「ゾロ」その後

  今年の3~4月にUKツアーが行なわれたミュージカル「ゾロ」は、6月30日からロンドンのGarrick Theatreで上演されます。

  執念深いわたくしは、アダム・クーパーが公式サイトの日記上で、「ゾロ」の脚本の大幅な改変に伴い、彼が演じたラモン役の劇中における重要度が低くなったため、「ゾロ」ウエスト・エンド公演には出ない、と明言した後も、「ゾロ」のその後を追っておりました。

  追っていたといっても、ただ単に「ゾロ」公式サイトをチェックしていただけです。でも、ディエゴ(ゾロ)をはじめとする主要キャストが、公演日が迫ってもなかなか発表されないことを不思議に思っておりました。

  その主要キャストが、おそらく日本時間の6月27~28日(←開演2日前!)にかけてようやく発表されました。まず、UKツアーと同じキャストはMatt Rawle(ディエゴ)、Lesli Margherita(イネズ)、Nick Cavaliere(ガルシア)などです。

  UKツアーでクーパー君が演じたラモンはAdam Levyが、ルイサはEmma Williamsが、ドン・アレハンドロはJonathan Newthがそれぞれ担当するようです。ラモンを演ずるAdam Levyという人はどうやら演劇畑の人のようで、オールド・ヴィックやナショナル・シアターの公演にもちょくちょく出ている役者さんらしいです。おそらく新しい脚本では、ラモンは演技に重点の置かれた役になるのでしょう。

  UKツアーでのラモン役は、おそらくアダム・クーパーをキャスティングしたためでしょう、歌、踊り、演技すべてを脚本に盛り込んだ結果、逆に歌、踊り、演技すべてが中途半端で、ラモンという人物の全体像がつかみにくいものとなりました。ですから、ラモンの役割を演技一本に絞るというのは賢明な選択だと思います。

  同じくUKツアーでルイサを担当したエイミー・アトキンソンも不参加です。その理由は分かりません。ただ、ウエスト・エンド公演のルイサ役であるEmma Williamsは、まだデビューしたてのアトキンソンとは違い、すでに豊かなキャリアを持つミュージカル俳優さんのようですので、ウエスト・エンド公演の主役には名実相伴う人材を、という作り手側の思惑が働いた結果なのかもしれません。

  UKツアーでドン・アレハンドロを演じたアール・カーペンターは、ちょっとしか出番がなかったのに、実は超超超有名なミュージカル俳優であるということを後で知りました。そのカーペンターも不参加ですが、理由はまったく不明です。まあ、その理由に特に興味があるわけではありませんが。

  私個人は、アダム・クーパーは、「ゾロ」ウエスト・エンド進出の命運をかけたUKツアーにうまいこと乗せられて引っ張り出され、名前だけを利用された末にポイ捨てされた、と思っています。

  確かに彼の演技、歌、踊りはあまり良い出来ではありませんでした。これは調整や練習が不充分であったという彼自身の責任もあるでしょうが、やはり脚本や演出におけるラモンの人物描写の底が浅く、ラモンの人物像が把握しにくくなってしまったことも原因だと思います。キャスト(アダム・クーパー)に脚本を無理に合わせたための残念な結果です。

  ただ、やはりアダム・クーパーは運の強い人です。まるで「ゾロ」の代わりのように、ロイヤル・フェスティバル・ホールでの「オズの魔法使い」に出演することになりました。

  彼の最近の言動を読むと、今の彼はミュージカルばかりにこだわって、バレエを異常に嫌悪しているように思えます。ロイヤル・バレエ時代に常に味わっていた辛酸に耐え続けた反動が、今になって一気に出てしまっているのかもしれません。

  でも、これはあくまで私個人のまったく当てにならないカンなのですが、いくら彼がバレエを毛嫌いしようと、バレエの神様は彼をまだ手放さないような気がするのです。

  クラシックはもう無理かもしれませんが、彼がバレエに対する劣等感やコンプレックスから解放された暁には、彼は再びバレエを踊るのではないか、そんな予感がします。私の勝手な願望がそう感じさせるのかもしれませんが。
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「眠れる森の美女」新キャスト

  NBSの公式サイト( こちらのページ )で、英国ロイヤル・バレエ日本公演「眠れる森の美女」の新しいキャストが発表されました。

  ふーむ、やっぱりローレン・カスバートソン(オーロラ姫)がきましたね~。ロイヤル・バレエの彼女に対する期待の高さが分かるというものです。それとも、彼女はすでにオーロラ姫を踊ったことがあるのでしょうか?

  そして、小林ひかる(「青い鳥」のパ・ド・ドゥ)の抜擢も注目すべきでしょう。ひょっとしたら、彼女はロンドンでもうフローリン王女を踊っているのかもしれませんが、日本ではたぶん初めてでしょう?日本でのいいお披露目になるといいですね。

  ロイヤル・バレエがこれほどローレン・カスバートソンに期待しているとなると、俄然、彼女の主役ぶりが観たくなってきました。そんなにすごい可能性を秘めたダンサーなのなら、ぜひこの目で確かめてみたいです。特に、「眠れる森の美女」は、そのダンサーの力量が如実に出る作品だと思います。

  でも、カスバートソンにチャンスが次々と与えられる理由の一つが、彼女がイギリス人だからということなのなら、これは皮肉なことですね。長い間、イギリス人の団員を冷遇してきた末に、ついにプリンシパル・ダンサーの中にイギリス人がいなくなったとたん、あわてて今度は才能のある(であろう)イギリス人団員を厚遇するのですから。

  ちょうどイギリス人団員が冷遇されていた時期にいあわせてしまった、アダム・クーパーの悲劇(←大げさか)をどうしても思い浮かべてしまいます。もっとも、クーパー君が「せいぜいロイヤル・オペラ・ハウスのカーペット程度の存在」(本人談)でなかったら、彼はマシュー・ボーンの「スワン・レイク」に出演していなかったかもしれないので、単純に「こうだったらよかった」とはいえないのですが。
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コジョカル、マックレー降板

  NBSの公式サイト( こちらのページ )で、来月の英国ロイヤル・バレエ日本公演に参加予定だったアリーナ・コジョカルとスティーヴン・マックレーが、ケガのために降板したことが発表されました。

  コジョカルは首の故障、マックレーはアキレス腱の損傷のためだそうです。新しいキャスティングについては現在調整中とのことです。

  NBSのサイトにも書いてありますが、コジョカルとマックレーが降板する以上、彼らがペアを組んで踊るはずだった、主だったキャストにも変更が生ずることになります。特にコジョカルが出演するはずだった公演のキャストは大きく変わると思います。でも演目は「眠れる森の美女」なので、「シルヴィア」ほど大幅な変更はないでしょう。

  それにしても、泣きっ面に蜂、とはまさにこのことですね。今の英国ロイヤル・バレエには、日本で知名度の高いダンサーがほとんどいません。タマラ・ロホやアリーナ・コジョカルは日本でちょくちょく踊っていますが、爆発的な人気があるというほどではないと思います。

  ですから、今回の日本公演はもともと話題性があまりありませんでした。そこで、NBSが最初はゼナイダ・ヤノウスキーを、ヤノウスキーが降板した後にはマリアネラ・ヌニェス(&ティアゴ・ソアレス)を持ち上げて、なんとか今回の公演を盛り上げようと努力していることが窺われました。

  そこへ追い討ちをかけるかのようなコジョカルとマックレーの降板です。かくなる上は、ヌニェスをはじめとする他のダンサーたちがケガや病気をしないよう願うしかありません。

  また、「シルヴィア」のキャスト変更で、当初はキャスティングされていなかったローレン・カスバートソンがシルヴィア役に抜擢された(←これはロンドンのロイヤル・バレエのファンの間でも話題になっているらしい)ように、今回のキャスト変更でも意外な人材が抜擢されて、隠れた未来のスターが発掘されるかもしれません。

  今回の日本公演がつつがなく行なわれますよう祈ります。 
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行くことにしました

  クーパー君が出演する「オズの魔法使い」を観に行くことにしました。ショウのチケットはだいぶ前に買っていましたが、飛行機のチケットはまだ買うことを躊躇していました。でも、昨日(21日)に旅行会社に電話したら、飛行機のチケットがすんなりと取れてしまいました。すでに入金もしちゃったし、もう行かざるを得ません。

  一昨日の夜に、クーパー君が「オズの魔法使い」の舞台で、ブリキ人形の衣装を着て踊っている夢を見たのです。いかにもブリキ人形っぽい、変わった踊りでした。それが背中を押したかなー、と思います。

  8月に観に行きます。奥様、サラ・ウィルドーの出産予定日と、私が観に行く日とが重ならないかどうかがちょっと心配です。いよいよ出産となれば、クーパー君は舞台を休演して、絶対に奥様に付き添うに違いありませんからね。

  それと、モーリス・ベジャール・バレエ団の「バレエ・フォー・ライフ」の感想を「雑記」に載せました。今回もあまり褒めていませんが、あまりけなしてもいません(←私の基準では)。よかったらご覧になって下さいね~。
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サイトを更新しました

  サイト本体に、モーリス・ベジャール・バレエ団日本公演(Aプロ)の感想を載せました(左上の「ホームへ戻る」から行けます)。興味のある方はご覧になって下さいね。

  ただ、あまりいいことは書いてありません。モーリス・ベジャール・バレエ団を批判されることには耐えられない、という方はご覧にならないほうがいいかもしれません。

  日曜日にはBプロ(?)の「バレエ・フォー・ライフ」を観に行きました。これはどう感想を書いたらいいものか迷っています。でも、今週の週末を使って書きたいと思います。
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岩手・宮城内陸地震

  一週間が過ぎるのが速く感じられるようになるのは、それは新しい環境や仕事や生活ペースに慣れたということです。

  とはいえ、平日は忙しさでハラホロヒレ~な状態で、日記の更新が滞ってしまいました。今週、東京は天候が不順で、朝に大雨が降ったかと思うと夕方には快晴、夜は蒸し暑かったのに朝は肌寒い、といったパターンが連日続きました。それに蓄積された疲労が加わって、ついに風邪を引きました。

  他の人々も同じなのでしょう。このところ、街中、電車、職場にはマスクをした人が多く見受けられます。

  風邪を引くと、私の場合はまず喉をやられます。喉がイガイガする、と気づいたとたん、あ、これは医者に行かなくては、と思いました。私は以前に症状を軽く見て市販薬ですませようとし、症状をひどく悪化させてしまって、最終的には声が出なくなった経験があります。

  しかしながら、喉が痛いから医者に行きたい→でも平日は仕事があるから行けない(帰宅するころには医者は閉まってる)→仕方がないので市販薬でごまかす→効かないので症状がどんどん悪化する、という悪循環にはまっていました。

  昨夜は喉が痛くてたまらず、今日こそは絶対に医者に行こうと決めていました。土曜日の診療時間は午前だけです。混むだろうなあ、と少しゆううつでしたが仕方がありません。

  今朝、テレビの情報番組を観ていたら、いきなりテロップが入りました。地震が起きたそうです。地震の起こった地域と各地の震度を見てギョッとしました。なんですか、震度6強って。マグニチュード7.0って。震源の深さがたったの10キロって。そしてなによりも、震源地が岩手県内陸南部って。

  あわてて秋田の実家に電話しました。ところが、「お客様のおかけになった電話番号はただいま非常に混みあっております。しばらく時間をおきましてから再び」云々のNTTのメッセージが流れて、なかなかつながりません。地震のことを知った人々の電話が岩手、宮城、秋田、山形に集中しているのでしょう。

  何度かしてやっとつながりました。電話に出たのは母親でした。私が「もしもし」と言うと、母親はいきなり「お母さんは大丈夫よお~」と脱力しきった声で言いました。

  テレビのニュースによると、私の実家のある地域は震度4ということでした。でも母親が言うにはかなり大きく揺れたそうです。母親は調理中(山で採ってきた山菜の下茹でをしていた)で、揺れ出したとたん、急いでガスの火を消して元栓を閉め、テーブルの下に避難しました。母親の脱力した声と地震時にとった行動で、震度4でもかなりな揺れであったろうことが窺われました。

  いつしかテレビは地震の特別報道番組に切り替わっていました。地震時や地震による山崩れ、がけ崩れの映像が流れて、アナウンサーが被害状況を伝え、テロップで各地の交通機関の運行情報が次々と流れていきます。

  今日は実家には母親以外おらず、他の家族はみな仕事に出ているということでした。これから携帯で連絡をとってみる、と母親は言ってました。でも、携帯電話の会社はおそらく通話制限をしているだろうから、なかなか繋がりにくいかも、と私は言いました。

  田舎で大きな地震が起きると、なによりも恐ろしいのは土砂崩れ、山崩れ、がけ崩れです。田舎は公共交通機関が整っていないため、大人はほとんど自分専用の車を持っています。車は一家に一台ではなく、一人に一台です。

  それだけにみな地元の道に詳しく、どこをどう行けば近道になるのか知っています。その近道というのが、多くは山道なのです。こうした山道は土砂崩れや山崩れ、また道路陥没が起きやすいです。しかも田舎なので発見されにくいのです。

  今日と明日は車で遠出しないように、と私は母親に忠告しました。特に山へ山菜採りなんて冗談じゃありません。「でも明日は○○に行くのよ」と母親は言いました。地元から車で1時間ちょっとのところです。そこは実家のある街よりも更に震源地から離れている街なので、まあ大丈夫だろうとは思います。ですが、近道、つまり山道は決して行かないように懇願しました。

  これを書いている今も地震の特別報道番組は続いています。広い地域にわたって大きく揺れたので、被害の全貌が分かるにはまだまだ時間がかかるでしょう。余震も続いているようです。これ以上、被害が広がらないことを祈るばかりです。
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「オズの魔法使い」キャスト

  「オズの魔法使い」の主なキャストが発表されました。ブックマークのところにある、「オズの魔法使い」公式サイトをご覧下さいね~。クーパー君の名はドロシー役の女の子(なのだろうか?)の次に載っています。これは準主役の扱い、とみていいのでしょうね。少なくとも表向きには・・・(ひねくれた物言いでごめんなさい)。

  また、サウスバンク・センター公式サイトの「オズの魔法使い」のページをチェックしたら、クーパー君の公式サイトが書いていたように、チケットは確かにものすごい勢いで売れているようです。良席はもうほとんど残ってない状態といっていいです。

  時節柄、団体客が多いであろうことと、そしてなんといっても演目があまりに有名すぎることによるものでしょう。たぶんクーパー君の名声のおかげではないと思います(重ねてひねくれた物言いでごめんなさい)。

  しかし、クーパー君にとって、この「オズの魔法使い」への出演は、アダム・クーパーがロンドンで本格的に舞台に復帰する足がかりとしては、かなり恵まれた良いものだといえます。ぜひともこのチャンスを次に生かしてほしいものです。

  また、クーパー君の公式サイトに「回転木馬」の詳細が掲載されました。クーパー君はやっぱり振付だけで、出演はしないそうです。残念。
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私の心も梅雨入りです

  アダム・クーパーの公式サイトで、彼がミュージカル「回転木馬」の振付を担当する予定であることが発表されました。「回転木馬」の音楽と歌は、リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタインの名コンビが作詞・作曲しています。

  今年の9月に行なわれるブロムリー公演を皮切りに、「回転木馬」はUKツアーを行なうそうです。詳細は追って発表されるとのことです。

  確かに2008年は「アダム自身が追いつかないほどの忙しい年」であり、「クーパー一家にとってすばらしい年」でもあるのでしょう。でも、アダム・クーパーのファンにとってはどうでしょうか。

  少なくとも、アダム・クーパーに対して、今は振付よりも、踊れるうちになるべく踊ってほしい、と強く願っている私にとって、このニュースは更なる失望を抱かせる以外の何物でもありません。

  今日の東京は、非常にじめじめ蒸し蒸しした天気で、不快指数がかなり高かったものと思います。実際、天候のせいか、私は今日あまり元気がありませんでした。このニュースによって追い討ちをかけられたということも否めません。アダム・クーパーが振付する、ではなく、アダム・クーパーが出演する、というニュースであったなら、湿気など吹き飛ばすほど元気でいられたでしょうに。

  私は心の狭いファンなのでしょうね。
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アダム・クーパー舞台出演情報

  クーパー君の公式サイトに、彼の舞台出演情報が掲載されていました。それがなんと「オズの魔法使い」!もちろんあの有名なミュージカル版です。

  公演日程は2008年7月23日から8月31日まで。会場はロイヤル・フェスティバル・ホールです。以前にクーパー君が振付・主演した「オン・ユア・トウズ」が上演されたホールです。長いこと改装工事で閉鎖されていましたが、リニューアル・オープンしたんですね。テームズ川に面したサウスバンク・センターと呼ばれる区域にあり、すぐ近くには大観覧車であるロンドン・アイがあります。最寄り駅はウォータールー駅、もしくはエンバンクメント駅です。

  クーパー君の役は“Tin Man”つまりブリキの人形らしいです。私は映画「オズの魔法使い」を観たことがないので、「ブリキの人形」が作品においてどの程度の比重を占めているのかは分かりません。

  映画でおなじみの名曲も歌われるらしいです。監督はJude Kelly、振付は残念ながらアダム・クーパーではなく、Nick Winstonという人です。

  奇妙なのは、アダム・クーパーが「ブリキの人形」役に決まっているのに、他のキャストはまだ決まっていないらしいことです。主役のドロシー役でさえも決まってないようです。

  なんだか、「最初にアダム・クーパーありき」の舞台のような感じがします。とすると、クーパー君の役の比重は大きいであろうと思うのですが・・・。

  でも、「ゾロ」のように、アダム・クーパーの名前で客寄せをしておいて、実は他のキャストたちの力で舞台を成り立たせる、という可能性もなきにしもあらずです。

  とにかく、クーパー君が舞台に出演するのはめでたいことです。私はこの3月にロンドンに行ったばかりですし、夏にまた行くというのは金銭的にかなりきついのです。特に7、8月はオン・シーズンですから。

