年末のご挨拶

  私は帰省しております。今年はこちらも暖冬のようで、雪やあられが時おり降るものの、さほど寒くはなくて、まして雪なども積もってはおりません。去年の今ごろはとにかくすごい豪雪で、JRが数日にわたって止まったくらいでした。

  今回の私の母親による「帰省歓迎特別メニュー」は、1.鮭の粕汁、2.ニシンとさつま揚げとこんにゃくの煮物、3.白キスのから揚げ、4.寿司でした。さすがにこうも続くと、「これはネタだろう」と母親に詰めよりましたが、やはり「なんとなくそうなってしまったんだもん」との答えでした。

  現在、私の大の苦手な「紅白歌合戦」が始まりました(なぜか吉田都が審査員として出ていますぜ)。あの騒音には耐えられないので、パソコンのある部屋に退避して、こうして今年最後の日記を書いております。

  今年はアダム・クーパーの来日がなく、クーパーのファンにとっては辛い一年となりました。年明けにクーパー君自身によって明らかにされるという、彼の来年のスケジュールが楽しみです。どうか来年こそは日本に来てほしいものです。

  もっとも、アダム・クーパーこそは私の一生の男、たとえロンドンだろうがイギリスの片田舎だろうが、彼の出演する舞台が観られるのであれば、私はできるだけの努力をして、彼のパフォーマンスを来年も観に行くでしょう。

  そして、クーパー君からとかく脇道に逸れがちであったこのサイトを、みなさまが今年も我慢強く訪れて下さったことに、心から感謝しております。本当にどうもありがとうございました。どうか良いお年をお迎え下さい。
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ジゼル

  「シンデレラ」の次は「ジゼル」です。「雷雨」はどこへ行ったのでしょう(笑)?まあ、いずれ再開すると思います。やっぱりあれは非常に優れた戯曲ですし。でも、とても有名な戯曲なのに、なぜか日本語翻訳版は出ていません。

  それはさておき、本題の「ジゼル」です。スターダンサーズ・バレエ団からDMが来ました。というわけで宣伝します。2007年2月18日(日)15:00、神奈川県民ホール(大ホール)で、ピーター・ライト版「ジゼル」が上演されます。

  ピーター・ライト版「ジゼル」は、原振付はマリウス・プティパ、演出と追加振付がピーター・ライト、舞台美術と衣装はピーター・ファーマーです。

  主なキャストは、ジゼルが福島昌美、アルブレヒトが福原大介、ミルタが厚木彩、ヒラリオンが新村純一(ラヴ)の予定です。

  もちろん生オケつきで、演奏は東京ニューシティ管弦楽団、指揮は田中良和です。

  チケットはお安いです。S席:8,000円、A席:6,000円、B席:4,000円、C席:3,000円、学生券:2,500円。チケットは県民ホールチケットセンター(電話:045-662-8866)、音楽堂チケットセンター(電話:045-263-2255)、スターダンサーズ・バレエ団(電話:03-3401-2293)、またチケットぴあ(Pコード:372-804)、イープラス、高島屋横浜店チケットショップで購入できます。

  ピーター・ライト版「ジゼル」は、演出と舞台美術、衣装が凝っているのが特徴です。演出は緻密で、ストーリーがスムーズに進行するよう工夫されており、舞台美術と衣装はそれに合わせたものになっています。

  たとえばジゼルの死因、ジゼルがウィリになった理由、ウィリというものについての解釈などは独特だと思います。特にウィリはすごく怖いです。妖精などではなく、怨霊といったおどろおどろしい雰囲気を漂わせています。

  個人的には、マシュー・ボーンの「ハイランド・フリング」におけるシルフの解釈と描写は、ピーター・ライト版「ジゼル」のウィリの姿に影響を受けたものだろうと思っています。

  ダンサーに関しては、私は残念ながら、ヒラリオン役の新村純一君がすばらしいだろう、としか言えません。彼は個性的なヒラリオンのタイプに入ると思います。

  ジゼル役の福島昌美さんとアルブレヒト役の福原大介君は、もちろん以前の公演で観たことはありますし、特に福原大介君は最近の公演で大活躍です。でも彼らがジゼルとアルブレヒトを踊ったのは観たことがないので、なんとも言えません。

  でもピーター・ライト版「ジゼル」は、踊りに加えて演劇的な面でも完成度が高いと思うので、お時間のある方はご覧になってみてはいかがでしょうか。
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クーパー君近況

  みなさま、メリー・クリスマス!

  ところで、世はクリスマスと騒いでおりますが、例によってこのチャウ、「くりすます」なんていう南蛮渡来の風習におもねることはいたしませぬ。 

  本題。クーパー君の公式サイトがプチ更新してました。クーパー君の近況と予定について少し書いてくれています。

  それによると、アダム・クーパーはとても元気にしており、いくつかのプロジェクトのことで多忙を極めていて、事が一段落したら、年明けに彼自身がその詳細について明らかにしてくれるであろう、ということです。

  よかったよかった。無職状態で徒然なるままに日暮らし、無聊をかこっているわけではなかったのね。

  それにしても、打ち合わせ進行中らしい「いくつかのプロジェクト」って何かしら?

  たぶん「危険な関係」の再演とツアーも含まれているのだろうけど、新しいプロジェクトがあるのなら、それが何なのかすごい興味があります。年明けが楽しみです~。

  そうそう、上の画像は「オネーギン」第二幕(たぶん)のクーパー君です。
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シンデレラ(3)

  今日も新国立劇場バレエの「シンデレラ」を観てきました。これで最後です。今日の公演はどちらかというと作品として楽しんだというか、アシュトン版「シンデレラ」はこれでとりあえずの見納め、みたいなつもりで観ました。もちろん再演されたらまた行きますが。

  シンデレラは本島美和さん、王子は中村誠さんでした。新進のダンサーさんに場数を踏ませるのが必要なのはよく分かります。今回は特定のダンサーを目当てに行ったのではありませんが、それでも、こちらはお金を払って観に来ていることを、バレエ団側は忘れないでほしいと思います。

  新国立劇場バレエは、別に主役として外国の有名ダンサーをゲストに呼ばなくても、充分に客が入るカンパニーだろうと思っています。ただ今日の公演を観て、やはりゲストが必要な場合もあるのだ、と思いました。
  つまり、客寄せパンダとしての役割以外に、その役の模範としての役割を果たすゲストです。

  今回の「シンデレラ」の主役のゲストはアリーナ・コジョカルとフェデリコ・ボネッリでした。コジョカルに関しては、私は彼女のシンデレラの踊りを観ておいて本当によかった、と心の底から思いました。
  たとえば今日の公演しか観ていない観客が、シンデレラの踊りとはああいう踊りなのだ、と思い込んでしまうのは残念なことです。

  シンデレラの演技についても、もちろんコジョカルの演技が正しい、と断言する気はありませんが、少なくとも身の上の不幸を嘆くシンデレラの演技は、アルブレヒトに裏切られてショックを受け悲嘆にくれるジゼルの演技と同じであるべきではないと思います。  

