全米オープン開幕


  来週から本戦が始まるテニスの全米オープンのドローが発表されました。錦織圭君のおかげで、最近なにかと男子プロテニスがメディアにとりあげられるようになりました。おとといの『怒り新党』の「新三大」もマイケル・チャン特集だったし(面白かった!)。いいことだ。

  8月31日(月)より1回戦が始まります。以下、個人的に面白そうだと思った1回戦の試合をトップ・ハーフから。


 トップ・ハーフ


  ボルナ・チョリッチ(クロアチア)対ラファエル・ナダル(第8シード、スペイン)

   WOWOWは絶対にこの試合を放映すべき。チョリッチはまだ18歳と若いんだけど、おそらく将来は世界ランキング10位以内に入ってくるだろう選手。プレーはストローク良し、ネット・プレー良しと、この若さにして引き出しが多くて超攻撃的。天性の勘にも恵まれていることを感じさせます。

   なによりも、このチョリッチは去年のスイス・インドアでナダルに勝っています。ナダルは今年は調子が今いちで、更にチョリッチの多彩且つ先に攻撃を仕掛けるプレー・スタイルは、ナダルとは対照的です。正直この試合は絶対にナダルが圧倒的な勝利を収めるとは断言できないと思います。どちらが最後まで精神的に持ちこたえられるか、我慢大会的な試合になるかも。


  錦織圭(第4シード、日本)対ブノワ・ペール(フランス)

   錦織君が勝ちますよ(笑)。ただ、ペールも天才肌な選手で、このタイプの選手にはありがちなことに、感情や気分の波が非常に激しく、自滅して負けることが多かったのです。それが最近は精神的に落ち着いてきて、本来の実力を発揮するようになってきました。天才肌対天才肌の試合ということで、こちらも要注目。錦織君の試合ですから、WOWOWでもBSでも地上派でも放映されるでしょう。しかしまー、日本人だからというだけの理由で、よくそんなに熱狂的に応援できるもんだ。感心感心。愛国かくあるべし。


  サム・グロス(オーストラリア)対アレクサンドル・ドルゴポロフ(ウクライナ)

   世界最速記録となった時速263キロのサーブを放つビッグ・サーバー、グロスと、これまた最近めざましい活躍を見せている、これまた超攻撃的な天才型選手ドルゴポロフの対戦です。ちなみにドルゴポロフはサーブも強いです。ただやっぱりドルゴポロフも天才肌なだけに調子に波があり、攻撃的でリスクの高いプレーをするのでミスも多いです。

  万が一グロスが3回戦に進んだ場合は、そこで錦織君と対戦する可能性があります(ちなみに錦織君は3回戦までは確実に勝ち上がるでしょう)。


  盧彦勲(台湾)対ミハイル・ククシュキン(カザフスタン)

   ハードヒット対ハードヒットのスピード感あふれる試合が見られると思います。盧彦勲は最近ネット・プレーにも積極的です。ククシュキンは顔は弱そうだが実はつおいのだ。強打と粘りがすごいです。


 ボトム・ハーフ


  ニック・キリオス(オーストラリア)対アンディ・マレー(第3シード、イギリス)

   大爆笑。どーいう試合になるんだか。WOWOWはこの試合もぜひ放送を。いや、マレーが勝つだろうけど、よりによって相手がキリオスってのが笑える。いや逆だな、キリオスが1回戦でよりによってマレーと当たってしまったっちゅ~。これも天罰か。

   20歳のキリオスは試合中の言動が非常に悪く、ラケット叩きつけは鉄板、仕草や態度はガラが悪くて粗暴、悪口雑言・罵詈雑言吐きまくり、対戦相手を挑発、主審や線審に反抗、果てはボール・キッズにも八つ当たり、とまさにやりたい放題でした。いくら警告や罰金処分や批判を受けても、キリオス本人は反省の色まったくナッシング。

   ところが、先だっての試合中、対戦相手のスタン・ワウリンカに対して、「オレのダチがてめえのオンナとヤッた、って言ってたぜ!」と前代未聞の暴言を吐いてしまいました。この暴言のせいで、キリオスはATPから罰金を課された上に、追加処分で「6か月以内にまた問題行動を起こしたら、更に罰金+大会出場停止処分にしてやるぞゴルァ」と脅されて、ようやく「これはヤバい」と思ったようです。今は必死で「良い子」している最中。

   必死で「良い子」しているキリオスをマレーがボッコボコにするのを見て、みんなで笑おう!


  リシャール・ガスケ(第12シード、フランス)対タナシ・コキナキス(オーストラリア)

   で、キリオスが言った「オレのダチがてめえのオンナとヤッた、って言ってたぜ!」の「ダチ」とはこのコキナキスのことです。コキナキスがワウリンカの彼女とヤッたのかヤラなかったのか、真相は藪の中ですが、キリオスの暴言のせいでコキナキスにもマイナスのイメージがついちゃいました。

   ガスケはキリオスとコキナキスとの遭遇率(対戦回数)がなぜかやたらと多く、つい先週のウエスタン&サザン・オープン(シンシナティ・マスターズ)でも1回戦でキリオス、2回戦でコキナキスと連チャンで当たりました。いつもいつもいつも、キリオスやらコキナキスやら、やんちゃなお子ちゃまたちの相手をしなくてはならないとは気の毒です。


  レオナルド・メイヤー(アルゼンチン)対ロジャー・フェデラー(第2シード、スイス)

   メイヤーは去年の上海マスターズ2回戦でフェデラーと対戦し、マッチ・ポイントを何度も握りながらもあと1ポイントを決めきれず、逆転でフェデラーに敗れました。フェデラーが試合後に「自分が勝てたのは運のおかげ」とまで言ったほどなので、この試合も面白くなりそう。メイヤーがどこまで食い下がるかも見ものですが、前回大苦戦したメイヤー相手にフェデラーがどんなプレーをするかが楽しみです。

   現在のフェデラーのプレーは、2年前とはまったく違うものになり、また去年ともかなり違っていて、更に今年の前半とも違ってきています。そのため、対戦相手とのいわゆる「相性」にも変化が生じており、以前は苦手としていた選手も、今はさほど苦にしなくなっているようです。面白いおっさん(34歳)です。

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「グラン・ガラ」(7月26日)


  この公演の正式名称は「ロシアバレエ トップダンサー達によるグラン・ガラ」です。てかもう「『グラン・ガラ』横須賀公演」でよくないかい?

