大阪公演ご感想(2)

  みなさま、まだ抜け殻ですか~!?

  私は脱力感と虚無感からは脱け出せましたが、まだ他のクラシック音楽や他のバレエなどを聴けない、見られない状態です~。  

  さて、我が「アダ友」のお一人、エミリーさんが大阪公演の様子をメールで知らせて下さいました。お願いして掲載させて頂くことにしました。エミリーさん、どうもありがとうございます~!!!


  日月と大阪公演見てきました!

  厚生年金の芸術ホールは幅が新国立より狭くて、舞台がとても近くて臨場感ありました。そのせいか音響も大阪の方が良い感じがして、ヴァイオリニストが代わったのかと思うくらいでした。

  日曜ソワレは2階はかなり空席が目立ちました。招待席は普通の人っぽかったです。マシューおばあさんがテーブルでヨヨヨと泣き真似するところは、近くに座ってる人の膝にすがったりしていて面白かったのですが、ヨシヨシ位すればよいのに唖然としてるだけでした(それでではないでしょうが昨日はなしでした)。

  千秋楽は劇場ほぼ満席でした。

  トランプのシーンでゼナイダが(記憶違いかもしれません)、グラスと瓶に入ったマンゴージュースをトランプのテーブルに運び、3人が日本語で「カンパ~イ」ってしたり、最後悪魔マシューが口から血を噴いたり…千秋楽バージョンだった模様です。

  垂れ幕も紙吹雪もありませんでしたが、最後は多分(前から3列目で後ろは見なかったのですが)総スタオベでカーテンコールは5回…だったと思います。出演者、関係者に感謝の気持ちでいっぱいで手が痛くなるほど拍手してきました。

  出待ちは東京と一緒で、1時間後に一気に4人が出てきてくれました。皆さん終始にこやかで和やかな出待ちでした。

  アダムは黒に心って漢字が書いてあるTシャツ(穴があいてました!)にジーンズ姿でした。最後までアダムとマシューが残り、二人肩組んでポーズとってくれました。

  ゼナイダはそう思ってみるせいかお腹が日に日に大きくなっていくような気がしましたが、無事に最終公演まで頑張ってくれて、大感謝です。産休明けたら是非クラシックバレエも観てみたい!

  怪演マシューも、声が素敵だったウィルも又日本に来てほしいです。

  アダムは疲れた様子はなく、千秋楽まで上り調子だったように思いました。

  もっともっとアダムの舞台が観たい!

  そして、踊りというよりあのアダムの個性が大好き!と改めて感じた兵士の物語日本公演でした。



  以上です。千秋楽の公演とカーテン・コールがすごく盛り上がったこと、想像するととても嬉しいです。キャストやスタッフさんたちもさぞ嬉しかったでしょうね。

  東京公演では、日に日に急激な右肩上がりでぐんぐん調子を上げていったアダム・クーパーですが、大阪でもその勢いが止まらなかったというのはすごい!

  今から思うに、これはもちろん彼のリカバリ能力と適応力の高さの賜物だったのだろうけど、観客の好意に満ちた反応も大きく影響しているのは間違いありません。

  私はなんとな~く思うのですが、イギリスの舞踊批評家たちやダンス・ファンの、アダム・クーパーに対する目はちょっと厳しすぎるのではないかしら。

  もちろん、厳しい目で見られるというのは、大きな人気を博した者が甘受すべきことなのかもしれないけど、すでにその域を超えて、もはや意地悪心すら漂っているように感じるのです。バッシングと表現してもいいように思います。

  イギリスには、「バレエ>>>>>>ミュージカル」、「イギリス>>>>>>日本」と偏った考えを持つ人々が(イギリス人に限らず)多いのでしょうか。

  あそこまで叩かれちゃ、さすがにアダムだって参るでしょうよ。

  今回の公演で、客席の好意ムンムンな雰囲気と反応に、彼が多少なりとも元気づけられて、パフォーマンスが上り調子に良くなることにつながったとしたら、これほど嬉しいことはありません。

  アダム、イギリスでいじめられたら、いつでも日本に帰っておいで。  
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TSUTAYA ON LINE ブログ話題度ランキング

  9月23日20:19の時点で、TSUTAYA online のブログ話題度ランキング・海外男性俳優部門で、「アダム・クーパー」が第8位だぜ♪

  同姓同名の俳優がいるみたいですが、表示されている主な使用語(「兵士」、「踊り」、「舞台」など)からみて、穴あきTシャツを着ていた(笑)アダム・クーパーであることは間違いないと思います。

  ちなみに第1位:ダニー・ヒューストン、第2位:ライアン・レイノルズ、第3位:ドミニク・モナハン、第4位:パトリック・スチュワート、第5位:ウォルター・マッソー、第6位:マルコム・マクダウェル、第7位:ロバート・パティンソン、第8位:アダム・クーパー、第9位:マーク・ウェバー、第10位:ヒュー・ジャックマン、となっております。

  これがアダム・クーパーの底力というか凄さだよね。

  これは一時的な現象だろうけど、でもアダム・クーパーはハリウッド・スターではなく、話題の映画が公開されたわけでもないし、またそのDVDがリリースされたわけでもない。

  たかだか10日間ぽっち、日本(しかも東京と大阪のみ)で公演をやっただけで、今や厖大な数にのぼるブログでトップ10に入るほど取り上げられるなんて、すごいことだと思います。

  とても嬉しいわ
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千秋楽恒例お遊び

  大阪公演の最終日、今回の『兵士の物語』日本公演千秋楽では、東京公演にはなかった「千秋楽恒例お遊びアドリブ」がたくさんあったそうです。

  ご覧になった「謎の関西人」さんがその様子を詳しく教えて下さいました。これがすごく面白くて、私も観たかった~!!!という気になりました。以下に「謎の関西人」さんからのおたよりを引用いたします。


  千秋楽公演では、まず最初にティムさんが高島屋の紙袋(それも妙にヨレヨレ)を持って現れたのが目を引きました。

  後で聞いたところでは、「最終日なので楽団員へのプレゼントを持っていた」そうなのですが、酔っ払い指揮者の雰囲気にハマっていたので演出のように見えました・・・。

  千秋楽の目玉になったのが、兵士と悪魔のトランプ勝負シーン。

  兵士が「10ペンス」と掛け金を告げるセリフを口にした途端、すかさずマシューが「それともマンゴージュースか?」と言うのと同時に、上着の下に隠し持っていたマンゴージュースを取り出して「どん!」とテーブルに置いたのでした。

  それを聞いたウィル、何てこったい、と天を仰ぐ。アダムは淡々と「マンゴージュースだ」。

  マシュー「お好きなように。だが気をつけるんだな。」(通常のセリフだがニュアンスは大違い!)