  しかし、彼が今年の後半はレスターで上演されるミュージカル、“Simply Cinderella”の監督と振付にかかりきりになるであろうことを考えると、無理をしてでも、彼が出演する舞台を逃さず観ておくに越したことはないのかな、とも思います。う~ん、どうしましょう。
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違いのわからない女~赤福編~

  東京へ戻る新幹線に乗車する前に、京都駅の売店でおみやげを買いました。同僚たちから、「餡が挟んである三角形の薄っぺらい餅」(もちろん生八ッ橋のこと)はやめてくれ、と言われていたので、人気の「阿闍梨餅」を買いました。これなら文句はあるまい。「同僚たちにあげる用」とは別に、「自分ひとりで食べる用」も買いました。ほほほっ。

  ふと棚を見ると、以前ニュースで大きな話題になった「赤福」も売られていました。三重は京都に近いから売っているのだろうか?と不思議に思いつつ、営業再開当日には1時間も経たないうちに完売した、というニュースを見て、「赤福」とはどんなにおいしいのだろう、とひそかに憧れていたので、「赤福」も買っちゃいました。もちろんこれは「自分ひとりで食べる用」です。それに日持ちもしないみたいなので(翌日が賞味期限)。

  東京に戻り、部屋に着きました。さあ、とうとう(自分のための)おみやげを食べる楽しいひとときがやって来ました。「阿闍梨餅」は5日間くらい日持ちがするので、日持ちのしない「赤福」を先に食べることにしました。

  テレビのニュースでよく見たピンク色の外装紙を丁寧に外すと、蓋の真ん中に小袋が貼りつけてあり、その中に5センチくらいの竹べらが入っていました。???と思いながら蓋を外します。「赤福ちゃ~ん」と思いながら中を見たら、表面が波模様のようにうねった(←餅を握った指のあとなんだそうです)餡のかたまりがお行儀よく並んでいるではありませんか!

  手で取ろうとしたら、餅が底にひっついていて取れません。なるほど、竹べらはこのためについているんだ、と納得しました。竹べらを使って底をこそぎ、赤福を1個すくい上げました。ですが、次なる問題が生じました。竹べらの上に載せたまま食べるのか、それとも手に直に持ちかえて食べるのかが分からないのです。

  でも、「ま、いーや。アタシだけが食べるんだし」と思い、竹べらの上にのっけたまま食べました。ああ、夢の「赤福」を自分の口で味わう瞬間がついにやって来たのです。もぐもぐもぐ・・・・・・あり?餡の中に餅が入っている。というか、餡で餅をくるむようにしている。大福の中と外が引っくり返ったよーな感じだな。てか、形状を分析している場合ではない。肝心の味はどうなった?

  普段から、私は自分のことを味オンチだと思っていましたが、このときほどそれを痛感したことはありません。夢の「赤福」に対して、私の脳ミソの味覚中枢が下した結論は、「大福の裏返しヴァージョン」というミもフタもないものだったのでございます。つまり、「そんなにおいしいかこれ?」というものです。

  でも、頑張って「赤福」の長所を探しました。餡のきめがこまかい、餡が甘すぎずさっぱりしている、餅が柔らかいなどなど、確かにそこらの大福よりははるかにおいしいです。でも、夜中から並んで買う(←営業再開のときね)ほどのものとはどうしても思えませんでした。

  ということを、先輩にこっそりと打ち明けました。世界じゅう、また日本じゅうをあちこち旅して回っているその先輩は、うふふ、と穏やかに笑いながら言いました。

  「昔はね、甘いものは貴重だったから、甘いものを食べる機会は今よりずっと少なかったでしょ?お伊勢参りをした人たちがね、甘い『赤福』を食べて、それで、『赤福』はおいしい、って有名になって、そういう見方が今でも続いているのよね。でも、今は甘いものなんていくらでも食べられるでしょ?『赤福』をとびきりおいしいものでもない、と感じるのも当たり前だと思うわよ。」

  先輩はそう言ってくれましたが、化学調味料の申し子である私は、自分の味覚に自信がなくなってきました。なぜかというと、言いにくいことですが、実は「阿闍梨餅」もそんなにおいしいとは感じなかったんです。「阿闍梨餅」に対して、私の脳ミソの味覚中枢が下した結論は、「ドラ焼きと大福の中間」という、またしてもミもフタもないものでした。

  また京都に行ったときには、「神馬堂の焼き餅」に挑戦してみようと思います(←ネットで「おいしい京都みやげ」を検索した)。
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