  ボネッリに関しては、さすが腐っても(すみません)ロイヤル・バレエのプリンシパルだ、と遅ればせながら見直しました。でも、今回の彼のパフォーマンスはあまり調子がよくなかった、という印象に変わりはないですが。

  仙女の川村真樹さん、四季の精を踊った寺島まゆみさん、真忠久美子さん、遠藤睦子さん、厚木三杏さんはみなすばらしかったです。とりわけ寺島まゆみさんが踊った春の精の踊りがとても気に入りました。

  義理の姉を演じたのは保坂アントン慶さんと堀登さんでした。特に下の姉役の堀登さんの演技は、一癖も二癖もあってすごく笑えました。

  去年のロイヤル・バレエ日本公演の「シンデレラ」は、そんなに面白く感じませんでしたが、今回の新国立劇場バレエの公演で、この作品のすばらしさに気づくことができて幸運でした。それも日本のバレエ団によって、というのが更に嬉しいところです。

  これで今年のバレエ鑑賞はすべて終わりました。とても楽しかったです。来年はどんな作品との出会いが待っているのでしょうか。 
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シンデレラ(2)

  今日、また新国立劇場バレエのアシュトン版「シンデレラ」公演を観に行ってきました。

  なんで平日の昼なんかに公演を行なうのか不思議ですが、客席はほぼ満席の大盛況でした。やっぱりお年寄りや学生さんの観客が多かったです。

  今日もシンデレラはアリーナ・コジョカル、王子はフェデリコ・ボネッリでした。コジョカルは今日も好調でした。でも今日は、彼女の踊りに加えて、彼女のシンデレラの演技に感動しました。

  コジョカルは非常に小柄で、新国立劇場バレエの女性ダンサーよりもやや背が低いくらいなのです。それにとびきりゴージャスな美人というわけでもなく、すごく可愛いけれども、どこにでもいる普通の女の子といった感じです。だからシンデレラ役が自然に似合ってしまうのです。

  特に感動したのは、舞踏会にやって来たときのコジョカルの表情です。ほとんど泣きそうな顔をしていて、黒目がちの瞳が潤んできらきらと輝いていました。きれいなドレスを身につけて、憧れのお城の舞踏会に来ることができた、すごく嬉しい、というシンデレラの気持ちが伝わってきました。

  ボネッリも今日は好調で、コジョカルとの踊りもうまくいっていました。ただ、第二幕、回転するコジョカルの腰を支えるところでは、やはりコジョカルの体が斜めになってもたついてしまい、それからアラベスクをしたコジョカルの腰を抱えてすばやく一回転する、という動きがビシッと決まりませんでした。でもこの動きは数回くり返されるもので、2回目以降はうまくいっていました。

  それにボネッリのソロの踊りもとても丁寧で安定していました。だけどコジョカルと比べると、コジョカルの踊りは安心して見ていられるのに、ボネッリが踊ると、「うまくいきますように」となぜかハラハラしてしまうのです。

  まあ、私がロイヤル・バレエの男性ダンサーの踊りに期待するのは、超絶テクニックではなく(ごめんなさい)、ロイヤル独特の優雅で品の良い丁寧な動きやポーズです。今日のボネッリは堂々としていて余裕があり、いかにもロイヤル・バレエの王子らしかったです。

  仙女役である湯川麻美子さんの踊りはどうだったのか、どうも私には分かりません。四季の精の中では、夏の精を踊った西川貴子さん、冬の精を踊った寺島ひろみさんが美しかったです。でもこれは、ただ単に私がスローテンポな曲とゆったりした動きを好むから、そう感じたに過ぎないのかもしれません。

  星の精の群舞は実にすばらしかったです。第一幕最後の「ワルツ」なんて、彼女たちの、あの時計の針みたいにきびきびとした正確な動きには、思わず鳥肌が立ちました。

  アシュトン版「シンデレラ」のいいところは、観ていて不快感を覚えることがない、ということです。悪い人が出てこないのです。義理の姉たちを醜悪なメイクと悪趣味な扮装をした男性ダンサーに踊らせることで、演技とはいえ女が女をいじめることへの不愉快さがなくなります。おまけに彼女ら(?)のギャグ満載の演技と不恰好な踊りのおかげで、見る楽しみが増えます。

  最後にシンデレラと義理の姉たちが和解するシーンには、思わずほのぼのした暖かい気持ちになりました。

  コジョカルとボネッリが出演するのは今日が最後です。そのせいか、シンデレラが最初に上の義理の姉と抱き合って仲直りするシーンで、コジョカルとマシモ・アクリは深々と抱き合うと、アクリが小柄なコジョカルの体をぎゅっと抱きしめたまま持ち上げて、そしてコジョカルの頬にキスをしました。

  コジョカルは次に下の義理の姉を踊った篠原聖一と深々と抱き合って、彼らはお互いの両の頬にキスをしました。物語と現実とが重なって、大団円な結末に感動したと同時に、コジョカルはとても良い性格の子だな、と思いました。

  カーテン・コールでは、もちろん最前面の中央に立っていたコジョカルとボネッリが、途中で下がってダンサーたちの列の脇に立ち、新国立劇場バレエのダンサーたちだけに挨拶させ、自分たちは列の横で拍手を送っていました。ゲスト・ダンサーの最終出演日には、いつもこうするのでしょうか?とてもいいしきたりだと思います。

  私はアシュトンの作品は少ししか観ていませんが、「シンデレラ」はアシュトンの最高傑作なのではないか、と思います。あまりに面白いので、あともう1回だけ観に行くことにしました。今度は新国立劇場バレエのダンサーが主役を踊ります。他の主要なキャストもほぼ変わります。とても楽しみです。
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ノロちゃん

   ノンちゃんはね、ノロちゃんっていうんだホントはね♪
   だけどワルイから自分のことノンちゃんってウソつくんだよ~♪
   こずるいね、ノンちゃん♪

  のっけからオヤジ替え歌ですみません。現在、日本全国で猛威を振るっているノロウイルス。とうとう私の同僚にも、この「ノロちゃん」に感染した人が出ちゃいました。今週一週間は念のために休むそうです。ご存知のように、ノロウイルスは症状が治まった後も、しばらくは体外に排出され続ける可能性があるためです。

  毎日ノロちゃんに関するニュースを見ていて、ふと思い出しました。私は数年前の春に「ウイルス性胃腸炎」に罹ったことがあります。嘔吐、下痢、腹痛、発熱、頭痛という症状でした。1週間ばかりは絶食して水とリンゴジュースとポカリでしのぎ、全快するまでに2週間くらいかかったように覚えています。

  あのとき医者は「ウイルス性胃腸炎」としか言わなかったけれど、もしかしたらそのウイルスとは、ノロちゃんのことだったのでは?と思いました。症状がそっくりですもん。上記の症状もノロちゃんの場合と同じだし、特にノロちゃんに感染したときの発熱は38度台、っていうのも同じ。

  同僚がノロちゃんにやられてしまって、ノロちゃんはもはや他人事ではなくなりました。自分がウイルス性胃腸炎に罹ったときのトラウマもよみがえります。神経過敏かもしれないけれど、電車でつり革や棒につかまったときは、帰ったら速攻せっけんで手洗い、公衆トイレに入った後も消毒液で手洗い、とまるでアライグマのようになってしまいました。

