ローレン・カスバートソン降板


  来週から始まる英国ロイヤル・バレエ団日本公演ですが、恐れていた事態が起きてしまったあ~!

  主催元の NBSの公式サイト によると、ローレン・カスバートソンは今シーズンの初めに受けた足首の手術からの回復が遅れているため、『不思議の国のアリス』のアリス役をすべて降板するそうです。

  私はカスバートソンが主演する日のチケットを買っていました。カスバートソンのアリスが目当てでこの日を選んだので、とても殘念(泣)。

  でも、代わりに主演することになったのが、これまた私のお気に入りのサラ・ラム。サラ・ラムは信用できます。また他の主要キャストには変更がないようですから、私個人は特に大きな不満はないです。

  
  7月5日(金)『不思議の国のアリス』

   アリス:(旧)ローレン・カスバートソン→(新)サラ・ラム

   ハートのジャック/庭師ジャック:フェデリコ・ボネッリ(変更なし)
   白うさぎ/ルイス・キャロル:エドワード・ワトソン(変更なし)
   ハートの女王/アリスの母親:ゼナイダ・ヤノウスキー(変更なし)
   マッドハッター/マジシャン:スティーヴン・マックレー(変更なし)


  ただし、マッドハッターは絶対にスティーヴン・マックレーで観たいので(これもこの日のチケットを取った理由)、この上マックレーが降板になったら号泣するぞ。マックレー、どうか元気で来日して下さい。

  カスバートソンには療養に専念して、一日も早く回復してほしいです。カスバートソンは真面目なあまりに、無理して頑張りすぎなところがあるように思います。だから病気や怪我が多いんじゃないかな。足首が完全に治ったら、またいずれ来日して、あの優しくて誠実な人柄が漂う丁寧な踊りを見せて下さいね。

  私は『白鳥の湖』もサラ・ラム/カルロス・アコスタ主演の舞台を観ます(これはどちらかというとアコスタ目当てだった)。なんだか今回のロイヤルの日本公演は、私にとって「サラ・ラム祭り」になっちゃったな。でもこういうことってあるんだよねえ。これも何かの縁、サラ・ラムの踊りと演技をたっぷり堪能することにしましょう。


  追記:ついさっき、久しぶりにBallet.coのフォーラムを流し読みしてたら、英国ロイヤル・バレエ団の元プリンシパル、デヴィッド・ウォール(David Wall)氏がこの6月18日に亡くなったそうです。享年67歳でした。

  ウォール氏は様々な役の初演者で、最も有名なのは『マノン』(ケネス・マクミラン振付)のレスコー、『マイヤーリング』(同)のルドルフ皇太子です。意外なところでは「エリート・シンコペーション」(同)も("Bethena-a Concert Waltz")。

  私は『マノン』映像版(1982年収録)でしか観たことがありませんが、デヴィッド・ウォールは映像を通して観ただけでも、非常に個性的で強く印象に残るダンサーです。踊りはもちろん演技力に非常に優れており、マクミランがウォールを好んだのも頷けます。ウォールをしのぐレスコーを踊ったダンサーは、私はまだ見たことがありません。

  ウォール氏は引退後、イングリッシュ・ナショナル・バレエのバレエ・マスターを長年のあいだ務めていたそうです。実際の教え子だったらしいユーザーが、優れた教師だった、というコメントを残していました。


  追記2:折しも、今月末(6月27-29日)にロイヤル・バレエはモナコ公演を行なったそうですが、その演目が『マノン』。

  アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーが今シーズンでロイヤル・バレエを退団することは、すでに前の記事に書きました。コジョカルとコボーはモナコ公演には参加せず、日本公演が最後のロイヤル・バレエでの舞台となります。

  この他、リャーン・ベンジャミンとマーラ・ガレアッツィも今シーズン限りでロイヤル・バレエを退団します。ベンジャミンとガレアッツィは、モナコ公演『マノン』でともにタイトル・ロールを踊ります(デ・グリューはそれぞれカルロス・アコスタとエドワード・ワトソン)。

  NBSの公式サイト によると、ベンジャミンは日本公演に参加するようですが、ガレアッツィの名前は見えません。モナコ公演での『マノン』が、ガレアッツィのさよなら公演となったようです。

  今後、ガレアッツィを日本で観られるかというと、その可能性はまずないと思うので、非常に残念です。ガレアッツィのタチヤーナ(『オネーギン』)やマリー・ヴェッツェラ(『マイヤーリング』)は本当にすばらしかった。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


ウィンブルドン選手権 ロジャー・フェデラー総括-1


 1回戦 対 ヴィクトル・ハネスク(ルーマニア)

   6-3、6-2、6-0

  まず、主審のコールからしてバリバリなイギリス英語。観客席にも見るからにアッパーな方々が多数ご来臨。成金セレブとかじゃなくて、いわゆる「アッパー・クラス」のみなさまね。服装、髪型、表情、姿勢、仕草、あと女性の場合はメイクやアクセサリーとかで分かる。

  ウィリアム王子とキャサリン妃もいたような?(←ごめん。人違いでした。キャサリン妃の弟さんと妹さんだって。) コンドリーザ・ライス元アメリカ国務長官もいました。

  他にも有名人、いとやんごとなき方々が多数いらしたようなので、ちゃんとテロップで紹介してくれんかね。

  この試合がセンター・コートで行われた大会最初の試合だったそうです。前年度の優勝者がやることになってるんだって。だからフェデラー、ツイッターに「大会初日にセンター・コートで第一試合をやるのは、いつも名誉なこと」と言ってたのか。

  フェデラーのツイッターは現在、およそ1~2日に1万人の割合でフォロワーが増加中です。今は41万人を突破しました。いずれ孫正義と有吉弘行越えを果たしてほしいものです。

  当然のことに、コートの芝がまだハゲてなくて、とてもきれいでした。大会日程が進むと、特にベース・ラインのところがハゲてくるんだよね。決勝のころには、ベース・ラインのあたりはペンペン草も生えんつるっパゲの不毛地帯と化します。

  いつもスポーツのルールを教えてもらっている先輩がいるのですが、その先輩は、最近のテニスはベース・ラインからの打ち合いが主体になっているから、ウィンブルドンの芝のコートもベース・ライン周辺の芝ばかりが剥げて、ネット前はほとんど芝が剥げてない、と嘆いていました。

  ヴィクトル・ハネスクはビッグ・サーブが武器らしいです。エースをいくつか取っていました。ネット・プレーもそこそこやります。でも、フェデラーはハネスクの凄まじいサーブを凄まじい強打で返してインになっていましたし、ネット・プレーでも一枚も二枚も上手でした。

  フェデラーのサーブ、そんなに速くはないらしいのですが、どうして返せない選手が多いのでしょうか?ハネスクもほとんど返すことができませんでした。ハネスクは身長が…(ATP公式サイトを調べてる)…198センチ!?こんなに背が高いのにどうして返せないのか?

  ものすごく高くバウンドするサーブと、あとなんと形容したらいいのか、バウンドしてから、するる~っ、と速く抜けるようなサーブがあります。バウンドしてからいきなりスピードが速くなる感じです。

  今日のフェデラーは「無理せず流します」的なところがなく、最後まで攻撃の手を緩めませんでした。サーブではいくつエースを取ったのだろう。フォア・ハンドとバック・ハンドのリターンはコートのすみっこにバシバシ決まるわ、ハネスクの強い球威のボレーやパッシング・ショットをネット際で打ち返すわ、ハネスクをコートから追い出してドロップ・ショットをネット際ぎりぎりに落とすわ、観ていてとても楽しかったです。

  あと、フェデラーは奇妙なボレー(?)をしました。ハネスクが打ったパッシング・ショットが、ネット際にいたフェデラーの手元あたりに飛んで来ました。そのボールを、フェデラーはなんか肘から下だけをちょちょい、という感じで動かしてボレーで返しました。(You Tubeウィンブルドン選手権公式チャンネルの「本日のボレー」に選ばれていました。やはりよく見えませんが、最初はバック・ハンドで返そうとしたのを、いきなりフォア・ハンドに変えて打ち返したようです。)

  フェデラーはウェアの下に白いインナーシャツを着込んでいました。ロンドンって、夏といわれる時季でもすごく寒いときがあるからね。また、試合の序盤でふと空を見上げると、一瞬ですが心配そうな表情をしました。カメラもフェデラーのこの表情に気づいたようで、すぐに上空を映しました。すると、濃い灰色のぶ厚そうな雲が空を一面に覆っていました。フェデラーは雨が降ることを心配したようです。


  と、るんるん気分でいたら、事態は急転直下、気分は一気に奈落の底へ(笑)。そう、「世界的大事件」とまで報じられたショッキングなことが起こりました。

 2回戦 対 セルギイ・スタコフスキー(ウクライナ)