  会場はよこすか芸術劇場です。新しくてきれいな劇場でした。にしては周囲が寂しくて(ダイエーがあるぐらい)、駅前(京急線汐入駅)の商店街もいわゆる「シャッター街」ぽかったです。JR横須賀駅附近は賑やかなんだろうけどね。小さな山がたくさんあって、山の中腹に住宅が平然と建っています。緑が豊かで、海があって、静かで蝉の声が遠くから響いてきて、住むにはいいところだろうなと思いました。

  東京公演とは出演者、演目、上演順にちょっとだけ異同があるので、演目とダンサー名を書いておきます。もう1ヶ月も前の鑑賞で記憶もおぼろげですが、なにか印象的なことを覚えていたらメモしておきます。東京公演で上演されなかった演目についてはちょっとした感想を書きます。


 第1部

 『カルメン組曲』抜粋(音楽:ジョルジュ・ビゼー、編曲:ロジオン・シチェドリン、振付:アルベルト・アロンソ)

   田北志のぶ(キエフ・バレエ)、アレクサンドル・ザイツェフ(元シュトゥットガルト・バレエ団)、イーゴリ・コルプ(マリインスキー劇場バレエ)


  東京公演と同じくすばらしい出来。エスカミーリョ役のコルプが両手で髪を撫でつけてカッコつける仕草をしたとき、客席からクスクスと笑い声が漏れました。コルプ、真面目にやってる…のだろうか(笑)?


 『バヤデルカ』よりガムザッティとソロルのパ・ド・ドゥ(音楽:レオン・ミンクス、振付:マリウス・プティパ)

   オレーサ・シャイターノワ(キエフ・バレエ)、ブルックリン・マック(ワシントン・バレエ)


  今日も見ごたえありました。シャイターノワは本当にどういう関節をしてるのか。


 「DEUX」(音楽:ジャック・ブレル、振付:クレール・ブリアン)

   エレーナ・エフセーエワ(マリインスキー劇場バレエ)、アンドレイ・エルマコフ(同)


  やっぱりこの作品はなかなかの佳作だと思います。リフトがすごくきれい。男性ダンサーに対しては高いパートナリングの技術、女性ダンサーに対しては、辛いリフトをされても姿勢が崩れない筋力や耐久力が必要とされる作品です。ついでにいえば女性ダンサーについては、脚が長くてセクシーなラインを持つことも要求されると思います。


  「瀕死の白鳥」(音楽:カミーユ・サン=サーンス、振付:ミハイル・フォーキン)

   田北志のぶ


  観客はみな田北さんの長くて白い両腕のうねりに目が釘付け。まるで関節や骨がないかのような腕の動きに、終始「ほおお~」というため息が漏れっぱなし。


 『スパルタクス』よりエギナとクラッススのパ・ド・ドゥ(振付:ユーリー・グリゴローヴィチ、音楽:アラム・ハチャトゥリアン)

   マリーヤ・アラシュ(ボリショイ・バレエ)、アレクサンドル・ヴォルチコフ(同)

  ヴォルチコフはなんとか気力を奮い起こし、力を振り絞って頑張っていましたが、それでも動きの重さ、鈍さとパートナリングの不安定さはどうしようもありませんでした。アラシュは全幕でエギナを踊るときは体力をセーブするため、振付を少し変えて踊るのですが、今日は原振付どおりのタフな動きで踊りきりました。

  正直見ごたえあんまりなかったけど、久しぶりにヴォルチコフの美しい生脚を拝めたからいいか(笑)。


 第2部

 『海賊』よりメドーラとアリのパ・ド・ドゥ(音楽:リッカルド・ドリゴ、振付:ワフタング・チャブキアーニ、アレクサンドル・チェクルイギン)

   オレーサ・シャイターノワ、ブルックリン・マック


  マックが今日も飛ばしまくり。コーダ、ジャンプで舞台一周をした後に、一段と高くジャンプして、その瞬間に片脚を下半身ごとぐいっと捻って1回転してきれいに着地。これは東京公演ではやらなかったと思う。観客が大きくどよめいた。シャイターノワは呑まれたのか、直後のフェッテでかかとを落としてしまった。こーいうときは負けてないで自分もそれ以上の凄技やって対抗しなさい。たまにはいいじゃない。


 『愛の伝説』よりメフメネ・バヌーとフェルハドのパ・ド・ドゥ(音楽:アリフ・メーリコフ、振付:ユーリー・グリゴローヴィチ)

   マリーヤ・アラシュ、アレクサンドル・ヴォルチコフ


  振付的に第1部で踊った『スパルタクス』とかぶる。基本的に同じか似たような振りが使われてるもん。フェルハドの青い衣装を「どらえもん」と表現したのは横須賀のお客さんです。言い得て妙。


 「Notations I-IV」(音楽:ピエール・ブーレーズ、振付:ウヴェ・ショルツ)

   アレクサンドル・ザイツェフ


  ごめん、やっぱりヒマくさかった。この作品のすばらしさが分からなくてほんとごめん。


 『シェヘラザード』よりゾベイダと金の奴隷のパ・ド・ドゥ(振付:ミハイル・フォーキン、音楽:ニコライ・リムスキー=コルサコフ)

   田北志のぶ、イーゴリ・コルプ

  田北さんのゾベイダはあまり印象に残らず。この役に肝心な色気やセクシーさが感じられなかった。脚が更に長く見えるハーレム・パンツ効果が出ておらず、上半身をのけぞらせたときの『女豹』系のエロさもなかった。

  一方、金の奴隷役のコルプはゾッとするほど野性的な色気がバンバン。女主人(ゾベイダ)に服従しながらも、ゾベイダの体を貪るように愛撫する。地面に両手をついて這いつくばり、顔を上げてゾベイダを見上げるコルプの目つきは、飢えている野獣そのもの。ゾベイダとの絡みは爬虫類を想起させるエロさに満ちていました。ゾベイダ役の田北さんの身体をなぞるコルプの手の、なんというエロティックなことよ。


  『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ(音楽:レオン・ミンクス、振付:マリウス・プティパ)

   エレーナ・エフセーエワ、アンドレイ・エルマコフ


  コーダでまた音楽が出ず、エルマコフはまたしても苦笑しながら踊り続けました。


 フィナーレ「花は咲く」

  女性ダンサーたちが客席への階段を上り下りする際、男性ダンサーたちがそっと手を貸していたのが紳士的で好印象でした。客席にやって来たバレリーナたちの美しさに、女性の観客たちから「かわいい~!!!」、「きれい~!!!」の声が多数上がりました。

  花を観客に渡し終えたダンサーたちが舞台上にほとんど戻った中、コルプだけがまだ客席を走り回って、まんべんなく観客たちに花を配っていました。客席を一生懸命に走り回るコルプの姿に、舞台上のダンサーたちも、観客たちもドッと笑いながら拍手し、場がいっそう盛り上がり、またすごく暖かい、ほのぼのした空気になりました。

  この公演の総括。


   イーゴリ・コルプ最高!

