新国立劇場バレエ団『ラ・シルフィード』(2月11日)-3


  わけあってその3を先にアップします。

  ジェームズ役の福岡雄大さんは相変わらず盤石の安定感。こういうふうに、男性ダンサーの主役がちゃんと舞台を引っ張れるっていいことだ。

  まず演技。結婚式を目の前にしてマリッジ・ブルーに陥り、婚約者のエフィを本当に愛しているのかどうか、自分でも自信がなくなってしまう。それでも「いや、オレはエフィを愛しているんだ、そうだよな?」と無理やり自分に言い聞かせる。しかし依然として、肝を据えて責任ある大人の男になる覚悟を決められない。この時点でもうアウトです。果たして、シルフィードの誘惑にこれ幸いと軽率に乗ってしまい、花嫁エフィを捨てて去る。

  ジェームズが表面上は「男らしいスコッツマン」を気取っていながら(老婆であるマッジに対する過度に乱暴な態度もその表れ)、実は優柔不断で、気弱で、現実から逃げたがっているボクちゃんだということがよく分かったし、シルフを自分のものにするために捕まえるという強引な手段を選んだことから、自分勝手なヤツだってこともよーく分かりました。ジェームズがすべてを失って死んだのも自業自得だ、と超納得。

  踊りも良かったです。もともと、福岡さんは爪先やかかとの細かい動き、各種足技、回転と足技の複合技が得意なのに加え、今回は上半身をまっすぐに保ち、脚を過剰に上げたり開いたりせず適切に抑えていたので、すごく見ごたえがありました。スキップするように軽くジャンプし、後ろに引いた脚の膝から下をすっと上げる、あの独特なジャンプもきれい。音楽にもよく乗っていたし、キルト・スカートとハイソックスの衣裳も似合っていました。

  ジェームズの「やり過ぎ指針」は、キルト・スカートがしょっちゅう翻って生太モモがしょっちゅうむき出しになることです。これは動きが大きすぎることを意味すると思うのですが、福岡さんはほとんどそういうことがありませんでした。

  木下嘉人さんが演じたグァーンも考えようによってはマッジに加担した悪人なんだけど、木下さんのグァーンは、ちょっと魔が差してズルしちゃっただけの、基本的には至極善良な人物。グァーンの場合、その「ちょっと魔が差した」ことが、行方不明になったジェームズの痕跡(帽子)を隠して、もともと大好きだったエフィに結婚を申し込むことだっただけです。どのみち、ジェームズはもう二度と戻ってこないこと、ジェームズがエフィから他の女(シルフィード)に心を移したことを、グァーンはよく知っていたのですからね。

  ところで、木下さんのシルフィードの真似は笑えた。インベーダーみたいなポーズで両腕をパタパタさせながらスクワット(?)するヤツ。木下さんのグァーンは大成功のキャスティングだと思います。

  マッジはなんと本島美和さん!セクシー美女メイク&衣裳だったカラボスとは違って、今度はガッツリババアメイクとボロボロ衣裳。でも演技はお見それしましたの一言。憎々しい表情がとにかくすごいし、目力も凄まじい。大迫力。存在感バリバリ。オーラ全開。ラスボス。

  本島さんのマッジというキャスティングも、木下さんのグァーンと並んで大成功。この2人が脇にいて重しになり、舞台の上で物語の世界がきちんと成立していました。

  このマッジはカラボスと同じ悪役の魔女に分類されるんだろうけど、カラボスはリラの精と対比されることで立ち位置が分かりやすいのに比べて、マッジのほうはどういう人物なのか、役回りなのか、正直よく分からないでいました。マッジが諸悪の根源だとか、マッジがジェームズを不幸にしたとかいう解釈はどーも腑に落ちない。

  「現代的な解釈」をつければ、マッジはジェームズやグァーンの中にある「邪悪な部分」を人物化したんでしょうね。ジェームズの場合は、エフィとの気の進まない結婚は成就しないよう願う、愛しいシルフィードを騙して捕まえ、自分から逃げないように図る、グァーンの場合は、ジェームズがどこに行ったか知らんぷりをする、エフィの傷心につけ込んでプロポーズする。マッジは元々そうしたかった彼らの背中を押しただけ、そんな気がします。

  第一幕、ジェームズの他に、グァーンにもシルフィードの姿が見えます。しかし、エフィをはじめとする他の人々には見えません。あまり深く考える必要はない問題かもしれませんが、これはどういうことなんでしょう?

