マリインスキー・バレエ『白鳥の湖』(12月6日)


  今回のマリインスキーの公演は観る予定はなかったのだけど、キャスト変更があって、この日の『白鳥の湖』のオデット/オディールはヴィクトーリア・テリョーシキナが踊ることになった。テリョーシキナのオデット/オディールは前に観たときにとても気に入ったので、それでチケットを急遽購入した。ところが、後に更なるキャスト変更があり、この日は結局エカテリーナ・コンダウーロワがオデット/オディールを踊ることになったのだった。

  会場の東京文化会館のロビーには、男性スタッフがいつもより多くいて、なんだか鋭い目つきでしきりに周囲に目をやっていた。今回の日本公演のスポンサーである野村証券のお偉いさんか、官僚のトップか政治家が来ていたのかもしれない。

  オデット/オディールのエカテリーナ・コンダウーロワは、あの長い脚がなんだか別の生き物のように言うことを聞いてくれない様子だった。以前に観たときと同じように、脚を完全にコントロールしきれておらず、脚をもてあましているように見えるときが多かった。片脚で爪先立ちをしたときに、軸足がガタついて震えるのも以前と同じ。

  爪先での細かい動きや回転もなんか粗いというか不安定というか。ウリヤーナ・ロパートキナやテリョーシキナと比べると、テクニック面でまだだいぶん大きな隔たりがあるように思う。

  いちばん分かりやすい例は第二幕の黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥのコーダでのフェッテで、シングルオンリーで回っても別に全然かまわない。ロパートキナだってそうしている。ただし、丁寧に美しく回ってほしい。上げるほうの脚をもっと高く上げて、横にまっすぐ伸ばしてほしい。それに回っている位置からあんなにズレないでほしい(どんどん右前方にズレて進んでしまっていた)。

  同時に、コンダウーロワはテクニック至上主義に走らない情感重視の踊りかというとそうでもなく、雰囲気作りや演技の面でも印象が薄かった。

  ジークフリート王子役のティムール・アスケロフは意外に(ごめん)とてもすばらしかった。特にパートナリングが。あの長身(ネット情報によると178センチもあるそうだ)のコンダウーロワを頭上高くリフトしてもまったくふらつかない。女性ダンサーのピルエットをサポートする「ろくろ回し」でも、コンダウーロワがいつまでもぐるぐる回っている。これは頼もしい。

  アスケロフは単独で踊っても見ごたえがあり、とりわけ跳躍のときには両脚が根元からぐわっと開く。そのときの脚の形が非常に美しく、ジャンプの高さもかなりあった。跳ぶと、アスケロフがすごく長い脚の持ち主だということが分かる。

  演技面では、第一幕第一場では悩んでいる様子などまったく見せず、むしろ終始にこやかで、この時点では結婚も強制されてなかった王子が、第一場の終わりでなんでいきなり憂いに沈んだ表情になって、湖畔に狩りに出かけようと思ったのか判然としなかった。でもマリインスキーの『白鳥の湖』の王子はこれでいいのだろう。

  ロットバルトはアンドレイ・エルマコフ。田北志のぶさんの「グラン・ガラ」にこの夏参加した。エレーナ・エフセーエワと踊った「DEUX」や『ドン・キホーテ』のバジル、カッコよかったな。今回は素顔がまったく想像できないメイクでイケメンを完全封印。でもさすがはプリンシパルで、ロットバルトのソロは大迫力だった。

  その本当はイケメンでカッコいいエルマコフが、第三幕の最後でジークフリートに片方の翼をもぎ取られ、超おーげさに床をごろごろごろごろ転がってのたうちまわるのを見てたら噴き出しそうになった。

  第一幕のパ・ド・トロワと第三幕の2羽の白鳥を踊ったナデージダ・バトーエワが気になった。ボリショイ・バレエでいえば「アンナ・チホミロワ」感がある。次の日本公演では主役を踊ってたりして。

  マリインスキーの群舞はレベル高し。第一幕の時点で、なんかダンサーたちが男女とも高スペックだな、と不思議に思ったが、よく考えたら私はマリインスキー・バレエの公演に来ていたのだった。ここ最近はバレエをほとんど見ていないので、最初から総マリインスキーだと、逆に凄さが分かんないのよ。バレエ浦島太郎状態。

  演奏はマリインスキー歌劇場管弦楽団、指揮はアレクセイ・レプニコフ。演奏に関しては何も心配しなくてもよい、というのはかなりなストレス軽減になる。

  いつだったかのマリインスキー・バレエ日本公演の演奏を担当したロイヤル・メトロポリタン管弦楽団とかいう日本のオーケストラ、まだあるのかな。あれは今でも忘れられない、ある意味すごい演奏だったなあ。あの『シェヘラザード』(リムスキー=コルサコフ)の演奏、今でもよ~く覚えてるよ(笑)。

  演奏は良かったけど、ときおりダンサーの動きに合わせてテンポを不自然に落とすのは不要だと思った。ボリショイ劇場管弦楽団が、ダンサーたちに「演奏についてこい!」とばかりに飛ばしまくるのとは対照的。

  今日は楽日だったようで、カーテン・コールの最後に挨拶の看板が下ろされ、同時に色とりどりのリボン、紙吹雪、風船が舞った。カーテン・コールであっても、それが『白鳥の湖』の場合、白鳥のコール・ドはにこにこ笑ったりしてはならず、両手を前に重ねたポーズを保たなくてはならないらしかったが、それでもどことなく笑顔がみな晴れやかだった。ほのぼのした。

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