   7-6(5), 6-7(5), 5-7, 6-7(5)

  私はこの試合をリアルタイムで観なかったんです。試合は現地時間26日の午後に予定されていました。ただ、センター・コートでの第3試合でした。現地時間午後1時からヴィクトーリア・アザレンカの試合、次がジョー・ウィルフリード・ツォンガの試合、最後がフェデラーの試合です。

  フェデラーの試合は、現地時間午後4時30分(日本時間27日午前12時30分)から開始予定、となっていたと思います。しかし、試合開始時間は押すのが当たり前です。アザレンカの試合は1時間で終わるかもしれませんが、問題はツォンガの試合。

  ツォンガの相手はエルネスツ・グルビスです。ツォンガとグルビスが戦って2時間半で終わるとは思えない。おまけに雨が降って、試合がいったん中止になったりしたら、フェデラーの試合は何時に始まるのかまったく予想がつきません。

  仕方ない、どーせフェデラーが勝つだろうからもう寝よう、と寝ることにしました。それでも未練たらしく、寝る寸前の午前12時過ぎにセンター・コートの試合の進捗状況を見たら、ほーら、まだツォンガ対グルビスの第1セット(ツォンガが5-3でリード)じゃん。こりゃ、フェデラーの試合開始はいつになるか分かんねえわ、寝よ寝よ、と寝ちゃいました。

  翌朝。試合結果を見て愕然、茫然自失。ええっ!?フェデラーが負けただぁ!?だってまだ2回戦よ?ウソでしょ?これって夢だよね?私、本当はまだ寝てて、起きてないんだよね?と、人生初めて自分の頬をつねるということをしちゃいました。

  ところが、驚愕したのはフェデラーの試合結果だけではなかった。アザレンカが試合前に棄権して、代わりにアナ・イヴァノヴィッチの試合が急遽センター・コートで行われ、あとはなんとツォンガも棄権したという。だって、ツォンガ、第1セットはリードしてたじゃん。じゃあ、あの後に途中棄権したってことか。

  アザレンカが棄権したのは分かる。アザレンカが転倒した瞬間を見てたけど、踏ん張ろうとした足が滑って、両脚がスプリットする感じで地面に尻もちをついてしまってました。アザレンカは「キャー!」とものすごい悲鳴をあげました。膝を痛めたということですが、滑って反射的に踏ん張ろうとした瞬間に、膝に重い負荷がかかって痛めちゃったんでしょう。あれは見てるほうも痛くなりました。

  ツォンガが棄権した理由もやはり膝だそうですね。今年のウィンブルドンの芝は滑りやすいという説があります。アザレンカやマリア・シャラポワははっきりそう言ってたそうです。NHKの実況中継は、コートの管理がずさんらしいという話を伝えていました。たとえば、刈り取った芝(芝を一定の長さに揃えるために先端を刈り取る)を回収せず、そのままコートに置きっぱなしだったとか。

  いくらウィンブルドン選手権とはいえ、選手生命に影響する重い怪我をするかもしれない危険を冒してまで、一生懸命にプレーして勝ちたくなんかないよなあ。棄権を選んだ選手たちは正しい。ウィンブルドン選手権公式サイトにコメントを寄せた古参ファンもこう書いてます。

  "The problem is with the courts. I've been watching Wimbledon for 40 years and never seen this many players get injured and repeatedly slip on the apparently slick surface. Either they have regulated shoes that are inadequate for proper movement, or there is something unusual about the ground maintenance this year. If I was a professional, I'd likely withdraw from this year's event before tearing an ACL. When the Chief Executive of the All England Club, notoriously silent about all issues, releases an official statement about the condition of the grounds and player withdrawals, you KNOW there is a problem. But, typically Wimbledon, they'll never admit it." (*tearing an ACL:前十字靭帯〔←膝にある〕の断裂。)

  芝は生き物だから、その年によって生育状況が異なるのは仕方のないことだと思います。だから、人間の力でコントロールできない自然の結果として、滑りやすい芝になってしまったのなら、それは主催者側のせいとはいえない。しかし、人工の庭造りを得意とするイギリス人らしい言い分というか、「芝の状態は例年どおりである」とか頑固に言い張るもんだから、選手やファンの間に不信感と疑心暗鬼を生じさせてしまったんだよねえ。

  素人意見だけど、本当に芝が滑りやすかったとすれば、それは多分にコートの管理がいいかげんなせいだったのでは?おそらく人的コストの問題で、例年よりもコートの管理や整備に手抜かりが多かったんじゃないかなあ。つまり、芝の生育状況の問題ではなく、刈り取った芝をコートにそのまま放置する類の人為的なミスのせい。

  滑って転倒して膝や肩を痛めた選手たち、また転倒には至らなかったものの、深刻な怪我や故障につながる危険のある、膝に重い負担のかかるプレーを強いられて棄権を余儀なくされた選手たちが続出した後、主催者側があわててコートの管理と整備を厳しくした可能性は充分にあります。

  そう考えると、試合中に転倒する選手たち、試合中の転倒による怪我が原因で棄権した選手たちが続出した大会3日目の6月26日を境に、こうした現象がいきなり止んだこと、また選手間で芝の滑りやすさについて意見が分かれていることが納得できます。

  来年からは、ウィンブルドンの会場の全コートに、オンラインでいつでも閲覧できる、24時間ライブカメラを設置するといいと思うよ。事故後の福島第一原発みたいに。そしたら、主催者側によるコートの管理実態が分かりますから。

  「世界を揺るがした1日間」、フェデラーの2回戦敗退については、試合の録画を観てからまた後日ね。フェデラーが負けたと分かってる試合を観るのはクソ面白くもなんともねえけど、でも観なくてはね。でないと試合について何も言えん。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


『言霊』/『ヴィリ』


 
言霊
山岸 凉子
講談社


  『言霊』の帯は「バレエ最新作」と銘打っています。でも、この『言霊』といい、前作の『ヴィリ』といい、この2作品はバレエ物ではなく、バレエを舞台にした心理物として読んだほうが、いろんなことを読み取れると思います。もちろん、この2作品はバレエ界の内側をリアルに描いてもいますので、バレエ物としても「へえ、実情はそんなものなのか」と思うところも多くありますが。

  『言霊』とは言うまでもなく日本に古来からある思想です。言葉そのものに力があり、言葉を発すると現実がその言葉どおりになるという考え方です。もっとも、似たような考え方は世界の多くの地域に存在するでしょう。予言や言葉による呪いもこの類だと思います。

  マンガもネタバレは避けたほうがいいのでしょうから、『言霊』の詳しい結末は書きません。ただ、『言霊』で非常に興味深いのは、たとえば「人を呪わば穴二つ」ということわざにもあるように、他人の不運と引き替えに自分の幸運を手に入れようとすると、結局は自分自身に不運がはね返って来ることを、スポーツ精神医学の面から説明している点です。

  主人公はバレエを習っている16歳の少女です。彼女は高い能力を持っているのですが、舞台の本番でその実力をなかなか充分に発揮できません。周囲の人々は彼女のことを「本番に弱い」と見なしており、彼女自身もそのことを非常に気に病んでいます。

  しかし、主人公はそのジンクスを打ち破る方法を持っていました。それがまたとんでもない方法なんですが、私は最初、16歳の子どもならこんなこともしかねないな、と思いました。でもよく考えると、たとえ大人であっても、この主人公と同じことを今までにしたことがない人、そして現在もしていない人なんているはずがありません。意識的にであれ、無意識的にであれ、誰でもこの主人公と同じことをやった経験はあるはずです。

  ある日、主人公の少女はバレエを習っている同世代の少年と出会います。彼はドイツのバレエ学校に留学している、将来を非常に有望視されている生徒でした。主人公の少女はインターネットを介してその少年とやり取りを続けるうちに、彼女がそれまでやってきた、「本番に弱い」ジンクスを打ち破る方法が、実はどんな効果を生んできたのかに気づくことになります。

  その鍵となるのがスポーツ精神医学です。この少年はヨーロッパのバレエ学校に留学しているだけあって、スポーツ精神医学にもとづくメンタル・トレーニングも受けているようです。ですから、彼は舞台での自分のパフォーマンスについて、それを科学的に考える習慣が自然と身についています。

  この少年の出現によって、物語は子どもならではの幼稚な呪術的信仰の世界から、科学的な精神医学の世界に変わっていきます。主人公の少女がそれからどうなったのか、興味のあるみなさまはこの本をご覧下さい。