  ジェームズに裏切られるエフィ役の堀口純さんも、さりげなく良い演技と良い踊りを見せていました。意外だったのが、大柄でダイナミックな印象がある堀口さんが、可憐でかわいらしい少女になっていたことです(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい)。グァーンとの結婚を承諾した後も、まだジェームズのことがあきらめきれず、どことなく悲しそうな表情をしていたのも自然でよかったです。

  エフィは第一幕でソロを一つ踊り、あとはジェームズと一緒に群舞の中で踊るだけなんだけど、堀口さんのソロでの踊りがとてもよかったです。堀口さんの踊り=大味、というイメージが崩れました。ブルノンヴィルっぽい細かいステップを見事に踊りこなしていて、堀口さんの足元に見入ってしまいました。

  今回以前に、新国立劇場バレエ団が『ラ・シルフィード』を上演したのはいつなんでしょう?初演は2000年だそうで、プログラムに使用されている舞台写真のシルフィードは酒井はなさんのように見えます。まさかそれ以来上演してないのだろうか?だったら今回の「雑なブルノンヴィル」感は納得できるような。

  次はあまり間を空けずに再演して下さい。

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新国立劇場バレエ団『ラ・シルフィード』(2月11日)-1


  まずはおひさしぶりぶり~。

  今日は1ヶ月ぶりのバレエ鑑賞です。私にはこの1ヶ月間の記憶がほとんどありません。人間限界ギリギリまで忙しくなると本当にこーなるんだ、と驚きです。殺人的に忙しい毎日を送っている先輩がやっぱり慢性的な記憶喪失に罹っていて、私はそれをずっと他人事だと思ってましたが、誰でも罹患することがよく分かりました。

  さて、今日のプログラムは2本立てでした。


 「Men Y Men」


  振付:ウェイン・イーグリング
  音楽:セルゲイ・ラフマニノフ
  編曲・指揮:ギャヴィン・サザーランド)
  演奏:東京交響楽団  

  マイレン・トレウバエフ、貝川鐵夫、福田圭吾、輪島拓也、小口邦明、小柴富久修、原 健太、橋一輝、渡部義紀


  上演時間はほぼ15分です。短いけど、この手の作品はこれくらいの時間が(主に観客にとって)限度なんだよね。適切な長さです。

  照明の担当者名がプログラムに書いてないのですが、照明が非常にすばらしかったです。ダンサーたちの上半身や両腕の動きが、まるで連続写真のように、美しい螺旋状に見えたのは、照明の力もたぶんに大きかったのだろうと思います。

  ラッセル・マリファントの作品に照明の効果を縦横に発揮した"Two"という作品があります(照明担当はマイケル・ハルズ)。シルヴィ・ギエムもよく踊っていた作品です。ダンサーたちの動きの見え方は、この"Two"とよく似ていました。

  上に書いたようにダンサーはオール男。上半身は裸で、黒いズボンを穿いているだけです。

  振付は基本クラシックです。発想が面白いと思ったのは、まず普通は男女のペアがグラン・パ・ド・ドゥのアダージョとかで踊るような振付の踊りを、男性同士のペアが踊ったらどうなるかを試みているのが一点目、次に普通は女性ダンサーの踊りで強調される曲線的な腕の動きを、男性ダンサーがやったらどうなるかを試みているのが二点目です。

  特に男性ダンサーたちによる、オデットや「瀕死の白鳥」みたいに腕を柔らかくたわませる動きが、照明のおかげもあってか非常に美しくて印象に残りました。

  男性同士のパ・ド・ドゥでは、サポートだけではなく、リフトも普通にしてたんでびっくりしました。そんなに危険なものはなかったけどね。

  ただ、意欲作だとは思うんですが、男性同士が複数のペアを組んで踊るのを観ていたら、マシュー・ボーンの「スピットファイア」が脳内で同時上映されてしまい、しばしば噴き出しそうになって困りました(気になる人はYou Tubeで"Spitfire"と"Matthew Bourne"で検索してみてね!)。

  (次に『ラ・シルフィード』編に続く)

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