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「グラン・ガラ」(7月22日)-3


 第2部(続き)

 「瀕死の白鳥」(音楽:カミーユ・サン=サーンス、振付:ミハイル・フォーキン)

   田北志のぶ

  闇の中で、田北さんの白い長い両腕が細かく波うって、いつまでも見ていたかった!それほどに美しかった!まるで関節や骨がないみたい。ここまでの腕の動きができるバレリーナはめったにいないでしょう。田北さんはなかなか客席に顔を向けず、うねる両腕、両腕からつながってかすかに動く背中、小刻みなパ・ド・ブレだけを見せ続けます。

  田北さんの白鳥はとても静かだった。だから、白鳥が最後の力を振り絞って、再び羽ばたこうとする動きがいっそう力強い。仰々しい表現は一切なく、白鳥は最後まで自然に生きようとし、そして静かに息絶える。このへんが欧米人のバレリーナの表現とは異なると思いました。

  西洋人にとって死は恐ろしいもの、憎むべきもの、抗うべきものです。だから西洋のバレリーナの白鳥は多くが最後まで死に抵抗します。ですが、田北さんの白鳥は日本的というか、「迫りくる死を覚って抵抗している」のではなく、「普通にいつもどおりに生きようとして、でもだんだんと弱っていき、そして自然に死ぬ」感じでした。

  踊り手を選ぶ作品ってのがいくつかありますが、この「瀕死の白鳥」も厳しくバレリーナを選ぶ作品だなあとあらためて実感。まず体型的な絶対条件は長い手足、技術的な絶対条件はやわらかな腕の動きと細かいパ・ド・ブレ、そして最も重要な絶対条件は自分なりの解釈と表現。

  田北さんの白鳥は、2年前(2013年「グラン・ガラ」)とは段違いにすばらしくなっていました。マイヤ・プリセツカヤのように、この作品を踊り続ける限り、ずっと進化させていってほしいです。田北さんならできると思います。


 『バヤデルカ』よりガムザッティとソロルのパ・ド・ドゥ(音楽:レオン・ミンクス、振付:マリウス・プティパ)

   オレーサ・シャイターノワ、ブルックリン・マック

  まず、このパ・ド・ドゥがガラ公演で踊られたことが意外でした。できるんですね。シャイターノワは、上半身は肌色生地で胸当て部分にブルーを基調にしたラメ刺繍が施されていて、スカートは普通の形のチュチュという衣装。マックの衣装は忘れましたが、ソロルっぽい衣装です。

  もちろん二人だけで踊らないといけないので、ガムザッティが二人の戦士に持ち上げられるところ(アダージョ)とか、インコだかオウムだかを持った大量のおネエちゃんたちが出てくるところ(コーダ)とかは振付を変えていました。

  アダージョの途中、ソロルがふとニキヤを思い出して表情を曇らせ、踊るのをやめてしまいます。それに気づいたガムザッティがソロルにすがりつき、再び踊りにいざなう、という演技をちゃんとやっていました。この演技、最近のロシア系(マリインスキーとかボリショイとか)『ラ・バヤデール』でよく見る気がするんですが、以前からありましたかいな?

  第1部の『海賊』ではマックにやや分がありましたが、この『バヤデルカ』はシャイターノワの勝利です。マックが踊ったソロルのヴァリエーションもすばらしかったですが、シャイターノワが踊ったガムザッティのヴァリエーション、そしてコーダでのシャイターノワの踊りのほうが強く印象に残っています。

  私はガムザッティのヴァリエーションがあまり好きではありません。見ごたえがあまり感じられないからです(たぶんそれだけ難しいのだろう)。でもシャイターノワが踊ったこのヴァリエーションには久々に興奮しました。ジャンプは高いし、回転はゆっくりでしかも安定しているし、しかもこれらの動きが途切れずにつながっています。動きの緩急のつけ方、最後に向かって盛り上げるようにパワフルさを増していく踊り方など、踊りの「見せ方」を心得ていることに感心しました。

  コーダの最初は、ソロル役のマックが跳躍や回転をして踊るというふうに改変されていました。そしてガムザッティのイタリアン・フェッテ→グラン・フェッテです。

  シャイターノワのイタリアン・フェッテがまず凄かったです。片脚を高々と上げた後にゆっくりと回転してしっかりキープします。急いで片づけるバレリーナも多いですが、シャイターノワは時間をかけていました。身体の軸は微動だにせず。アリーナ・コジョカルに匹敵するレベルでした。その後のグラン・フェッテも通常よりも多く回ったように思います。いつもより長いな、と感じましたから。

  シャイターノワは2013年にキエフ国立バレエ学校を卒業、そのままキエフ・バレエに入団したそうで、まだ20歳になるかならないかのはず。でも、キエフ・バレエ日本公演で主役を踊るのであればぜひ観たい、と強く思わせられたバレリーナでした。


 「Notations I-IV」(音楽:ピエール・ブーレーズ、振付:ウヴェ・ショルツ)

   アレクサンドル・ザイツェフ

  「I-IV」ってのは、4つのシーンに分かれているかららしいです。シーンによって照明の色が変わります。それから4つのシーンはすべて四股を踏む振付で始まります(かしわ手は打たない)。

  ザイツェフの衣装は赤のパン一。上半身は裸です。赤パン一で四股を踏まれてもなー。振付はクラシック・バレエの動きと新しい動きとが半々。振付的には中途半端で冗長な印象を受けました。振付者であるウヴェ・ショルツは夭逝したそうで、自身の作風を完成させる前に亡くなってしまったものでしょう。存命であれば、ジョン・ノイマイヤー、イリ・キリアン、ウィリアム・フォーサイス、ジャン=クリストフ・マイヨー並みになってたのかもしれないけどね。