  困るのが、年末年始の帰省です。帰省&Uターンラッシュで混雑している新幹線の車内や飛行機の機内、ノロちゃんは悠々と空中浮遊して、人間の手や口に付着するチャンスを窺っているに決まってます。

  私はまだ切符をとってないのですが、新幹線と飛行機とどっちにしようか迷っています。ノロちゃんに感染する確率がより低いのはどちらでしょうか?
  飛行機のほうが乗っている時間は短いですが、空港へ向かう、また空港から出るバスに乗っている時間を加えると、結局は新幹線だろうが飛行機だろうが、どちらも危険性は変わらない気がします。

  私が以前やられたのはノロちゃんではなかったのかもしれないけど、かつてウイルス性胃腸炎に罹った者として強調したいのは、

  ・自分の体を過労や睡眠不足といった状態にしない(仕事しすぎない、よく寝る)
  ・自分の心に大きなストレスをかけっぱなしにしない(ストレスを発散する)

ことです。ウイルスは心身ともに弱った人間の体が大好きだからです。しつこい手洗いを行なうとともに、ウイルスが嫌う健康な心身を作っておいて、この「ノロちゃん禍」を乗り切りましょう。
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シンデレラ

  今日は新国立劇場バレエの「シンデレラ」(フレデリック・アシュトン版)を観てまいりました。いや~、すてきでした~

  まず、私はオーケストラ(東京フィルハーモニー交響楽団)を心の底から讃えたいです。このあいだのマリインスキー・バレエの公演、演奏したマリインスキー劇場オーケストラは、実にひどかったですからね(劇場専属のオーケストラがバレエ公演で演奏する場合はこれだから厄介です)。

  それに比べて、プロコフィエフのあのロマンティックでドラマティックな音楽を、きれいに美しく演奏した東京フィルハーモニー交響楽団は本当にすばらしいです!

  ところで、シンデレラの義姉たちがダンスのレッスンを受ける場面で、伴奏のヴァイオリン弾きとして登場したお二人は、実際の団員さんではないのでしょうか?なんかヴァイオリンの音の通りがぜんぜん違ったように思ったのですが。

  シンデレラはロイヤル・バレエのアリーナ・コジョカル、王子も同じくロイヤル・バレエのフェデリコ・ボネッリが踊りました。

  アリーナ・コジョカルは非常にすばらしかったです。まさしくロイヤル・スタイルのバレエで、アシュトンのトリッキーなステップの踊りを、完璧に踊りこなしていました。それに、久々にあのロイヤル・バレエ独特のアラベスク(身体が微妙に前のめりになっていて、手足のポーズが直線的)を目にして、ああ、ロイヤル・バレエだー!と思いました。

  ただ、最初は彼女のトゥ・シューズの音がうるさくて、やがて新国立劇場バレエのダンサーたちが、ほとんどトゥ・シューズの音を立てずに踊りながら登場してくるにつれて、コジョカルのトゥ・シューズの音も静かになっていった気がします(笑)。

  残念だったのはフェデリコ・ボネッリで、今年の夏にスターダンサーズ・バレエ団のピーター・ライト版「くるみ割り人形」の公演で観たときには、とても魅力的で王子オーラが発散されていたのですが、今日はなぜか精彩が感じられませんでした。

  ソロの踊りではバランスが不安定でジャンプも低く、コジョカルとの踊りでも、両者のタイミングがバッチリ合っていたとは思えません。回転するコジョカルの腰を支えてサポートするところでは、コジョカルの身体が斜めになっていました。コジョカルを持ち上げるところでも、「よっこいしょ」という感じのもたもたした動きで、ちょっと夢から覚めちゃいました。

  なまじコジョカルの調子が良かっただけに残念で、コジョカルとボネッリはふだん、どのくらいの頻度でパートナーを組んでいるのかは知りませんが、これならコジョカルの恒常的なパートナーであるヨハン・コボーを招聘したほうがよかったと思います(コボーのスケジュールが合わなかったのかもしれませんが)。

  ひとくくりにしてしまって申し訳ないですが、新国立劇場バレエのダンサーたちは、相変わらずの整然とした見事な群舞と、各々が高いレベルの踊りを披露していて、本当にすばらしかったです。
  四季の精の踊りでは、冬の精を踊った寺島ひろみさんが、安定していてきびきびとした、いかにも冬の精らしい踊りを見せてくれました。

  そして、道化を踊ったグリゴリー・バリノフは、今回もやわらかくて弾むように踊っていました。シンデレラの強烈な義姉たちにどつかれるコミカルな演技も笑えました。

  ぜひとも触れておかなくてならないのは、シンデレラの上の義姉を踊ったマシモ・アクリさんです。下の義姉は篠原聖一さんでしたが、やっぱり演技がおとなしくて、体のデカさ、目をむいた表情のコミカルさ、凶暴・強烈なキャラクターと三拍子揃ったアクリさんのおかげで、義姉たちが退屈な(ごめん)「シンデレラ」のストーリーを随処で引きしめていました。

  最後にひとつ驚いたこと。アシュトン版「シンデレラ」の著作権は、アシュトンからマイケル・サムス(マーゴ・フォンテーンの主なパートナーの一人)に譲渡され、マイケル・サムスの死後は、彼の未亡人であるウェンディ・エリス・サムスが所有しているそうなのです。

  ウェンディ・エリス・サムスも元ロイヤル・バレエのプリンシパルで、アシュトンから直接の指導を受けて「シンデレラ」を踊ったそうです。今回の公演では、彼女が演出と監修を行なっています。

  そのせいか、今回の公演と去年のロイヤル・バレエ日本公演での「シンデレラ」とは、舞台装置や踊りの一部に違いがありました(舞台装置と衣装はロイヤル・バレエからのレンタルらしいですが)。特に王子の踊りはかなり違っていたように思います。

  今回の公演は、ロイヤル内部で世代を経て引き継がれたアシュトン版「シンデレラ」ではなく、アシュトンがまだ健在だったころの「シンデレラ」オリジナルの姿を綿密に再現しているのではないか、と思いました。だとしたら、貴重なものを見せてもらいました。
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現実と虚構

  クーパー君の公式サイト、ようやく更新か!?と思ったら、shopがリニューアルして、少し商品が増えた(ポスターとか)だけでした。あのポスターはなかなか魅力的に感じます。でも買っても貼る場所がないのが困りものです(笑)。

  久しぶりにshopを見ましたが、レズ・ブラザーストンのデザイン画、物凄い値段(10万円前後)なのにも関わらず、すごく売れていてびっくりしました。クーパー君の役柄のものはぜんぶ売り切れですから、やっぱりアダム・クーパーのファンの方が購入されたのでしょうね。

  ま、それはおいといて、個人的には、shopの更新よりは、eventsに更新があったほうが嬉しいのですが。早く何か決まんないかなー。初詣でお願いすることにします。

  マリインスキー・バレエの「白鳥の湖」の感想を書き終えたら、また「雷雨」の続きを書きます(こうなりゃ意地だ)。でも、このまえ先輩(男性)に「雷雨」の話をしたら、「現実の世界に悲惨なことはすでに山ほどあるのに、なんで虚構の世界にまで悲劇を求めるのっ!」とたしなめられました。