  そしてマシューが王女を呼びつけてグラスを用意させ、男たち3人で「カンパーイ(キャンパーイ)」 (← 本当にこう言った。そして本当に飲んだ。)

  その後は何事もなかったようにトランプ勝負の開始。

  他の方のブログにあった「ウィル・ケンプはマンゴージュースが嫌いらしい」という情報も加味して、このような内容だったと判断しましたが、あっけにとられて字幕をみることも忘れていたので聞き取りには自信がありません。

  もっとも、アドリブなら字幕が対応していたとも思えませんが。

  前日夜は、劇場すぐ隣のごくフツーに見える居酒屋で出演者・スタッフ一同が宴会?をしていたので、そのときにこのお遊びを思いついたのかも。

  前日夜公演でマシュー老婆がエキストラ(招待客ではなく近隣のダンススクール生らしい)の膝に顔をうずめて泣いていた芸達者ぶりをみると、お遊びもマシューの先導なのかしら?

  それにしても何故マンゴージュース・・・たまたま差し入れでもあったんだろうか・・・?

  あと、「50(ポンド?)!」のところでは、アダムとウィルが普段の3倍くらいの勢いでムキになって連呼し、笑いを誘っていました。

  その他、悪魔が床をドラム打ちしながら現れる場面、確か普段は「うおーっ」という声だったと思うのですが、千秋楽では「不気味な笑い声」でした。

  王女が兵士の投げキッスをキャッチして飲み込む場面、キャッチのタイミングが2テンポくらい遅くて、アダムが「ん?」みたいな反応をしていたようにみえました。その間ゼナイダさんは余裕たっぷりに微笑んでいたから、彼女のアドリブだったのかな?

  ちょうどカーテンコールの拍手が果てて客席が立ちあがりかけたとき、舞台袖裏から「イェイ!」だか「ウォウ!」だか、うまく表現できないけど「やったぜ!」的な掛け声が上がり(もちろんアダムたちでしょう)、ちゃんと客席にも聞こえて、温かな笑いが広がりました。

  カーテンコールの最後の最後の引き際、アダムが(彼だけが)客席にキスを投げてくれました♪

  彼の達成感と日本のファンに対する愛情が感じられてとてもうれしかったです。

  大阪の会場は楽屋口すぐに車がつけられる造りで、しかもファンはそこまで入れてもらえないのですが、出演者全員がわざわざファンが集まっているところまで歩いて出向いてきてくれました。

  アダムはもちろんのこと、みなさんいい人ばかりですね(特にマシューのサービス精神旺盛なこと!)。

  ティムさんも現れて、集まっているファンを楽しそうに自分の携帯で写真に撮っているのが可笑しかった・・・自分のブログのネタにでもされるのでしょうか??



  以上です。面白いでしょ!?特に「マンゴージュース」のシーンはぜひ見てみたかった!思うに、ハート、クーパー、ヤノウスキーがあらかじめ示し合わせて、ケンプをかついだのではないかしら?

  マンゴージュース、私は飲んだことがありません。よほどクセのある味がするのでしょうか。

  それにしても、「マンゴージュース」と淡々と言うアダム・クーパー・・・きっと超冷静な表情で言ったんだろうな。想像しただけで大爆笑です。なんというか、『モンティ・パイソン』を彷彿とさせる、超イギリス的ナンセンス・ギャグですね(笑)。

  「謎の関西人」さん、どうもありがとうございました~!!!
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大阪公演小ネタ

  (これは『オズの魔法使い』のリハーサル風景。アダムのTシャツに注目。詳しくは記事本文を参照のこと。ちなみにこの写真を選んだのは、これがいちばんTシャツの柄がはっきり見えるためであって、特に他意はありません。たぶん。) 


  今日の『兵士の物語』千秋楽をご覧になった「謎の関西人」さん(←特に名は秘す)から、おたよりを頂きました。

  おたよりの主旨をかいつまんで申しますと、今日の公演は指揮者を含めたキャスト全員が、大阪の空気に感化されたのか、「いいノリ」で楽しませてくれた、とのことです。よかった~!!!

  んで「小ネタ」とは、楽屋口に出てきたアダムは、胸にでっかく「心」と毛筆体のロゴが入ったTシャツを着ていたそうです。

  『オズの魔法使い』公式サイトに掲載された練習風景の写真でも着ているということなので、「マイピクチャ」を探してみたら、ありましたがな。上の写真です。

  リハーサルで着るようなTシャツを着てファンの前に出るかフツー?

  しかも「謎の関西人」さんによると、「今では首もと両側に指が入りそうなくらいの穴があいて」いたそうです。

  ちったあカッコつけて着飾れよ!アダム!

  「謎の関西人」さん曰く、「アダム・クーパーの人柄がにじみ出ているようで面白かった」と。

  わたくしも嬉しいよ、アダム。そのまま変わらない君でいておくれ。
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終わってしまったよ・・・(ため息)

  『兵士の物語』大阪公演も今日をもって楽を迎え、これで今回のウィル・タケット版『兵士の物語』日本公演が終了しました。

  スタッフ、キャストのみなさん、本当にお疲れさまでした!そして、本当にどうもありがとうございました!!!

  大阪公演は観に行けなかったけど、でも「もう開演したな」、「今ごろはあのシーンかな」、「そろそろ終わりにさしかかったかな」とか思うだけでワクワクしました。

  それに、クーパー君が日本にいる、と思うだけで嬉しかったです。

  明日1日くらいは休みで、大阪や神戸や京都あたりを観光するのかしらん。確か、クーパー君は『危険な関係』のときにだったか、京都を訪れたことがあるはず。でも、ウィル・ケンプ、マシュー・ハート、ゼナイダ・ヤノウスキー、ウィル・タケットははじめてかも。楽しんでほしいものです。

  そういえば、東京公演終了後の休みで、彼らはキディランド(←全員が子持ちだもんね。マシュー・ハートもか!?)や築地市場に行ったらしいですね。

  素朴な疑問。しゃぶしゃぶや焼肉が大好きなアダム・クーパーですが、寿司だけは大の苦手のはず。築地市場観光お約束、マグロのセリは見学しただろうけど、寿司は食ったのか!?