  ただ、初演の第1キャストはウラジーミル・マラーホフだったとプログラムに書いてあって、なんだか納得。これは完全にマラーホフのための作品だよ。衣装がパン一ってのも、明らかにマラーホフ向け(笑)じゃん。ザイツェフには申し訳ないけど、これは全盛期のマラーホフが踊ったら、さぞ凄まじい魅力を発揮したことだろうと容易にイメージできました。マラーホフというダンサーによってこそ、底力を発揮できるタイプの作品だと思います。


 『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ(音楽:セルゲイ・プロコフィエフ、振付:レオニード・ラヴロフスキー)

   田北志のぶ、イーゴリ・コルプ

  このラヴロフスキー版『ロミオとジュリエット』も、この冬のマリインスキー劇場バレエ日本公演で全幕が上演されます。私はマクミラン版を最初に観てしまったため、マクミラン版がデフォルトになってしまってます。

  でもプログラムに書いてあるとおり、ラヴロフスキー版がジョン・クランコ版とマクミラン版の雛形であることは、このバルコニーのパ・ド・ドゥだけでもよ~く分かりました。振付が違うだけで、二人で踊る部分、ロミオのソロ部分、ジュリエットのソロ部分、クランコもマクミランもラヴロフスキー版の構成をまんま踏襲してるやんけ(笑)!

  更に言えば、振付も影響を受けているのがありあり。たとえばリフト。あのドラマティックだけどアクロバティックなリフトは、ラヴロフスキー版が初演された1940年当時としては革新的だったでしょうね。もっとも、ラヴロフスキー版の振付には古くささが見られるのも確かで、たとえばストーリー進行を分断するような、テクニック披露重視のソロを挿入したり、過度に芝居がかった、仰々しい演出やリフトがあったり。

  時代的、また西側的に合わない部分を除去して、個々の振付でアレンジしなおしたのがクランコ版でありマクミラン版でありヌレエフ版である、ということなのでしょう。

  このバルコニーのパ・ド・ドゥには、ロミオがジュリエットの両脚を頭上高く抱え上げ、ジュリエットは両腕を広げて天を仰ぐというリフトがあり、このへんはいかにも古くさいです。でも基本的に美しく爽やかな振付でした。コルプのロミオが田北さんのジュリエットにしょっちゅうぶちゅぶちゅキスしまくってたので、どの時点がファースト・キスなのかが不明な点以外は。

  田北さんは初々しい少女、コルプもツーブロックの割には(たぶん)爽やかな少年でした。それにしてもコルプのパートナリングは本当に安定してますなー。たるみがなく流れるよう。


 『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ(音楽:レオン・ミンクス、振付:マリウス・プティパ)

   エレーナ・エフセーエワ、アンドレイ・エルマコフ

  エルマコフ、長身のイケメン。それにめちゃくちゃ感じが良い人でした。性格よさそう。エフセーエワはミハイロフスキー時代とは別人になってしまった。過剰演技が消えうせ、クールで時にコミカルな大人の女の魅力で勝負してました。

  「DEUX」と同様、やはり二人で練習する時間が足りなかったのか、一部のリフトがうまくいきませんでした。アダージョの最後の「手放しリフト→キープ」はぎこちなく、キメのポーズでもエルマコフは片手でエフセーエワを支え続けていました。おいおい、「手放し」になってないやんけ。

  エフセーエワ、エルマコフの踊りは、うーん、まあ普通。キトリのヴァリエーションでは、踊り終わったエフセーエワが「ああ、暑いわ」という表情で扇をはたはたと仰いでいて、客席から笑いが起こりました。

  コーダは、バジルがジャンプして空中で両足を打ちつける瞬間に音楽が始まりますが、どういうわけか音楽が鳴らず。エルマコフが1回目のジャンプから着地した時点でやっと音楽が始まりました。しかしエルマコフの踊りは乱れず、「あれれ、困ったねえ」という感じの苦笑いを浮かべました。これがすごく感じ良かったです。

  また、音楽が大幅に出遅れたのに、エルマコフの踊りには違和感がなかったので、たぶん臨機応変に踊ってつなぎあわせたんでしょうな。お見事。

  エフセーエワは、グラン・フェッテをなんとかこなすので精一杯な風でした。扇は持ってなかったです。おまけに回りながらフリーの両腕をぶんぶん振り回してました。エフセーエワの善戦には敬意を表しますが、ガラ公演の大トリの踊りとしてはちょっとなー、と思いました。


 フィナーレ「花は咲く」

  フィナーレではダンサーたちが客席に下りてきて花を手渡します。間近で見ると、特にバレリーナたちがみんな超美人なのに驚かされます。メイクも厚塗りじゃなくてね。中でもアラシュがいちばん魅力的だったなあ。

  こういうことに慣れていないのがほとんどなのであろうダンサーたちの中で、最後まで客席を走り回ってたのがブルックリン・マックとイーゴリ・コルプ。特にコルプは奥の客席まで走っていき、更に客席を左右に横断して、まんべんなく花を渡して回っていました。こーゆうのも全然平気みたいです。本当にイイヤツだ、コルプ。

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「グラン・ガラ」(7月22日)-2


 第1部(続き)

 『カルメン組曲』抜粋(音楽:ジョルジュ・ビゼー、編曲:ロジオン・シチェドリン、振付:アルベルト・アロンソ)

   田北志のぶ(キエフ・バレエ)、アレクサンドル・ザイツェフ(元シュトゥットガルト・バレエ団)、イーゴリ・コルプ(マリインスキー劇場バレエ)

  上演されたのは、カルメンのソロとドン・ホセとの踊り(ハバネラ)、ドン・ホセのソロ(間奏曲)、エスカミーリョのソロ(闘牛士の歌)、カルメンとエスカミーリョとの踊り(どの場面の音楽か忘れた)、ドン・ホセとエスカミーリョとの睨み合い、カルメンとドン・ホセとの踊り(お前の投げたこの花は)、です。

  田北さんは黒レースの長袖のレオタードで、腰部分からスカート状の黒い房飾りが垂れ下がっている衣装。変態で申し訳ありませんが、クロッチ(股間部分)も黒レース仕様(もちろん肌襦袢は着ているに決まっている)なのがおしゃれでした。