  言われてみればそれはそうで、たとえば私はマリインスキー・バレエの「白鳥の湖」(セルゲーエフ版)が、数ある「白鳥の湖」の版の中で最も好きなのです。

  なぜかといえば、最もスタンダードで健全で、しかもハッピー・エンドなので、安心して見ていられるからです。極言すれば、ほとんどが悲劇的結末を迎える近年の「現代的解釈による『白鳥の湖』」にはうんざりしているところもある(もちろんボーン版は好きですが)。

  でも一方では「マイヤリング」や「雷雨」のような作品に惹かれるのも事実なわけで・・・。先輩のようにさっぱり割り切れそうにはないなあ。
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白鳥の湖

  休憩時間は延長です(笑)。

  今日(8日)、マリインスキー・バレエの「白鳥の湖」を観てきました。オデット/オディールはウリヤーナ・ロパートキナでした。ジークフリート王子は、予定ではダニーラ・コルスンツェフだったのですが、彼は足を怪我してしまったそうで、当日になってエフゲニー・イワニチェンコに変更になりました。

  マリインスキー・バレエの全幕物の公演では珍しくないのか、他にも4人のキャストが変更になっていました。でも、大きな白鳥役でアリーナ・ソーモワが急遽出演して、明らかに他の3人とは違ったすばらしい踊りを披露していました(他の3人ももちろんすばらしかったですが)。

  変更になったのはキャストばかりではなく、舞台装置もでした。予定ではイーゴリ・イワノフの装置だったはずが、「本日の公演ではシモン・ヴィルサラーゼの装置を使用いたします」という紙が貼ってありました。同じ作品なのに、舞台装置を何種類も持ってきたのでしょうか?

  当日になっていきなりジークフリート王子役が変更になって、ロパートキナとのパートナーシップはどうなのかな、と少し不安でしたが、結局は何の問題もありませんでした。

  代役で出演したとはいえ、エフゲニー・イワニチェンコはとても落ち着いており、ロパートキナに対するリフトとサポートは非常に安定していました。テクニックも無難にすばらしかったです。
  特に良かったのは、ジークフリート王子の役作りがとても細かかったことです。一瞬たりともジークフリート王子であることを忘れない、隅々まで行き届いた綿密な演技を見せてくれました。

  ロパートキナは、オデットのときもオディールのときも清潔感溢れる優雅な気品が漂っていました。

  オデットのときは表情を微妙に変えるだけですが、それでもオデットの悲しい身の上と心情が溢れ出ていました。第三幕のラストでは、王子に抱え上げられながら、毅然とした表情でロットバルトを見下ろし、ロットバルトはそれではじめてたじろいで魔力を失っていくのです。

  オディールのときは、あからさまに邪悪な表情を浮かべることなく、あくまで気高さを保って王子の心を惹きつけていく演技をしていました。それが、王子がオディールに愛を誓った途端、目を大きく見開いて、はじめて邪悪な微笑みを浮かべるのです。とても迫力がありました。

  ロパートキナはテクニック的には体育会系ではないようで、黒鳥のパ・ド・ドゥでは、王子に腰を支えられてアティチュードをしてから、そのまま両脚を交互に前に高く上げる、という踊り方をしていました。

  ただし、彼女のバランス・キープの能力には驚くべきものがありました。片足ポワントでポーズを取ったまま、1秒以上も静止しているのです。彼女の身体はビクとも動きません。黒鳥のパ・ド・ドゥのヴァリアシオンで回転するときも、ゆっくりなスピードなのに、決して足元はグラつきませんでした。

  それから、ロパートキナの腕はしなやかに波打ち、実に美しかったです。また音楽に合わせる能力にも秀でています。音楽に少し遅れても、瞬時に踊りをアレンジして合わせてしまうのです。アレンジといっても、振付を変えるのではなく、踊り方を変えるのです。それが非常に巧みでしかも美しく、踊りの途中であるにも関わらず、ブラボー・コールが飛んでいました。

  第一幕の王子の友人たちによるパ・ド・トロワでは、ウラジーミル・シクリャーロフが登場しました。さすがに王子のご学友ですから、「オールスター・ガラ」のときのように、これ見よがしに力任せなテクニックを見せつけるのではなく、あくまでお行儀よく品位を保って踊っていました。

  あとは道化役のアンドレイ・イワーノフがすばらしかったです。第一幕最後での連続ピルエットは目にも止まらぬ超高速で、観客の大喝采を浴びていました。

  白鳥の群舞はとてもすばらしかったです。みんな動きがよく合っていて流麗だったし、そのせいかポワント音も響いたことは響きましたが、あまり気になりませんでした。むしろ、たとえばシルヴィ・ギエム一人のポワント音のほうが、彼女たち全員のポワント音よりもデカいくらいです。

  マリインスキー・バレエの「白鳥の湖」はずっと観たかったので、今日その夢がようやく叶って、とても満足しています。
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休憩時間

  「雷雨」も第三幕に突入し、ようやく先が見えてきましたが、ここで休憩時間です(笑)。

  今日(4日)はマリインスキー劇場バレエの「オールスター・ガラ」を観に行ってきました。いや~、すごくよかったっす。
  
  前半から中盤にかけては、観ている側が思わずびくっとするような、大きなミスが少しありました。でもそれは、「マリインスキー劇場バレエだから、完璧なパフォーマンスを見せてくれるに違いない」と期待しているから気になるたぐいのものでした。

  それに自分が踊るはずの振りをすっとばしてまで、他のダンサーのミスをフォローしたディアナ・ヴィシニョーワは、実に気立ての良い人だと思いました。

  スターのみなさん(よく知らないけど)はいずれもすばらしい踊りを見せてくれました。

  ただ、男性ダンサーの中では、私はイーゴリ・コールプが最も印象に残ったし、踊りもいちばん優れている、と思ったのですが、他の男性ダンサーたちに浴びせられた喝采のほうが大きかったので不思議に感じました。

  コールプは、ロブーヒン、シクリャローフ、サラファーノフ、ファジェーエフに比べて、より優れたダンサーだと私は思うのですが。

  あと、新人(らしい)のアリーナ・ソーモワが、凄まじいほどにすばらしい、魅力的なダンサーでした。ボリショイ・バレエのナターリャ・オシポワに負けてないと思います。

  それに今日は久しぶりに非常に優れた作品に出会うことができました。「エチュード」(ハラルド・ランダー振付)です。

  洗練されていて、洒脱な味わいがあって、小粋で、ユーモラスで、でもバレエというダンス形式と、有名なバレエ作品と、一部のスター・ダンサーだけではない、カンパニーのダンサーたち全員の魅力を、余すところなく観客に見せてくれました。

  ストーリーは特にありません。振付はみんな典型的なクラシック・バレエのそれです。こういう作品は、私はあまり好きになれないはずなのですが、この「エチュード」だけは違いました。

  観た後はすごく楽しい気分になったと同時に、優しい暖かい気持ちになれて、「(ダンサーの)みんな、みんなは本当にすばらしいバレエ・ダンサーだよ!」と思わず涙ぐみそうでした。

