフのサービス・ゲームでも攻撃し続け、30-30としました。しかし、ここはゴルベフが勇敢にもしのぎました。5-3。このゲームをブレークはできませんでしたが、でもフェデラーにとっては想定内のことだろうと思いました。

  次のフェデラーのサービス・ゲーム、このゲームを守ればフェデラーが勝利し、同時にスイスの準決勝進出が決まります。この大事なゲーム、フェデラーはゴルベフに付け入る隙を与えず、あっという間に40-0でマッチ・ポイントになりました。最後はゴルベフの打ったボールがネットにかかり、試合が終わりました。

  フェデラーはその瞬間、子どものようにぴょぴょん!っと跳び上がりながら雄たけびをあげました。真っすぐにベンチに駆けていき、スイス・チームのキャプテン、セヴェリン・ルティに抱きつきました(ロジャー・フェデラー、32歳、男性、妻と二人の娘あり)。

  それから我に返ったように、対戦相手のゴルベフ、カザフスタン・チームのキャプテン(プーチン似)、メンバーたちと握手し、言葉を交わしていました。最後にスイス・チームのメンバーたちと抱き合っていましたが、特にワウリンカと抱き合うと、そのままワウリンカを放さなかったのにちょっと感動しました。

  トップ選手の凄さとは、究極のところは勝機を見極めること、それをもとに勝つ流れを作っていくこと、勝利を決める重要なポイントを確実に取ることなどにあるようです。あと、デビス・カップでは、トップ選手を少数揃えるよりも、中堅選手を多数揃えたほうが勝率が高くなる気がします。日本対チェコ、スイス対カザフスタンの試合を観て、そんなことを思いました。

  余談。フェデラーは最近、大事なポイントを取ったときに「ホイヤー!」と叫ぶことが多いです。「やったー!」とか言ってるんだろうけど、これ何語?と疑問に思ってました。この試合でもフェデラーは「ホイヤー!」と叫んだのですが、そのときに実況中継が"hurrah"だと言いました。ドイツ語らしいです。

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デビス・カップ スイス対カザフスタン-1


  「ホーム開催だしこっちはトップ選手が揃ってるから楽ゲー♪」と甘く考えてたら、相手が思いのほか強くて逆に追い込まれてしまった典型例では。


 1日目

  スタニスラス・ワウリンカ対アンドレイ・ゴルベフ

     6-7(5)、2-6、6-3、6-7(5)

  ワウリンカは現在シングルス・ランキング3位、ゴルベフは64位です。誰もがワウリンカの圧勝を予想してたでしょう。

  私もそう思って、フェデラー対ココシュキンの試合開始予定時間(現地時間4日午後3時半、日本時間4日夜10時半)にネット観戦しようとしたら、ワウリンカとゴルベフの試合がまだ終わってませんでした。しかも、ワウリンカが先に2セット取られちゃってる!「ええ~っ!?」ってパソコンの前で思わず声をあげちゃいました。

  試合はちょうど第3セットが始まったところでした。ワウリンカとゴルベフの試合は1時半から始まったので、2セットで2時間もかかったことになります。

  デビス・カップではランキングは関係なくなる、とWOWOWの実況中継が言ってました(日本対チェコの試合で)。そんなものですか。なぜなんでしょう。国を背負って戦うから、勝利への執念や試合にかけるモチベーションが高まるってこと?個人的な栄達欲とかのほうが、よっぽど強いモチベーションになると思うんですが。

  この試合、ゴルベフが強かったのか、ワウリンカが不調だったのか、よく分かりません。でも素人目には、ワウリンカが大乱調だった気がします。第3セットはワウリンカが持ち直し、ほぼ一方的な展開で取りました。あれが本来のワウリンカのプレーだと思います。

  ただ、ああいうラリー戦はワウリンカは得意だと思うのですが、ワウリンカはとにかくミスが多かったです。ひどくイライラしていたようで、試合中にラケットをコートに叩きつけて壊してしまいました。試合終盤になると、休憩中にキャプテンのセヴェリン・ルティからアドバイスされたワウリンカは、それにさえも苛立った様子で、荒々しく言い返していました。

  ゴルベフは一生懸命ワウリンカに食らいついていましたし、終始落ち着いてプレーしていた印象です。日本対チェコ戦1日目のシングルス2試合でも、伊藤竜馬選手(146位)がラデク・ステパネク(47位)、ダニエル太郎選手(190位)がルカシュ・ロソル(40位)らの格上選手を相手に、粘り強い見事なプレーをしていました。あれと同じ感じです。フェデラーも3日目にゴルベフと対戦します。ゴルベフは要注意な相手です。