  ドン・ホセ役のザイツェフは、最初は緑の軍服、次は赤いシャツに黒いタイツで、悪評高いあのてんとうむしみたいな柄のシャツは着ませんでした。ご安心あれ。エスカミーリョ役のコルプは、クリーム色に金糸で刺繍が施された闘牛士の衣装。

  コルプの髪型が完璧な ジョンウン・カット ツーブロックになっていて仰天。もみあげから襟足まで、芝生ばりにキレーに短く揃えて刈り込まれていました(笑)。頭頂部に残った髪も短めなため、全体的にはほぼソフトモヒカン。でもコルプだと似合うんですね。カッコいい。

  男性バレエ・ダンサーの中には、いまだに半長髪のライオン・カットの人がけっこういるでしょ。あれは仕事上の必要でそうしているんだろうけど、今の時代となってはもう普通の髪型でいいんじゃね?というのがわたくしの意見。

  田北さんのカルメンは、私の好みどストライクなカルメン。この役を踊るほとんどのバレリーナがやらかす過剰なお色気演技がなく、鋭い視線でドン・ホセを睨みつけ、口の端をわずかに歪めてニッとほほえむだけ。

  そして、身体、特に脚と爪先で物を言う。田北さんの脚があんなに高く上がるとは思いませんでした。すごくきれいでした。空を切り裂くように、田北さんのまっすぐな脚が闇の中を旋回します。その脚は爪先まで鋭く伸びています。そして動きが崩れません。

  アロンソ版『カルメン』の特徴は、登場人物たちが爪先で語ることです。爪先で語るのはカルメンだけでなく、実はドン・ホセ、エスカミーリョ、ツニガ(今回は登場がなかったがドン・ホセの上官。やはりカルメンに魅了される)も同じだということが分かったのは、ひとえにファルフ・ルジマトフ(ドン・ホセ)、セルギイ・シドルスキー(ツニガ)のおかげ(2011年「バレエの神髄」)。

  田北さんの爪先の動きも細かく、また鋭くて力強いものでした(カルメンの場合「優雅で軽やかなステップ」ではいけない)。ドン・ホセやエスカミーリョを見据えたまま、上半身を動かさず、両手を腰に当てて、爪先だけを動かします。そのたびに、田北さんの細くて長い脚と爪先が床に突き刺さるようです。田北さんは爪先で雄弁に物語っていました。

  ドン・ホセ役のザイツェフは、表情や仕草での演技に頼りすぎるところがあるように感じました。シュトゥットガルトで長い間やってたから、これは仕方ないんでしょうね。私の中では、田北さんの印象が強すぎて、ザイツェフはちょっとかすんでしまいました。あと抜粋上演なので、上官と軍規に絶対服従な兵卒だったドン・ホセが、カルメンとの出会いによって変容していく過程を見せることができなかったせいもあるでしょう。

  エスカミーリョ役のコルプは、今回はおちゃらけを完全封印し、(たぶん)真面目にやってました。田北さんのカルメンがストイックな感じだったので、それに合わせたのでしょう。でもねー、コルプって、真面目にやればやるほどお笑い度が増す奇特なヤツで、「あっ、コルプが(たぶん)真面目にやってる!」と思った時点で、笑いをこらえるのが大変でした。

  冗談はさておき、コルプのパートナリングは完璧といいますか、田北さんとの踊りがカチッと噛み合って、いわゆる「化学反応」を起こしていたレベルだったと思います。カルメンとエスカミーリョとの踊りは流れるように、静かに、速く進んでいきましたが、緊張感がバリバリ張りつめていました。

  今回は運命を暗示する「牛」も登場しなかったせいか、カルメン役の田北さん、ドン・ホセ役のザイツェフ、エスカミーリョ役のコルプのそれぞれが、両腕を上げて手先を曲げる「牛」のポーズをところどころでやっていました(でももしかしたらアロンソのオリジナル振付がこうなっているのかも。自信なし)。

  田北さん主演の『カルメン』全幕が観たくなりました。


 第2部

 「グラン・パ・クラシック」よりヴァリアシオン(音楽:フランソワ・オーベール、振付:ヴィクトル・グゾフスキー)

   二山治雄

  レパートリーがいかにも「バレエ・コンクールで踊りました」的なものしかないのは当たり前か。

  ヴァリエーションですから2分くらいのはずですが、後半でスタミナ切れを起こしたようです。身体が動かなくなってしまっているのが分かりました。まだあんまり体力がないのね。これも仕方ないか。観るほうにとっては「たった2分」でも、踊るほうにとっては「長い2分」なんだから。

  でも、こうして実際の舞台で経験を積むのはよいことです。これからも精進して、プロのダンサー目指して頑張っていってほしいと思います。留学が終わったら日本を拠点にして活動する予定だそうだけど、それはやめといたらどうかなあ?日本に閉じこもって踊るだけなら、「ローザンヌ1位受賞」、「ユース・アメリカ・グランプリ1位受賞」っていう経歴をボロボロにすり切れるまで使いまわす、「長野限定ご当地ダンサー」で終わってしまう。で、その後はどうするの?バレエ教室の先生?

  「バレエは実力の世界」ってのは、大ウソだよ。実力があれば、エスカレーター式に恵まれたダンサー人生を送れるという単純なものではない。現に、実力があっても、それに見合うキャリアと評価を得られていない人たちは大勢いる。

  逆に、実力がないのに「日本を代表するバレエ・ダンサー」、「世界的バレエ・ダンサー」とされてる人、けっこういるでしょう(笑)。でもこういう人たちは、実力のなさを他のもの(主にカネとコネ)で補なってきた人たちで、これも立派な努力。

  二山君には実力がある。これは何より強い資本です。加えて、バレエの練習を頑張る以外にも、更にカネとコネで自分のキャリアを成功させる努力をしたほうがいいです。カネは元手が要るから無理なら、元手の要らないコネ作りを頑張りましょう。留学している今がチャンスです。

  二山君の最大のハンデは、第一に身長、次に人種。でも、人種の問題は、今の時代ではもうさほどハンデにはならないように思います。身長が最も厄介だけど、これはもちろん人為的にどうこうできる問題ではない。身長が伸びたらどうするか、身長が伸びなかったらどうするか、道化やキャラクター専門でもいいからクラシック・バレエ一筋でいくか、コンテンポラリーに活路を見い出すか、すべては二山君次第。