  私個人は、この『言霊』を読んで、頭を冷やすことができたというか、我ながら意外なほどに(本当に驚くほどに)気持ちが落ち着きました。同時に、まだ結果の出ていない未来のことについて、「予想」や「予測」の名のもとに、自分や他人に対してマイナスの言葉を言ったり考えたりするのはやめようと思いました。

  作者の山岸凉子は「ダンサーをはじめとする、アスリートすべてに共通する"メンタルトレーニング"を描きたいと思った」のだそうです。でも特にバレエに限らず、私たち一般人が普通の日常生活を送る上でも有意義な内容だと思います。  

  ところで、主人公の少女がコンクールで踊ることになる、『ドン・キホーテ』のドゥルシネアのヴァリエーションについてですが、後半にイタリアン・フェッテが入っているドゥルシネアのヴァリエーションは珍しいみたいです。大方は軽いジャンプ→アティチュード/アラベスク/アラベスク・パンシェでキープ、をくり返す振付のようです。

  イタリアン・フェッテが入っているドゥルシネアのヴァリエーションは、スヴェトラーナ・ザハロワ(ボリショイ・バレエ)が踊っている映像があります。新国立劇場バレエ団公演『ドン・キホーテ』オフィシャルDVD(2009年収録)で、また動画投稿サイトで観られます。ちょうど、今日(22日)から新国立劇場バレエ団の『ドン・キホーテ』公演が始まりました。そこで見られるのではないでしょうか。

  いやー、ザハロワの踊りはやっぱり凄いです。西側の有名バレリーナたちが踊っているドゥルシネアのヴァリエーションの映像もいくつか観ましたが、ザハロワは明らかに別格です。なるほど、踊れる人が踊れば、ドゥルシネアのヴァリエーションはまったく「地味」な踊りなどではありませんね。  

  また付録のマンガによると、作者の山岸さんは現在、福島の被災猫(原発事故で避難していった飼い主に置き去りにされた猫)を預かって面倒を見ています。この猫ちゃん、なんと1年間も警戒区域で自力で生き延びたそうで、その生きる力の強さには驚かされます。

  この猫ちゃんはストレスを感じると、エサをガツガツ食べまくる習慣がついてしまっていて、体重はすでに9キロ超え(普通は4~5キロ)だそうです。山岸さんも案じているように、これは明らかに太りすぎです(笑)。無理なくダイエットできるといいですね(猫用ダイエット食があるのだ)。


 
ヴィリ (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)
山岸凉子
メディアファクトリー


  この『ヴィリ』は出版されてからもう数年が経っています。主人公は日本の小さな一民間バレエ団のプリマ・バレリーナで、アラフォーで未婚ながらも高校生の一人娘(←当然のごとくバレエを習わされている)がいます。この主人公が主役を踊る『ジゼル』全幕公演を軸に物語が展開していきます。

  実は、『ヴィリ』を初めて読んだとき、これは一体何を描きたい作品なのかがよく理解できませんでした。ストーリーが面白いので、「オカルトの要素が入ったバレエ作品」として読んでも楽しめてしまうんですね。しかし今はよ~く分かります。読むと本当に痛いところを突かれた思いになります。

  主人公のバレリーナは優れた能力、圧倒的な存在感とカリスマ性を持ち、すでにそのバレエ団で輝かしいキャリアを積んできたベテランのダンサーです。しかし、読んでいくと最初に気がつくのは、この主人公はバレエに関しては徹底的に厳しい反面、バレエ以外のことには無関心、無神経かつ鈍感な女性だということです。

  たとえば自分の娘が摂食障害になりかけていること、過度のダイエットのせいで栄養失調の状態にあることを知っていても、それを何とも思いません。太ることを気にしている娘の前で、平然と「太りやすい体質」、「すぐ重量オーバーしてしまいそう」などと口にします。

  また、娘が脚に怪我をしても、娘の身体を心配するのではなく、まず大事な公演前に怪我なんぞをした娘に対する苛立ちを露わにします。そして、娘が痛い思いをしていることよりも、娘の怪我が公演までに治るかどうかを心配するのです。このように、主人公は自分の子どもに対してでさえも、バレエの価値観だけで判断し接します。

  しかし、主人公は自身のことを「バレエばか」と自虐的に呼びながらも、そのことを自慢に思っています。実の娘を含めたすべてを、バレエの基準に照らしてのみ考える自分をおかしいとは思っていません。

  この作品の後半は、これは山岸凉子でないと考えつかないだろうというすごい展開になっています。あることをきっかけに、主人公の女性としての、そして母親としての人生、ついでバレリーナとしてのキャリアが一気に崩壊します。ここからが本当に面白い。

  主人公は最初、自身に起きた出来事は他人が自分を裏切ったからだと考え、彼らへの怒りと恨みの感情に囚われます。しかし彼女は徐々に、過去と現在と、自分を襲った不幸な出来事のすべての原因は、現実をあるがままに見ようとせず、現実を自分の都合のいいようにしか解釈してこなかった自分自身にあると考えるようになります。

  ここで『ジゼル』の物語がリンクしてきます。すべてが主人公にとって順調だったころ、彼女はアルブレヒトを救ったジゼルについて、「愛とは許すこと」と余裕たっぷりに語ります。ジゼルは自分を「裏切った」アルブレヒトを許しの愛によって救うのだ、というとらえ方です。

  しかし、自分の不幸は自分自身が招いたのだと思い至ったとき、主人公はこう独白します。「許す、許さない、そんな問題じゃないわ。自分が傷つきたくないばかりに現実をしっかり見極めようとしない、そんな私は、結局己(おのれ)しか愛していないのよ。」

  凄まじい言葉です。私はこの言葉を読むたびに胸にグサッときます。山岸凉子は専門用語を一切使っていません。しかしこれは自己愛というものの本質を鋭く突いています。厳しい現実に自分が傷つくことを恐れて、現実をありのままに見ない、物事を自分の都合のいいようにしか受け取らない、自分のやりたいことしかやらない、他者を信用しない、他者を受け入れない。

  これもはっきり書いていないですが、主人公のこの言葉は、ジゼルの悲劇の原因もまた、ジゼルが現実を直視しようとしなかった、つまりアルブレヒトが村娘である自分とは身分のかけ離れた高位貴族だということに気づけたはずなのに、ジゼルはその現実を見ようとしなかった点にあることを連想させます。

  ちょうど、新国立劇場バレエ団の『ジゼル』に客演したダリア・クリメントヴァ(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)のジゼルがそんな感じだったことを思い出しました。

  主人公は、自分の娘に対してどんなにひどい仕打ちをしてきたかについても気づきます。「裏切られた」のではなく、自分の「手前勝手な思い込み」と「一人相撲」だったと悟った後、主人公は時間をかけて過酷な現実と共存していくのです。

  辛い現実に気づいて正気に戻ったときには、それこそ凄まじい塗炭の苦しみが待ち受けています。いきなり解決はできません。もしかしたら永遠に解決できないかもしれません。しかし、長い時間を苦しみぬいた末に、なんとか妥協点を見出して、辛い現実と付き合っていくことはできると私も思います。


 
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


ゲリー・ウェバー・オープン ロジャー・フェデラー総括-3


 決勝 対ミハイル・ユーズニー(ロシア)

   6(5)-7、6-3、6-4

  両者の今までの対戦成績とか、ランキングとかに関係なく、この決勝はフェデラーが勝つと思っていましたよ。フェデラーって、絶対に勝ちたいと思っている試合には、絶対に勝つことが漠然と分かってきたから。

  この大会はATP250という低いランクに属しますが、出場選手の顔ぶれはすごく豪華でした。同時期にロンドンで開催されているクイーンズ・クラブ選手権(エイゴン選手権)の出場選手もすごい面子が揃ってたでしょ。数少ない芝の大会(ウィンブルドン選手権を含めて全部で6大会)だから、この大会で優勝することは「たかが250」とはいえない大きな価値があるようです。

  テニス雑誌『スマッシュ』7月号にフェデラーのインタビューが載ってて、それがとても興味深かったです。

  今から10年前の2003年、21歳のフェデラーは全仏オープンで1回戦負けして、メディアから総バッシングを受けたんだって。でもその直後、このゲリー・ウェバー・オープンで優勝して、それからウィンブルドン選手権で初優勝を遂げたという経緯があったそうです。

  今年に入ってからのフェデラーも、まだ優勝がないということでメディアから揶揄されてきました。

  フェデラー自身は、今年の出場大会数が少ないことについて、今年は来年への準備期間に充てるからだと明言していましたが、それでも優勝がないことはやはり気にしていたのでしょうね。ちょうど、10年前の今ごろみたいに、「谷底をウロウロ」しているような気分だったのかもしれません。辛い気持ちに陥ることもあっただろうと思います。