  まだうまく説明できないのですが、「エチュード」はとてもいい作品でした。またぜひ観てみたいです。  
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「雷雨」(5)

  魯家。薄っぺらい木の壁に沿って、粗末で安っぽい家具が置かれている。奥には半ば壊れかけた木製の窓がある。大海が周家に乗り込んで起こした大騒ぎのせいで、大海はもちろん、魯貴と四鳳も周家を辞することになった。

  魯貴は酒に酔っ払ってくだを巻く。「もとはといえば、俺が周家に雇われていたおかげで、大海は周家の炭鉱で働くことができたし、四鳳も周家の召使になれたんじゃないか。」 魯貴は大海を睨みつけて言う。「それをこの馬鹿が台無しにしやがって。俺の人生はどんどん悪くなっていくんだ。・・・酒がないぞ。買って来い。」

  四鳳は呆れた口調で言う。「そんなお金がどこにあるのよ。」 魯貴「周家を出るときにもらった六十元は?」 四鳳「そのお金だったら、お父さんの博打の借金を返すのにみんな消えちゃったわよ。」

  侍萍は「もう飲まないで」と魯貴をたしなめる。だが魯貴は侍萍に絡んで罵る。「大体、このどこの馬の骨とも知れないヤツの息子が、こんなふうにしちまったんだ。」 それを耳にした大海はがたん、と立ち上がって激怒する。「どこの馬の骨、だと!?」 大海は魯貴に詰め寄って殴りかかろうとする。途端に魯貴は侍萍の背中の後ろに隠れて、「すまん、すまん、もう言わないよ」と怯えた表情で謝る。侍萍はうんざりした顔をする。

  四鳳が自分と同じ目に遭うことを恐れた侍萍は、四鳳に自分と一緒に済南(ヂーナン)に引っ越すよう告げる。四鳳はためらうが、周萍とのことを母親に話すことができず、母親の勧めに同意してしまう。侍萍はさっそく、家具を売り払う算段をつけるために出かける。大海も人力車の車夫の仕事に出る。

  突然、周冲が魯家を訪れる。魯貴は「これはこれは若旦那様!」とへつらって周冲を迎える。周冲は繁漪から託された、と言って百元の金を四鳳に渡そうとする。四鳳は断ろうとするが、魯貴はすっかり有頂天になって横から掠め取り、「何か買ってきて参ります」と言って出かける。

  周冲は四鳳に「今日のことは本当に申し訳なかったよ。後で僕からお母さまに話して、君たちが周家に戻れるようにするからね」と言う。四鳳は「あなたは本当に心の優しい人だわ」と言うが、そんなことが実現するとは期待していない風である。

  それを見て取った周冲は四鳳に言う。「四鳳、こんなことで悲しまないで。世界は広いんだ。君は教育をうけるべきだ。世界には僕たちと同じように苦しんでいる人々がたくさんいるんだ。じっくりと努力していけば、最後には幸せになれるんだ。」 だが四鳳は現実がそんなに甘いものではないことを知っている。「女は、結局は女です。」

  周冲はなおも言う。「君は普通の女性じゃないんだ。僕たちはまだ若い。僕たちは将来、きっと人々のために何かできるはずだ。僕はこの不平等な社会が嫌いだ。僕はお父さまが嫌いだ。僕たちは抑圧された人間なんだ。僕は君を、自分より身分の低い人間だなんて思ったことはない。君は僕にいろんなことを教えてくれた。僕たちの本当の世界はここにはないんだ。」

  四鳳は困ったような微笑を浮かべる。周冲は続ける。「時々、僕は時間を忘れ、お母さまを忘れ、自分自身さえも忘れてしまうことがあるんだ。僕は想像するんだ。僕たちは広々とした海の上で、青々とした空の下で、軽々とした小さな船に乗っている。海の風が吹いてきて、海の空気は生き生きとしていて、塩の香りがする。船の白い帆は風をいっぱいにはらんで、鳥のように海の上を飛んでいく。空に向かって飛んでいく。僕たちは前を眺める。すると、そこには僕たちの世界が広がっているんだ。」

  四鳳は不思議そうに尋ねる。「『私たち』の?」 周冲は答える。「そうだよ、僕と君は飛べるんだ。本当にきれいで幸福な場所へ飛んでいくことができるんだ。そこには争いも、偽りも、不平等もない。」

  そこへ大海が帰ってくる。大海は周冲の姿を目にしたとたん、険悪な表情になる。だが周冲は無邪気に手を差し出して、大海と握手しようとする。大海は「俺は外国の作法は知らん」と言ってそれを拒否する。

  周冲は大海にも謝罪するが、大海の態度はそっけない。周冲は大海と話し合おうとする。「金を持っている人間のすべてが悪人というわけではないでしょう。僕はあなたがたと友だちになってはいけないんですか?」

  大海はばかばかしい、という風に首を振って言う。「四鳳は貧乏人の子だ。こいつは将来、労働者の妻になるに決まってる。洗濯をして、飯を作って・・・。周家の若旦那様、もし本当に四鳳の将来をおもんばかって下さるのなら、二度とこいつに近づかないでくれ。」

  だが周冲は「あなたは偏見がありすぎます。僕の父親が炭鉱主だからという理由で、あなたは僕を拒否するんですか?」 大海はこの純情で善意満々な若旦那様に、どう対応していいか分からず困ってしまう。大海は何とか言い返そうとして、盛んに手を動かしては反論しようとする。が、どうしても言葉がみつからない。観客席から笑い声が漏れる。

  周冲の言うことはもっともで、大海は「資本家=悪人」、「労働者=善人」というふうに極端に決めつけてしまっている。だから心根の優しい周冲のような「資本家」に対しては、どう応じていいか分からず戸惑ってしまうのである。

  そこへ魯貴が帰ってくる。魯貴は「さあ、これを召し上がって」と買ってきた食べ物の包みを机の上に置く。大海はすぐに「その金はどこから出た?」と問いただす。四鳳は「若旦那様が下さったの。お断りしようとしたんだけど、お父さんが・・・」と兄に話す。大海はすぐに残りを返すよう魯貴に迫り、魯貴が使ってしまった分を自分のポケットから出して合わせ、周冲に突き返す。

  大海は「施しはいらない。周家の人間は二度とこの家に来るな」と乱暴な口調で言う。周冲はうつむいて悲しげな顔になり、「分かりました。もう二度とこんな愚かなことはしません」と言い残して去っていく。

  侍萍が帰ってくる。周冲が四鳳を訪ねてやって来たことを聞いた侍萍は、ますます心配を募らせる。遠くから雷鳴が聞こえ、雨が降り始める。雨の音が激しくなるにつれて、雷鳴の音が大きく轟く。

  侍萍は思いつめた顔で四鳳に言う。「お母さんのために約束してほしいの。周家の若旦那様には、もう二度と会ってはだめ。」 四鳳は周萍のことを思って躊躇する。侍萍は厳しい態度で迫る。「なぜ約束できないの?お母さんに隠し事をしているの?」 四鳳はやむを得ず、もう周家の人間には会わないし、周家に足を踏み入れない、と約束する。