 『愛の伝説』よりメフメネ・バヌーとフェルハドのパ・ド・ドゥ(音楽:アリフ・メーリコフ、振付:ユーリー・グリゴローヴィチ)

   マリーヤ・アラシュ、アレクサンドル・ヴォルチコフ

  これはマリインスキー劇場バレエが今冬の日本公演で上演する作品ですね(チケット買ってないけど)。音楽良かったし、振付も面白かったです。振付は『スパルタクス』のエギナとクラッススとの踊りによく似てました。複雑で難度の高いリフトを多用し、しかも官能的。

 アラシュは身体にフィットした黒い衣装にヴェール、ヴォルチコフは例のあのヘンテコな青い衣装ですがな。私はこの青い衣装を「バルタン星人」と呼んでいるんですが、終演後にある観客の方が「どらえもん」と表現しているのを聞き、思わず噴き出してしまいました。確かに似てる。「どらえもん」のほうが的確な表現だわ。

  いつだったか、マリインスキーのヴィクトリア・テリョーシキナとイーゴリ・コルプがこのパ・ド・ドゥを踊ったのを観たことあるんですが、コルプがこのどらえもん衣装を着ると完全にかぶりものを着た芸人と化し、コルプ自身は大真面目だった(らしい)にも関わらず、逆に爆笑を誘う結果に。

  第1部の黒鳥のパ・ド・ドゥよりは、ヴォルチコフのパートナリングがマシでした。それでもところどころでガタつきが見られました。アラシュは妖艶。黒衣で浮き出た、細くしなやかな肢体のシルエットが美しくセクシーでした。

  (その3に続く)

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「グラン・ガラ」(7月22日)-1


  お盆休みに入ったし、忘れないうちにぼちぼち書こか~。

  この公演の正式名称は「第3回グラン・ガラ・コンサート 私たちはひとつ!!」、英語表記は"GRAND GALAⅢ"です。会場はオーチャード・ホール。


 第1部

 『アルレキナーダ』よりヴァリアシオン(音楽:リッカルド・ドリゴ、振付:マリウス・プティパ)

   二山治雄

  二山君は去年のローザンヌで1位獲って話題になったあの男の子です。その後にユース・アメリカ・グランプリでも1位獲って、今はサンフランシスコ・バレエ・スクールに留学中とのこと。

  『アルレキナーダ』って、衣装からすると道化かピエロ人形の話ですかいな?二山君は往年のエリマキトカゲを想起させるでっかいフリルの襟、カボチャみたいにふくらんだ袖の白いブラウスに、下はなんだったっけ?色や模様は忘れたけど、膝丈ズボン、白いタイツ、黒いシューズだったかな。

  まず、この衣装がよくない。二山君の顔が巨大フリルの噴水の中に完全に埋没。袖もボリューミー過ぎて腕の動きがまったく見えず。更に、膝丈ズボン、白タイツ、黒シューズという、脚が短く太く見えてしまう禁断のコーデ。

  そういうわけで、二山君の踊りについては結局よく分かりませんでした。ジャンプの際の開脚が180度以上ということはよーく分かりましたが。踊りの全体が見えないような衣装はいけません。

  ずいぶんと小柄なようだけど、まだ若いんだから悲観することはないと思います。東洋人は欧米人よりも身体の発育が遅く、特に男子は女子よりも遅い。また欧米人でも、パリ・オペラ座バレエ団のマチアス・エイマンみたいに、20代で身長がぐんと伸びた例もある。それに二山君は顔が小さく、頭身のバランスがいいので、体型的にも決して不利ではないのでは。

 『海賊』よりメドーラとアリのパ・ド・ドゥ(音楽:リッカルド・ドリゴ、振付:ワフタング・チャブキアーニ、アレクサンドル・チェクルイギン)

   オレーサ・シャイターノワ(キエフ・バレエ)、ブルックリン・マック(ワシントン・バレエ)

  くすんだ金のハーレム・パンツを穿いたブルックリン・マックが舞台上に走り出てきた瞬間、ガタイの良さ、自信に満ちた堂々たる態度、強いオーラ、圧倒的な存在感に目を奪われました。二山君には気の毒なことでしたが、直前に踊った二山君との大きな差を冒頭からはっきり見せつける形になりました。「コンクールで1位だった子」と「プロのダンサー」とはやはり大きく違うのです。

  メドーラ役のシャイターノワは白と藍色がグラデーションになったチュニック・ドレス姿。アリ役のマックは姿勢こそ奴隷でしたが、押しがかなり強くて、今にもメドーラを強引に口説きかねない感じのアリでした。横にコンラッドがいたら怒ったろうなー。

  マックのパートナリングの能力は非常に優れています。「ろくろ回し」なんか、シャイターノワがいつまで回るのかと思ったほど。頭上リフトも磐石。マックを初めて観たのが、確か2013年の第1回「グラン・ガラ」でした(去年は観に行けなかった)。マックは2年前よりパートナリング能力が上がったような気がしました。それともシャイターノワとの相性がいいのだろうか。

  シャイターノワは四肢が長く、身体が柔軟で(←キエフ・バレエのダンサーについてこんなこと書いても意味ないんだけど)、まずシャイターノワのアラベスクを見て驚嘆。まるで腰から脚が生えてるみたいな感じでした。どーゆう背骨と股関節をしてんのか。

  アリのヴァリエーション。冒頭のアラベスク。半爪先立ちが高く、後ろに上げた片脚も高し。そのままでキープ。きれい。後半でマックはやりたいほーだい、跳躍の瞬間にびっ!と180度開脚しながら回転して着地、を複数回。客席から驚きの声が上がり、早くも拍手が出る。最後は片膝立ちの姿勢のまま、上半身を後ろに思いっきり反らせてキメのポーズ。後ろに反らせた上半身は美しい弓なりの形で、後頭部は床に着かんばかり。割れんばかりの大拍手となった。

