本日のアダム・クーパー2
第一幕の"Good Morning"が終わると、舞台の右手前方、舞台の縁から両脚を垂らして倒れ込んだドン、コズモ、キャシーの三人に大きな拍手と喝采が飛ぶ。
今日は面白いことが起きた。いつにもまして、拍手がなかなか鳴りやまない。ドン役のアダム・クーパーが顔を上げ、次のセリフ「でも、リナはどうするんだ?」を言おうとする。しかし拍手が止まないため、なかなかこのセリフに移れない。
このセリフを言うとき、ドンは左手をコズモとキャシーに向かって差し出す。クーパーは左手を差し出しかけていたが、肝心のセリフに移れないため、差し出しかけた左手が泳ぐ。それからもクーパーの左手は何度も何度も泳ぐ。
しばらくして、クーパーが「参った!」という表情で、左手を下に落とし、顔を横にガクッと傾けて、パッと明るい笑顔を浮かべた。素の笑顔だった。その笑顔に、観客がドッと笑った。そして、いたずらっぽく更に大きく拍手し始めた。
クーパーはなおもセリフを言うタイミングをうかがっている。観客はそれを知っていて、わざとますます大きく拍手する。"Good Morning"はタフなシーン。キャストたちはヘトヘトなはず。観客はそれを知っている。だからなるべく長く拍手したい。キャストたちに少しでも長く休んでほしいから。でもいたわる風じゃなく、からかう風で。まだ起きちゃダメ!寝てなさい!寝てなさい!簡単に次のシーンには行かせないよ!って感じ。
大きくなる一方の拍手と喝采に、ついにクーパーが大きく肩を震わせ、堰を切ったように、声を出さずに笑い始めた。コズモ役のステファン・アネッリも、キャシー役のエイミー・エレン・リチャードソンも、仰向けに横たわったまま、声を出さずに笑っている。
持久戦となったクーパーVS観客のこの争い(?)は、ついにクーパーがケリをつけた。笑いながらアドリブで「オーライッ!!!」と大きく怒鳴る。観客がまたドッと笑い、しぶしぶ拍手の矛を収めた。
舞台上のキャストたちと観客、また観客同士が示し合わせたわけでもないのに、なんだろうこれは。この公演は、こんなことがしょっちゅう起こる。