  雷雨は激しさを増している。侍萍は更に四鳳に迫る。「跪いて天に誓いなさい。」 四鳳は「お母さん!」とすがるような声を上げる。それでも侍萍は「誓いなさい!」と厳しく命じる。四鳳は跪く。そして苦しげな表情で天を指さし、「お母さんとの約束に背いたときには、雷にこの身を引き裂かれてもかまいません!」とほとんど悲鳴に近い声で叫ぶ。その瞬間、窓の外に鋭い白い光が走って、大きな雷鳴が轟く。  
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「雷雨」(4)

  早くこの「雷雨」をでかさないと。私は来週はバレエ鑑賞の予定がてんこもりなのです。でも、演劇はセリフがあるから、やっぱり長くなってしまいますね。

  さて、繁漪と周萍が義理の親子の関係でありながら、その一線を踏み越えてしまったことがまず明らかになった。繁漪はいまだに周萍を愛しているが、周萍は今は四鳳を愛しており、繁漪とのことは「昔のあやまち」として片づけ、繁漪に対して冷たい態度をとる。周萍の繁漪に対する態度は、観ている側が思わず繁漪を気の毒に思うくらい身勝手なものであった。

  次に周萍の父親である周樸園と、四鳳の母親である魯侍萍(梅侍萍)とは、三十年前の昔、主人と妾の関係にあったことが明らかとなる。しかも侍萍は樸園の息子を二人までもうけていた。

  周樸園はかつて家の召使であった侍萍に手をつけ、樸園の息子である周萍もまた、召使である四鳳と恋に落ちている。父と息子が期せずして同じことを繰り返しているのだが、また、息子の周萍が繁漪を「昔のこと」とあっさり切り捨てる冷たさもまた、まぎれもなく父親の周樸園から受け継がれたものであることが明らかとなる。

  樸園はかつての愛人を目の前にしても、侍萍が自ら告白するまで分からなかった。侍萍はそれをなじる。「あなたは私の顔を見てもお分かりにならなかった。時間が経てばすぐに忘れてしまうのですね。」

  樸園は悔恨するどころか、逆に侍萍に問いつめる。「お前は何をしに来た?お前は誰の差し金でやって来たのだ?」 樸園は、侍萍が過去の醜聞を持ち出して自分をゆすりに来た、と思ったのである。だが侍萍は叫ぶ。「運命が!不幸な私の運命が、私をここにやって来させたのです!」

  樸園は焦りながらも、冷たく言い放つ。「三十年も前のことなのに、今さらここへやって来るとはな!あんな昔のことを、どうして今になって持ち出す必要があるのだ?」 この樸園の言葉は、息子の周萍が繁漪に投げかけた言葉とそっくりである。

  侍萍は強い口調で言う。「私はそうしなければならないのです!私は三十年もの間、ずっと苦しんできました。私にあるのは恨みと後悔だけです。私はもう一生、あなたには会わないものと思っていました。それなのに、まさか私の娘がこの家で働いていたなんて!私はかつてあなたにお仕えしていました。今は私の娘が、あなたの息子たちにお仕えしているのです。・・・これは私に下された天罰です!」 侍萍は泣き崩れる。

  樸園は侍萍をなだめる。「私の心が死んだとは思わないでくれ。この部屋の家具は、お前がいたころとそっくり同じに並べてある。お前を偲ぶためだった。それに、お前は萍を産んだために病気になったとき、窓を開けることを好まなかった。私は今もそのとおりにして、窓を開けさせないのだ。」

  これらはすべて、樸園にとって都合がよいだけの、自分勝手で楽な「償い」である。侍萍はかたくなな態度で「そんなことをおっしゃらなくてもけっこうですわ」と言う。

  すると樸園はホッとしたように言う。「そうか。では、我々の話し合いはこれで済んだな。問題は魯貴だが。」 侍萍は言う。「心配しないで下さい。あの人は何も知りません。」 

  ますます安心した樸園(←本当にやなヤツ)は、侍萍と一緒に出て行った自分の息子の消息を尋ねる。侍萍は静かに答える。「あなたの炭鉱で働いています。鉱夫の代表として、あなたにお会いするために門前で待っていますわ。」 樸園は愕然とする。「魯大海か!」

  樸園は「何か望みはあるか」と尋ねる。侍萍は悲しげな顔になって「萍に一目でいいから会わせて下さい」と頼む。ためらう樸園に、侍萍は「ご安心なさって。あの子の母親は死んだのです」と言う。生母だとは名乗り出ない、というのである。

  樸園は「いいだろう」と言うと、ソファーに腰かけ、机の上にあった小切手に金額を書き入れて侍萍に渡す。侍萍はそれを受け取ると、その場で破り捨てる。 

  そこへ突然、怒鳴りあう声が聞こえ、召使たちの制止を振り切って、魯大海が客間へ飛び込んでくる。大海は青くて短い上衣にズボンという中国服を着ている。当時の労働者階級の服装である。樸園は感慨深い面持ちで大海をしばらく見つめるが、やがて彼に「何の用だ?」と静かに尋ねる。

  魯大海は自分の父親が誰なのかは知らない。彼は激しい口調で言う。「とぼけるのはやめてもらおう。社長、あんたは我々労働者が提出した要求に応じるのか応じないのか?」

  そこへ周萍がやって来る。樸園はわざと「萍、ここにいろ」と命じ、侍萍に彼が周萍であることをさりげなく教える。侍萍は切ない表情で周萍をそっと見つめる。

  樸園は冷酷な炭鉱主の顔に戻る。「勢いだけでは交渉はできんな。」 魯大海は激しい口調で続ける。「そうやって時間を引き延ばして、いずれ金で片を付けようというのだろう。」 樸園は皮肉な表情を浮かべる。「彼に炭鉱からの電報を見せてやれ。」

  大海は電報を見て驚く。樸園はせせら笑う。「労働者たちは、すでに仕事に復帰したのだ。お前は労働者の代表のはずなのに、知らなかったのかね?」 大海は激怒する。「じゃあ、デモで警官隊に銃撃された仲間たちの死は無駄死にだったというのか!?」

  樸園は更に追い討ちをかける。「お若い大海君、君とともに労働者の代表だった、他の二人はどうした?・・・いいだろう、我々と労組との合意書を見せてやろう。」 大海は言う。「合意書?そんなものは、代表の署名がなければ無効だ。」 だが樸園は「よく見たまえ」と言って、合意書を大海に渡させる。大海は驚愕する。「あの二人の署名がある!?」 樸園は嘲笑して言う。「愚かな青年よ、経験もないくせに、ただ喚き散らしたって何の役にも立たんのだよ!」

  大海は激昂して一気に怒鳴る。「この恥知らずな資本家め!また金に物を言わせたな!」 樸園は冷たく言い放つ。「魯大海、君には私と話をする資格はもうないのだ。炭鉱は君をすでに解雇した。」

  侍萍は大海を止めようとするが、大海は次々と樸園に罵声を浴びせる。「お前らはいつも金だ。炭鉱で警官隊に労働者たちを射殺させたばかりか、俺は知っているぞ、お前はハルピンで橋の工事をしていたときに、わざと事故を起こして、多くの労働者を死なせたな!少ない額の賠償金でごまかして!」

