キエフ・バレエ『バヤデルカ』(1月6日)‐2


  第二幕の黄金の偶像はミキタ・スホルコフが踊りました。スホルコフは『白鳥の湖』と『眠れる森の美女』で王子を踊ります。スホルコフはキエフ・バレエでは王子要員なのでしょう。王子要員に黄金の偶像を踊らせるってどうなのよ、と思いましたが、まあサービスというか、ツアー公演なんで人員が足りないんでしょう。

  スホルコフの黄金の偶像は、なんか踊り慣れていない感じでかなりぎこちなかったです。スホルコフが脇に引いた後で中から拍手が聞こえたので、たぶんスホルコフは初めてこの役を踊ったんじゃないでしょうか?スホルコフは翌7日の『バヤデルカ』でも黄金の偶像を踊りましたが、7日の公演では驚くほどに修正してきました。たった1日で踊りが別物になったこの対応力はすばらしいですね。

  黄金の偶像では6人の男の子たち(日本人)が一緒に踊りましたが、この子たちの踊りも大層にすばらしいものでした。脚を前に上げて軽く跳んでは片脚でキープ、横に跳びながらステップを踏む、単なる添え物やガヤじゃなくて、しっかり踊っていましたよ。おばさんとても感動しました。

  ついでに女性コール・ドに触れておきます。この日は惨憺たる出来でした。たぶん新人ばかりだったんじゃないかと思います。見るからに練習不足、経験不足でした。リーディング・ダンサー、たとえば、第一幕のジャンペー、第二幕のパ・ダクシオン、第三幕のヴァリエーションには良いダンサーを配置していましたが、コール・ドはガチャガチャして揃っていませんでした。また、観客の拍手に戸惑って、指揮者のサインを読み損ねて出を間違えたり。

  しかし、これも翌7日の公演では驚異的なほどに修正されていました。前の日には散々だったのに、たった1日置いた次の日には見違えるように良くなっている、そういうことはしばしばあります。ダンサーたちに地力があるから可能なんでしょうね。

  ただ、第三幕の3つのヴァリエーションは、6日、7日の両日ともダンサーによって出来不出来が激しかったです。短い期間にたくさんの作品こなさなくちゃいけなくて、1公演でいくつもの役を踊らないといけなくて、振りをこなすので精一杯なのは分かるけど、これ、単なるヴァリエーションじゃなくて、「影」という役柄の踊りでもあるんだからさー、と思いました。

  ソロル役のデニス・ニェダクは、相変わらず踊り、パートナリング、演技すべてが盤石でした。まず、今回はソロルなのでヒゲを蓄えた精悍な印象のメイクでした。役柄によって雰囲気を変えられるダンサーです。

  演技も良かったです。第一幕で、ソロルはガムザッティとの結婚を承諾してしまいます。その直後、それを知らないニキヤが奴隷と一緒にガムザッティを祝福して踊ります。その間、ニェダクのソロルは踊るニキヤから必死で目をそむけ、ニキヤを決して見ようとしません。

  第二幕で毒蛇にかまれたニキヤがすがるような表情でソロルを見たとき、ニェダクのソロルはニキヤをしばらく見つめ、しかしニキヤへの思いを振り切るようにニキヤに背を向けてしまいます。それを目にしたニキヤは絶望して死にます。

  ガムザッティとのパ・ド・ドゥだったと思いますが、ソロルのヴァリエーションの最後で、ニェダクは見たことのない技をやりました。やや斜めに飛びながら空中で2~3回転し、最後に片脚を前に伸ばして半回転しながら、もう片脚で着地する技です。あれは何という技なんでしょうね?

  ニキヤ役のフィリピエワは、1970年生まれなのでもう46歳です。それが『白鳥の湖』、『眠れる森の美女』、そして『バヤデルカ』の主役を全幕で踊るというクレイジーなことをやってのけました。

  さすがに無理はせず、ジャンプを3回やるところを2回に抑えたり(第二幕)、パートナーに支えて持ち上げてもらう形にしたり(第三幕)、というふうに、体力配分をうまく考えた振りに変えていました。それでも、ジャンプすると年齢をまったく感じさせない完璧なジャンプをします。

  動きに隙や緩みがなく、音楽にもきっちり合わせてくるところはさすがです。ニキヤの役作りもしっかりしていて、フィリピエワのニキヤは意外にも「強い女」でした。毅然としています。第一幕、大僧正の強引な求愛をはねつける時も、ソロルをあきらめるよう高圧的に迫るガムザッティに対しても、フィリピエワのニキヤはひるむことがありません。あの大きな瞳で、大僧正やガムザッティをまっすぐに見返します。

  最も印象的だったのは、第二幕のニキヤのソロです。大部分のニキヤは、舞台に走り出てきた時点で、打ちのめされて悲嘆にくれた表情をしているものですが、フィリピエワはやはり毅然とした表情で出てきて、怒りさえ感じられる強い目つきのまま踊り始めました。しかし、分かるんですね。すべてを失ったニキヤが、絶望を必死に押し隠し、最後のプライドを奮い立たせて踊っている、ということが。

  テクニックに関していえば、フィリピエワよりも10歳若いイリーナ・ペレン(翌7日にニキヤを踊った)のほうが当たり前なことに高かったわけです。ただ、踊りに隙がない、一つ一つの動きが丁寧、全身を完璧にコントロールしている、音楽にきっちり合わせる、「自分のニキヤ」像がしっかりしているという点では、フィリピエワのほうが上です。

  カーテン・コールでのフィリピエワの表情も印象的でした。なんて説明すればいいのか、呆然とした、疲れ切った、安堵した、晴れ晴れとした、すがすがしい、とにかく、やりきった!という感じの表情でした。

  
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コメント
 
 
 
行ってきました! (みーしゃ)
2017-04-12 23:10:28
先日、土曜日の夕方公演「雨に唄えば」に行ってきました。
前回に比べて、アダムも体型をかなり絞ってきていて踊りも安定していた気がします。
楽しそうに、水を飛ばしていましたよ~!
 
 
 
楽しかったですね! (チャウ)
2017-04-30 22:44:50
みーしゃさま、返事が遅れまして本当に本当に本当に申し訳ありません!

私も観に行きました……6回。

今年のゴールデンウィークは幸いまとまった休みが取れました。この休みを利用して、随時ブログを更新していきたいと思います。

ちなみに私は水をかぶりすぎたせいか見事に風邪をひきました…。
 
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