  マックにここまでやられては、シャイターノワがかわいそうではないか、と思ったのだけど…。

  メドーラのヴァリエーション(テンポが速いほうの音楽。『ドン・キホーテ』の森の女王のヴァリエーションと同じじゃないほう)。

  シャイターノワも負けてなかった。リズミカルにステップを踏みつつ、音楽の「ため」に合わせて、随所にバランス・キープをさりげなく、しかし余裕たっぷりにかます。トゥで立ったままの軸足の前、後ろ、前、後ろ、と、交互に片方の爪先で細かくステップを踏み、更に回転しながら同じ動きを続ける。そしてその動きを加速させていく。ここで客席から拍手が湧き起こった。お、拍手出た!と思ったら、シャイターノワの爆速回転&舞台一周でやっぱり大きな拍手。こうしてシャイターノワはマックの「添え物」にならなかったのである。

  コーダ。マックがジャンプしながら再登場。高い。脚もよく開いてる。上体まっすぐ、手足もまっすぐ。連続回転の後は再び高くジャンプし、両脚を前後に開いたプリエのような姿勢で空中で1回転した。床から2メートルくらいも浮いているように見えた。客席から大きなどよめきが起こった。

  続いてシャイターノワのフェッテ。こちらも無事成功。ただし、直前にマックがやった跳躍が凄すぎて、印象が薄くなってしまった感は否めません。でも上げた片脚の角度が90度、つまりほぼまっすぐに脚を伸ばしていて(ザハロワみたいなやつね)、私の大好物な形のフェッテでした。  

 「DEUX」(音楽:ジャック・ブレル、振付:クレール・ブリアン)

   エレーナ・エフセーエワ(マリインスキー劇場バレエ)、アンドレイ・エルマコフ(同)

  この作品は男性のソロと男女二人によるパ・ド・ドゥ部分からなるようで、今回はパ・ド・ドゥが踊られました。エフセーエワはサーモンピンクのキャミソールワンピース、エルマコフは白いシャツに黒ズボンと「レ・ブルジョワ」みたいな衣装でした。エフセーエワはすっかり大人の女性らしい美しさに。

  このガラのために振り付けられた「世界初演」作品ということです。この手の「世界初演」モノにはトンデモ作品が多いので、まったく期待していませんでしたが、この「DEUX」は存外に良い作品だと思いました。

  男性が女性を振り回す複雑なリフトが多用されており、エフセーエワの手足が描いていく流線が非常に美しかったです。あとは、エフセーエワが身体を丸めた姿勢からエルマコフに持ち上げられて、その瞬間に手足を直線的に一気に伸ばしたり、エルマコフの両肩を縦断(?)するように身体を移動させたり。

  他にも特徴的なリフトがありました。エルマコフの手のひらの上をエフセーエワが階段みたいに上るとか、エルマコフの大腿部にエフセーエワが身体を斜めにして立つとか。手足をまっすぐに伸ばし、微動だにしないエフセーエワの姿勢の美しさが際立つ作品でした。

  ただ、新作だけに二人の練習が足りなかったのか、リフトの処々にガタつきやもたつきが見られました。すべてのリフトがスムーズに行けば、もっと見ごたえがあるだろうなと思いました。この「DEUX」はまた再演してほしい作品です。


 『白鳥の湖』より黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ(音楽:チャイコフスキー、振付:マリウス・プティパ)

   マリーヤ・アラシュ(ボリショイ・バレエ)、アレクサンドル・ヴォルチコフ(同)

  終始ぐだぐだ(笑)でした。アラシュはまだ根性で頑張っていましたが、悲惨だったのがヴォルチコフ。アダージョでのサポートとリフト、ヴァリエーション、コーダでのソロ、すべてが絶望的な出来。

  ヴォルチコフのパートナリングはかな~り頼りなく、ぎこちなくて、「ろくろ回し」でしょっちゅう軸が斜めになってしまったアラシュが、途中でヴォルチコフに本気でブチ切れるんじゃないかとヒヤヒヤしました。ヴォルチコフは一人で踊るときも動きがかな~り重たい感じでした。ただ演技も覇気がなく頼りなさそうだったのは、おバカ王子のジークフリートですからちょうどよかったと思います。

  たぶん、バレエ団が夏休みに入ったら、身体も夏休みモードになってしまって、思うように動かなかったんだと思います。前にもボリショイのプリンシパル二人が、ファルフ・ルジマトフが日本で開いたガラ公演で踊ったとき、おんなじようにひどかったんでびっくりしたんだよな。奇しくも、演目も同じ黒鳥のパ・ド・ドゥ。

  男性のほうはルスラン・スクヴォルツォフでしたが、女性のほうの名前は忘れました。今にして思えば、あの二人も身体が夏休みモードになっちゃってたのでしょう。今さらだけど、(たぶん)ボロクソ書いちゃってごめんね。

  アラシュはメイク薄めで、目をかっと見開いて、鋭い視線で王子と観客を睨みつける演技で通しました。でももしかしたら演技じゃなかったかもしれません(笑)。  

  (その2に続く。『カルメン組曲』はそこでね)
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『兵士の物語』(8月2日・千秋楽)


  初日から通ってみて、徐々に観客が増えてきてるなー、とは思ってました。今日は私が来た中では最も客の入りが良かったです。満員御礼じゃないですが、ほぼ9割方くらいはお客さんが入ってたと思います。

  観客の反応も良く、多分に「楽日のご祝儀」的なものでしょうが、カーテン・コールはスタンディング・オベーションとなりました。

  アダム・クーパーは楽日に最も良いパフォーマンスを見せることが多く、今回もそうでした。クーパーは毎公演出演を長期にわたって行なうことがほとんどなので、公演がまだ残っている場合は、怪我やスタミナ切れを避けるために無理せずセーブするのだろうと想像しています。かといって決して手抜きパフォーマンスをするわけではありませんが。

  去年の『雨に唄えば』の千秋楽と同様、今日のクーパーはイケイケドンドンで飛ばしてました。動きに鋭さが増す、ジャンプが高くなる、アラベスクやアティチュードの脚が高く上がる、ピルエットでの回転数が多くなる、更に、今日はどうやら自分の判断で踊りを増やしていたようです(第2部、悪魔を倒した後の兵士の踊り)。

  兵士がアティチュードでターンするところは、上半身が反り返り、片脚が根元からぐいっと高く上がって、ボーン版『スワンレイク』のザ・スワンを思い起こさせました。一瞬ギョッとして、一瞬懐かしい思いになりました。

  クーパーの踊り、つまりバレエについていえば、『兵士の物語』日本初演が行なわれた2009年時よりも、今回の踊りのほうが優れていると思います。兵士のソロ、婚約者・王女とのパ・ド・ドゥすべてにおいてです。