  周萍は父親に対する大海の悪口雑言(とは限らないのだが)に耐え切れず、「この馬鹿者!」と叫んで大海を殴りつける。侍萍が悲鳴を上げる。周萍は召使たちに「こいつを殴れ!」と言いつける。召使たちは一斉に大海に殴りかかる。

  大海は殴られながらも「この強盗ども!」と罵るのを止めない。侍萍は泣きながら「やめて、やめて!」と言い、大海を庇おうとする。それを見た樸園は「殴るのをやめろ!」と叫ぶ。

  侍萍は泣きながら言う。「あなたたちは本当に強盗よ・・・あなたは萍、萍なのね・・・。」 樸園は思わず青ざめる。だが侍萍は「あなた・・・萍、なぜあなたは私の息子を殴るの・・・。」 周萍は「お前は誰だ?」と尋ねる。侍萍は「私、私はあなたの・・・」と言いかけるが、「あなたの殴ったこの男の母親です」と言って泣き崩れる。

  四鳳も心配そうな表情でこの様子を見ている。四鳳は「お母さん、行きましょう」と言い、侍萍の肩を抱きかかえ、兄の大海を促して周家から出ていく。第二幕が終わる(まだ第二幕かー!)。   
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「雷雨」(3)

  明るい笑い声が響き、四鳳が母親の侍萍をともなって客間に入ってくる。侍萍は白髪の混じった髪を後ろにまとめ、七分袖の旗袍の上衣にズボンを穿いている。四鳳は「待ってて。奥様をお呼びしてくるわ」と言って出ていく。

  侍萍は客間を珍しげに眺めていたが、ふと何かに気づいたような顔になる。彼女は眉をひそめ、頭をめぐらして、部屋の家具や調度をつぶさに見てまわる。やがて侍萍は呆然として言う。「私は夢を見ているの?」

  そこへ四鳳が戻ってくる。四鳳は母親の様子がおかしいのに気づく。「お母さん、どうしたの?真っ青よ?」 侍萍は小さな箪笥に目が釘付けになる。四鳳は訝っていたが、思いついたように笑って、箪笥の上に飾られている女性の写真を持ってきて母親に見せる。「これでしょ?これはね、旦那様の亡くなった前の奥様なのよ。」 侍萍は写真を目にした途端、目を閉じてソファーの上に座り込んでしまう。

  四鳳は驚いて母親を助け起こそうとする。侍萍は「ちょっと眩暈がしただけ。お水を飲ませてちょうだい」と言う。四鳳は水を持ってくるために走って出ていく。侍萍は目に涙をにじませてつぶやく。「私はもう死んだ人間なのよ。どうして・・・。」

  四鳳が水を持って戻ってくる。侍萍が落ち着いたところへ、繁漪が姿を現わす。繁漪はにっこりとほほ笑みながら、四鳳に「旦那様のレインコートを旦那様のところに届けてちょうだい」と言いつける。

  繁漪は侍萍に優しく話しかける。「聞くところによれば、あなたは読み書きができるとか。私たち、きっといい話し合いができるわ。」 侍萍はへりくだった態度で応ずる。「四鳳は愚かな子です。きっと奥様を何度もご不快にさせたことでしょう。」 繁漪は笑いながら言う。「いいえ、私は彼女が大好きよ。・・・でも、年頃の娘が召使になると、色々とね・・・。私には17歳の息子がいるのだけど、まだまだ子どもで。」

  事情を察した侍萍はきっぱりと言う。「奥様、分かりましたわ。四鳳にはお暇を頂きます。私があの子を連れて行きますわ。」 繁漪は満足そうに微笑する。「よかったわ。悪く思わないでね。お金のことで困ったことがあったら、いつでも私に相談してちょうだい。」

  樸園が荒々しく客間に入ってくる。樸園の姿を見た侍萍は、あわてて手をかざして顔を隠す。樸園は繁漪を叱責する。「医者の先生がお待ちだ。なぜ来ない?」 繁漪は反抗的な口調で言う。「医者?どこの医者?」 樸園「ドイツ人の医者だ。」 繁漪「嫌よ。」 樸園は驚く。「何だと?」 繁漪「嫌だ、と言っているのよ!」

  樸園はあわてる。「お前の精神は正常な状態ではない。ここまで病状が深刻になっているとは!」 繁漪はとうとう怒りを爆発させる。「私の精神が正常じゃない!?みんなしてなぜ私を病気だと決めつけるの!?」 それでも樸園には分からない。「治療や医者を嫌がるのは精神病の典型的な症状だ。」 つくづく救いようのない男だな~。

  繁漪は樸園の制止を無視して客間を出ていってしまう。樸園は苛立った口調で、「萍に伝えろ!繁漪のところに先生をお連れして、あれを診察して頂くように、と!」と魯貴に言いつける。

  客間の隅に侍萍が立っている。樸園は彼女に気づいて声をかける。「お前は新しく来た召使か?」 侍萍は顔をそむけながら小さな声で答える。「私は四鳳の母親でございます。」

  樸園は「お前の言葉は、北方の人間のものではないようだが」と言う。侍萍は答える。「私は無錫(ウーシー)の出身です。」 無錫は南方の都市の名前。無錫と聞いて、樸園はさりげないふりを装って侍萍に尋ねる。「三十年前、無錫で大騒ぎになった出来事があったな。無錫に梅という名字の家があって、一人の令嬢がいたはずだが。」

  侍萍は静かな声で答える。「梅という家なら知っています。若い娘がいましたが、その娘はある晩、川に身を投げたのです。生まれたばかりの赤子を道連れに。その娘は令嬢などではなく、周家の使用人でした。なんでも、その娘は周家の若旦那様とあやまちを仕出かして、二人の息子を産んだのですが、若旦那様からいきなり捨てられたのだそうです。」

  樸園の顔がこわばる。彼は侍萍に背を向ける。侍萍はその後ろ姿に向かって言う。「その娘はまだ生きています。」 樸園は驚愕して振り返って叫ぶ。「まさか!川辺に遺書もあったのだ!」 侍萍「人に助けられたのです。その娘はそれから、よその土地で働きながら暮らしてきました。」

  樸園「彼女は今どこに?」
  侍萍「私は最近も彼女に会いました。」
  樸園「この街にいるのか?」
  侍萍「この街にいます。」
  樸園「赤子はどうなった?」
  侍萍「その子も生きています。」
  樸園「お前は何者だ!?」
  侍萍「私は四鳳の母でございます、旦那様・・・。」

  侍萍は静かに語り続ける。「彼女は二人目の息子を産んで間もなく、産んだばかりの赤子とともに周家から追い出されたのです。一人目の息子は周家に引き取られましたが、二人目の息子はひ弱で長生きできないだろうと言われて。周家の若旦那様は、名家のお嬢様を娶るために彼女を捨てました。彼女は寄る辺もなく、生きるために乞食もやったし、どんな仕事でもしました。子どもを養うために結婚もしました。卑賤な身分の男とです。」