  なぜアダム・クーパーは寿司が苦手なのか。ロンドンでも“Sushi”はもはや珍しくありません。回転寿司があちこちにあるし、スーパーでもパック詰めで売ってるくらいです。

  アダム・クーパーは、ロイヤル・バレエ・アッパー・スクールの学生時代、ローザンヌ・コンクールに参加して東京を訪れた際、熊川哲也に連れられて寿司を初体験したそうです。そのとき、どのネタを頼んだらいいのか分からなかったクーパーに、熊川哲也がイタズラでタコを勧めて食わしてしまった。

  ヨーロッパの一部地域では「悪魔の魚」と忌まれているタコの、しかもとーぜんワサビ入りを食わされ、以来それがトラウマになって、アダム・クーパーは寿司が苦手になってしまったようです。

  でも他のキャストたちは「ツキジに来たらやっぱりスシ食おーぜ」的な雰囲気になったでしょう。クーパー君は果たして何を食べたのかな。カッパ巻とかタマゴか?大将に追い出されそう(笑)。

  という実に楽しい妄想も、しばらくできなくなるよ~(泣)。

  寂しいよ。
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『兵士の物語』東京公演最終日(書き直し編)

  指揮者のティム・マーレーが「気が弱くて酔っ払いの指揮者」という役をあてがわれていて、開演前にオドオドした態度で(←演技)舞台に現れ、語り手役のウィル・ケンプに励まされ+促されて、オーケストラ・ピットに転びかけながら(←これも演技)入ることは前の記事に書きました。

  今日よく見たら、指揮者だけでなくオーケストラの奏者(日本人)も演技をさせられていました。なかなかオーケストラ・ピットに入ろうとしない指揮者のマーレーに向かって、盛んに手を振って早く入るよう合図する、という演技です。ついに奏者まで巻き込まれたか(笑)。

  そうそう、ウィル・ケンプが前口上で、オーケストラを紹介して“Beelzeboobs”(スペル自信なし)と言いますが、あれは“Beelzebub”(ベルゼブブ)に引っかけたダジャレだったんですね。「ベルゼブブ」は有名な悪魔の名前です。

  今日で東京公演が終わります。結局、アダム・クーパーの踊りには完全に満足することはできませんでしたが、初日のあの重くてぎこちない踊りから、たった6日でここまで復活したのだからまあよしとしましょう。

  開脚ジャンプの脚の形はきれいだし、片脚を横に伸ばして半回転するジャンプや、身体をひねりながらジャンプして両脚を時間差で振り上げる動きは丁寧で滞空時間も長かったです。

  様々な種類の回転はみな安定しており(やはり前アティチュードでの回転が私の「お気に」)、次の動きへの移行もスムーズでした。アラベスクも身体を反らし気味にして、長い手足をゆるやかに曲げながら伸ばすというクーパー独特の美しいものでした。あと、半回転しながら片脚を伸ばして前に振り上げて一瞬静止、という動きが多くあったんだけど、そのときにクーパーは充分に「ため」を置くので動きがはっきりと見え、その脚から爪先の線がすごく「アダム・クーパー」らしくて魅力的でした。

  同じことのくり返しになりますが、クーパーの踊りは薄っぺらくなくて、質感というか中身があるんですね。踊りが表面的でない。すごく立体的で迫力があるし、肉体の暖かみさえ感じられます。だぶついた草色のズボンや上着、よれよれのシャツという衣装でも、その下に彼の肉体があるのが透けて見える、というより「感じ取れる」ような踊りをします。

  それが特に目立つのが、第1部、第2部にそれぞれある「兵士の行進曲」でのクーパーの踊りです。とりわけ第1部の冒頭の踊りの振付はかなり変わっています。両脚を奇妙な形で機械的に動かしたり、片方の肩を極端にそびやかしたり、片脚でピョンピョンと跳ねながら、もう片脚を変なふうに曲げ伸ばししたり、あれはクーパーが彼独特の人間くさい動きで踊るからこそ様になるんだろうな~、と思います。

  その後にライフル銃を持ってジャンプする動きは、もうちょっと軽やかさがあってもいいんではないかと感じたけど、今にして思えば、あのそこはかとないドンくささがアダム・クーパーの特徴であり魅力なのよね~(振付自体もドンくさいしね・・・笑)。そこはかとないドンくささの中にそこはかとない色気が漂っている。でも不快になるようないやらしいものではなくて、健康的な男の色気。思わず軍服の上から筋肉を手でなぞりたいわ的な。かといってマッチョー!という感じではなく、なんか少年のようなほほえましい不器用さや初々しさがある。

  キレや鋭さがまだ足りないという不満は残ったものの、久々にアダム・クーパーらしい踊りが見られて満足でした。今回のウィル・タケットしかり、この4月のラッセル・マリファントしかり、願わくは、クーパー君にはこれからも優れた振付家の作品にどんどん挑んでいってほしいです。

  ウィル・ケンプとマシュー・ハートについても個別に書くつもりでいましたが、他のキャスト、アダム・クーパーとゼナイダ・ヤノウスキーとひっくるめて書いちゃうことにします。

  水をさすつもりは毛頭ないのですが、悪魔役のマシュー・ハートの演技と踊りは、個人的には「想定内」の凄さでした。初演・再演時と比べて、特に大きな変化があったとは感じません。ある意味、ハートの悪魔は初演時にもう完璧の域に達してしまっていたのでしょうね。あれ以上には、表現を進化させるとか深めるとかいう隙がなかったのだろうと思います。逆にいえば、他の3人、アダム・クーパー、ウィル・ケンプ、ゼナイダ・ヤノウスキーは、初演・再演時はまだまだ表現が浅かったということです。

  今回は、そのアダム・クーパー、ウィル・ケンプ、ゼナイダ・ヤノウスキーが大きな変化を見せたことのほうに目が行きました。私からみれば、彼らはハートに負けないくらい、自分の役柄をしっかりと把握し解釈して、更にそのとおりにすばらしく表現していました。だから今回の舞台では、誰か1人が目立つということはなく、クーパー、ケンプ、ハート、ヤノウスキーの4人による個々のキャラが、同等の存在感を持ってしっかり立っていたと思います。

  語り手役のウィル・ケンプは、語りやセリフの声の緩急や抑揚、ためや間の置き方、間合いのはかり方が絶妙でした。また表情は豊かで、仕草やポーズも一々キマっていました。

  私が好きなウィル・ケンプのベスト・シーンは、やはり前口上の「ミナサマ~、ヨウコソ~、イラッシャイ~、マシタ~!」ですね(笑)。日が経つごとに変容していって、「ミナセマ~、ヨ~コソ~、イラッセ~イ、マシタ~!」と居酒屋の店員の兄ちゃんみたいになっていったのが笑えました。

  あと、第2部冒頭の語りもツボです。「兵士の行進曲」で、ケンプが最後に声を張り上げて長く伸ばすと同時に、兵士役のクーパーが両腕と片脚をがっ、と高く振り上げて激しく踊り始めますね。あの瞬間は迫力がありました。

  ケンプの王様の演技も最高でした。特に、軍医と偽って王宮にやって来た兵士を、ケンプの王様が両手を腰に当て、眉をひそめながら深くプリエ(笑)してまた伸び上がり、兵士を上から下までジロジロ~と見つめるところが気に入っています。

  ヤノウスキーについてはもう書きましたが、付け加えると、演技ばかりでなく踊りも変わりました。以前はセリフ回しがいかにも素人くさかったのに加え、第2部の王女の踊りでは、クラシック・バレエのクセが抜けず、定型のバレエでない振りと定型のクラシック・バレエの振りが分断してしまってリンクしておらず、踊りがスムーズでないところがありました。

  でも今回は、コミカルな演技をしながら、クラシック・バレエがベースでありながらも、かなり型破りな振付を実に自然に、巧みに踊っていました。音楽にも非常によく合っていて、ヤノウスキーもまた音楽性に非常に恵まれたダンサーなのだということが分かりました。