  だから、このゲリー・ウェバー・オープンでは、是が非でも優勝したいだろうと感じていました。「優勝したい度」を比べると、フェデラー>>>>>ユーズニーだったでしょう。

  ミハイル・ユーズニーは、去年のウィンブルドン選手権で準々決勝にまで進出した選手です。よく頑張ったと思います。特に第1セット。第1ゲームでフェデラーにいきなりブレーク・ポイントを3つも握られたのに、それをしのいだのはすばらしかったです。その後も自分のサービス・ゲームを凄い気迫とパワフルなプレーでキープし続けました。タイ・ブレークでも一進一退の攻防になりましたが、ユーズニーは5-5から2ポイントを連取して第1セットを取りました。

  フェデラーは、是が非でも優勝したいという気持ちのせいか、少し力みすぎていたようでした。ミスが多かったです。これはユーズニーの作戦が功を奏していたせいもあったと思います。強打したボールをフェデラーのバック・ハンド側のサイド・ラインぎりぎりに叩きこみ、フェデラーにラリーの主導権を握らせず、フェデラーのミスを誘うというものでした。ユーズニーのサーブもすばらしかったです。

  ところが、第2セットに入ると、フェデラーのプレーがやや持ち直しました。第1セットでもそうだったのですが、自分のサービス・ゲームは絶対に守ります。ユーズニーはフェデラーのサービス・ゲームをブレークするチャンスをつかめません。フェデラーもユーズニーのサービス・ゲームで、ブレークできそうなとこまでいくのですが、なかなかその機会を生かせませんでした。

  ただし、両者のサービス・ゲームの内容を見ていると、ユーズニーが徐々に苦しくなってきているらしいのが分かってきます。気づいたのは、ユーズニーはフェデラーに主導権を握られると、まったく歯が立たないことでした。

  ユーズニーの気合いや根性は充分で、ガッツ・ポーズや叫び声で自分を奮い立たせていましたが、なんというのか、フット・ワーク、反応の速さ、ショットの種類、ゲームの組み立てなどになると、フェデラーよりもはるかに劣ることは明白でした。フェデラーをパワーでなんとかねじ伏せようとしているけど、それだけでは無理な状況になってきました。

  フェデラーのサービス・ゲームでは、ユーズニーはまったくつけ入る隙がありません。フェデラーのサーブは最速でも時速206~207キロだったのですが、どういう理屈なのか、たとえば時速156キロのサーブでもエースを取れるか、ユーズニーのリターンがアウトになります。逆に、ユーズニーは徐々に自分のサービス・ゲームを守るのがしんどくなってきたようです。

  とにかくサーブを入れなくてはならない、ラリーで主導権を握らなくてはならない、そうした気持ちのせいか、ユーズニーにサーブやショットのミスが目立ち始めました。

  確かフェデラーが3-2と一応リードしての第6ゲーム、ユーズニーのサービス・ゲームで、フェデラーが1つブレーク・ポイントを取りました。よりによってこの局面で、ユーズニーはダブル・フォールトを犯してしまい、フェデラーにブレークされました。フェデラーは自分のサービス・ゲームを守り続け、第2セットを取りました。

  第3セット、互いが自分のサービス・ゲームを守り続け、ゲーム・カウントは3-3となりました。が、この間、ユーズニーにフェデラーを崩す力はない、フェデラーが自分から崩れず、ユーズニーをなんとか崩すことができればフェデラーが勝つ、と観ていて思えてきました。その途中で興味深い光景が見られました。

  休憩時間、ユーズニーがタオルを頭からすっぽりとかぶって顔を隠し、タオルの上から両手で顔を覆ったのです。ユーズニーはずっとそのままの姿勢でした。素人目には、またスコアでは拮抗しているかのように見えても、選手本人の感じ方は異なるようです。ユーズニーが精神的に、また状況としても追い込まれていることが分かりました。ユーズニーは打開策を考えていたのでしょう。この光景は印象的でした。

  第7ゲーム、ユーズニーのサービス・ゲームです。このゲームは落としてはいけません。ところが、大事なゲームだけに、ユーズニーは緊張してしまったようです。更に、例によって逆にこういう場面ではフェデラーが強くなるのです。フェデラーが40-0とポイントを連取し、2回目のブレーク・ポイントでこのゲームをブレークしました。

  第10ゲーム、フェデラーのサービス・ゲームになりました。ユーズニーは必死に食い下がりましたが、フェデラーは着実にポイントを重ねて40-0でこのゲームを守り、そして優勝しました。

  フェデラーは本調子ではなかったと思いますし、なかなかユーズニーを崩せないこと、自分にミスが多いことで、やや苛立っていたようでした。でも、プレーに大きく影響することはありませんでした。言いにくいことですが、フェデラーが好調ならば、ユーズニーなどは本来、……歯牙にもかけない相手なんですね(ごめんなさい)。

  あとはやはり、フェデラーの優勝したいという気持ちが非常に強かったことが、最終的にフェデラーの勝利につながったんだろうと思います。

  フェデラーはこれで気分がだいぶ楽になったでしょう。厳しい試合になったことも、逆にこれからのためには良かったに違いありません。

  優勝、おめでとう。


  おまけ:フェデラーが自身の公式ツイッターを開設してから3週間余、フォロワーはすでに37万人を超えました。たいていは「営業用つぶやき」(ファン向けのメッセージや近況報告、大会や開催地の宣伝など)ですが、ときどき暇にまかせた、あるいは突発的なつぶやきがあります。この決勝戦直後のつぶやきもそうで、大爆笑。

  "Yeeeaaahhhh, I am so happy winning the title in Halle. Thanks for all your support."

  "Yeeeaaahhhh"ってさ(笑)。グランド・スラムで17回も優勝してる「史上最高」、「歴代最強」の選手がさ、250の大会で優勝して"Yeeeaaahhhh"って(笑)。まるで初めてツアーで優勝した新人選手みたい。

  本当に永遠のテニス小僧なのね~。キュート


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


ゲリー・ウェバー・オープン ロジャー・フェデラー総括-2


 準々決勝 対ミーシャ・ズヴェレフ(ドイツ)

   6-0、6-0

  3回戦かと思ったら、ATP250の大会って、2回戦の次がすぐ準々決勝なんですね。

  日本時間14日夜7時10分くらいから試合開始で、終わったのが7時50分前だったので、試合時間は40分弱だと思います(ニュースによれば39分だって)。

  フェデラーは初戦より調子がずっと良く、今日はファースト・サーブもどんどん入るし、セカンド・サーブでもエースを取ったほどでした。スピードはそんなにないのですが(時速200キロ前後)、異様に高く跳ね返るために打ち返しにくいみたいです。身長が190センチもあるというズヴェレフでもボールに届きませんでした。

  ズヴェレフは盛んにネットに出るタイプの選手で、フェデラーもネット・プレーを得意とする選手ですから、両者ともにネット・プレーを繰り広げる私好みの試合になりました。

  フェデラーは今日はミスもほとんどなく、完全にフェデラーのペースで試合が進みました。フェデラーは終始一貫して非常に攻撃的で、ズヴェレフはフェデラーに振り回されていた感じでした。今日はフェデラーの多彩なネット・プレーを多く見ることができました。あの後ろ向きにジャンプしてのボレーは超カッコいいね。

  ズヴェレフは高い身長、左利き、ネット・プレーの技術など、身体条件と能力に恵まれているのに、自分の持ってるそれらの長所を今ひとつ生かしきれていない印象でした。バック・ハンド(両手打ち)でのミスも多かったです。

  好調なフェデラーとは反対に、ズヴェレフは今日かなり調子が悪かったようです。凡ミスが非常に多く、ボールを追うのをあっさりとあきらめてしまいます。サーブの入りも良くなく、肝心なところでダブル・フォールトを連続でやっちゃったりしてました。

  怪我をしているのか、病気だったのか、それとも試合を投げてしまったのか、理由は分かりません。ズヴェレフは休憩時間、疲れた表情で肩を上下させて息をしていましたから、体調不良とかだったのかも。でも、誤解なら申し訳ないのですが、なんかズヴェレフは無気力な感じがしました。特に第2セットの終盤。

  試合終了後、コートを去るズヴェレフに対して、観客からブーイングが浴びせられました。観客はみなお金を払ってチケットを買って、わざわざ時間を割いて観に来たのですから、ズヴェレフのあの凡ミスだらけのプレーと無気力な態度では、怒るのも無理はないと思います。

  6-0、6-0なんて、男子の試合ではめったにない稀なスコアです。でも、フェデラーは力で相手をねじ伏せるような、高圧的なえげつないプレーをしたわけではありません。好調だったフェデラーに、不調だったズヴェレフが当たってしまったということじゃないでしょうか。

