新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』-2


  カラボスが登場。蜘蛛の形をした毒々しい緑の車に乗っています。車からは長い蜘蛛の足が何本も前や横に伸びていて、カラボスが座っている車体部分はぶっくりした蜘蛛の腹になっており、いかにも毒グモっぽくて非常にグロい(笑)。手下たちも蜘蛛かコウモリをイメージしているらしく、とがった帽子、口裂け女みたいなメイク、黒っぽい衣装といういで立ちでした。

  カラボスが車から降りてきます。黒に緑を織り込んだドレスで、レース部分は蜘蛛の巣の模様をしています。頭には同じ緑と黒の羽根飾り。美空ひばりか小林幸子を想起させます。黒のストッキングに黒のトゥ・シューズ。

  本島美和さんが本日のカラボス役でした。アイライナーを引いて目を大きく見せ、まぶたには銀色のラメが入ったシャドウを塗っています。舞台の前面に出てきた本島さんを見た瞬間、その強烈なオーラと圧倒的な美しさに、一気に目が引きつけられました。

  ここからカラボスが主にマイムで国王夫妻を詰問し、式典長を責め、オーロラ姫に呪いをかけます。本島さんの表情の作り方と仕草はとても魅力的でした。マイムの意味と演技がぴたりと合っています。自分がこのマイムと演技によって何を表現しようとしているのかを熟知しているようで、実際見ていてカラボスの感情や言っていることがよく分かりました。

  最もすばらしかったのは本島さんの目の演技です。目が大きく見えるメイクをしているのに加えて、歌舞伎役者が見えを切るときのように大きく目を見張り、国王夫妻、式典長、リラの精たちをぎろりと睨みつけます。そのまま唇をぐにっと大きくひん曲げて、ニヤ~リと笑う表情がツボに入りました。

  あの美人の本島さんが、あんなに表情を大きく歪めたのを見たのははじめてで、人間の口ってあんなにひん曲がるんだ、と新鮮に思いました(笑)。もはや変顔の域です。国王夫妻に対して、あざ笑うかのようにわざと大きく身をくねらせて、大仰なお辞儀をするシーンもよかったです。

  カラボスは舞台じゅうをジャンプして回り、手下たちに次々とキャッチされていくという踊りをします。これは振付としては特に優れているわけではないと思いますが、かといって劣った振付というわけでもありません。普通。今回の演出と改訂・追加振付を担当したウェイン・イーグリングは、もっともらしいことを言う割には、演出や振付にさほど秀でているわけではないらしいと、このへんから感じ始めました。

  カラボスを招待客のリストに加え忘れた式典長は輪島拓也さんで、すっかり演技派になりました。『ラ・バヤデール』でも大僧正をやってたように思います。大僧正はシリアスな役、式典長はコミカルな役ですが、コミカルな役もハマってました。

  カラボスの手下たちに引きずり出されて、カラボスに縦ロールのロン毛ヅラをひんむかれ、枯渇寸前の希少資源となっていた残り少ない地毛の髪を引き抜かれていくときの表情が、「あれえ~、お助けを~!!!」という感じで笑えました。もう新国立劇場バレエ団のお笑い担当決定ですね。もう『シンデレラ』の姉たちとかも充分にイケるのでは?(もう踊ってたらごめんなさい)

  そこへリラの精が割って入り、カラボスとマイムで会話します。このマイムはロシア系の『眠れる森の美女』にはなく、すべて踊りになっています。物語のこれからの展開と結末とを予言する大事なマイムなのに加え、マイムの一つ一つが音楽ときっちり合っているので、マイムのほうが踊りよりも適切なように感じます。カラボスとリラの精がマイムのみで静かな対決をくり広げるという見ごたえもあって、私は大好きです。

  更に、こーいう一連のバカバカしい演技を、舞台の上にいたダンサー全員が大真面目にやっていたことに感動しました。これ、嫌味じゃないからね。大いに褒めたい。カラボスの呪いに恐れおののいたり、式典長が枯山水な頭から更に毛髪を引き抜かれているのを見て痛々しい表情をしたり、リラの精がカラボスの呪いの結末を良いものに変えたのを見て安堵したり。

  国王夫妻の貝川鐵夫さん、楠元郁子さんだけでなく、宮廷に集まった人々役のダンサー全員が真剣に演技していました。これぞザ・ロイヤルな『眠れる森の美女』の演技です。おとぎ話だからって手を抜くんじゃなくて、おとぎ話であってもリアルさを追及して大真面目に演技する。まさにプロです。

  プロローグが終わって、第一幕、オーロラ姫16歳の誕生日。国王夫妻がちゃんと年をとって、衣装も変わっていたのになにげに感心。同じ衣装でとおすところも多いから。国王役の貝川さんはヒゲが多くなっていました。王妃役の楠元さんも髪型がプロローグとは変わっていました。

  カラボスの呪いを避けるための、「編み針・縫い針・糸巻き針類の宮廷内持ち込み禁止令」を知らずに編み物をしていた3人の女たちに対して国王が激怒し、斬首を言い渡すマイムがありました。王妃が国王の手を優しく握って女たちの命乞いをし、怒りを解いた国王は女たちを許します。この国王と王妃の一連の演技も、細やかに演出されているのが嬉しい。ロシア系の『眠れる森の美女』では、女たちを殺すよう国王が命じても、王妃はそれを黙って見ているだけ、という演出が多数です。

  国王が女たちに許しを与えると同時に、花のワルツの群舞が華やかに始まります。この花のワルツは誰の振付でしょう?かなりな見ごたえがありました。振付が良かったこともあるでしょうが、やはり新国立劇場バレエ団の群舞のレベルが高いことが大きいでしょう。群舞の踊りはきちんと揃っており、動きにメリハリがありました。

  私はこの花のワルツを、いつもヒマくさく感じていたのです。今まで観たどの版でもダメでした。英国ロイヤル・バレエが現在上演しているモニカ・メイスン版の花のワルツは、クリストファー・ウィールドンの振付です。そのウィールドンの振付でも途中で飽きてしまって、早く終われと思ったくらいです。でも、今回はうんざりしなかったどころか、むしろ見惚れていました。

  オーロラ姫役の米沢唯さんが登場。その衣装を見たとたん、なんだこりゃ?と思いました。純白のチュチュだったのですが、生地の見た目の質感は白い木綿のような素朴な感じで、デザインも、なんていうのかな、すごく子どもっぽい。丸首の襟、胸元に白ボタンとその両脇に数本のタック、カボチャ状にふくらんだ短い袖、飾り気のないスカート。子どもが着る白い木綿のワンピースによく似てる。

  16歳といっても、これから結婚相手を選ぼうっていう年頃のお姫様でしょ。どーもキラキラ感が感じられない衣装で、あまりに地味すぎない?何か意図があるんだろうけど、米沢さんはあのとおりすごく細身で華奢な人で、メイクも超ナチュラルだったせいもあって、うーん、はっきりいって、衣装デザインを担当したトゥール・ヴァン・シャイクはロリコンの気でもあるのか、と思ってしまいました。

  (その3に続く)

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