  そして、最後はやっぱりアダム・クーパーに話が戻るわけです(だってファンだし~)。クーパーの兵士の役作り、演技とセリフ回しは実にすばらしくなりました。演技やセリフ回しについては、前にも書いたようにミュージカルや演劇に出演してきたことが役立ったとしても、私が特に感心したのはクーパーによる兵士という人物の解釈と表現です。

  以前に観たとき、クーパーによる兵士像はかなり曖昧で、兵士がどういう人物で、何を考えているのかはっきりせず、それが兵士の存在感の希薄さにつながっていたわけです。でも、今回の公演では、兵士に強い存在感がありました。兵士は浅はかで愚かな青年という設定ですが、そんな兵士の浅慮さ、愚昧さ、無邪気さ、欲深さ、なんでも自分に都合よく考える狡さといった、人間が持つありふれた弱さを、クーパーははっきりと表現できていたように思います。

  ですから、今回の舞台では、主人公である兵士を軸に、物語を展開していくことがきちんとできたと思います。クーパーの踊りには正直「う~む?」なところがありましたが、踊り以外に文句はありません。むしろ「お見事!」と言いたいほどです。(でも、やっぱり踊りも文句なしに「お見事!」であってほしかった・・・)

  このウィル・タケット版(英国ロイヤル・オペラ・ハウス版)『兵士の物語』については、日本でも上演されればいいのに、とずっと思っていました。でもそれはあくまでファンタジーであって、まさか本当に実現するとは予想していませんでした。

  日本で上演するには、セリフが英語であるという言葉の壁の問題、そして寓話的な内容を理解することの難しさという問題がありました。なによりも、演劇ともバレエともつかない、ああいうジャンル分けの困難な作品は、日本の観客にはまだ受け入れられにくいだろうと思われました。

  しかし、日本での上演が現実のものとなりました。初日に会場に入って、あの懐かしい魅力的な舞台セットが目に入ってきたときは、本当に心の底から嬉しかったです。しかもオリジナルのキャストでまた観られたなんて、私にとってはまさに夢の実現でした。

  東京公演が終わった今、私はいまだ夢うつつで、魂が抜けたような気分です。ふと気づけば舞台が脳内再生される状態です。これからしばらく舞台公演は観ません。『兵士の物語』の記憶に上書きしたくないから。         
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『兵士の物語』9月15日(書き直し編)

  というわけで、『兵士の物語』東京公演9月15日の感想をあらためて(←そもそも書いてない)書きます~。

  私はアダム・クーパーのファンなので、彼について毎回書かないと気が済みません。

  アダム・クーパーの調子はうなぎのぼりで、動きから重たさがほぼ(まったくというわけではないが)消えて、彼本来のキレの良い動きが復活してきました。ただ、彼の比類ない音楽性に、身体のほうがまだついていけていないな、という印象はあります。

  前にも書きましたが、今のアダム・クーパーは基本的に体力不足です。その原因はおそらく、この4月から7月にかけて、彼が急激に痩せてしまったことにあります。

  この数日で彼の踊りが見違えるように良くなったのは、いわゆる「昔の勘を取り戻した」というやつだと思います。アダム・クーパーの優れた適応力はロイヤル・バレエ時代から有名ですが、そういった彼の凄さは、わずか2、3日という短い時間で、しかも舞台の回数をこなすごとに、数年のブランクを埋めてしまうことにも表れているといえます。

  でも、体力不足は物理的な問題なので、適応力の高さでは補いきれません。数日の公演で元に戻るなんてあり得ないことです。このことは長い目で見るしかありません。少なくとも数ヶ月から半年ほどの時間をかけなくてはならないでしょう。

  ですから、彼にはこれからも今のペースで踊り続けていってほしいのですが、現時点で決まっている彼の活動予定からみれば、それはなかなか難しいと思います。そうである以上は、彼の自覚に任せるしかないですね。

  どのみち、キャストには今回の公演映像が渡されるでしょうし、彼も自分の踊りにパワーが足りないことくらいは分かるでしょう。アダム・クーパーは人間的にバランスが良いというか、冷静に先々まで見据えて、じっくりと事を練るところがある感じがします。ひょっとしたら、今の自分が体力不足なことはとうに承知で、今は自分にできる範囲で、と割り切っているのかもしれません。

  彼がこれからじっくりと元の体力を取り戻すことに取り組んでくれることを祈ります。ゆっくりでいいから、どうか頑張ってね、クーパー君!

  さて、今日は肝心なシーンでとんでもないアクシデントが起きました。

  が、キャストたちのその重大なアクシデントへの対処が実にすばらしかった! 

  第2部、兵士は悪魔を誘ってカード・ゲームをし、その都度わざと負けます。兵士が悪魔からもらった金を悪魔に返していくとともに、悪魔は徐々に力を失い、兵士はそれに乗じて語り手とともに悪魔と格闘します。

  そうして悪魔をやっつけた兵士は王女と結ばれます。が、その後に悪魔が復活し、再び兵士の前に現れます。兵士、語り手、王女は一致団結して再び悪魔と戦い、兵士はついに悪魔の息の根を止めます。

  これら二つの悪魔との格闘シーンでは、かなり激しい殺陣っぽい動きと踊りがあります。その一つめ、カード・ゲームが終わった後に、兵士が語り手と一緒に悪魔と戦うシーンの途中で、なんとヴァイオリンの柄が根元からぽっきりと折れてしまいました。

  ですが、アダム・クーパー、ウィル・ケンプ、マシュー・ハートは顔色ひとつ変えません。クーパーはヴァイオリンの折れた部分を強くつかんで、そのまま弾く仕草をし、また振り回していました。私は心中「これは面白いことになったぞ」と思い(ごめんなさい)、キャストたちがどうやってこのアクシデントを処理するのか、と興味津々でした。

  悪魔が倒れると、語り手は兵士に「君は自由だ!」と叫び、兵士はヴァイオリンを持ちながら、第1部と同じ振りで踊ります。

  クーパーはヴァイオリンの折れた部分をつかんで、ヴァイオリンを無理矢理真っ直ぐの形に保ちながら踊りました。少し不自然な体勢になったはずです。でも、クーパーの踊りにもまったくアクシデントの影響は見られません。

  その後は王女のソロ、王女・兵士・王様の踊りになります。この間はヴァイオリンは用いられません。この隙に予備のヴァイオリンに変えるのかな、と私は思いましたが、それはありませんでした。

  ヴァイオリンが変えられないまま、悪魔が復活してしまいました。兵士役のクーパー、王様役のケンプ、王女役のゼナイダ・ヤノウスキーは、折れたヴァイオリンを投げ合って、ヴァイオリンを悪魔に奪われまいとします。