  現に、フェデラーは勝ってもあまり嬉しそうではありませんでした。勝った瞬間に手を上げもしませんでした。口角をほんのちょっと持ち上げて、いかにもお愛想で観客にほほえんでみせましたが、目が笑ってなかったです。すぐに踵を返してさっさと帰り支度を始めました。

  こぼれ話その1。フェデラーの打ったボールがネットにちょっと引っかかってから、ネットを越えてズヴェレフ側のコートに入りました。一応コード・ボールなんでしょうが、ネットのすぐ裏にぽとりと落ちたんじゃなく、ぐんと伸びて横のライン後方ぎりぎりに落ちました。あれはネットに引っかからなくても、ほぼ同じところに落ちただろうと思います。

  でも、フェデラーは自分の打ったボールがネットに一旦かかった瞬間、"Sorry!"とズヴェレフに謝りました。いつだったか、最近の他の試合でも、フェデラーがサーブをしようとしてボールを上げたのに、いきなり動きを止めたことがありました。そのときも相手選手に"Sorry!"と謝っていました。

  こぼれ話その2。フェデラーは自分のサービス・ゲームを1分以内に終えることが多いです。これをふざけて「フェデラー・エクスプレス(Federer Express)」と呼ぶようです。航空輸送会社のフェデックス(Fedex)とかけた冗談なのでしょう。今日は試合自体が40分弱で終わったので、実況中継は試合が終わった瞬間に"Federer Express!"と言っていました。


 準決勝 対トミー・ハース(ドイツ)

   3-6、6-3、6-4

  夜まで所用があり、生で観戦できませんでした。10時過ぎに帰宅したら、ちょうど第3セット第10ゲーム、フェデラーが5-4でリードしており、フェデラーのサービス・ゲームでした。フェデラーが30-0と先行していました。

  とても見ごたえのある試合だったそうなので、生で観られなかったことが悔やまれます。結果を知ってから録画を観ると、「だから勝ったんだ」とか「だから負けたんだ」とか、どうしても予定調和的な目で眺めてしまうし、ドキドキ感もないしね。でも録画、ちゃんと観るけどね(笑)。

  というわけで録画を観ました。第1セット、フェデラーは確かにミスが多いですね。フォア・ハンドがアウトになることが多いです。が、不調というわけではないような?ハースのパワーに押されている感じです。ただし、中盤以降はハースのほうが調子が崩れてきたようです。ミスが多いし、サーブも入りません。それでも、第9ゲームでフェデラーにブレーク・ポイントを2つ握られてからのハースのプレーはすばらしく、このゲームを守って第1セットを取りました。

  第2セットに入ると、フェデラーのプレーが俄然攻撃的になりました。サーブがバンバン入り、フット・ワークと動きも軽やかになって、鋭いリターンや緩いドロップ・ショットで攻めていきます。フォア・ハンドでのミスも減りました。今度はフェデラーが主導権を握り、ハースの最初のサービス・ゲームをブレークしました。

  一方、ハースはサーブが入らなくなり、ダブル・フォールトが多くなりました。ショットのミスも増えていきます。しかし、5-2でフェデラーにブレーク・ポイントを2つも握られたとき、ベテランならではのしぶとさをここでも発揮、パワフルなリターンでフェデラーを押しまくり、自分のサービス・ゲームを守りました。でもフェデラーは次の自分のサービス・ゲームを隙のない鉄壁さで守り、第2セットを取り返しました。

  第3セット、序盤のハースはやはり調子が良くなく、ダブル・フォールトでフェデラーにサービス・ゲームをブレークさせてしまいました。フェデラーは落ち着いています。自分のサービス・ゲームでハースにリードされると、あの速くて異様に跳ね返るサーブが爆裂します。フェデラーは順調に自分のサービス・ゲームを守っていきます。

  第3セット中盤以降のハースはピンチになると強かったです。その次のハースのサービス・ゲームで、ハースはまたフェデラーにブレーク・ポイントを2つ握られました。でも、やっぱりすごいサーブと積極的なプレーで挽回して守りぬきました。

  その後、フェデラーがリードしての4-2だったかで、ハースのサービス・ゲームになりました。このゲームは絶対にブレークされてはいけません。こういう大事なゲームを守りきるのがプロです。ハースはさすがです。40-0で守りました。

  フェデラーのサービス・ゲームは盤石で、ハースはつけ入る余地がないようでした。大事な局面になると、例によってフェデラーは異常な強さを発揮します。すごいサーブと攻撃的なプレーで守るのです。

  フェデラーが5-4でリードしての第10ゲームも同様で、フェデラーは鋭いサーブとネット・プレーで一気に勝負を決めました。

  今回の主審もあのマルチリンガル慧眼審判でした。フェデラーはこの審判のことを信頼してるよな。この審判の判定には素直に従うもん。

  ハースは、今回はいったい何回ウェアを着替えたんでしょうか?3色以上は確実にあったぞ。暑がりの汗っかきなのか?一方のフェデラーは2枚重ねのようで、白いウェアの下に黒いアンダーシャツを着ていました。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


ゲリー・ウェバー・オープン ロジャー・フェデラー総括-1


  6月9日に全仏オープンが終了すると、6月24日から本戦が始まるウィンブルドン選手権まで、たった2週間しかないんですね。今まで気にかけたことなかったけど、戦う選手たちにとってはすごくきついスケジュールです。時間がない上に、クレーからいきなり芝へとコートが激変するんですから。

  更に、ウィンブルドン選手権への前哨戦的な芝の大会は極端に少ないです。しかもすべてATP250(上から4番目のランクの大会)です。


  6月10-16日 クイーンズ・クラブ選手権(イギリス、ロンドン)ATP250

  6月10-16日 ゲリー・ウェバー・オープン(ドイツ、ハーレ)ATP250

  6月17-23日 ユニセフ・オープン(オランダ、スヘルトーヘンボス)ATP250

  6月17-23日 イーストボーン国際(イギリス、イーストボーン)ATP250


  選択肢がないため、普段は250の大会に出場しないトップ選手たちが、続々とこれらの大会にこぞって参加してくるようです。
  
  この状況は2015年から改善されるかもしれないんだって。Ask Me Anythingで、あるファンがロジャー・フェデラーに質問しました。「芝のシーズンにもう少し長い時間を割くために、1年のシーズンを編成し直すことと、ウィンブルドン選手権の前にマスターズ1000の大会が組み込まれるかもしれないことについて、あなたの考えは?(what are your thoughts on restructuring the tennis season to allow for a slightly longer grass court season and possibly having a Masters 1000 event before Wimbledon?)」

  フェデラーはこう答えました。「2015年から、ウィンブルドン選手権の前に芝の大会の期間をもう1週間増やすことになっているよ。まだ分からないけれど、ひょっとしたら(芝の)マスターズ1000の大会が開催されることになるかもしれない。僕個人は、芝の大会がもっと増えたら間違いなく嬉しいだろう。4つのグランドスラムのうち3つは、かつては芝のコートで行われていたことを忘れないでおこうね。(The Tour is adding a week of grass before Wimbledon starting in 2015. Who knows, maybe one day we'll have a Masters 1000. I clearly would love more tournaments on grass. Let's not forget 3 of the 4 grand slams used to be on grass.)。」

  最後の一文には驚きました。全米オープンと全豪オープンは、確かに以前は芝のコートだったんだそうです。もっとも、フェデラーが生まれる前(全米オープン。74年まで)か、ガキのころ(全豪オープン。87年まで)の話ですが。

  こうしてみると、芝のコートというのは、テニスの原初の形態を残しているのでしょうね。コートのメンテナンスに最も手間暇とお金がかかるのは芝でしょうから、現在、ほとんどの大会のコートが人工素材やクレーなのもうなずけます。

  ところで、このゲリー・ウェバー・オープンでは、フェデラーがトミー・ハース(ドイツ)と組んでダブルスにも出場することが、フェデラーの公式サイトでいきなり当日に発表されました。

  シングルスでは、第1~4シードの選手は1回戦免除で2回戦からの参加となります。一方ダブルスはシードがないので、全員が1回戦からの出場です。


 ダブルス1回戦

  ロジャー・フェデラー/トミー・ハース対ユルゲン・メルツァー/フィリップ・ペッシュナー

   6-7、4-6

  今までクレーの試合ばっかり観てたから、芝のコートでのボールの速いスピードに目がまったく追いつきませんでした。しかも、ダブルスの試合は普段全然観ないので楽しみ方が分からず、最後までピンとこないまま、あっという間に終わりました。

  ルールもシングルスとは異なり、コートの両サイドのゾーン(←シングルスではアウトのゾーン)がインになる以外に、ポイントの数え方も微妙に違うようです。40-40のデュースになった場合は、アドヴァンテージがなくて、次のポイントでゲームが決まるみたい。

  率直な感想は、なんで出たのおっさん?です。フェデラーのウェアはハースとお揃いで、淡いグレーの丸首Tシャツに藍色のズボンでした。ところが、バンダナがなし。……練習?