  クーパーには不思議なところがあり、バレエから完全に離れたと思ったら、なぜかまたいきなりバレエを踊るのです。これはもちろん本人が引き受けてのことなのですが、そういう仕事の話が彼に入ってくること自体、まるで本人以外の力が働いて、バレエを踊る機会が彼に与えられているかのようです。

  今回のクーパーの踊りを見て、アダムはようやくバレエと「和解」できたのかもしれないと思いました。でなければ、あの身体は作れなかったろうし、あの踊りもできなかったでしょう。

  どういう言葉で締めくくればいいのか分かりません。ありがとう、アダム。また日本に来て下さいね。

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アフター・トーク(8月1日夜公演後)


  


  欧米人男性がよくやる、穴の空いたボロTシャツに半ズボン、スネ毛むき出し、サンダルみたいな風体で出てきたらどうしようかと思いましたが、まあまともな格好でよかった(ほっ)。

  公演を終えた直後でまだ暑い、と言って、誰から借りたのか、どーみても女性用の黒い扇子を持ってぱたぱたあおいでいました。マダム・ヤンぽかったです。またさすがに喉が渇いていたのでしょう、冷たいミネラル・ウォーターをごくり(でも司会の人に勧められてはじめて飲んだところが奥ゆかしい)。

  最初に司会の方がいくつか質問をし、その後は観客からの質問タイムで、計20分ほどでした。

  まず言い訳です。質問の内容はほとんど忘れてしまったし、アダムの答えもなぜかほとんど覚えていません。アダムに見とれてばかりでロクに話聞いてなかったせいと、あとアダムがそんなに目新しいことを言わなかったせいだと思います。ああ、これ、以前のインタビューでも言っていたなあ、と思ったことが多かったです。

  というわけで、無理せず覚えている点だけ箇条書きにします(それでも記憶違いがあると思います)。話の順序も不同。


  ・ダンスはいつから始めたのか。:5歳から。最初にタップ・ダンス、次にバレエを始めた。1歳違いの兄(サイモン・クーパー、こちらもダンサー)と一緒に踊りを習っていた。

  ・6年ぶりの上演で他3人のキャストも違う状況での舞台作りについて:2004年(ロイヤル・オペラ・ハウスでの初演)と2009年(日本初演)の舞台映像を見て作品の大枠を把握し、そこから細部をみんなで構築していった。新しいキャスト、そして(演出・振付の)ウィル・タケットは改訂が好きということもあって、非常にタフな作業だった。

  ・作品にはどうやってアプローチしていくのか?:自分の役割によって違ってくる。演者としての場合は、まず観客との意思疎通を第一に考える。そこから役作りをしていく。振付をする場合は、音楽を最重視しなくてはならない。音楽からもたらされるインスピレーションが重要。音楽無視の振付はあり得ない。

  ・去年の『雨に唄えば』のドン・ロックウッドと今回の『兵士の物語』の兵士はまったく違うキャラクターであることについて:『雨に唄えば』は楽しい話で、ドン・ロックウッドは歌って、踊って、笑って、恋をしてとすばらしい経験をする。(顔をしかめて)それに比べて兵士はというと…(会場爆笑)。ひどい目にばかり遭った挙げ句に地獄に落とされてしまう。悲惨だ(会場爆笑)。

  ・もし自分がロンドンに帰って、2週間のつもりが3年経っていたらどうする?:(真顔で)それは恐ろしい(会場爆笑)!子どもたち(7歳のナオミちゃんと5歳のアレクサンダー君)の成長を見逃すのが何よりも耐えがたい。子どもたちはちょうど育ち盛りだから。

  ・この作品で最も大変なことは?:(演出用の)スモーク(会場爆笑)。最後に兵士が地獄に突き落とされるシーンでは、スモークで何も見えない。もちろん悪魔役のアレクサンダー(・キャンベル)からも何も見えない。だから、アレクサンダーが投げ捨てたヴァイオリンが下にいる自分の脳天を直撃することがある。  


  


  ・語り手が「私たちのパトロンが来ている」というセリフを言うが、それは誰なのか?また背景幕に描かれている悪魔の絵の上には何と書いてあるのか?:(後ろを振り返って見て)「なんとかデーモン」と書かれていますね。でもどういう意味でしょうね。分かりません(会場爆笑)。(付記:語り手役のオリジナル・キャストであるウィル・ケンプが以前、「私たちのパトロン」とは悪魔のことであり、つまりここは悪魔の劇場という設定だ、と話していたように覚えています。)

  ・(質問の内容を忘れました):兵士と婚約者/王女は一日に何回も悪魔につかみ回され、ぶん殴られ、引きずり回され、最後に地獄に突き落とされなくてはならない。ひがな一日、毎日毎日、こんな役を演じ続けなくてはならないことにうんざりしている。だから冒頭で語り手に紹介されても、面白くなさそうな、つまらなそうな顔をしている。

  ・兵士に殴られた王女が嬉しそうだけど、ああいう表現は女性としてはちょっと…。:あれはコメディで、お笑いの場面。だから兵士が王女を平手打ちする仕草は、なるべくユーモラスに見えるよう、軽くはたく感じの動きにしている。(アダム、慎重に言葉を選びながら)あのシーンは、王女と兵士が「そういう遊び」をやって楽しんでいる、ということ。

  ・日本の文化芸能で興味があるのは?:歌舞伎。観に行きたいけど、休みの日は部屋の中で討ち死にしていて、用事もたくさんあって、なかなか時間が取れない。あと、SUMO!(会場爆笑)
  ・私も歌舞伎が好きなので、その言葉を聞いてとても嬉しい。ぜひ観に行ってみてほしい。:もちろんです。

  ・去年と今年と誕生日を日本で2回も過ごすことになりましたね。3回目もあるでしょうか?『雨に唄えば』、もしくは他の作品で?:2年連続です。またあるかもしれませんね。(あわてて)願わくは、ですよ。

  ・日本の観客のみなさんに挨拶をお願いします。:みなさんの長く変わらない応援に感謝しています。バレエ、演劇、ミュージカル、コンテンポラリー、どんなジャンルであろうと、みなさんは僕のチャレンジすべてを応援して下さっています。僕は日本で公演を行なうことが多いので、日本は僕の第二のホーム・グラウンドなのです。本当にありがとうございます。





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