  その間に、ケンプがヴァイオリンの柄を本体に差し込んで、ヴァイオリンはいったん直りました。でも、すぐにまたぽっきりと折れてしまいました。弦だけでつながっているヴァイオリンを、クーパー、ケンプ、ヤノウスキーがトスし合うのですが、さすがに投げるわけにいかないらしく、ほとんど手渡しという感じになっていました。

  舞台上に更に設けられた小さな舞台の上に登場人物たちが集まったとき、クーパーが再びヴァイオリンの柄を本体に差し込もうとしました。その間に、悪魔役のマシュー・ハートが、クーパーの姿を隠す形で大きくジャンプしたのです。これはいつもの決められた振りではありません。ハートはヴァイオリンを直そうとするクーパーを見て、観客の目をクーパーからそらすため、とっさの判断でやったのでしょう。大したもんです。

  ですが、ヴァイオリンは直りません。それから、事態はいよいよ緊迫してきました。兵士、王女、王様が一列に並び、悪魔は誰がヴァイオリンを持っているのか、一人ずつチェックするシーンになってしまいました。いつもなら、ヴァイオリンを持っている王様は、ヴァイオリンの柄をズボンの後ろに突っ込み、持っていないフリをして悪魔を騙すのです。でもヴァイオリンの柄が折れてしまっていては、この演技はできません。

  さあどうする、と思ってワクワクしながら(ほんとにごめんなさい)見ていたら、ケンプとハートが見事な連携アドリブをやってのけました。ケンプの王様は折れたヴァイオリンを脇に抱えて、「私ですう~」と半泣きの観念した表情をします。すると、ハートの悪魔は「お前だー!」というふうに、王様をびっ、と指さします。いうまでもなく、両人とも打ち合わせなしでやったのです。

  王様からヴァイオリンを受け取ったクーパーの兵士は、折れた部分をつかんで悪魔を殴ります。そして、最も深刻な事態になりました。兵士はヴァイオリンの本体を両手で逆さに持ち、柄を悪魔の胸に突き刺して悪魔を殺さなくてはなりません。

  このとき、兵士は悪魔を追いつめて舞台の左脇に移動します。ここで兵士役のクーパーのスーパー・プレーが出ました。

  仰向けに倒れたハートの悪魔の上にまたがる寸前に、クーパーは舞台の左袖に腕を伸ばし、壊れたヴァイオリンを床をすべらすように舞台の脇に放り投げ、待機していたのであろうスタッフ(←装置のせいで姿は見えない)から予備のヴァイオリンをすかさず受け取ると、間髪いれずにヴァイオリンを両手で持って振り上げ、悪魔の胸に突き立てました。

  この、クーパーが予備のヴァイオリンを受け取るのが実に素早くて、ほんとに0.何秒の世界でした。しかも、いかにも「受け取りました」という、もたもたした感じはせず、悪魔の上にまたがるために身をかがめた瞬間を利用して、さっ、と腕を横に伸ばしてヴァイオリンを受け取り、そのまま演技に移りました。本当に目にもとまらぬ速さでした。

  舞台袖、セットの陰に予備のヴァイオリンを持って待ちかまえているスタッフの姿が見えていたのだろうけど、あの素早いスムーズな受け取り方には、さすがはクーパー君、と妙なことですがすごく感心しました。今日の公演を観ていた友人たちも、「あれはすごいよ~!!」と言っていました。

  かくして、「よりによって大事なシーンでヴァイオリンの柄が折れちゃったよアクシデント」は、キャストたちの見事なアドリブ連係プレーによって解決されたわけです。

  顔色ひとつ変えず、冷静に対応していたかのように見えたキャストたちですが、ウィル・ケンプによれば、このときは4人ともすごくあわてていて必死だったのだそうです。

  しかし、アクシデントに心中では焦っていても表面には出さず、とっさの機転とアドリブで協力し合って乗り越える、舞台人ならば当たり前のことなのでしょうけど、今さらながらにクーパー、ケンプ、ハート、ヤノウスキーのチームワークの良さに感じ入りました。
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『兵士の物語』東京公演最終日

  終わりました~。すばらしい日々でした~。キャスト、スタッフのみなさん、どうもありがとうございました~。

  私は虚脱状態です~。詳しくはまた後ほど~~~。
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『兵士の物語』9月15日

  今日は上演中に面白い(といっては申し訳ないですが)アクシデントが起こりました。ですが、キャストたちがとっさのアドリブで協力し合い、絶妙なチーム・プレーでそれを乗り越えました。これがいちばん見ごたえのあるシーンになりました(笑)。

  詳しく書きたいのですが、私はさっき帰ってきたばかりでして、おまけに明日の東京公演最終日は昼公演なので、その時間がありません。明日にでもまとめて書きたいと思います~。

  とりあえずおやすみなさい~。
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『兵士の物語』9月14日

  今日は客席が埋まり具合がちょっと寂しかった割には、パフォーマンス中の観客の反応が今までで最も良く(大笑いしてた)、カーテン・コールではブラボー・コールが飛びまくり、スタンディング・オベーション続出で、今までで最も盛り上がりました。どういうこっちゃ。

  そこで終演後にさぐりを入れてみた(←周囲の観客の話に聞き耳を立てる)ところ、どうやら先週とは客層がやや異なるようで、アダム・クーパーもウィル・ケンプも知らない人が多く観に来ていたようです。

  「面白かった」、「楽しかった」と嬉しそうに話す声を聞いて、私も嬉しくなりました。チケットの販売が大幅に遅れたのがつくづく悔やまれます。それとも、たった1ヶ月の販売期間で、あそこまで客席が埋まったのはすごい、と思うべきか?いずれにしろ、もっと長い販売期間と宣伝期間を設けていたら、もっと多くの人々に観に来てもらえたでしょうに。

  昨日の記事に寄せて頂いたコメントにありますように、また「アダ友情報網」によると、昨日の公演に異常なほど多くのカメラが入っていたのは、単なる「記録撮影」のためではないらしいです。まだ確定ではないようですが、・・・名前を出してもいいでしょ、WOWOWで放映するかもしれないそうですよ。やっぱりね~。ただの「記録」のためにしては、カメラの数が多すぎると思ったんですよ。

  さて今日の公演ですが、案の定、またもやアダム・クーパーの踊りが昨日より良くなってました。こうなると、あと残り2日で、彼の踊りがどこまでレベルアップするのか興味津々です。大阪公演も期待できますね(私は行きませんが)。

  ちょっと風呂に入ってきますわ。残りはまたあとでね

  アダム・クーパーは、手足がきれいな形ですっきりと伸びるようになり、動きも軽やかになりました。たとえばクーパーのジャンプはそんなに高くないけど、ふわっと浮き上がるように跳んで滞空時間が長く思えます。しかも、彼が跳ぶと、その瞬間に彼の長い手足が舞台の空間全体にばっ!と広がります。伸ばした手足の形が美しく、しかもそれぞれがツボな角度に入っているのでそう感じるようです。