  メルツァーとペッシュナーのほうが見るからにガチで気合いが入っており、作戦会議(試合中に口元を隠しながら小声で話す)も綿密に行なっているのに対し、フェデラー(31歳)とハース(35歳)のおっさん二人は大した打ち合わせをせず、休憩時間もベンチにゆったり座って、のどかに話をしている有様。

  フェデラー「飲み物いる?」(ペットボトルを2本取り、ハースに1本を差し出す)
  ハース「おう、ありがと。」(ペットボトルを受け取る)

  てな感じ。メルツァーとペッシュナーは、休憩時間にしきりにタオルで汗をぬぐっていました。一方、フェデラーとハースは汗をそんなにかいてないらしく、フェデラーに至ってはタオルを手に取りもしませんでした。

  試合はなんだかハースばっかりがボールを返していて、フェデラーの出番がほとんどありません。ハースばかりが働いてかわいそうだ、フェデラー、ちゃんとあなたも動いて打ち返しなさいよ、と最初は歯がゆく思ったのですが、徐々に分かってきました。メルツァーとペッシュナーは、故意にハースばかりを狙い打ちにしているということが。

  そうか、ダブルスの試合って、相手方の弱いほうの選手を集中的に狙うものなんだ、とやっと気がつきました。確かにそのほうがポイントを取りやすいもんね。でも個人的な好みとして、そういうのは観てて気持ちのいいものじゃないす。いくら勝負事とはいえ。

  やっぱりシングルスのほうが観てて楽しいよ。

  結局、フェデラーはなんでいきなりダブルスに出たのかな?できるだけ多く実戦を通じて芝での試合に慣れておきたかったとか?


 シングルス2回戦 対 ツェドリク・マルセル・シュティーベ(ドイツ)

   6-3、6-3

  今日の主審はあの慧眼審判でした。まさかドイツ語までできるとは。この審判は英語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語の4ヶ国語は少なくとも話せるということです。

  スペイン語、イタリア語、フランス語は同一系統の言語に属しますが、ドイツ語は別系統の言語です。異なる言語系統のドイツ語まで話せるってすごいね(だから、ほぼドイツ語モノリンガルだったフェデラーが、14歳で学び始めたフランス語を流暢に話せるようになったのもすごいこと)。

  シュティーベは左利きで、フォア・ハンドは片手打ち、バック・ハンドは両手打ちでした。ワイルド・カード(主催者推薦特別枠)での出場です。

  サーブは良いし、左からの片手打ちフォア・ハンドはスピードがあって鋭かったです。でも全体的にまだ粗削りな感じでした。もうちょっと育ってみないと分かりません。ネット・プレーはやらないし、やっても上手でないし、ショットの種類もまだまだ少ないみたいです。基本、ベースラインから直線的に強打するだけ。作戦だったのかもしれませんが。

  フェデラーはファースト・サーブがなかなか入りませんでした。また、シュティーベの左からの鋭いフォア・ハンドに少し手こずっていたようです。シュティーベのバック・ハンド側に高くバウンドするボールを返したり、ネットに走り出てシュティーベに圧力をかけたりして、シュティーベのミスを誘っていました。

  フェデラーにとっては、これが事実上の芝での初戦です(トミー・ハースとのダブルスは「試合」とはとてもいえない)から、最初からエンジン全開、絶好調というわけにもいかないでしょう。とりあえず初戦はこんな感じでいいんじゃないでしょうか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


コジョカルとコボー、ロイヤル・バレエを退団



  もう周知のニュースですが、6月3日、アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーが、今シーズンをもって英国ロイヤル・バレエ団を退団することが明らかになりました。ロイヤル・オペラ・ハウスの公式発表は ここ です。

  退団理由は「別の芸術的な挑戦に臨むため」というお決まりの文言で、本当の理由はまだ分かりません。ただ、コボーの年齢(40歳)と、コボーが今後もロイヤルに残っていても、未来への展望が開けそうにないことが関係しているようです。

  コジョカルはコボーの婚約者(実質的にはすでに妻)ですから、自分もコボーと一緒にロイヤル・バレエを去ることに決めたのでしょう。

  コジョカルとコボーの退団が発表されたわずか2日後、6月5日のコジョカル/コボー主演『マイヤーリング』が、ロイヤル・オペラ・ハウスでの彼らのさよなら公演になってしまいました。ファンたちは大慌てでフラワー・シャワーの準備に追われたようです。

  ロイヤル・バレエは7月に日本公演を控えています。コジョカルとコボーはかねての予定どおり参加するそうです。7月10日の「ロイヤル・ガラ」と12日の『白鳥の湖』です。この2公演が、コジョカルとコボーがロイヤル・バレエで共演する最後の公演になります。思いがけない付加価値がつきました(といってもチケットは早々に完売していた模様)。

  急な発表だったので大騒ぎになりましたが、コジョカルとコボーの退団そのものは、そんなに驚くほどのことではないと思います。特にコボーのほう。コボーはまだダンサーを続けるそうですが、踊れる役柄がかなり制限されてきているのは確かです。

  去年の初めに日本で行われたガラ公演「アリーナ・コジョカル・ドリーム・プロジェクト」でのコボーの踊りを観て、コボー、なんだか踊れなくなってる?と感じました。その2ヶ月後、ロイヤル・オペラ・ハウスで『ロミオとジュリエット』全幕を観ました。コボーがロミオ、コジョカルがジュリエットでした。

  コボーが踊るロミオを観て、コボーにはもうロミオは無理なんだ、とはっきり分かりました。コボーは跳躍ができなくなっていました。特に跳躍を連続で行なうとき、1回目はきれいに高く跳べるのですが、2回目からはパワーが一気に落ちて跳べなくなります。

  この状態だと、跳躍が少ない、また連続での跳躍がない役柄しか踊れないはずです。でも、コジョカルとコボーのパートナーシップは、ロイヤル・バレエの大きな売りの一つでした。コボーがいつごろから跳べなくなったのかは知りませんが、前芸術監督のモニカ・メイスンとロイヤル・オペラ・ハウスの常連観客は大目に見ていたようです。

  でも、新芸術監督のケヴィン・オヘアがメイスンと同じ考えとは限りませんし、常連観客たちもコボーをいつまでも生暖かい目で見てくれることはないでしょう。踊れる役柄が限られる以上、一つのバレエ団に縛られて、緊密なスケジュールで踊り続けるよりは、自由の身になって、無理のないペースで、自分が踊れる、また自分が踊りたい役を踊っていくほうがよいと思います。

  コボーは以前から新作品の振付とプロデュースに積極的だったのですが、ロイヤル・バレエ側は、振付家ではウェイン・マクレガー、クリストファー・ウィールドン、またリアム・スカーレット、アリステア・マリオットのほうを重視しており、コボーが入り込める余地が限られていたということです(6月3日『ガーディアン』紙"Royal Ballet loses Cojocaru and Kobborg")。

  振付家としても、ロイヤルにこのまま残ってもチャンスが望めないのであれば、やはり外の世界に活躍の場を求めるのが賢明です。実際、コボーは海外の多くのバレエ団で、すでに自身による改訂振付作品(『ラ・シルフィード』、『ジゼル』)のステイジングや、ガラ公演のプロデュースを行なってきています。

  私は最初、コボーはどこかのバレエ団の芸術監督に就任することが決まったのではないかと思ったのですが、それはまだ定かではないようです。でもいずれそうなるかもしれません。いずれにせよ、コボーがロイヤルを退団するのは、驚いたけど不可解ではないというのが率直な感想です。

  アリーナ・コジョカルについても同様です。コジョカルはまだ32歳ですが、すでにロイヤル・バレエの枠内に収まりきれない世界的バレリーナになりました。アメリカン・バレエ・シアター、ハンブルク・バレエ、ミラノ・スカラ座バレエ団など、名だたるバレエ団のゲスト・プリンシパルであり、その他にも世界中のバレエ公演から招聘の声がかかる存在です(日本もその一つ)。

  コジョカルがこれからどうするのかも、まだ明らかにされていません。ネット上の噂では、フリーランスのダンサーとしてやっていくか、もしくはコボーがどこかのバレエ団の芸術監督に就任したら、そのバレエ団に入るのだろうということです。

