ジゼル再び

  今日(22日)、東京バレエ団の「ジゼル」を観に行ってきました。ロンドンでの観劇の余韻がまだ冷めないうちに行くのは気が進まないなあ、と思いましたが、チケットはだいぶん前に買ってあったから仕方がない。脳内につい「ロミオとジュリエット」の音楽が流れてしまうのを、必死に「ジゼル」の音楽を流して観劇態勢を整えました。

  場所はゆうぽうと簡易保険ホールです。NBSの公演では、プログラム売り場の他にも「屋台」が色々(他の公演のチケット、雑誌、DVDなど)出るので、見て回るのが楽しみです(ほとんど買わないけど)。パリ・オペラ座バレエ団日本公演のチケットも販売していました。あまりに法外なその値段に怒った私は決して行きませんが、まだ良席が残っていましたよ。

  プログラムは15センチ四方の正方形をした、まるで絵本のようなかわいい装丁でした。ページを開くとあらびっくり、「飛び出す絵本」になっていて、アルブレヒトとミルタとジゼルが飛び出し、真ん中でジゼルがくるくると回転する、という仕掛けになっておりました。誰ですかこんなアホ・・・いや、面白いアイディアを考えついたのは。

  ジゼルは斎藤友佳理、アルブレヒトはセルゲイ・フィーリン(Sergei Filin、ボリショイ・バレエ団プリンシパル)、ヒラリオンは木村和夫、ミルタが井脇幸江で、演奏は東京ニューシティ管弦楽団、指揮は福田一雄でした。
  演奏が非常にすばらしかったです。生演奏の公演だと、たまになんじゃこりゃ、という演奏に出くわしますが、今日のオーケストラは最高でした。私は「ジゼル」のロマンティックな音楽が好きなので、聞き惚れてしまいました。

  今回の「ジゼル」は、振付がレオニード・ラヴロフスキー、改訂振付(パ・ド・ユイット、四組の男女によって踊られる)がウラジーミル・ワシリーエフとあります。・・・今、プログラムを見ながら書いていますが、ページをめくるたびに「飛び出す絵本」のジゼルがくるくる回ってうるさいです。あっ、プログラムを閉じかけたら、回るジゼルがミルタにケリを入れました。そりゃ入れたいですよねえ(笑)。

  この前はピーター・ライト版を観ました。ライト版は演出やセットによって、物語の流れが自然になるように工夫していました。今回のラヴロフスキー版は、ジェスチャーやマイムを多用することで物語をうまく繋げているように感じました。
  ライト版であろうとラヴロフスキー版であろうと、いじくってあるのは第一幕だけで、第二幕にはほとんど手を加えていません。「白鳥の湖」第一幕第二場と同じで、「ジゼル」第二幕に手を入れることはタブーなのでしょう。
  だけどジゼル役は、どの版も同じ振付なのに、ダンサーによって踊りがまったく違ってきます。特に第二幕、ウィリとなったジゼルの踊りは、ダンサーごとに大きく異なります。  

  斎藤友佳理のジゼルは日本的といいますか、しっとりとして情緒的な感じでした。生前も死後も性格が変わらない、非常に人情味のある優しいジゼルです。私としては、生前はともかく、死後はウィリとなったのだから、少し妖怪めいた雰囲気も漂わせてよかったのではないかと思いました。これは演技じゃなくて踊りのことです。
  第二幕のジゼルの踊りは、妖精チックな(というより妖怪チックな)独特の振付で構成されています。斎藤友佳理の"ウィリ"ジゼルの踊りはきれいで落ち着いたものでしたが、彼女がもはや生前のジゼルではないことをうかがわせる雰囲気があればもっとよかったと思います。でも斎藤友佳理の踊りには、一貫して落ち着きと円熟味がありました。

  セルゲイ・フィーリンのアルブレヒトは、まず演技が(いい意味で)教科書どおりでしっかりしていました。「いい人」で、結果としてはジゼルを騙して死に至らしめることになったけど、決して悪意はなかったし、ジゼルの死に対して心から深い罪悪感を覚えている、という人物像でした。
  踊りは豪快でダイナミックです。「ジゼル」ではどうしてもジゼルに目が行ってしまうので目立ちませんでしたが、すばらしいテクニックの持ち主だと思います。

  ただ、斎藤友佳理、セルゲイ・フィーリン、そして主要な踊りを踊った他のダンサーたちに総じていえるのは、踊りが音楽に合ってない、ということです。たとえバレエにおいては踊り自体が重要なのであって、音楽は二の次なのだとしても、動きが音楽と合っていないと、少なくとも私は興ざめします。
  それに、見事に音楽と合致した踊りを見せるバレエ・ダンサーはいるのですから、今回の公演では、すばらしい演奏に合わせられたダンサーが少なかったことが残念でした。

  ヒラリオンの木村和夫君は、私は去年の"The Dream"(真夏の夜の夢)で見ていました。あのとき、彼はデメトリアスを踊っており、私はオベロン役の人よりも木村君のほうが上手なんじゃないかと思いました。ヒラリオンはどこをどう見ればいいのか分からない役ですが、木村君はちょっとパンチが足りませんでした。
  表情はそれなりによかったのですが、きちんとキャラクターを確立しているという点では、このまえ観たスターダンサーズ・バレエ団のヒラリオン役ダンサーのほうがよかったです。
  でも、ウィリたちに捕らわれて死ぬまで踊るシーンでは、木村君は死に瀕したヒラリオンの壮絶な演技と迫力ある踊りを見せていました。

  東京バレエ団は優秀な男性ダンサーに恵まれたカンパニーだと思います。パ・ド・ユイットを踊った4人の男性ダンサーは、いずれもすばらしい身体的素質とテクニックに恵まれていました。身長もあってスタイルもいいです。4人の中では、茶色のベストを着たダンサー(2人)の片方が特によかったです。

  ミルタ役の井脇幸江は顔立ちのきりりとした人で、凛とした冷たい表情がよかったです。いかにもウィリの女王という感じでした。彼女はベジャールの「春の祭典」で犠牲の役をやった人ですね。思い出しました。

  ウィリの群舞はすばらしかったです。また今回の版では、ミルタにただこきつかわれるばかりじゃなくて、彼女たち全員が男への憎しみと復讐心を露わにするんですね。ヒラリオンとアルブレヒトのどっちだったか忘れたけど、全員で男に向かって指をさして「死ね!」とか、アルブレヒトを見逃すようジゼルに懇願されて、またみんなでミルタみたいに「ダメ」のマイムをしたりね。

  また思い出したことには、東京バレエ団のダンサーは、斎藤友佳理も含めて、動きが全体的にきびきびしている感じがしました。手足の動きが鋭角的で尖っているのです。「ジゼル」には、動きにやわらかさというか、まろやかさも必要だと思います。

  今日の観劇では思いもしなかったことが起こりました。第二幕から、美智子皇后がいらしたのです。白銀のお着物をお召しになっておられました。なんというか、静かな気品というか、オーラがすごかったです。皇后さまがおいでになって、会場の雰囲気も一段と盛り上がりました。こういうのも一種の「パワー」なのでしょう。
  ダンサーたちは知らされていたのでしょうか。終演後、ダンサーたちと会われたのかもしれませんね。
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時差ぼけ

  早いもので、ロンドンで最後に「ガイズ・アンド・ドールズ」を観てから1週間が経とうとしております。本当に時の流れは速いものですね。

  私は時差ぼけはほとんど出ないのですが、今回はめずらしくいまだに時差ぼけの症状に見舞われています。いちばん強いのは眠りの時間がずれていることですね。就寝の時間になっても眠くならない、起きるとき異常に辛い、というものです。
  起きるときは誰だって辛いものですが、目覚まし時計のベルがなっても、しばらく体が動かないんですよ(私は目覚めは普段いいほうです)。深いところからいきなり無理に引きずり出されたような感覚です。たぶん時差ぼけのせいで睡眠のリズムがずれて、深い眠りに入っている最中なのでしょうね。そこを起こされる。
  もう2、3日で治るでしょうけど、私にしてはめずらしいことなので驚いている次第です。

  「ガイズ・アンド・ドールズ」は、前の日記ではもう執着はない、などと書きました。でも今になって思い返すと、もっと観たいなあ、という気持ちが湧いてきます。クーパー君が半年後には最初と比べてどう変化しているか、という点に興味があるのです。もちろん作品自体もとても面白かったし。欲張りな考えだわ、と思いつつも、でもそれがファンの業というものなのでしょう。

  クーパー君の公式サイトで、新キャストによる「ガイズ・アンド・ドールズ」のレビューがいくつか紹介されていました。さっそく読んでみましたが、私にとって嬉しくも意外だったのは、クーパー君の歌がほめられていたことです。
  となると、歌唱力がまだ不安定だ、と感じた私のほうが間違っているのでしょうか?クーパー君の歌に関しては、私はヘタではないけどそんなに上手というほどでもない、と思っているのです。
  確かに今回の「ガイズ・アンド・ドールズ」では、クーパー君の歌唱力はアップしていたと思います。クーパー君の歌に感動したのは初めての経験でしたから。ただ他のキャストのほうが声に艶があったし(ネイサン役を除く)、声量も段違いにありました。でもレビューではクーパー君の歌もホメられている。

  ううむ、じゃあクーパー君の歌唱力って、本当のところは一体どの程度なんだろう、という疑問が湧いてくるわけです。スカイ役に起用されたくらいだから、やっぱりそれなりのレベルなんでしょうか?
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帰ってきました

  月曜日の朝に帰国しました。東京は天気はいいけど、ロンドンよりも寒くてびっくりしました。
  帰宅してからお昼寝したのですが、翌日の朝に起きたときには全身筋肉痛のように体がコチコチになっており、起きるのがつらかったです。また私はあまり時差ぼけにはならない性質なのですが、今日(火曜日)は一日中眠くてだるくて困りました。

  それはそうと、ロンドンで書いた日記にコメントして下さったみなさん、本当にどうもありがとうございました!寂しい一人旅でしたけれど、みなさんのコメントを読んで本当に慰められました。

  それなのにコメントにお返事ができなくて、本当に申し訳ありませんでした。日記を書くのだけで精一杯で、お返事する余裕が持てませんでした。結果、私からみなさんへの一方通行的な日記になってしまいました。かえすがえすもごめんなさい。今度また同じような機会があったら、そのときはちゃんとみなさんとやりとりできればいいなと思います。

  「ガイズ・アンド・ドールズ」は毎回大盛況で、観客の反応も良く、カーテン・コールは毎度大騒ぎでした。会場も舞台も楽しい雰囲気に満ちており、そこにいるだけでほのぼのした暖かい気分になれるようでした。
  カネに物をいわせた大がかりなミュージカルではなく、キャストたちの演技、歌、ダンスなどをメインに楽しむ作品で、人間味のある良いミュージカルだと思います。ストーリーもよくまとまっていて、上演時間も長すぎず、ちょうどよかったです。

  上の写真はセント・ジェームズ・パークの水鳥です。珍しい色だったので撮りました。前の日記にも写真を追加しておきますので、どうぞご覧下さいね。劇場やクーパー君はこんな感じです。3月11日分の写真は、ロイヤル・オペラ・ハウスの外壁に掲げてあるサラ・ウィルドー(「オンディーヌ」)のポスターです。
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3月11日

  今日が今回の「ロンドン観劇の旅」最終日である。午後に「ガイズ・アンド・ドールズ」の昼公演、夜はロイヤル・バレエの「ロミオとジュリエット」を観る。空はまたもどんよりと曇っていたが、さほど寒くはなく、雨も時おりぱらつく程度である。今日だけはスカートにブーツという格好で出かけた。

  クーパー君の出演する「ガイズ・アンド・ドールズ」を観るのは、たぶんこの昼公演が最後だろう。踊るクーパー君が好きな私としては、「ガイズ・アンド・ドールズ」は、さして執着するほどの作品ではない(6回も観てそんなことをいう資格はないかもしれないが)。でもこれで最後だと思うと、やはり一抹の寂しさが感じられた。
  週末のお昼ということもあってか、ピカデリー劇場はいつにもまして人でごったがえしていた。公演グッズの販売があって(Tシャツ、帽子、マグカップ、キーホルダー、バッジ、マグネットなど)、その中にプログラムとは別に写真集がある。オリジナル・キャストによる公演写真で、スカイ・マスターソンはもちろん全部ユアン・マクレガーである。
  別にクーパー君が写っているわけではないし、値段も10ポンドと高い。でもプログラムには公演の写真がまったく掲載されていないので、記念と思い出し用に購入した。ちなみにプログラムには、リハーサル中のクーパー君の写真が2枚載っている。舞台ではヒゲをきれいに剃り落としたつるりん顔であるが、リハーサル写真は無精ヒゲを生やしている。

  ミュージカル版でのスカイは、映画とは違ってちょっとお茶目である。ネイサンと賭けをして、救世軍のサラ・ブラウンを口説き落とす破目になり、スカイは救世軍の教会を訪れる。スカイは「ここが罪人の家ですか?」と殊勝な口調で言って中に入るなり、顔を押さえてウソ泣きをする。
  ここのクーパー君の演技が面白くて、ワザとらしく泣き崩れると胸を押さえて、「ああ、僕の心は罪の重さに押しつぶされそうです!」と大ウソをこく。観客は爆笑。スカイは「ギャンブル地獄にはまってしまったんですう~」と肩を落とす。サラのおじでお人好しのアーバイドがスカイを慰めている間、スカイは悪戯っぽい表情でちらちらとサラのほうを見やる。クーパー君の表情の変化が絶妙。
  また、サラによって改心(?)させられたのか、最後にスカイは救世軍の赤い衣装を着て、太鼓を叩きながら行進してきて、「兄弟たちよ!ギャンブルはいけません!」と真面目な顔で叫ぶ。このときのクーパー君の180度豹変した敬虔ぶった態度もおかしい。

  クーパー君の演技はもうちょっとこなれてくれば何の問題もない。残るはやはり歌で、見せ場の一つである"Luck Be A Lady Tonight"では、もうちょっと声量があって安定すればもっと盛り上がると思う。もっともこの作品では、ネイサンとスカイは歌の担当ではないんだよね。歌の担当はアデレイドとサラ、ナイスリー(ネイサンのギャンブル仲間)のようだ。
  クーパー君の歌声は、プロのミュージカル役者独特の、声量があって艶のある歌声ではない。でもその異質さがいいのかもしれないし、これから数をこなすうちにもっと安定してくるのかもしれないし、まあよしとしよう。決してヘタではないんだからね。

  あとはスカイのキャラクターだ。個性のあるキャラクターが大勢出演しているんだから、それに負けないような、クーパー君独自のスカイの役作りをしていってほしい。

  5時過ぎに「ガイズ・アンド・ドールズ」が終わった。毎度のことだが観客は熱狂的に盛り上がり、大きな歓声と拍手がおくられる中でカーテン・コールが行なわれた。ネイサン、アデレイド、スカイ、サラの4人が最後に出てきてお辞儀をすると、最も盛んな拍手喝采が湧き起こった。
  クーパー君が「ガイズ・アンド・ドールズ」に出演したことに対しては、私は少し複雑な気分もあった。でも、カーテン・コールでの、クーパー君のあの心底嬉しそうな笑顔を見たら、こんなふうにお高くとまらないところが、クーパー君のいいところなのだ、と思わざるを得ない。

  ダンスをやめるわけがない、とクーパー君が明言してくれたことも手伝って、私はこれは彼にとっていい経験になるだろう、と考えることにした。8月いっぱいまで、どうか体に気をつけて乗り切って、この作品への出演からたくさんの収穫を得てほしいと思う。

  名残は尽きないがピカデリー劇場を後にした。ロイヤル・バレエの公演は、今日は土曜日なので7時から始まる。開場する6時半にはロイヤル・オペラ・ハウスには入っておきたい。今回は4階席(amphitheatre)で、どうやって行くのか、場所の勝手が分からないから。

  5時半にはコヴェント・ガーデンに着いた。あと1時間。夜ご飯を食べておきたい。今日は朝ごはんを食べてから何も食べていない。朝にたくさん食べたので食欲がなかったのである。
  どこかいい場所はないかとコヴェント・ガーデンをさまよったが、週末の夕方で、どこのパブもカフェも客で充満している。イタリアン・カフェならくさるほどあるが(でも満席)、私はロンドンでは基本的にイタリアン・カフェには入りたくない。
  大体あと1時間で、店を見つけて、オーダー取ってもらって、作ってもらって、食べる?間に合うわけがない。どーしよ、どーしよ、と彷徨しているうちに、時間は6時半まであと45分を切ってしまった。6時半にホールに入る前に、ロイヤル・オペラ・ハウスのショップにも寄っておきたい。となると、6時15分にはロイヤル・オペラ・ハウスに行かないと。じゃあ、あと30分しか食べる時間がない。

  店に入るのはあきらめて、近くのコーニッシュ・パイ(ステーキと塩コショウで味つけしたジャガイモの角切りを詰め込んだパイ)の店でパイとお茶を買った。んで、路上のベンチに座って食べた。今日はそんなに寒くないから助かるわ~。店の中でピザを食うより、こっちのほうがワタシ的には意にかなっている。

  ロイヤル・オペラ・ハウスではバッグ・チェックがあった。4階席はやはり行くのに時間がかかり、長いエレベーターに乗って上っていく。更に客席が広くて大きな馬蹄形をしているから、自分の席への入り口を見つけるのにも一苦労だった。
  舞台を完全に見下ろす形になったが、でもいちばん前の列なので舞台全体がよく見えるだろう。私の席の後ろには客席がなく、また客席の傾斜が急なために、前のめりになっても後ろの客から文句は言われない。隣の客たちもみな身を乗り出していた。

  「ロミオとジュリエット」、ジュリエットはタマラ・ロホ、ロミオはカルロス・アコスタ、マキューシオはホセ・マルティン、ベンヴォーリオは佐々木洋平だった。
  ロホは踊りがすばらしかった。でも、彼女はまさに大人の女性の顔立ちをしているので、子どものジュリエットと、ロミオと恋に落ちて大人の女性に変貌したジュリエットとの差がない。眉や目の周りを黒く塗った濃いメイクも手伝って、ジュリエットの純粋な雰囲気があまり感じられなかった。
  でも顔立ちやメイクは置いといて、ロホの踊りのおかげで、ジュリエットの足の動きによって、ジュリエットの心情が表されているのに気づいた。舞踏会のシーンで、ロミオに持ち上げられたジュリエットが、両脚を緩く旋回させるところとか、パリスとの結婚を強要されたジュリエットが、今にも崩れそうなポワントの足取りで彼に近づいていったり、パリスを避けてポワントでつつつ、と移動するところとか。

  舞台セットが映像版とまるきり違っていた。だが衣装は映像版とほぼ同じ。舞台セットは簡素になり、細々と写実的だった前のセットに比べると、象徴的で現代美術みたいな感じである。ジュリエットの部屋には、バルコニーの柵もカーテンもない。

  カルロス・アコスタは、あれ、こんなに動きの硬い人だったかしら、と思った。もっとしなやかで力強い動きをするというイメージがあったのだけど。第一幕は特に硬くて不安定だった。でも第二幕からは調子がいくぶんよくなったようで、様々なテクニックもきれいに決まっていた。ただやはり本調子ではなかったようだ。
  演技もそこそこだったが、まだ表情に乏しいところがある。でもティボルトを殺した後、後悔に苛まされて床に手をついて座り込み、それから目を閉じたまま天を仰ぐところは、激しい吐息が聞こえてすごい迫力があった。
  ロホとアコスタのタイミングはあまり合っていなかった。「お見合い」してからリフトに移るところがあったし、アコスタのサポートやリフトがぎこちなく、美的効果が薄れてしまったところが何度もあった。

  いちばん気になったのは、全体的に踊りが音楽に合っていなかったことと、演技が総じてあまりよくなかったことだった。音楽性と演劇性はロイヤル・バレエの売りだったはずだが、この点で強い印象を残した人はいなかった。ジュリエットがロミオの死体を前に慟哭するシーンなんて、ロホは両腕をぶんと勢いよく振り上げて、叫ぶように口を開ける。「オーマイガッ!」っていう感じで、あまりドラマティックではなかった。

  ロイヤル・オペラ・ハウスは特に寒い。私は寒くてたまらず、休憩時間に熱いお茶を飲んだ。でも他の人々は、たいてい冷たい飲み物かアイスクリームを手にしている。いつものことだけれど理解不能だ。

  これで今回の観劇はすべて終了。疲れたけど楽しかった。
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3月10日

  今日も10時過ぎまで寝ていた。お茶を飲みながらのんびりと仕度をして、11時半くらいに宿を出た。ロンドンは寒くて小雨がひっきりなしに降る天気が続いている。せっかく日本から持ってきたのだから、と最初はスカートにパンプス、という格好で出た。でもネットカフェを出た後、あまりな寒さに耐えられず、再び宿に戻ってジーンズとブーツに着替えた。ほっ。

  時間はとっくに午後1時を過ぎている。体が冷え切っていたので、なにか温かいものが食べたかった。で、近くの中華料理屋兼韓国料理屋に入った。店員らの言葉から察するに、経営者は中国朝鮮族の移民とみた。店の外に出されているメニューには、なぜか日本語バージョンもあった。これが外国名物のヘンな日本語で、「韓国飲食物のメミュー」と書かれた看板が置かれていた。
  汁物が食べたかったので、シーフード・スープ・ヌードルを頼んだ。出てきたのは牛肉、豚肉、鶏肉の切り身と、エビ2尾、きくらげ、フクロダケ、たけのこ、うどが山盛りに盛られ、下に平べったい麺が少量埋まっているヌードルだった。これをシーフードというべきか否か釈然としないが、スープはおいしかったし野菜も摂れたのでよしとしよう。

  今日は「ガイズ・アンド・ドールズ」の夜公演を観るだけだから、まだ時間がある。天気は悪かったが、今日はセント・ジェームズ・パークに行くと決めていた。動物たちと触れ合うために、日本から生くるみを持ってきたし、機内食で出たパンを取っておいたのだ。
  寒空の下、木の葉も落ちて閑散としたセント・ジェームズ・パークには、人があまりいなかった。夏は観光客でごった返しているのとはえらい違いだ。だが、まだこんなに寒いのに、桜らしい樹が少しばかり花を咲かせていた。また野草らしい植物も、青と白の花が開こうとしていた。驚いたことに水仙は満開だった。彼らはロンドンの気候に適応している。

  リスが寄ってきたので、さっそくくるみをやった。口で受け取ると柵に上って座り、小さな両手で挟んでこりこりと食べる。仲間が複数やって来た。私の足によじ登ってくる。不公平がないようみなにくるみをやった。大胆なヤツもいて、なんとくるみの袋を持っている腕の上に乗ってきた。オマエは春日大社の鹿か。
  くるみをやると、そいつはそのまま私の腕の上でくるみを食べた。ずうずうしくてがめついヤツだけど、小さな動物の重みはかわいくていとおしい。
  あっという間にくるみは完売御礼となった。湖の周囲を一周して帰ることにした。寒くてたまらない。春や夏に比べると、鳥たちの数が少ないように感じる。まだヒナが生まれていないせいだろうか。それとも、生意気にも渡りでどっかに行ってやがるのか。それでも数羽の水鳥がやって来たので、パンをちぎって与えた。

  帰ろうとしたら、リスにピーナッツを与えていたイギリス人のじいさんに話しかけられた。何を言っているのかよく分からない。じいさんは私が日本人だと知ると、「オーサカ、キョート、ワカヤマ、チバ」と日本の地名を挙げ始めた。日本のことを勉強しているのだという。何の勉強か分からんが。
  お前はどこから来たのかと聞くので、東京だと答えると、じいさん、「トーキョー」は知らないらしかった。
  あとは結婚はしているのかとか聞いてきて、それから「結婚はよくない。金がかかる。家なんか、何度も何度も買い替えなくちゃいけない」と、どっかで聞いたような話をし始めた。
  どういうじいさんなのか分からないが、「私は昔、軍隊にいたんだ」と言っていたような気がする。日本人の私のことをどう思ったのだろう。

  じいさんとさよならして時計を見たら、もう4時半になっていた。寒い。どこか屋内に行きたい。でも食欲はないからコーヒー・ショップとかには行きたくない。かくなる上は美術館である。ガイドブックをめくって、この時間でも入れる美術館を探す。でも、ほとんどが5時か6時には閉館する。
  唯一、ナショナル・ポートレート・ギャラリーだけが、金曜日と土曜日は夜9時まで開館だという。別に行きたくはなかったが、仕方がないからそこへ行くことにした。私、まったく時間を無駄に浪費してるなあ。

  ナショナル・ポートレート・ギャラリーには2002年に行ったきりである。そのときにはクーパー君の小さな肖像画が飾られていた。一時期、それは外されていたらしい。でも今日行ったらクーパー君の肖像画は復活していた。相変わらず凶悪な顔してるな。ちなみに30番の部屋に飾られています(ダーシー・バッセルの肖像画も同じ部屋)。
  チューダー家の皆様や貴族の方々の肖像画をささっと拝見して、「現代のイギリスを創り上げた人々」展の部屋に入る。
  その中に「ロイヤル・バレエ」というコーナーがあって、関係人物の写真がたくさん飾ってあった。ニネット・ド・ヴァロワ、フレデリック・アシュトン、マーゴ・フォンテーンなど、おなじみの人物が勢ぞろいだったが、ピーター・ライト、ジョン・クランコ、デヴィッド・ビントリーの写真もあった。
  このコーナーの最後の写真は、イレク・ムハメドフ、ジョナサン・コープ、ダーシー・バッセルだった。小さなことだけど、人々の名前には、ミドルネームも記載されていた。

  時間はあっというまに過ぎ、気づいたらもう6時45分だった。あわててピカデリー・サーカスに行った。なにか食べておきたかったが時間がない。近くのパン屋ですませることにした。コーヒー、サラミとチーズのバゲット。うーん、このサラミが実にまずい!

  「ガイズ・アンド・ドールズ」は連日大盛況である。上演日近くとか、当日にチケットを購入する人々が圧倒的に多いのね、たぶん。それでギリギリのところで客席が満杯になるわけだ。
  クーパー君は演技が板についてきた。歌い方にもアドリブをきかせたりして、なかなかいい感じである。考えてみたら、この作品では、クーパー君がソロで踊るシーンはない。女性と組んで踊るか、男性群舞で踊るだけである。
  だから残念ながら、クーパー君独特の踊りの美しさは堪能できないのだけれど、組んで踊っても、群舞で踊っても、踊りにいちばんキレがあって、流麗で美しいのはクーパー君よ!

  第一幕最後、ハバナのレストランでの群舞シーン、女性をリフトするクーパー君は、ボーンの「白鳥の湖」第二幕「ハンガリーの踊り」のあの群舞シーンを思い起こさせる。女性の体を抱えて空中ですばやく半回転させる動きは、やはりクーパー君のリフトがいちばんきれい。
  大体、踊るときの姿勢からして他のダンサーとは違う。数少ないクーパー君の踊りが、彼の能力を発揮するには程遠い振付のものでしかないのは、本当に残念。
  第二幕「クラップ・シューターズ・ダンス」でソロを踊る男性ダンサーを見ると、クーパー君だったらもっと上手に、もっとすてきに踊るだろうに、とつくづく思う。
  "Luck Be A Lady Tonight"の途中の群舞でも、最前列で踊るクーパー君がいちばんカッコいい。

  演技や歌も、たった1週間でこれだけ違ってきたのだから、半年後にはどんなになっていることやら。演技もセリフ回しも歌も、日々どんどんうまくなっていくだろう。この「ガイズ・アンド・ドールズ」出演は、彼にきっとよいものをもたらしてくれるに違いない。
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3月9日

  今日も朝寝をして、B&Bの朝ごはんは食べなかった。10時半くらいに起きて、例によってお茶を飲んでゆっくりした。午前中はゆっくりしたいときにいつも困るのは、10時過ぎになるとルーム・クリーニングの人がやって来ることだ。それで起こされてしまう。
  買い置きしていた物を食べて、それで朝食兼昼食にした。外食すると高くつくし、なのに食べきれないで残してしまう。ロンドンに来てから、お腹がすくという感覚がない。一食一食の量が多いので、お腹が減る暇がないのだと思う。

  ネットカフェで時間をつぶし、それから「ビリー・エリオット」の昼公演を観るためにヴィクトーリアへ行った。昨晩の印象があまりよくなかったので、ちょっと気が重かった。「オペラ座の怪人」のほうが観たいよう。

  ところが2回目に観てみたら、けっこう自分が楽しんでいることに気づいた。ああ、これは面白いなあ、と感じるときが多かった。冒頭では、炭鉱労働者たちが炭鉱の中で腹ばいになって働いている様子、ストライキやデモを行なっている様子の映像(本物)を小さな子が眺めている。日本人の私には分からないけど、イギリス人にとっては懐かしい(?)感触を呼び起こすものらしかった。

  あとはウィルキンソン先生、ビリー、女の子たちが舞台の真ん中でバレエのレッスンをする。その両脇にはストをしている炭鉱労働者たちと警官隊が並んで対峙している。それから女の子たちが炭鉱労働者たちと一緒に踊る。うーむ、何と言ったらいいのか、こういう演出によって、社会的な出来事と、変わりない日常の風景を同時に見せている。
  またクリスマス・パーティーで、炭鉱の人々が全員サッチャー元首相のお面をつけて登場するところでは、観客は大爆笑であった。それに醜悪な顔をした巨大サッチャー人形も登場する。やっぱりこの当時というのは、イギリスの人々に特別な感情を起こさせるものなのかもしれない。
  最後にビリーが旅立つシーンでは、仕事に戻ることになった炭鉱労働者たちがかぶるヘルメットのライトがビリーの影を照らし出す。これも象徴的だ。

  単純なお笑いの多い舞台で、ジョークで笑わせたり(よく分かんなかったけど)、体当たりギャグで笑わせたりしていた。上のサッチャーお面もそうだけど、巨漢のピアノ弾きのおじさんが、次々と服を脱ぐと下はダンスのレッスン着になっていて、大きな体で踊り始めたり、スプリットをしたりとか。
  ビリーの友人、マイケルはお茶目なキャラクターになっていた。クリスマスの夜、ビリーはマイケルにバレエを教える。白いチュチュを手渡されたマイケルは大喜び、さっそくチュチュに体をねじ込んで、その不恰好な姿にも観客は大笑いしていた。

  いちばん面白かったのが、ビリーが父ちゃんとロイヤル・バレエ・スクールの受験にやって来たシーンであった。ビリーが試験を受けている間、父ちゃんは廊下で一人待たされる。
  そこへフリルのついた白いブラウスに紺色のベスト、白いタイツ姿の男性バレエ・ダンサーが現れてタバコを吸う。ビリーの父ちゃんはその姿を目にした途端ビクッとし、すすす、と彼から遠ざかる。
  そんな父ちゃんに男性ダンサーはタバコを勧める。父ちゃんはようやく彼の隣に立つものの、その視線は男性ダンサーのモッコリ股間に釘付けである。観客は大爆笑、私も笑いながら、なるほど、これがバレエに対する一般の見方なんだな、と思った。

  踊りについては、私は子どもが一生懸命に踊っても、やはりすばらしいとは思えなかった。映画と似たような(わざとぎこちなくした)振り付けだったけど、映画でビリーが踊るシーンには見とれたのに、なぜ舞台ではそんなにいいとは思えないのか。ビリーがワイヤーで空を飛ぶシーンでは、子どもにしてはかなり危険な技をしていたと思う。
  でもそんなに拍手喝采するほどではないと思った。ワイヤー・アクションそのものがすばらしいんではなくて、子どもがやるからすばらしいんでしょ?私はいたいけな子どもがやるから感動する、ということはない。

  ミュージカル版のビリーは映画よりも数歳年下だと思う。マイケルもそう。ほかの子どもたちも同じで、全員が10歳くらいじゃないかな。だから余計に「けなげ感」、「いたいけ感」が漂って、観客はそんな子どもたちのパフォーマンスに感動している、という面が強いと思った。
  
  ミュージカル「ビリー・エリオット」は、まあ1、2度は観ておいていいかな、という感じである。難点は上演時間が長すぎること。第一幕だけで1時間半もある。第二幕も1時間20分ほど。映画のプロットの間に歌が入っているものだから、こんな長時間になってしまった。よって時に冗長でくどい感じもした。もっとすっきりまとめられればいいのにと思う。

  「ビリー・エリオット」終演後(5時40分ごろ)、ただちにピカデリー・サーカスに向かう。「ガイズ・アンド・ドールズ」は7時半に始まる。あまり休む時間がない。
  ピカデリー劇場のすぐ隣、このまえ入ったパブに行って夜ご飯を食べた。ビールとロースト・ビーフを頼んだ。ロースト・ビーフの付け合わせが奇妙で、ヨークシャー・プティング、グリーン・ピース、さやえんどう、短いにんじん、ここまではいい。
  不思議なのは、まるごとゆでたジャガイモとまるごと揚げたジャガイモが両方添えてあったことである。ゆでたか揚げたかだけが違うだけで、同じジャガイモなのにどうして両方を付け合せるのだろう(ちなみに揚げたジャガイモのほうがおいしかった)。

  今日の「ガイズ・アンド・ドールズ」、クーパー君はようやく慣れてきたようだった。演技にも柔軟性が出てきたし、歌うときも表情や仕草に変化をつけている。これからもっとよくなっていくだろう。クーパー君が歌う"I Have Never Been in Love Before"は本当にすばらしい。

  帰りにクーパー君にサインをもらった。クーパー君は「楽しんでくれた?」と聞いてきた。私は答えた。「とても楽しんだけど、あなたの踊りが少ないのがちょっと残念だった。」 するとクーパー君は笑いながら「歌のほうが多いよね」と答えた。
  私は逆に聞いた。「あなたはこの役を楽しんでいますか?」 クーパー君は「ああ、もちろん!」と答えた。私は不安だったので、思い切って尋ねた。「あなたはダンスをやめるつもりなんですか?」 するとクーパー君はあわてて「まさか!」と否定した。

  クーパー君の話によると、来年の春にロンドンで「危険な関係」を再演し、それからUKツアー、ヨーロッパ・ツアーを順次行なって、来年の秋には日本で新しいダンス・ドラマを上演する予定だそうである(でも「できれば」と留保をつけていたので、その点は割り引いて読んで下さい)。

  「だから今年は踊らないことにしたんだ」とクーパー君はふざけて言った。今年の秋冬の予定を聞いてみたが、それはまだ分からないそうである。

  ところで、来年の秋に日本で上演するという作品はなんなのか、クーパー君に尋ねてみたが、「それはまだ秘密なんだよ」とどうしても教えてくれなかった(「ヒントを下さい」とか食い下がってみたんだけど)。でもまあ、楽しみにとっておこう。
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3月8日

  今日は8時に起きたので朝ごはんが食べられた。部屋に戻ってからゆっくりとお茶を飲んで、仕度して出かけた。今日は「ガイズ・アンド・ドールズ」の昼公演を観て、夜は話題の「ビリー・エリオット」を観る予定。

  「オペラ座の怪人」で味をしめたので(?)、今日は両方とも当日券で入るつもりだった。当日券はけっこういい席が残っている。そういえば、木曜日の「ビリー・エリオット」昼公演も、上演日の4日前にしていい席がゲットできたんだった。ミュージカルのチケット販売システムも複雑らしい。「ガイズ・アンド・ドールズ」はどうだろう?

  ピカデリー劇場のボックス・オフィスに行った。昼公演まであと2時間近くもあるのに、ボックス・オフィスには多くの人が並んでいる。ユアンファンさんに教えてもらったとおりに、1階の最前列の席がないか聞いてみた。残念ながら売り切れだという。でも、オンラインで予約したよりもっといい席が取れた。最前列ではないけど、ほとんど最前列である。どーなってんだ。

  「ガイズ・アンド・ドールズ」は、当日に割引券が売り出される。だが席のエリアが限られていて、2・3階席の後ろのほうとからしかった。「オペラ座の怪人」や「ビリー・エリオット」などとは違い、観客を呼び込むためにこうやって工夫しているのだろう。けっこう苦戦しているのだろうか。クーパー君が抜擢されたのも、客寄せの一環なのかなあ。

  新しいキャストでの上演3日目、多くのキャストたちがアドリブで演技したり歌ったりし始めた。昨日までの切って貼り付けたような感じとはぜんぜん違った。硬さがあったサラ・ブラウン役の人も生き生きしている。本当に舞台は生き物で、まったく同じ舞台などないんだなと思った。

  クーパー君もそつなくスカイ役をこなしていた。でもこう言ってはなんだが、演技と歌で精一杯な感じで、他のキャストみたいに自分なりにアドリブを利かせる、というレベルには達していないようだった。
  私がいちばん不可解なのは、スカイってどういう人物なのか、ということである。クーパー君のスカイは、ドスがきいているとかいう感じはなく、単なるカッコいい好青年だ。「オン・ユア・トウズ」や「雨に唄えば」の主人公とキャラクターがそっくりなのである。
  もちろん表情を微妙にではあるが、豊かに変化させてはいるんだけど、あまり効果が出てないし、これぞスカイ、という個性がない。
  黙って踊れば、あれだけ自由自在に自分の印象や雰囲気を変えられる人が、強烈なオーラを発揮できる人が、セリフを言っての演技となると、どうしてこんなふうに単調になってしまうのだろう。クーパー君には自分なりのスカイのキャラクターを確立してほしい。

  ロンドンは今日も一日中雨で、「ガイズ・アンド・ドールズ」が終わるとさっそく地下鉄に乗り込んでヴィクトーリアに行った。昼ごはん(ベジタブル・ラザニア)の量がとにかく多かったせいか、お腹がぜんぜん空かない。
  これは食事の量を自分で調整する必要がある。よって近くのコーヒー屋でサンドウィッチだけですませた。これで今日はもう何も食べないことにした。

  「ビリー・エリオット」を上演するヴィクトーリア・パレス劇場はやや大きな劇場だった。内装は木製で味のあるアンティークなデザイン、ボックス席の柵も椅子も古さを感じさせた。劇場内部はやはり狭くて迷路のようだ。
  今のロンドンで最も人気のあるミュージカルのはずなのに、空席がけっこうあった。観光シーズンを外せば、大抵の人気ミュージカルは当日券で観られるのではないか。

  肝心の「ビリー・エリオット」だが、映画とはまったくの別物、と考えたほうがいいと思う。映画のあの雰囲気を期待してはならない。
  ミュージカル版「ビリー・エリオット」は、明るくコミカルでほのぼのしたホーム・ドラマであった。映画の筋は分解されて、その間にエルトン・ジョン作曲の歌が入り、小さな男の子や女の子たちが健気に一生懸命歌って踊り、時にほろりとする感動的なシーンもある。
  舞台セットは「オペラ座の怪人」顔負けの豪華さで、ビリーはワイヤーで吊るされて、空を旋回して飛ぶ。

  観客の反応は上々で、カーテン・コールは熱狂的に盛り上がった。私はちょっと奇妙な感じがした。観客には年配の人々やお年寄りが多く、彼らは「小さなかわいい子どもが必死に踊って歌っている」姿に感動していたように思えたからだ。
  中には映画を観ていないらしい観客も大勢いたようだ。私のように映画に感動して、あの雰囲気を味わいたいと思って観に来た者にとっては、「はいはい、ビリー役の子どもちゃんは、一生懸命で健気でかわいいでちゅね」という白けた感想で終わった。
  あ、ちなみに、大人になったビリーは出てくるけど、ボーン版「白鳥の湖」は踊りません。

  映画版の製作スタッフが勢ぞろいで、オリジナル音楽の作曲はなんと帝王(女王?)エルトン・ジョン!金に糸目をつけない大掛かりなセットと仕掛け、かわいらしい子どもたち。「ヒット・ミュージカル」に不可欠なのは、一にカネ、二に名曲、三に権力だ、と思い直した。 
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3月7日

  朝ごはんは食べないことにして朝寝をすることにした。10時くらいにようやく起きた。それから部屋でお茶を飲んでお菓子をつまみつつ、テレビをぼーっと観ていた。家のリフォーム番組をやっていた。そういえば以前、のリフォーム番組を観たことがある。

  ロンドンに来るときにはいつも守っていることがある。「マクドナルド、ケンタッキー・フライド・チキンなど、日本にもあるファースト・フード店、また日本料理の店には入らない」。こういう店は入りやすい。そうなると、なんだか自分が「甘えて」、「逃げて」いるように感じられるからだ。
  この変な主義(?)のおかげで、食事にはいつも苦労する。じゃあどういう店に入ればいいのか分からない。知らない店には入りづらい。でも多くのレストラン、カフェ、パブは店の外にメニューを掲げてある。それでどういう料理を出すのか、値段はどうかを見て、よければ勇気を出して入る。扉をくぐるまでは大変だが、中に入ってしまえばなんとかなる。

  まずはイギリスの朝ごはんを食べようと思って、以前に入ったことのあるカフェに行った。ここは一日中「イングリッシュ・ブレックファスト」を出している。前の「旅日記」にも書いたことがある。
  デカい皿いっぱいに目玉焼きやらベーコンやらソーセージやら煮豆やらが盛られている。前にも食べたことのある黒い輪切りの物体もあった。今回はメニューで名前をしっかり確認した。・・・あれ?また忘れたが、とにかく豚の血を固めて作ったソーセージである。
  これで朝ごはんと昼ごはん兼用にすることにする。

  それからネットカフェに行った。海外旅行でネットカフェに入るなんて時間の無駄のように思えるが、今回はゆっくりしたい。それに記憶がフレッシュなうちにこうやって書いとけば、帰国後も楽である。というわけで、この日記はネットカフェから書いているわけ。

  今日は朝から小雨がずっと降り続いている。すぐ止むかなと思ったがその気配はない。傘をさしている人も多い(イギリス人は多少の雨では傘をささないのに)。でも小雨なので、コートのフードをかぶってやり過ごしている人もいて、傘派とフード派の割合はおよそ半々といったところだろうか。
  この天気では屋外観光は無理なので、屋内観光に的を絞ってなるべく外にいないようにすることにした。

  午後2時にピカデリー・サーカスに行った。これだけは観ておけと言われていた、「オペラ座の怪人」(昼公演)を観るつもりだった。もっとも、チケットがまだあればの話だが。上演しているハー・マジェスティーズ劇場に行く。チケットはあっさりと買えた。しかもとてもいい席だった。昼公演だからだろうか。
  ハー・マジェスティーズ劇場も、内部は狭くて迷路のような作りになっていた。くねくねと曲がった通路を抜けるといきなり客席になる。舞台はピカデリー劇場よりやや大きかった。

  「オペラ座の怪人」はすごく面白かった。舞台セットは豪華だし、音響効果も凝っており、ワイヤーを使った仕掛けも迫力があって物凄かった。
  普通のセリフというものがほとんどなく、会話もすべて歌になっている。みんな有名な曲ばかりらしいが、美しく印象に残る歌ばかりだった。キャストの歌唱力はみなオペラ歌手並みで声量が凄い。たとえばクーパー君に「オペラ座の怪人」に出演しろといっても到底無理な話である。
  また、バレエ・ダンサーもかなり出演していた。プログラムを見たら、バレエもできるミュージカル・ダンサーではなく、ロイヤル・バレエ、イングリッシュ・ナショナル・バレエ、キーロフ・バレエで踊ったことがあるなど、本職のダンサーが多かった。

  私は映画を先に観ていたが、ミュージカル版を観たことのある人々の映画版に対する一様な感想、「まあ、あんなもんじゃない」、「ファントム役の歌い方がちょっと・・・」が、舞台を観てはじめて理解できた。
  映画版は舞台よりも優れているとはいえない。映画は舞台をただ平面的に再現しただけである。「オペラ座の怪人」は、舞台のほうが絶対に面白い。これだけは断言できる。
  またファントムはオペラチックに歌う。映画版では違っていた。

  最後のシーン、ファントムはクリスティーンを逃がしてやり、静かにメロディを奏でる猿のオルゴールの横で泣き崩れる。この姿には思わず涙がちょちょぎれそうになった。

  昼公演は5時半ごろに終わった。「ガイズ・アンド・ドールズ」の夜公演まで2時間ある。このままピカデリー・サーカス付近で時間をつぶすことにした。まずはスター・バックスに入ってコーヒーを飲んだ。「オペラ座の怪人」のプログラムをやっと読んだ。実は劇場で全曲が入ったサウンドトラックCDを売っていて、つい買おうかなと思った。でも値段が27ポンドと高かったのでやめた。

  夜ご飯を食べようと思って近くをうろついた。また恐怖の食事タイムの始まりである。あちこち歩いて外のメニューを見まくっていたら、インドかパキスタン系のオヤジに二度も声をかけられた。二回目に声をかけられたときにはゾッとした。同じ人物だったからである。後をつけられていたらしい。
  怖くなって早足で逃げ、ピカデリー劇場に小走りに向かった。もうどこでもいい、どこでも入ろう、と思って、結局ピカデリー劇場の隣のパブに駆け込んだ。本当に駆け込んだ。

  そこのパブは夜も食事を出していた。開演まであと1時間で、時間もちょうどいい。カウンターの兄ちゃんがとても親切だった。軽めのビールとチキンパイを頼んで、ゆっくり食べた。安心した。
  まわりはイギリス人だらけで、なんでこんなところにアジア人がいるのか、と彼らは内心不審に思ったかもしれない。でも無視して放っておいてくれた(笑)。国によっては、じろじろ見られたり、話しかけられたりするときがある。

  昼の「オペラ座の怪人」のせいで、「ガイズ・アンド・ドールズ」の舞台セットが物足りなく感じられた。いや、「ガイズ・アンド・ドールズ」のセットも、すごいカネかけてることはかけてるんだけどね。
  ヒットミュージカルの条件とは、一にカネ、二に名曲、三にカネだなあ、と思った。

  クーパー君、昨日よりは硬さが取れて、のびのびと演じているように思えた。もっともこの印象は、私の今日の精神状況も反映されているだろう。でもやっぱり、主役らしい存在感がまだ足りない気がする。本来は立ってるだけで目立つ人でしょ、あなたは。
  それに演技も歌もまだ不安定だ。慣れて本調子になるには、まだしばらく時間が必要なのかもしれない。
  数少ない彼の踊りのシーンでは、目が釘付けになってしまう。彼が踊りだすと、とたんに別人のようになる。彼の周りの空気がびしっ!とひきしまる。群舞の中で、他の誰よりも動きがきれいで安定している。本当に、もっと踊ってくれればいいのに。
  もっとも、これはクーパー君一人のための舞台ではないから仕方がないのだけれど。

  ネイサンの婚約者、アデレイド役の人がすばらしい。歌もいいし、演技もコミカルで上手。アデレイドのレビューでは、なんとショー・ガール全員がトップレスになってしまう(でもうまく隠して見せないけどね)。
  スカイが恋してしまうサラ・ブラウン役の人は、歌はすばらしいけれど演技がいまひとつ。でもスカイとハバナに出かけて、酔っ払って大暴れするシーンは大爆笑である。

  やっぱりクーパー君は、あのやや一本調子な演技に変化やメリハリをつけることと、大物ギャンブラーらしい重みを漂わせることが必要な気がする。
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3月6日

  午後2時過ぎにヒースロー空港に到着した。今回の入国審査では「会社員だそうだが、どんな仕事をしているのか」と聞かれた。みなが"Office Worker"と書くものだから、突っ込まれたのだろう。ヒースロー・エクスプレスはまた値上がりしていた。片道14.5ポンド。

  パディントンのB&B(シングル一泊45ポンド)にチェックインした。なんと5階!エレベーターはもちろんないので、いい運動になると思うことにした。少し休んで、顔を洗って着替えて、近くの雑貨店で水やらお菓子やらの買い物をした。

  それらを部屋に置いてから、また出かけた。いつものことだが、疲れすぎると疲れを感じなくなる。まずヴィクトーリア・パレス劇場に行った。「ビリー・エリオット」のチケットを買うためである。木曜日のマチネ。だいじょぶかな、と思ったがいい席が取れた。

  それからピカデリー・サーカスに行った。「ガイズ・アンド・ドールズ」が上演されるピカデリー・シアターは、ピカデリー・サーカスのほんとにすぐ近くである。古い狭い劇場でびっくりした。ロビーやらラウンジやらトイレやら、みんな迷路みたいだった。
  客席も意外と小規模で、また舞台と客席の間にはオーケストラ・ピットがあるが、それを感じさせないほど舞台が近い。舞台の横幅は狭く、しかし天井が異常に高くて奥行きも充分にあった。この舞台でボーンの「白鳥の湖」をやったのか、横の広さは足りたのだろうか、と思った。

  「ガイズ・アンド・ドールズ」は映画版よりも軽い感じで、コメディという感が強かった。観客は頻繁に大爆笑していた。なんでここで笑うのか、という、おなじみの「笑いのツボ」差を感じた。

  クーパー君はアイボリーや黒のスーツをギャンブラーらしく着こなし、帽子を斜めにかぶり、その下の髪はきれいになでつけていた。顔が小さいので他のキャストより線が細い感じがする。
  演技や歌はより上手になった。特に歌がうまくなった。私はクーパー君の歌に聞き惚れるなんて経験はなかったが、"Luck Be A Lady Tonight"とか"I Never Fall in Love"(だっけ?)はとてもすばらしかった

  でも肝心の踊りが(クーパー君にしては)少なかったのでがっかりした。なぜ彼はこの役を承諾したのだろう。でもこれからの彼のキャリアを考えれば、この「ガイズ・アンド・ドールズ」出演は決して悪い話ではないのだろうけど。

  今日の私は疲れているのであまりいい印象が持てなかった。でもミュージカル版「ガイズ・アンド・ドールズ」の結末は面白い。クーパー君が救世軍の格好をしているのには爆笑した。
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ついに

  明日から、半年にも及ぶ長丁場が始まります。クーパー君ならきっとやり遂げることができるでしょう。応援してるよ~ん。
  ブックマークのところに「ガイズ・アンド・ドールズ」公式サイトへのリンクを貼っておきました。ここにやがてクーパー君の名前と写真と履歴が掲載されるのね。楽しみです。
  盛り上がるといいですね。
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2002年

  「経歴」を久しぶりに更新しました。でもあれは2002年7月分のまだ途中です。あの後には「オネーギン」出演と、ballet.coで起こったアダム・クーパーをめぐる大激論が続きます。でもballet.coの資料が多すぎて、今回はエクセター・フェスティバルまでで断念しました。

  2002年の初春ごろから、私はリアルタイムでクーパー君の舞台を見るようになります。最初が2002年3月の「マクミラン・カレイドスコープ」、次が7月の「オネーギン」ですね。あれからもう4年も経つのかー。感慨深いものがあります。

  でもあのときは、私はまだおっかなびっくりな状態で、日本で行なわれる公演か、ロンドンで行なわれる公演を観に行くので精一杯でした。今ならきっと、ロンドン以外であっても、クーパー君の舞台が観られるのならその地に出かけていったでしょう。2004年の秋、「雨に唄えば」を観るためにレスターに行ったように。
  今回の「経歴」を書いていて、ああ、このエクセター・フェスティバルは観たかったなあ、とつくづく思いました。「オネーギン」の数日前に行なわれた公演でしたから、旅行スケジュールの調整をすれば観られたかもしれません。でもこの当時、私にはイギリスの地方に舞台公演を観に行く、という発想自体がなかったのです。今となってはもう遅いことですが、つくづく惜しいことをしました。
  
  そういえば、このころには2003年の春にボーン版「白鳥の湖」日本公演が行なわれることが決まっていて、クーパー君が参加するかどうかで大騒ぎになっていました。彼の出演が公式発表されたのは秋になってからで、それまではずいぶんと気をもんだものです。
  クーパー君の「スワン」を観ることは私の夢でした。なかなか詳しい情報が伝わってこない中、すでに夏の時点で、私は気持ち的にかなり追いつめられていて、クーパー君自身に必死になって尋ねたのです。

  というわけで、2002年は私にとって思い出深い年です。とても懐かしいです。とにかく必死だった自分が(笑)。

  話は変わって、オリンピックがようやく終わってくれました。アンチ・オリンピックの私ですが、フィギュア・スケートの荒川静香選手の美しい演技にはうっとりと見惚れました。開会式では、パヴァロッティが「誰も寝てはならぬ」を歌ったんですね。
  期せずして荒川選手の演技の曲と同じだったわけで、オリンピックっていうのは、こういう一種の「縁」みたいなものも、勝利するのに重要な役割を果たすものなんだなあと思います。
  あと、荒川選手は非常に大人ですね。それにとても聡明な人だと思います。インタビューの受け答えで、内容がまとまっているばかりか、ちゃんと文章として完結している日本語で話すなんて、あんな人がいったいどれくらいいるでしょうか。

  荒川選手の「イナバウアー」という技がいま大流行だそうです。でも、あれは素人がやっては非常に危ない技で、ぎっくり腰になる危険性大だということです。レイザーラモンHGの腰振りも素人には危険な動きで、ふざけて真似してぎっくり腰になった人々が多数出たそうな。
  もちろん私はイナバウアーもHGの腰振りも絶対にやりません。去年の「ぎっくりトラウマ」がまだ大きいですからね。みなさんも真似するときにはお気をつけて。(←いないって)
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