  初日は重たくてぎこちない動きに加え、踊り方が粗くて雑だと感じたのですが、今ではそれらも消え失せました。こう言っては語弊がありますが、ミュージカルのダンサーが踊るバレエは、バレエ・ダンサーが踊るバレエと違いますね。クーパーの踊りは、前数日は「ミュージカル的バレエ」だったのですが、今は「バレエ的バレエ」にシフトしつつあります。

  ポーズはきちんと整っていますし、動きの一つ一つが丁寧になりました。絶妙な間と余裕を設けて、緩急をつけながら踊っていきます。前アティチュードのターンはゆっくりときれいに回ってしかも安定しているし、縦に跳び上がって空中で回転し、着地してから即座に片足で回転するところも、足元がグラつくこともなく、体もまっすぐな軸を保っています。

  アダム・クーパーの役である兵士は、ボロボロの薄汚れた草色の軍服を着て、脚にはゲートルを巻いています。でも、そんな衣装を着ていても、クーパーの姿には健康的なエロい質感があります。見ているだけで、その体温が伝わってくるようです。そんな身体で上記のように踊られると、無自覚っぽい危うさを持った色気がバンバンに放射されます。マッチョな激しい振りで踊っても、どこか曲線的で丸みを帯びた柔らかさがあります。ああ、「アダム・クーパー」だなあ、と思いました。

  『兵士の物語』の振付はかなり変わっています。クラシック・バレエがベースであるには違いないのですが、見た目にはっきりとそうと分かる振りは少ないと思います。第2部の王女のソロ、王と王女のデュエットには、クラシック・バレエの振りが多く見られます。しかし、それらのほとんどが上半身と手足の動きをちぐはぐにしてあります。それでも決して滅茶苦茶な動きにはなっていません。

  兵士の踊りは、抽象的なもの、パントマイム的なもの、バレエ的なものが混在しています。どっからこんな動きを考え出したのか、想像もつかない動きがたくさんあります。王女の踊りも兵士の踊りも、見た目には簡単そうに見えるし、お笑いシーンで踊られたりするので気づきにくいですが、踊る側にとっては実は難しい振付なのではないかと思います。

  振付でもマイムでも、それらのすべてが音楽と完璧に合致しています。音楽と合わないポーズ、マイム、踊りは、一つとしてないと言ってもいいでしょう。しかも、それらは音楽が表現している情景や、音楽を聴いた感じの雰囲気に実に良く合っているので、見ていて心地よいし飽きることがありません。

  4人のキャストたち、クーパー、ケンプ、ハート、ヤノウスキーは、もはや息でもするかのように自然に演じ、また踊っていて、「決められたことをやっている」感はゼロです。4人の呼吸がぴたりと合っており、安心して見ていられます。

  もっと小さな劇場であれば、観客も舞台上の世界、物語や登場人物たちの世界に溶け込みやすかったでしょう。今回の公演では、舞台と観客との間に、劇場の大きさに由来する距離があります。このウィル・タケット版『兵士の物語』は、舞台上のキャストたちの表情、眼の輝き、流れ落ちる汗、息遣い、きぬずれの音、そういうものを間近で見聞きできるのも魅力だと思うので、それだけがちょっと残念です。

  あと2回しか観られないのかあ~。明日もガン見するぞ。
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『兵士の物語』9月13日

  今日も昼・夜連チャンでした。さすがに疲れてしまって、よせばよかったかな、とちょっと後悔している次第。考えてみれば、ボーン版『スワンレイク』日本公演は6年前、『危険な関係』日本公演は4年前、私はその間にトシをとっているのよね。昔のような熱狂に任せて無謀に行動するには、もう体のほうがもたなくなっているみたいです。哀しいかな。

  でも、ショウはすごく楽しみました。一幕物だけど、この『兵士の物語』は、いろんな極上のエキスが凝縮された、質の極めて高い舞台だな、とつくづく思います。

  今日は記録撮影用のカメラが入っていました。ですが、その数が半端なくて、合わせてなんと14台!客席の最前列中央・左右サイド2箇所・真ん中の列中央・そしていちばん奥の中央と左右に設置されたデカいカメラを、スタッフたちが一斉に構えている。異様です。たかが記録用にこれだけのカメラを動員するなんて、パルコは念が入っていますね。バレエ公演だと、せいぜい1台か2台が普通だと思うんですが、演劇などではこれが当たり前なんでしょうか?

  アダム・クーパーは踊りが急上昇中です。まだ重さは若干感じられるものの、動きが流れるようにきれいになりました。動きと動きとがスムーズにつながっており、姿勢は美しく整っています。初日のあの踊りはなんだったんだ、と不思議なくらいに見違えるようになりました。たった2、3日で踊りがここまで変わるなんて、アダム・クーパーはヘンなヤツですね。でも、しつこく言うけど、まだ完全に彼本来の踊りにはなってないと思うけどね。

  それから、今日のクーパーは舞台で「巨大化」しました。彼の巨大化スイッチも無事に復旧したようです。

  一度は引退した女子プロテニス選手、キム・クライシュテルスが現役復帰し、現在開催されている全米オープンで、とうとう決勝まで勝ち進みました。しかも、実質的には世界ランク1位のセリーナ・ウィリアムズを破ってです。

  男子の世界ランク1位のロジャー・フェデラーは、クライシュテルスの快進撃について、「自転車に乗るようなもの。一度乗り方を覚えたら忘れない。だから、そんなに驚いてない」とコメントしたそうです。

  アダム・クーパーもある意味クライシュテルスと同じなのかな、と思いました。つまり、久しぶりにバレエを踊ったら、最初こそおぼつかなかったものの、あとは「自転車に乗る」ように体がバレエを思い出してきているのだろうか、と。

  だから、初日(金曜日)の公演しか観ていない方々にはわるいことしたな、となんか申し訳ないです(私のせいじゃないけど~)。

  もっとも、初日の舞台で、はじめてアダム・クーパーの踊りを観たある若人(イケメン)が私の不満を聞いて、初日のクーパーの踊りについて、「あれで良くなかったんですか!?」と驚いてたから、はじめて観る人はそんなに違和感は抱かないらしい。

  一方、以前にクーパーの踊りを観たことのある人では、私と同じように感じている方が多いみたいなので、だからやっぱりクーパーはまだ本調子ではないと思います。ただ、公演3日目で急激にこれほど良くなったから、明日の公演ではどうなっているか楽しみです。

  昨日はゼナイダ・ヤノウスキーについて書いたから、今日はマシュー・ハートかウィル・ケンプについて書こうかと思ったけど、このまま「アダム語り」を続けます。

  アダム・クーパーはここ数年、ミュージカルや振付業に没頭していたわけです。私はそれをできる範囲で追いかけてきました。かといって、彼がミュージカルに出演するのを、私は全面的に支持していたわけではありません。クーパー君、なんとかバレエの世界に戻ってくれないか、とずっと望んでいました。

  しかし、かといって、彼がミュージカルに出演することについて、それを全面的に批判する気持ちもありませんでした。私は「回り道」をしてしまう人間が好きで、道をまっすぐ順調に進むことのできるおめでたい人間は嫌いだからです。

  それに、彼がミュージカルや演劇に出演してきたこと、自分で振り付けたり演出したりしたこと、すべてが肥やしになっているはずだ、と思っていたし、あと、私にはなんとなく、アダム・クーパーはバレエを捨ててはいない、という確信がありました。それで大して心配していなかったのです。

  今回の『兵士の物語』日本公演の初日を観て、アダム・クーパーの踊りに、バレエから遠ざかっていた影響と、(たぶん)わざと体重を落としたことによる体力の低下が表れていたので、「だからいわんこっちゃない」と私は思いました。

  しかし、『兵士の物語』の初演・再演時とは比べものにならないほど上達した彼の演技、セリフ回し、発声には、彼がミュージカルや演劇に出演したキャリアが、こうした形で見事に結実していることを認めざるを得ませんでした。これはウィル・ケンプも同様です。

  同時に、数回の公演をこなすうちに、アダム・クーパーの踊りが見違えるように良くなっていくのを目にして、懐かしい「アダム・クーパーの踊り」が復活していくのを目の当たりにして、そうだった、彼個人の回り道だらけの生き様、内面の葛藤が隙間からこぼれ落ちるような彼の踊りを、私は好きだったのだ、と思い出しました。

  今のアダム・クーパーは、体の敏捷さやしなやかさではマシュー・ハートに及ばないかもしれない、体力ではウィル・ケンプに及ばないかもしれない、でも、アダム・クーパーの踊りには、ハートやケンプの踊りには決してないものがあるのです。それはやはり「人」です。私は彼の踊りにどうしてもにじみ出てしまう「人」に強く惹かれるのです。

  イタくなっちゃいましたね。でも、アダム・クーパーについて、こんなに真面目に考えたのは久しぶりかも。もともとは、アダム・クーパー4年ぶりの来日で、「アダム友だち」と久々に再会し、アダム・クーパーについて久々に語り合ったことがきっかけです。

  明日の舞台はどうなっているかな。  
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『兵士の物語』9月12日

  昼と夜と連チャンでした。疲れた~。でも、ようやくストーリー、演出、踊り、演技、英語に慣れてきました。会場には演出と振付を担当した(というよりこの作品の生みの親)ウィル・タケットもいました。来日してたんですな。

  (ちょっと風呂に入ってきます。続きは後で~)

  あー、さっぱりした 今日の舞台は昨日の舞台よりマシになっていました。全体的なガタつきがほぼ解消しており、とりわけアダム・クーパーの踊りがかなり良くなっていました。

  それでも、やはり体力不足ではないかという印象は拭えなかったものの、アダム・クーパー独特のしなやかさやキレがだいぶ復活していました。肩や腕の動きはやわらかく、腕や脚の振り上げ方もダイナミックで、体全体を反り返らせるような、彼特有の色っぽいジャンプが見られました。

  「ステップの一つ一つが『アダム・クーパー』」とは、今回の舞台で4年ぶりに彼の踊りを観た友人の名言です。この友人は「輪郭だけでもアダム・クーパーだとすぐ分かる」とも言っていました。私も今日の舞台を観て、昨日は不審に思えてならなかったアダム・クーパーの踊りが、今日は自分の中にじわじわと溶け込んでいくような気がしました。

  指揮者のティム・マーレーは気の毒なことに(笑)、彼にも「役」が与えられていました。神経質で気が弱く、不安を酒で紛らわす指揮者、というキャラのようでした。マーレーは目の下にクマを作った(←黒く塗ってた)おどおどした表情で、肩をすくめて指揮棒が入った箱を大事そうに抱えて現れます。見かねた語り手のウィル・ケンプがなんとかマーレーをなだめて勇気づけ、彼を促してオーケストラ・ピットに入らせます。

  今日の昼公演では、語り手のケンプはマーレーの顔の前に両手をかざし、指をユラユラと動かして催眠術(?)をかけ、マーレーを安心させる、という演技をしていました。夜公演ではやらなかったので、公演ごとにアドリブでやっているようです。

  マシュー・ハート以外のキャスト、アダム・クーパー、ウィル・ケンプ、ゼナイダ・ヤノウスキーは開演前から舞台上に待機しています。待機といっても、各々の時間のつぶし方はやはり公演ごとに違っており、演技なんだか素なんだかよく分かりません(たぶん両方)。椅子に座ってタバコ(本物じゃないだろうけど)吸ってても、酒(これも絶対に本物じゃないだろう)を飲んでても、なにやらヒソヒソ話をしていても、絵になるというか雰囲気が出ます。彼らの様子を眺めるのも一興です。

  眠いのでそろそろ寝ます。あとはゼナイダ・ヤノウスキーについて。

  昨日はちょっと踊りにくそうだったヤノウスキーですが、今日の踊りは絶好調でした。さりげなくすごい技を連発します。特にポワントで踊る王女役のときは、振付が変わっているのと、コミカルな演技とともに踊るのと、あとこのヤノウスキーは、トゥ・シューズの音が異様なくらいにしないので分かりにくいのです。

  また、ヤノウスキーはジャンプをするときも、「さあやるぞ」っていう準備体勢もまったく取らず、助走もせずにいきなり跳びます。それでもふわっと軽く跳ぶし、脚もよく開いています。このときもまったくの無音。

  演技でもヤノウスキーは見せてくれます。特に兵士の婚約者から下品なバカ王女への変貌ぶりが見事です。婚約者役では、端正な美しい顔立ちがよく分かるナチュラルなメイクをし、愁いを帯びた表情で兵士への断ち切れない愛を表しています。一方、王女役では、真っ赤な口紅をつけた唇をガマ口のごとく大きく開けて、マスカラを塗りたくった目をひんむいたブキミな笑顔で、バカ娘ぶりを発揮しています。

  いくら演劇性に秀でた英国ロイヤル・バレエ団のダンサーとはいえ、ここまでコメディの演技に優れたバレリーナはちょっといないんじゃないか、と思います。
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『兵士の物語』初日

  観に行ってきました~。まだ公演は続くので(ネタ切れを防ぐために)、簡単に感想です。

  まずは、数年ぶりにあの魅力的な舞台装置を見られて感動です。

  ロンドンでの公演会場だったロイヤル・オペラ・ハウスのリンバリー・スタジオよりも、かなり横幅の広い、また奥行きの深い舞台に、よくぞあれほど巧みに設置できたものです。左右に置かれていた数組のテーブルと椅子もそのまま置かれ、客(←招待客らしい)も座っていました。

  ただ、やはり会場が広すぎることの弊も出ていました。オーケストラの音が小さいこと、舞台の広さに合わせて(キャストの動きに余裕を持たせるため)テンポもゆっくりになったので、弾けるような勢いに欠けること、たった4人のキャストでは、広い空間を充分に埋め切れないことです。このせいでダイナミックさがあまり感じられませんでした。

  まあこれはわがままな不満というものでしょう。今さら言っても仕方のないことです。

  舞台の両側には字幕の電光掲示板がありました。キャストのセリフとバッチリ合っていて感心しました。

  ウィル・ケンプの語り手は見事でした。演技も語りもすばらしかったです。表情がとにかく豊かで、アヤしい(笑)雰囲気作りも上手いです。(たぶん)アドリブでの立ち居振る舞いや演技も自然でこなれていました。声のとおりが良く、発音は明瞭で、声音もカッコよかったです。

  ゼナイダ・ヤノウスキーも、踊りは言うまでもありませんが、演技(特に王女)にいよいよ磨きがかかっていました。ただ、今回は王女のメイクが薄すぎるのがちょっと残念。

  マシュー・ハートは期待どおりの完璧な悪魔ぶりでした。プログラムを買っていなければ、猟師、老婆、黒服の男、毛むくじゃらの悪魔が同一人物だと気づかないくらいではないかしら?邪悪な目つきと動き、しなやかな踊り、すべてが見事でした。

  アダム・クーパーは、演技はよかったです。ただ、踊りでは動きが全体的にやや重かったです。パワー不足のように私には感じられました。彼は今年の4月にラッセル・マリファントのハードな作品を踊りましたが、そのときにはこうではありませんでした。

  原因は大体察しがつきます。今は復帰の途上というか、今が再スタート地点で、これから(彼さえその気なら、の話ですが)じりじりと右肩上がりに復調していくのでしょう。

  とはいえ、彼の踊りはやはり「アダム・クーパー」で、ちょっとしたポーズとか動きが彼独特のアレ(←しなやかというか曲線的というか無防備な色気があるというか、とにかくアレですよアレ!)でした。ファンとしては、よくぞここまで戻ってきてくれた、と嬉しいです。

  初日の宿命か、今日の舞台はキャストもオーケストラもちょっとガタガタしていたというか、特に4人のキャストのタイミングは、ちゃんと合っていたとは言い難いです。これから回数をこなしていけば、この問題は自然と改善されるでしょう。

  でも、今日は『兵士の物語』を無事にまた観られたこと自体がとても嬉しかったです。不満ばっかり書きましたが、これは私の頭にロンドン公演が刷り込まれているせいです。私のほうもこれから観る回数を重ねるごとに、今回の舞台に慣れてくるでしょう。いろんなことに気づく気持ち的な余裕も生まれてくると思います。

  さあ、明日も観に行くぞー。楽しみ~。

  そうそう、やっぱり始まり方が通常のバレエ公演とは違うので、開演10分前には席につかれることをおすすめします。開演前の舞台の様子も面白いですよ。
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明日だー!!!

  (元滝伏流水。鳥海山に積もった雪が融けて地下にしみこみ、100年近くの時を経て麓からほとばしり出る。)

  明日はついに英国ロイヤル・オペラ・ハウス版(ウィル・タケット演出・振付)『兵士の物語』東京公演初日です。

  キャスト、オーケストラ、スタッフのみなさんはここ数日間、激忙の日々だったことでしょう。ゲーリーさんのブログも止まっちゃっているしね(笑)。明日の日中は最終調整、ドレス・リハーサルにかかりきりになるんだろうなあ。

  つつがなく、順調に事が運びますよう、心より祈ります。

  今夜は気持ちが高ぶって眠れなさそうだ、というメールを頂戴しました。

  そんなみなさまは、上の写真をレッツ・クリック 涼しげな風景が、熱くなったみなさまの心を冷やしてくれることでしょう(逆に写真の水流のように激しくなったりして・・・・・・)。

  今回の『兵士の物語』は、通常のバレエ公演に比べるとかなり変わっていると思いますし、ちょっとショッキングなシーンもあります(ロンドンでの初演時は12歳以下観劇禁止だった)。

  でも、大人向けのおしゃれな舞台だと思います。

  楽しみましょう!!!
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めぐりあわせというもの

  『兵士の物語』東京公演初日まであと1週間を切りましたね~。さすがに意識するようになってきました。昨夜は夢に見たし、頭の中でふと勝手に音楽が鳴り始めるしね。

  ゲーリーさんのブログに掲載されていた、今回の公演で指揮を担当するティム・マーレーのメッセージは読み応えがありました。

  『兵士の物語』の音楽的特性についてのくだりでは、専門家ならではの見方に面白さを感じましたし、またバレエ公演のオーケストラを担当する指揮者が、指揮する際にどんな点に留意しているのかも分かって、非常に興味深かったです。

  ティム・マーレーもまたロイヤル・オペラ・ハウスで振っている指揮者だとは失礼ながら知りませんでした。まだ若い方のようで、メッセージは全体的に非常に丁寧で真面目、若い音楽家特有の純粋な誠実さを感じます。見も知らぬ日本の観客にあれほど親切なメッセージを送ってくれたことに、私は大きな好感を持ちました。

  ところで、今回の公演で演奏を担当する「ソルジャーズ・アンサンブル・オーケストラ」というフザけた・・・いや、ユーモアあふれる名前のオーケストラですが、こちらは日本の演奏家の方々なのでしょうか?マーレー氏のメッセージからは今ひとつ分かりません。

  ともあれ、私は自分の今までのバレエ公演の鑑賞体験から、「バレエ公演での金管楽器は頼りない」という悲しい経験則を導き出しているので、奏者が7人しかいない『兵士の物語』では、この経験則を更に強化するような事態が起きないように祈っています。

  アダム・クーパーが振付・出演するはずだった前の企画がポシャって、その代わりといってはなんですが、ウィル・タケット版『兵士の物語』が上演される運びになったことには、不思議なめぐりあわせを感じます。

  『兵士の物語』はどうか、と提案してきたのはアダム・クーパーだったそうですが、彼はあくまで、半年という短い準備期間で上演にこぎつけることができそうな作品を挙げたにすぎなかったのでしょう。

  ですが、現在の世のありようを見ていると、よりによってこの時期に日本で『兵士の物語』が上演されるのは、まさに時宜にかなったこと、と私には思えます。

  カネと戦争、昨年末から今までの世の流れを考えると、この二つの語が真っ先に浮かびます。特に「世界的同時不況」、「金融恐慌」なるものが、実際には金融商品の売買に狂奔したごく少数の人々の「宴のあと」であったらしいことを思えば、『兵士の物語』が初演された当時の世情と重なるような気がします。そして、『兵士の物語』のテーマもまた「カネと戦争」です。

  まー、実際に公演を観ながらこんな面倒なことを考えるはずはありません。でも『兵士の物語』が、マネー・ゲームに狂って巨大な損失を出した企業・組織がすずなりに存在し、不合理にもそのあおりをくって苦境に陥った人々が厖大にいる現在の日本で上演されるなんて、やはり「意味ある偶然」なのだろうな、と思えてならないです。 
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