  窮鼠猫をかむ、という表現は失礼でしょうが、負けて当たり前だと思われている選手が、勝って当たり前だと思われている選手と互角に渡り合うことは確かにあるんですね。でも、伊藤選手と対戦したステパネク、ダニエル選手と対戦したロソルはやはり一日の長があったというか、相手が死に物狂いで躍起になっているときには無理をせず、相手が隙を見せると、それに乗じて一気に勝つ流れを作っていきました。

  ダニエル選手とロソルの試合で解説をしていた松岡修造は、第5セットの中盤あたりからロソルが勝つ流れになっているのを悟ってしまって、ダニエル選手が負けるだろう的なことをつい口にしてしまいました。正直ですね。松岡修造の解説はうるさくてくどくて暑くて辟易しましたが、こういう正直なところが憎めません。なんだかんだいって良い人なんだよね。

  ロジャー・フェデラー対ミハイル・ククシュキン

   6-4、6-4、6-2

  フェデラーは今週発表されたシングルス・ランキングで4位に上がりました。ククシュキンは56位。

  この試合は、グランド・スラム1回戦か2回戦のフェデラーでした。無駄に長丁場となるプレーをせず、第1、第2セットでは的確に重要なポイントを見極めて、それを逃さずにセットを取りました。第1セットはフェデラーのセット・ポイントでククシュキンがダブル・フォールトをやってしまい、第2セットでもククシュキンがダブル・フォールトを犯したのに乗じて、フェデラーがブレークしました。

  第3セットではフェデラーがプレーの質を一段上げて、一気呵成にたたみかけて試合を終わらせました。試合時間は2時間かからなかったと思います。1セットあたり30~40分という時間配分も、いつものフェデラーです。

  ククシュキンはキャプテン(←プーチン似)から、とにかくフェデラーのバックハンド側を狙え、ラリー戦に持ち込めという指示を受けていたようです。しかし、第3セットではがっくりと頭を垂れてベンチに座り込んでしまいました。キャプテンもできるアドバイスがないようでした。

  カザフスタンは東西の挟間に位置する中央アジアの国だけあって、カザフスタン・チームには、東洋系の風貌を持つ人とヨーロッパ/ロシア系の風貌を持つ人が混在しています。カザフスタン・チームのキャプテンは東洋系、アンドレイ・ゴルベフはヨーロッパ/ロシア系です。ミハイル・ココシュキンはその中間のような風貌ですが、あの黒髪と顔つきからすると、おそらくはウクライナか東欧の血が入っているのではないでしょうか。

  一方のスイス・チーム、試合に出場しているスタニスラス・ワウリンカとロジャー・フェデラーの二人だけをとってみても、いろんな民族の血が混ざっています。ワウリンカはその名前からして東欧系だろうと思っていました。やはりお父さんがポーランド系ドイツ人なのだそうです。お母さんはフランス系スイス人。フェデラーのお母さんはアフリカーナー、またボーア人とも呼ばれるオランダ=フランス系南アフリカ人です。お父さんはドイツ系スイス人。

  おそらく、ワウリンカはスイスとドイツ、フェデラーはスイスと南アフリカの二重国籍を持っていると思います。フェデラーに関しては、ルネ・シュタウファーのフェデラーの伝記に、フェデラーとそのお姉さんのダイアナさんは南アフリカのパスポートも所持している、と書かれていました。ワウリンカに関しては憶測ですが、ドイツは二重国籍の所有が許可されているそうです。国籍は多いに越したことはないので、ドイツ国籍も持っている可能性が高いでしょう。

  日本代表として出場したダニエル太郎選手も、アメリカ、日本、スペインの国籍を自由に選べるそうです。日本は多重国籍を許可していませんが、事実上の多重国籍状態になっている、つまり正式な手続きを経て、日本を含む複数の国のパスポートを所持している「日本人」はいくらでもいます(別に犯罪がらみではないよ)。

  デビス・カップは長い歴史を持つ大会だそうですが、人種、民族、国籍のボーダーレス化が進んで、「○○人」っていう定義自体が曖昧になっている今の時代に、こんな大会を開く意義って果たしてまだあるのかな、とちょっと疑問に思いました。

  余談。フェデラーは対ククシュキン戦後、まず会場の観客に向けたインタビューに答えました。試合会場はフランス語圏のジュネーヴにあるので、インタビューはフランス語で行われました。フェデラーはフランス語で答えました。フランス語話者がほとんどなのか、観客がフェデラーの答えにドッと沸きました。

  その後、束ねた数本のマイクがフェデラーの前に差し出されました。これは世界中で放映されたテレビ中継に向けたインタビューのようです。記者がフェデラーに「英語で」と言っていました。フェデラーは英語で答えました。それが終わると、今度はスイス国内のドイツ語放送のテレビ中継向けのインタビューが始まりました。フェデラーはもちろんドイツ語で答えました。

  スイスの言語環境を反映したインタビューで面白かったです。

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