  ダンサーがフリーランスでやっていくのは非常に難しいこととされています。でもコジョカルなら、能力的にも知名度の面でも充分に可能で、ダンサーとして仕事に困ることはまずないと思います。不安要素があるとすれば、「英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル」という肩書がなくなったことが、アリーナ・コジョカルの価値に影響するかどうかという点です。

  もっとも、コジョカルさえその気になれば、今すぐに他のバレエ団に移籍することもそう難しいことではないでしょう。おそらく、コジョカルにコンタクトをとっているバレエ団は確実にあると思います(それも複数)。

  コボーは分かりませんが、コジョカルはこれからもたぶん、ロイヤル・バレエにゲスト・プリンシパルとして参加するのではないでしょうか。コボーと一緒にいるために退団したのであって、バレエ団側と何らかの悶着を起こしたわけではないと思うので。

  これはロイヤル・バレエの鷹揚さというか長所で、ロイヤル・バレエは、たとえバレエ団側と揉めて退団したダンサーであっても、後にゲストとして招聘する場合があります(ただ単に代わりの人材が見つからないからという理由もあるでしょうがw)。

  最近の例でいうとセルゲイ・ポルーニンですね。他にも、イレク・ムハメドフ、ヴィヴィアナ・デュランテ、熊川哲也、アレッサンドラ・フェリ、アダム・クーパーなど、後味のわるい辞め方をしても、その後にロイヤルの舞台に立ったダンサーは複数います。

  アリーナ・コジョカルの場合、ゲストとして呼べばチケットは確実に売れるので、コジョカルのほうに含むところがなければ、コジョカルは今後もロイヤル・バレエに客演するでしょう。ですから、ロンドンの地元ファンはそんなに悲観する必要はありません。

  ただ困るのが我ら日本のファン。

  コジョカルの舞台を観るためなら海外遠征も辞さない、というファンのみなさまなら、ロイヤル・バレエのロンドンの地元ファンと同様、さほど悲観する必要はありません。しかし、私はコジョカルの熱狂的ファンではなく、たまたま観られる機会があれば観るという程度のファンです。

  もちろん、日本で今後、未来永劫コジョカルの踊りを観られないはずはありません。ガラ公演で、また全幕公演でゲストに招かれて主役を踊るコジョカルを観る機会は必ずあると思います。しかし問題は演目です。

  全幕の場合、演目がかなり限られてくると思います。つまり、『ジゼル』、『白鳥の湖』、『ドン・キホーテ』、『眠れる森の美女』、『ラ・シルフィード』、『ラ・バヤデール』といった古典作品ばかりになる可能性が大きいと思います。

  フレデリック・アシュトン、ケネス・マクミラン、ジョン・クランコ、ジョン・ノイマイヤーなどの全幕作品で、主役を踊るコジョカルを日本で観られる可能性は、今後は更に一段と低くなる、もしくはほとんどなくなることが予想されます。

  私はこのことに思い当って、コジョカルがゲスト出演するミラノ・スカラ座バレエ団日本公演『ロミオとジュリエット』(マクミラン版)のチケットをあわてて取りました。

  そのときに驚いたんだけど、いやー、ミラノ・スカラ座バレエ団は人気ないねえ!チケット発売初日からずいぶん経つのに、チケットが全公演余ってます。金土日の週末公演なのに。さすがに各種の席のいいとこはほぼ完売状態のようですが、それ以外は全然余裕。コジョカル/フリーデマン・フォーゲル主演日でも余ってる。

  もともと海外公演ができるようなレベルのバレエ団ではないから、仕方ないとは思います。チケットを購入したのは、主演のゲスト・ダンサーたちのファンの方々でしょう(私もその一人)。

  主催元を応援するつもりはないんですが、マクミラン版のコジョカルのジュリエットを日本で観られる機会は、今度はいつになるか分かりません。ジュリエットは言うまでもなくコジョカルの当たり役の一つなので、観られるみなさまは観ておいたほうがいいかも、と思います。

  そうだ、コボーの現在の能力について、ネガティブなことを書いてしまいましたが、あくまでロミオやバジルみたいな役はもう無理だということです。『白鳥の湖』のジークフリート王子は大丈夫だと思います。黒鳥のパ・ド・ドゥのヴァリエーションとコーダしか踊る場面がありませんし、それ以外のソロもさほどきつい踊りはないはずです。

  40歳になったばかりのコボーが、なぜあれほど跳べなくなってしまったのか、私はロイヤル・バレエに酷使され過ぎて、怪我と故障に見舞われ続けたのが原因だろうと思っています。長年のあいだ無理をしたせいで、ダンサー生命を縮めてしまったのだと思います。

  それなのに、ロイヤル・バレエ側はコボーの貢献に対して、コボーが希望する形で報いようとしなかった。コボーはたとえばイレク・ムハメドフとは違い、ロイヤル・バレエの芸術監督の地位に野心があったわけではなく、ただ振付家としてやっていきたいと望んでいただけのようです。ですから、私はコボーを気の毒に思うところもあります。

  ロミオやバジルが踊れなければダンサーとしてもう終わり、ってことは全然ありません。何度も言いますが、これからは踊れる役を踊っていけばいいんです。私個人の希望は、やはり『ラ・シルフィード』のジェームズですね。コボーの踊るジェームズをぜひ観たいです。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


全仏オープン ロジャー・フェデラー総括-4


 注1:以下の記事には、ロジャー・フェデラーに対する悪口雑言が含まれています。フェデラーの悪口を読むのが我慢ならないというファンのみなさまは、どうか閲覧をお控え下さい。

 注2:念のために申し添えておきます。私は本来、バレエとかミュージカルとかを観るのが好きなんですが、熱狂的に応援している大好きなダンサーに対しても、彼が良くないパフォーマンスをしたと感じたら、そのとおりに書いてしまう性分です。そのダンサー本人に面と向かって批判を口にしたこともあります。ファンだからといって、なんでもかんでも褒めまくることは性格的にどうしてもできません。なにとぞお許し下さいませ。


 準々決勝 対ジョー・ウィルフリード・ツォンガ(フランス)

   5-7、3-6、3-6

  今回ばかりは怒ってます。フェデラーに。

  よくもあんなひどい試合を見せてくれたな。死に物狂いで戦ったのに、準々決勝までたどりつけなかった他の選手たちに失礼だと思わないの?

  同じひどい試合でも、マドリッド・オープンでの対錦織圭戦のほうがまだマシだったよ。

  ツォンガは確かに強かったです。速くて高く弾むファースト・サーブがほぼ完璧に入り、リターンもパワフル、しかもコントロールがよく効いていて鋭く、ネット・プレーもフェデラー以上にすばらしかったです。精神的にもずっと安定しており、最後まで自信と集中力とを保ち続けていました。

  でも、フェデラーは絶対に勝てないわけじゃなかったと思います。実際にツォンガのサービス・ゲームを2度もブレークしたわけですからね。他にも、ツォンガが崩れかけた隙は何度もありましたから、勝てるチャンスは充分にあったはずです。

  ところが、ファースト・サーブは入らないわ、セカンド・サーブも入らないでダブル・フォールトを犯すわ、サーブが入ってもスピードはないし弾みもしないわ(そこをツォンガに叩かれた)、凡ミス(←いつものフェデラーなら絶対にミスしない簡単なショットを打ち損じる、アウトになる)を量産するわ、きちんとショットの組み立てをせずにやみくもに打ち返すわ、精神的に崩れて苛立ちを露わにするわ、敗因はズバリ自滅です。

  パワーでは自分よりも勝る相手と同じ土俵の上で勝負してどうすんの。フェデラーはツォンガのプレー・スタイルに巻き込まれて、同化してしまいました。唸りながら力任せに打つだけのプレーなど、およそフェデラーらしくありません。「エンドレス絶叫強打ラリー合戦」は他の選手たちに任せておけばよいのに。

  今日はフェデラーらしい高度な技術のプレーがほとんど見られず、戦略や組み立ても感じられませんでした。対ジル・シモン戦では、試合を観ながらしょっちゅう思わず拍手してたけど、今日はまったく拍手しなかったです。

  観客のせいにもできないですよ。全仏オープンの観客は、確かに会場が一丸となって選手たちに容赦ない野次やブーイングを飛ばし、時に試合結果を左右してしまうほどですが、今回は別に自国のツォンガばかりを応援してたわけではありません。

  もう復帰後1週目や2週目ではないんです。同じ負けるにしても、最善を尽くしてほしかった。

  ……と、怒りを思いっきり吐き出したところで、冷静になりましょう。

  フェデラー、やっぱり4回戦の対ジル・シモン戦で転倒したとき、足首を痛めたね。フェデラーの公式サイトに掲載された、対シモン戦についての最初の記事には足首の件が書かれていたのに、改訂された記事では足首に関する記述が全部削除されていたので、おかしいと思いました。