  樸園は目をじっと閉じて耐え切れなくなったように言う。「私をひとりにしてくれ。」 侍萍はやるせない口調で言う。「旦那様、お分かりになりませんか?」 そこへ、召使が折りたたんだ数枚のレインコートを届けに来る。樸園はそれらをめくると、苛立った口調で召使に言いつける。「これらはみな新しいコートばかりじゃないか。私が命じたのは古いコートのほうだ。古いほうを持ってこい。」

  それを聞いた侍萍はたたみかけるように言う。「では古いシャツは?旦那様は全部で五枚のシャツをお持ちでした。その中の一枚は、袖口に穴が開いたので、梅の模様の刺繍でふさいであります。」 樸園は目を大きく見開いて侍萍を見つめる。「お、お前、お前は!」 侍萍は叫ぶ。「私があなたに以前お仕えしていた、その召使です!」 樸園はしぼり出すような声でつぶやく。「侍萍!侍萍!・・・」     
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「雷雨」(2)

  客間に四鳳がやって来る。周囲に人がいないのを確かめると、周萍と四鳳は抱き合う。周萍は四鳳に言う。「僕は明日出発する。でも、後でお父さまにすべてを打ち明けて、必ず君を迎えに来るよ。」 四鳳は嬉しそうに笑って周萍にすがりつく。「ああ!萍!あなたは本当にいい人だわ!」

  周萍は「今夜、君のところへ行ってもいいかい?」と尋ねる。四鳳はほほ笑んで答える。「いいわ。私の部屋にはたぶん誰も来ないと思うから。大丈夫なようなら、窓辺に灯りをともしておくわ。」 周萍「君の部屋の外に行ったら口笛を吹くよ。それが僕が来た合図だ。」

  二人は人の気配を察して離れる。そこへ魯貴が姿を現わす。周萍はなんでもない顔をして出ていく。魯貴は四鳳に母親が到着したことを伝える。四鳳はそれを聞くなり明るい笑顔を浮かべ、「お母さん!」と叫びながら外へ飛び出していく。

  誰もいなくなった客間に繁漪がふらりと現れる。たまたま周萍が客間を通りかかる。周萍は繁漪の姿を認めると、視線をそらして足早に去ろうとする。繁漪はそれを止める。「少し話があるのよ。」

  周萍は顔を曇らせる。「必要ないじゃないか。あなたはいつもそうやって、僕が後悔している事を思い出させるんだ。」 それに対して、繁漪は強い口調で言う。「私は後悔してないわ!」

  周萍は言う。「だが僕は後悔している。一生かけても取り返しのつかないことをしてしまった。僕は自分に顔向けができない。父にも顔向けができない。」 繁漪は叫ぶ。「あなたがいちばん顔向けができないのは、この私に対してよ!あなたが誘惑した義理の母親よ!」 周萍はそれを聞いてたじろぐ。

  繁漪はなおも言う。「あなたはたった一人で外の世界へ逃げることは許されないのよ。」 周萍はそれを遮ろうとする。「お父さまが面目を保とうとしているこの家で、そんなことを言ってはいけない。」

  だが繁漪は嘲笑する。「面目?あなたまで面目、なんて言うの?この家の隠れた罪悪は、私はみな見てきたわ。聞いてきたわ。やってきたわ。でも私は自分のやったことには自分でけりをつけるわ。あなたのご立派な父親が、陰で恐ろしいことをたくさんやってきておきながら、その責任を他人になすりつけて、自分は紳士ぶった慈善家のような顔をして、名士として社会に名が通っているのとは違ってね。あなたの父親は似非君子よ。そしてあなたは私生児よ。」 

  繁漪は小さな箪笥の上に飾ってある周萍の母親の写真を手に取る。「この若い娘は、あなたの父親に捨てられて、それで川に身を投げて自殺したのよ。あの人が昔、酔っぱらった勢いでぜんぶ話してくれたわ。」

  周萍は繁漪が自分の出生の秘密を知っていたことに驚くが、すぐに皮肉な笑いを浮かべて言い返す。「いいさ、あなたの言うとおりだ。それで?あなたは何が言いたいんだい?」

  繁漪は言葉を続ける。「私は騙されてこの家に嫁いできたわ。この家で段々と生きた死人になりかけていたときに、あなたがあの人の実家からこの家にやって来た。あなたは私を、母親であって母親でない、愛人であって愛人でない迷路に引き込んだのよ。あなたは私に言ったわ。父親を憎んでいるって。父親が死ねばいいって。人の道に外れたことをしてもかまわない、って!」

  周萍は力なく言う。「僕は若かった。あなたは、僕の若さが犯した罪を決して許さないというのか?」 繁漪は叫ぶ。「許す許さないの問題じゃないわ!私は後は死ぬだけの人生だったわ。それを生き返らせてくれた人がいた。なのに、その人にも捨てられたら、私は徐々に、ゆっくりと渇いて死んでいくのよ。私はどうしたらいいの!?」

  周萍は苦しそうに顔を歪ませる。「あなたはどうしたい?」 繁漪「行かないで。」 周萍は愕然とする。「この家で、あなたの傍に留まれというのか?この家で、生きた死人になれというのか?」

  それでも家を出て行かないでくれと懇願する繁漪に、周萍は「あなたは冲の母親じゃないか」と言う。だが繁漪は断固とした口調で叫ぶ。「いいえ!いいえ!私は自分の運命と名誉をあなたに捧げたのよ。すべてを捨てるわ。私は冲の母親でもないし、樸園の妻でもない!」

  だが周萍は冷たい口調で応じる。「でも僕はお父さまの息子だ。」 その言葉を聞いた繁漪は絶望と嘲笑の混ざった表情になる。「お父さまの息子・・・ふふ、お父さまの息子!もっと早くに、あなたがこんな腑抜けだと知っていたら!」

  周萍は相変わらず冷たい態度のままである。「じゃあ、今ようやく分かっただろう。もう何度も話したはずだ。僕はこんな歪んだ関係は厭わしいんだ。厭わしいんだよ。僕は昔の自分が犯した間違いは認める。でも、あなたにだって責任はあるんだ。あなたは聡明で物事を理解できる女性だと僕は知っている。だからあなたも最後には僕を許してくれるだろう。今は僕を罵ってもいい、責任を転嫁してもいいさ。どのみち僕が望むことは、僕たちが話すのもこれが最後になればいいということだ。」
  
  言い終わると、周萍は部屋を出て行こうとする。繁漪はそれを止める。「私はあなたにお願いしているんじゃないわ。よく考えてちょうだい。私たちが話してきたたくさんのことを。一人の女が、父親とその息子の二人に虐げられるのは耐えられない、ということを。考えることができるでしょう?」

  しかし周萍は冷たく「僕はとっくによく考えましたよ」と言い捨てると、振り向きもせずに部屋を出て行ってしまう。

  つまり、繁漪と周萍は、義理の母と息子でありながら、肉体関係を持ってしまっていたのだった。そのことを知っているのは、四鳳の父の魯貴だけである。繁漪が周萍の恋人である四鳳を周家から追い出そうとしているのは、周家の体裁のためではなく、また周萍の母親として身分違いの恋を憂慮したためでもなく、女として四鳳に嫉妬しているからだったのである。
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