  最初の記事には、対シモン戦直後のフェデラーのコメントが載っていました。「足首については、明日の状態を見てスタッフたちと話し合う」という内容でした。ファンのコメントも、フェデラーは足首を痛めたのではないかという内容が多かったです。ところが、最初の記事に引用されていた、足首についてのフェデラー自身のコメントはすぐに削除されました。

  翌日になってフェデラーが自分のツイッター上で「今日は無理をしないよ。軽く打って、それからストレッチするだけ」とつぶやきました。このツイートが、ファンの間で話題になったのかもしれません。数時間後、ファンのツイートに対し、フェデラーは「足首の状態は良いよ。ただの心配に終わってよかった。明日の試合(対ツォンガ戦)が楽しみだよ」と返信しました。

  でも、今日の対ツォンガ戦での、フェデラーのあの異様に精彩のないプレーは、ただ単にフェデラーの精神面や調子の問題だけじゃなかったことはバレバレです。足に力を入れることができなかったんでしょう。

  それが特にサーブの入りの異常な悪さ、スピードと威力のなさ、ほとんど弾まない、といったことに表れていたのだと思います。足首への不安が、集中力の欠如、苛立ち、そして大量の凡ミスにつながったというのが本当のところでしょうね。

  これは負け惜しみじゃなくて(まあ多少はそうなんだけど)、フェデラーの今日のプレーのひどさは、「ツォンガがとても強かったから」だけではマジで説明がつかないレベルだったのよ。

  フェデラーは出場した以上は途中棄権しない主義で、しかも自身の故障や怪我については徹底して隠しとおします。今回の敗戦も怪我のせいだとは絶対に言わないでしょうし、足首の怪我がどの程度なのかについても、今後も言及することはないと思われます。

  全仏オープンが終われば、すぐに芝の大会が始まります。あまり時間がありませんが、治療に専念してほしいと思います。怪我の状態が軽いものであるよう、またウィンブルドン選手権までにはなんとか完治してくれるように祈るばかりです。

  とりあえず、全仏オープンベスト8進出、おめでとう。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


全仏オープン ロジャー・フェデラー総括-3


 4回戦 対ジル・シモン(フランス)

   6-1、4-6、2-6、6-2、6-3

  いや~、面白かった!寝不足になっても観る価値のある試合でした♪

  フェデラーが第1セットを6-1であっさり取りました。フェデラーのプレーは好調で、シモンを圧倒していたので、このままストレートで勝つかな、と思いました。ところが、第2セットでアクシデント発生。

  フェデラーのサービス・ゲームで、シモンのリターンに追いつこうとしたフェデラーが足を取られ、前に膝をつく形で転んでしまいました。そのとき、両足首が互い違いにおかしな方向に曲がりました。フェデラーは顔を痛そうにややしかめながら、慎重にゆっくりと立ち上がりました。その直後のサーブで、フェデラーはダブル・フォールトを犯してしまいました。

  足首が気になって、フェデラーは不安に陥ったようでした。その後のサービス・ゲームをシモンにブレークされ、そのままシモンが第2セットを取りました。

  第3セットに入ると、フェデラーのプレーはどんどん精彩を欠き、凡ミスを量産していきます。反対に、シモンのプレーはどんどん良くなっていきました。先々週のローマでの大会とは別人です。

  シモンは敏捷で反射神経が良く、コントロールの利いた鋭くて速いボールをどんどん打ち込んでいきます。素人の印象ですが、錦織圭選手に打ち方が似ているように思いました。特に、空中に跳び上がってボールを叩きつけるように打つところです。性根もすわっていて、ピンチに陥っても良いサーブと良いリターンで切り抜けていました。

  フェデラーはもう雪崩式にシモンにポイントを取られていきます。ああ、よくあるフェデラーの負けパターンに完全になっちゃった、と嫌な予感が脳内に浮かびます。試合の中盤以降にリードされると精神的に崩れてしまって、そのままあっさり負けてしまうあのパターンです。シモンの独壇場ともいえる一方的な試合内容で、第3セットもシモンが取りました。

  ところが第4セット。フェデラーのサービス・ゲームで始まったのですが、フェデラーのプレーがいきなり豹変しました。速くて異様に弾むサーブ、ベース・ラインからの速くてパワフルなリターン、相手の不意を突くドロップ・ショット、ネット・プレーなど、多彩なショットの組み立てで、自分のサービス・ゲームを確実にキープしていきます。

  シモンのサービス・ゲームでも、フェデラーは怒涛のごとく超攻撃的になりました。フット・ワークと動きが軽くなって、臆することなくラインぎりぎりのショットを打っていきます。シモンを振り回し、シモンをコートの一角に引きつけて空いたスペースにウィナーを叩き込む、ふんわりしたドロップ・ショットでシモンをネットにおびき寄せ、一転して鋭いパッシング・ショットでシモンの背後へ抜くなど、第3セットでミスを量産していたのが嘘のようです。

  攻撃的になったフェデラーは鬼気迫る感じというよりは、不思議なことになんだかやたらと楽しそうでした。悲壮感がまるでなく、明るくて生き生きしているのです。ポイントを取ると、「カモーン!」とガッツ・ポーズを連発。あ、フェデラーが開き直った!と思いました。ところで、足首はどうなったんだおっさん。

  テニスは本当にメンタル・スポーツなんだな~、とつくづく思います。フェデラーの豹変ぶりと攻撃的なプレーに、今度はシモンが動揺してしまったようでした。シモンの表情は硬くなり、プレーにも軽やかさがなくなりました。フェデラーは手を緩めずに攻撃を続け、シモンのサービス・ゲームを2度ブレークして第4セットを取り返し、セット・スコア2-2のタイに戻してしまいました。

  最終セット、第5セットに入りました。これはもう精神的に先に崩れたほうが負ける、と素人でも分かります。第5セットもフェデラーのサービス・ゲームで始まりました。凄まじく弾むサーブとミスのないショットで、フェデラーはとりあえず大丈夫だと分かりました。

  一方、シモンは第4セットでの動揺をまだ引きずっており、最初のサービス・ゲームをフェデラーにブレークされてしまいました。しかし、次のサービス・ゲームからはなんとか持ち直しました。シモンはミスが増えてきていましたが、劣勢に陥った大事な局面では、すばらしいサーブとショットでしのいでいきます。

  両者のプレーはほぼ互角ですから、フェデラーはなんとかもう1ゲーム、シモンのサービス・ゲームをブレークしたいところです。でも、フェデラーはシモンのサービス・ゲームをブレークしそうなところまで行くのですが、なかなかチャンスを生かせません。

  フェデラーがいつブレークし返されてもおかしくない一進一退の攻防が続く中、シモンのリターンが偶然でインになり(後記:ごめんなさい。「偶然」ではなく、見事なラインぎりぎりのショットででした)、シモンがポイントを取ったときのことです。面白いことが起こりました。

  非常に緊迫した状況だったにも関わらず、フェデラーがニッコリと笑ったのです。その後もうつむいてしばらく面白そうにニヤニヤしていました。これは前回の対ジュリアン・ベネトー戦でも見られた光景です。私はフェデラーのこの表情を見て、フェデラーはテニスが本当に好きなんだ、と実感しました。フェデラーはこの接戦を楽しんでいるのです。

  フェデラーのリードで5-2となった第8ゲーム、シモンのサービス・ゲームです。フェデラーはブレークしかけましたが、シモンが見事にしのぎました。これで5-3。フェデラーが次の第9ゲーム、自分のサービス・ゲームを守ればフェデラーが勝ちます。

  それでもシモンは最後まであきらめませんでした。シモンはなんと2回もブレーク・ポイントを握りました。ここでシモンがフェデラーのサービス・ゲームをブレークすれば、試合はどうなるかまた分からなくなります。

  しかし、こういうところで、フェデラーの例の爆速&異様に弾むサーブが炸裂するのです。フェデラーが2回目のマッチ・ポイントを握りました。最後はシモンのリターンがアウトになって、3時間の激戦がようやく終わりました。

  ところで、試合がフルセットになったことですっかり陰に隠れてしまいましたが、第1セットでフェデラーはすんごいショットを放ったんですよ。コートの外側からボールを打ち、ネットのポールと審判席の間、1メートル余りの間を縫って相手コートの隅ぎりぎりに入れるショット。(画面を通してだけど)生で見たのははじめて。

  全仏オープンの観客というのは面白くて、自国の選手(シモン)を必ずしも応援するわけではないのね。劣勢になってる選手を応援するようです。フェデラーが劣勢になると「ロージャ!ロージャ!」、シモンが劣勢になると「シーモン!シーモン!」といった具合。おもしれえなフランス人。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )