『シンデレラ』公演期間中に前の公演の感想を書くのもなんですが、終わらせてしまいたいので。第三幕についてです。この記事を書くのは久しぶりなんで、まずは第三幕の主なキャストを見直してみます。
オーロラ姫:米沢 唯
デジレ王子:ワディム・ムンタギロフ(英国ロイヤル・バレエ団)
リラの精:瀬島五月(貞松・浜田バレエ団)
国王:貝川鐵夫
王妃:楠元郁子
式典長:輪島拓也
エメラルド:細田千晶
サファイア:寺田亜沙子
アメジスト:堀口 純
ゴールド:福岡雄大
長靴をはいた猫:江本 拓
白い猫:若生 愛
フロリナ王女:小野絢子
青い鳥:菅野英男
赤ずきん:五月女 遥
狼:小口邦明
親指トム:八幡顕光
第三幕の舞台装置は非常に重厚かつ豪華、色的にも鮮やかでした。舞台奥に国王夫妻が座るとても大きな台座があります。大理石調の階段付きの台座の上に、金の造作で真紅のビロードが張られた立派な椅子。台座の後ろはいかにも宮殿らしい絵画がはめ込まれた壁だったと思います。
集まってきた貴族たちは衣装を改め、18世紀末~19世紀初期のフランス風衣装を着ていました。これがとても美しかったです。特に女性たちの衣装が、すっきりしたラインのチュニック・ドレスで、これがとてもきれいでした。女性たちの襟足、首から肩にかけての線の美しさが際立ちます。二の腕までの白い長手袋も腕の長さを強調します。
最後に入って来た国王夫妻は王冠を戴き、白い毛皮で裏打ちされた、裾を長く曳いた真紅のマントをまとっています。王妃役の楠元郁子さんは、髪を上にまとめ上げてティアラを飾り、白と金のチュニック・ドレスを着て純白の長手袋をはめ、まさに輝くような美しさ。この国王夫妻の姿は、ナポレオン1世とジョゼフィーヌ皇妃、もしくはマリー=ルイーズ皇妃の肖像画そっくりでした。
第二幕までの舞台装置と衣装は、質はともかく色は地味で暗めだったので、この第三幕で舞台が一気に明るく華やかになったことで、物語のハッピーエンドをより強く感じさせました。第一、二幕までの地味な色合いは、この第三幕をいっそう盛り上げるためだったのかもしれません。
宝石の踊りは細田千晶さん(エメラルド)、寺田亜沙子さん(サファイア)、堀口純さん(アメジスト)、福岡雄大さん(ゴールド)。女性陣は白地にそれぞれの宝石の色(緑、青、紫)のボーダーが入ったチュチュ、ゴールドの福岡さんは淡い金色と水色の衣装で、上着、膝丈のズボン、白いタイツ、黒いシューズだったと思います。
マイナス点を書いてしまって申し訳ないのですが、福岡さんの踊りがかなり不安定で、観ているほうがハラハラしました。あまりにぎこちなかったので、しばらく福岡さんだと気づかなかったほどです(←事前にキャスト表で確認してなかった)。終演後も、あれが福岡さんだとは信じられませんでした。
ゴールドの衣装のデザインも趣味が良いとはいえず、色合いもバランスがわるかったです。白タイツに黒いシューズだと、脚は短く太く、足は異様に小さく見えてしまいます。せめて淡色のシューズだとよかったのですが。
あとは女性ダンサーが一人転倒しましたが、誰だったか覚えていません。すぐに立ち上がって普通に踊っていたので、怪我などはしなかったようです。
猫の踊り(だってこう呼ぶしかないよね)は、長靴を履いた猫が江本拓さん、白い猫が若生愛さんで、二人とも猫の仮面を着けていました。表情が見えないぶん、仕草と踊りそのもので勝負するしかない、意外と難しい踊りです。
江本さんも若生さんも、ユーモラスな動きでのやり取りが面白かったです。若生さんがこれまたすごい美脚で、おまけに脚の線や動きがお色気たっぷり。何気に良い踊りとなりました。
青い鳥のパ・ド・ドゥは小野絢子さんと菅野英男さん。フロリナ王女のヴァリエーションはイギリス系の振付でした。私はイギリス系の振付のほうが好きなのでよかったです。とりわけ、つま先立ちのまま軽く飛び跳ねながら、片脚をぐっぐっぐ、と後ろに伸ばしていく動きが好きです。小野さんはなんでもないところで動きが一瞬ガタつきましたが、他は相変わらずの安定した踊りでした。
菅野さんのブルーバードは、ヴァリエーションはどうということはありませんでしたが、コーダでの出だし、飛び跳ねた瞬間に身体を交互に左右に曲げ、そのつど両足を打つ動きがとても細かかったです。最後は飛翔しながら退場してほしかったですが、そうじゃなかったので残念に思ったような?(もうかなり記憶があやしい。)
赤ずきんと狼の踊りは、五月女遥さんと小口邦明さんです。これもけっこう面白く感じた覚えがあります。いつもなら猫の踊りと並んで「さっさと終われ」と思ってしまう踊りなのですが。五月女さんの赤ずきんが良いなあ、と感じたと覚えています。演技と爪先で移動する動きが細かくてよかったんじゃなかったっけ?狼役の小口さんは、狼のかぶりものをしてたけど、その上に確かお婆さんの恰好をしてたんじゃなかったかな?それも面白かった。
親指トムの踊りは八幡顕光さんで、これは今回の演出と改訂振付を担当したウェイン・イーグリングが、独自に付け加えた踊りではないでしょうか。音楽は聴いたことのないものです。
振付は八幡さんに合わせてか、超絶技巧をみっちり詰め込んだものでした。ただ茶色の衣装のせいか、それとも振付の問題か、八幡さんの踊りがこじんまりと小さく見えました。八幡さんが踊る以上これはありえないはずなので、もっとダイナミックに見える衣装なり振付なりにしたほうがよかったと思いました。
米沢唯さんとワディム・ムンタギロフによるオーロラ姫と王子のグラン・パ・ド・ドゥは非常にすばらしかったです。アダージョとコーダはイギリス系の振付でした。イギリス系の振付だと、アダージョで王子がオーロラ姫を逆さまにリフトして静止、を3回連続でくり返します。3度ともグラつくことなくばっちり決まりました。3回目の静止時間は長かったです。最後のしゃちほこ落とし→二人とも手を放してキメのポーズも見事に成功。
オーロラ姫の衣装は純白のチュチュでしたが、結婚式のドレスにしてはやっぱり地味めでした。もっとゴージャスなキラキラ衣装にしてほしかったです。結局、オーロラ姫の衣装が、全幕を通じて地味&子ども服みたいだったのは、どういう意図に基づいたものだったのでしょうか。
米沢さんはキメのポーズを音楽の終わりに合わせるのが非常に上手で、腕と手首から先を絶妙に動かして、これ以上にない最高のタイミングでポーズを決めます。まったく遅れやガタつきがないのは本当に立派なものです。
アダージョで、オーロラ姫が床に座った状態から、片足を爪先立ちにしてゆっくりとプリエしながら立ち上がっていき、最後にアティチュードの姿勢になる動きも、きちんと長い時間をかけてやりました。(←ここは一気に手早くすませてしまうバレリーナも多い。)
コーダを観て驚いたんですが、コーダでオーロラ姫がグラン・フェッテをやりました。これは、この夏に行われた「ロイヤル・エレガンスの夕べ」で上演された『眠れる森の美女』グラン・パ・ド・ドゥで、英国ロイヤル・バレエ団のサラ・ラムもやりました。私はてっきり、これはラムが独自にやったのだと思って、オーロラ姫がグラン・フェッテはねーだろ、と違和感を覚えたのです。
しかし、どうもこれは違和感を抱くようなことではなく、今のイギリス系『眠れる森の美女』グラン・パ・ド・ドゥではこうなっているのかもしれません。あとでアンソニー・ダウエル版とモニカ・メイスン版の映像を見なおして確認してみます。
コーダの最後、オーロラ姫が王子にサポートされつつ連続で回転します。回ってから正面を向いて一瞬止まり、それからまた回転→正面を向いて一瞬止まる、をくり返します。この回転→一瞬静止での、オーロラ姫の腕の動きがイギリス系ではイイんです。速く鋭く回転しながら、メリハリをつけた動きで上にあげた両腕を下ろします。
これは難しいらしいのですが(バレリーナが笑顔の裏で悪戦苦闘しているのが分かるので)、成功するとすごく見ごたえのある、観ていて気持ちのいい振付です。
映像版だと、ヴィヴィアナ・デュランテは超完璧(王子役はゾルタン・ソリモジ)、アリーナ・コジョカルはやや苦しい(王子役はフェデリコ・ボネッリ)、直に観たやつだとマリアネラ・ヌニェスは超超超完璧(王子役はティアゴ・ソアレス)、サラ・ラムはほぼ完璧(王子役はスティーヴン・マックレー)、島添亮子さんもほぼ完璧(王子役は…誰だっけ?ロバート・テューズリー?)でした。
米沢さんの腕の動きもほぼ完璧で、観ているわたくしの心のツボにはまりました。米沢さんの回転力&自力静止力、ワディム・ムンタギロフのサポート力がともに高いおかげでしょう。
もう4,000字を超えたので止めますが、新制作されたこのウェイン・イーグリング版は、手直しすべき個所が多くあると思いました。第二幕の余計な「目覚めのパ・ド・ドゥ」がその最たる例です。
このイーグリング版『眠れる森の美女』は、新国立劇場バレエ団オリジナル・バージョンとして、これからも定期的に上演されていくのでしょう。その間になんとか直していってくらさい。お願いします。次に上演されるときも絶対に観に行きますから。
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昨日、新国立劇場バレエ団『シンデレラ』の夜公演を観に行きました。舞台全体の出来が1週間前の初日よりも断然良くなっており、ダンサーたちがみなきちんと「アシュトン」の動きで踊っていた印象でした。いや~、たった1週間で見違えるもんだな、と。すばらしかったです。
特に女性コール・ドが、1週間前はちょっとバラつきが見られたのが、昨日は整然としてよくまとまっていました。このぶんだと来年の『ラ・バヤデール』(第三幕の影の群舞)もかなり期待できそうです。
公演終了後は、新国立劇場バレエ団のこれからの公演を紹介する「スペシャル映像」が上映されました。そのお知らせチラシなんですが、1週間前の初日には普通のコピー用紙にプリントされていました。それが、今回はコート紙(表面がてらてら光る、チラシに多く使われている紙)にグレードアップされていました。
助かります。コート紙だと写真の画質が圧倒的に良いので。アダム・クーパーが大写しになっているこのチラシ、大事に大事に保存させて頂きます。
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記事の題名がまたまた長くなりがちな今日この頃、みなさまいかがお過ごしですか。寒いですね。今日の夕方には雪がちらつきました。
今日、新国立劇場バレエ団の『シンデレラ』を観に行きました。オペラパレスに入って、主な配役表と新国立劇場関係の公演チラシをもらいました。そしたら驚いた、白いチラシにアダム・クーパーの顔がでっかくプリントされてるじゃありませんか!
なんじゃこりゃ!?と思って、顔をチラシに思いっきりくっつけて読んだら、公演終了後に「新国立劇場バレエ団スペシャル映像」を上映して、その中にアダム・クーパーのインタビューが含まれているとのことでした。
内容は新国立劇場バレエ団が来年秋に上演予定のピーター・ダレル振付『ホフマン物語』に関してだそうです。これはもちろん、クーパーは『ホフマン物語』のタイトル・ロールを踊ったことがある、数少ないダンサーの一人だからでしょう。
「ぜひ本公演とあわせて、ご覧ください」と書いてありましたが、いやいやいや、お願いされなくてもぜひご覧になりますとも!
で、公演終了後に残ってそのスペシャル映像を観ました。10分くらいでした。アダム・クーパーのインタビューの前に、マシュー・ボーン振付『白鳥の湖』の映像(DVDのやつ)と、ボーン版『白鳥の湖』日本公演(2003年)の写真が上映されました。
でっかいスクリーンに映るアダムのザ・スワンとザ・ストレンジャーを観ながら、まさか新国立劇場オペラパレスで、マシュー・ボーン版『白鳥の湖』を、しかもアダム・クーパーの姿を観ることになろうとは、と感慨深い思いになりました。
ボーンの『白鳥の湖』が映像付きで紹介されたのは、ボーン版『白鳥の湖』が「ピーター・ダレルの作品に直接インスパイアされて誕生した」というのが理由みたいです。
アダム・クーパーのインタビューは、先月の『雨に唄えば』日本公演の会場だった東急シアターオーブで行なわれたもののようです。でっかいスクリーンにアダムの顔がどアップで映し出されます。うーむ、やっぱりイイ男だ。
インタビューでのアダムは、もちろん『雨に唄えば』の劇中でしゃべっていたアメリカ英語ではなく、しょっちゅうつかえるような感じの、あの独特なアクセントの庶民的なイギリス英語で話していました。アダムはロンドン東部の下町の出身なので、強いロンドン訛りがあり、以前はそれが恥ずかしくて、意識して矯正したそうです。現に、以前は"stage"を「スタージ」と発音したりしていました。
アダムはまず、マシュー・ボーンとピーター・ダレルの作品と振付の類似性について話していました。アダムの顔ばっかり見てたので内容はあまり覚えていないのですが、ピーター・ダレルとマシュー・ボーンは、独自の新しい舞踊言語を用いた作品を創り出すことをやってのけた、みたいなことを言ってたと思います。
次に、ピーター・ダレルの振付は非常に難しいこと、更に『ホフマン物語』のホフマン役は、青年から老人までを演じなくてはならない、演技が非常に重要な役であることに言及していました。
マシュー・ボーン版『白鳥の湖』とピーター・ダレルの『ホフマン物語』を踊ったことで、演技面でかなり鍛えられた的なことも言っていました。
クーパーは98年にスコティッシュ・バレエ団が上演した『ホフマン物語』にホフマン役で客演しました。今回のスペシャル映像では、その舞台写真(カラー、Bill Cooper撮影)は紹介されましたが、舞台映像はありませんでした。スコティッシュ・バレエ団は、記録用の映像も撮らなかったのでしょうか?それとも上映用の映像ではないから映りがよくないとかでしょうか。アダムがホフマンを踊っている映像が上映されるんじゃないかと期待していたので、少し残念でした。
あとは、新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』(2015年2月上演予定)に客演するワディム・ムンタギロフのインタビューと、ローラン・プティ振付『こうもり』の紹介映像が流されました。
オペラパレスのロビーにも、「スペシャル映像」のチラシを大判にしたポスターが貼ってありました。新国立劇場オペラパレスのロビーで、アダムの顔がでっかくプリントされたポスターを見るのも感慨深かったです。
新国立劇場バレエ団の『ホフマン物語』は絶対観に行きますよ。どんな作品なのか興味あるし、あとは公演プログラムに掲載されるはずの舞台写真には、おそらくアダムがホフマンを踊った写真が使われるんじゃないかと思うので(実はこっちが目当てだったりする)。
それにしても、新国立劇場もやるねえ。アダム・クーパーとマシュー・ボーンで「つかみはバッチリ」ってか。確かに「バレエは崇高な芸術ざます」的なプライドは捨てるべき、というより、そもそもそんなプライドは持つ必要がないからね。新国立劇場はそういう頑迷固陋な雰囲気がもともと薄いせいもあるでしょうが。とにかく大変に良いことだと思います。
ああ、肝心の『シンデレラ』も非常に良かったです。シンデレラ役の小野絢子さんは本当にすばらしい。王子役の福岡雄大さんも高貴でカッコよい王子でした。踊りも盤石。先月の『眠れる森の美女』での宝石の踊り(福岡さんがゴールドを踊った)を観てちょっと心配してたけど、それを完全払拭する完璧な出来でした。第二幕のシンデレラと王子のパ・ド・ドゥは、思わず涙が出てしまったほど美しかったです。シンデレラの父親役をマイレン・トレウバエフが担当してて、これが実に良い味出してました。
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今日もいくつか不満な点はありましたが、基本的にはとても楽しめました。
『ドン・キホーテ』は、ボリショイ・バレエの公演が世界最高だと私は思っているので、それなりの舞台が観られたことに満足しています。「ボリショイ・バレエ・ユース公演」みたいではあったけれど(上から目線でごめんね)。
他のバレエ団の公演だと、キトリ(/ドゥルシネア)役とバジル役のダンサー二人だけが突出していて、他は平平凡凡なダンサーばかりというのがほとんどだと思います。
また、登場人物がとにかく多いため、たとえば第一、二幕に出てくるキトリの友人二人と、グラン・パ・ド・ドゥのヴァリエーション2つを踊るダンサー二人が同じだったり、街の踊り子という役をなくして、メルセデスが街の踊り子の踊りも兼任したり、第一、二幕のエスパーダ、メルセデスと同じダンサーが、第三幕のボレロやファンダンゴも踊ったりします。
第二幕の「スペインの踊り(ギターの踊り)」が削除されている版もあります。
でも、ボリショイ・バレエはすべての役(キトリとドゥルシネア以外)を、すべて異なる一人一人のダンサーが担当します。スペインの踊りも残されています。「スペインの踊り」のソリスト(カスタネットを持って踊る)も、もちろん異なるダンサーが踊ります。ボリショイ・バレエのダンサーたちの層の厚さならではです。
上記の点に加えて、ボリショイ・バレエの『ドン・キホーテ』が世界で最もすばらしいと思う理由は、キャラクター・ダンスのレベルが極めて高いからです。街の踊り子(←キャラクター・ダンスに入るのか分かりませんが)、メルセデス、スペインの踊り、ジプシーの踊り、ボレロ、ファンダンゴ、それぞれのキャラクター・ダンスを踊るダンサーの力量が、他のバレエ団よりも段違いに高いです。
普通のダンサーたちが、たまたま割り当てられた役としてキャラクター・ダンスを踊っているのではなく、専門の訓練を受けてきた、高度なキャラクター・ダンスの技量を有するダンサーたちが踊っていると分かります。今日の公演では、メルセデス役のクリスティーナ・カラショーワ、スペインの踊りのソリスト(ニーノ・アサチアーニ、ヴェラ・ボリセンコワ、マリーヤ・ジャルコワのうち誰か)の踊りがとりわけ見事でした。
今日は最終日だそうで、第一幕でキトリの友人、フアニータとピッキリア役のアンナ・レベツカヤとヤニーナ・パリエンコが、なんと白地に赤い日の丸の扇子を持って踊りました。楽日のお遊びです。この日の丸扇子は、カーテン・コールでドン・キホーテ役のアレクセイ・ロパレーヴィチ、サンチョ・パンザ役のローマン・シマチョフが持って再び登場、観客の拍手喝采を買っていました。
そうそう、ガマーシュも実はボリショイ・バレエが世界最高(笑)です。衣装と白塗りメイクの悪趣味度、ダンサーのお笑い演技力、すべてにおいて他の追随を許しません(ちなみに二番目はアメリカン・バレエ・シアター)。
今日のガマーシュはデニス・メドヴェージェフでした。メドヴェージェフは、普段は全身金粉で『ラ・バヤデール』のブロンズ・アイドルとか、不精ヒゲ生やして『スパルタクス』の三人の羊飼いとか、アクロバティックで迫力満点な体育会系男子踊りを得意にしている人です。それが、今日はバリバリおネエ入ってました。内股で歩くなっつーの。
第一幕の群舞は爆速テンポの演奏によくついていってました。しかも男性も女性もみんな踊りが揃ってて、出遅れてるダンサーが基本的にいませんでした。やはりこういうところがボリショイはすごいです。
カーテン・コールでは、大量の色テープ、花吹雪、風船が舞台上に落とされました。ゴージャスな舞台の終わりにふさわしい華やかさでした。お礼とさよならが書かれた白い看板も下ろされて、2017年に会いましょう、的なことが書いてありました。次の日本公演は3年後のようです。
『ラ・バヤデール』のガムザッティ役で気に入ったアンナ・チホミロワは、第三幕グラン・パ・ド・ドゥで第1ヴァリエーションを踊りました。やはりすばらしいです。また、カーテン・コールでのチホミロワの態度には妙に余裕があって、そういうところでも、彼女はいずれ大物バレリーナになるだろうという気がしました。
ダンサー別のカーテン・コールの最後の最後で、キトリ役のクリスティーナ・クレトワ、バジル役のセミョーン・チュージンとともに、芸術監督のセルゲイ・フィーリンが現れました。その瞬間、観客がおおお~っ!!!と大きくどよめきました。興奮して立ち上がり、熱狂的な拍手とブラボー・コールを送る観客が続出。
例の襲撃事件が起きたのが2013年1月、事件からほぼ2年ぶりです。フィーリンは大きめのサングラスをかけて舞台上に現れました。顔はなんともないように見えましたが、サングラスをかけていたことから、視力や視覚に後遺症が残ったものと思われます。でも、ダンサー個別のカーテン・コールの暗い舞台上で、しっかりとクレトワとチュージンの背や肩を押したりしていたので、ちゃんと見えているのは確かでしょう。
あの事件は事実上迷宮入りしました。真相が分からない以上、私はフィーリンを悲劇的英雄と見なすことは今ひとつできないのですが、それでも日常生活や監督業に支障がないほどには、視力が回復したらしいことはよかったと思います。
そういや、事件の主犯とされたパーヴェル・ドミトリチェンコは、カルロス・アコスタ主演の『スパルタクス』映像版で、四人の羊飼いの一人を踊ってます(たぶん)。三人の羊飼いのうち二人は、デニス・メドヴェージェフとイワン・ワシーリエフだと思うんだけど(違うかも)。
どうもあの事件以来、私の中でのボリショイ・バレエに対するイメージが悪くなったようで、舞台にいまいち没入できませんでした。公演を見るまで、自分でも気づきませんでした。良い舞台を見せてくれればいいや、と自分が思っている、と思いこんでいたけど、やはり外側のイメージは大事なんだと実感しました。
終演後、小さなお嬢さんが「ママ、あのサングラスのひとだあれ?」とお母さんに聞いていました。お母さんは「顔に硫酸かけられた人」と冷静に答えました(お母さん、すごいです)。それを聞いた私も、そうなんだよね、と心中同意しました。「セルゲイ・フィーリン」=「ボリショイ・バレエの芸術監督」じゃなくて、=「顔に硫酸かけられた人」になってるんです。
イメージって、そういうものなんですね。
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あくまで個人的な感想ですが…。
超一流バレエ団による超二流な公演を観た、という印象です。
これがたとえばキエフ・バレエやミハイロフスキー劇場バレエの公演なら、大絶賛もののレベルでしょう。でも、これはボリショイ・バレエの公演です。ボリショイ・バレエの本来の実力からすれば、このような舞台を見せてはいけないと思います。
ただ一つ、ガムザッティ役のアンナ・チホミロワは大当たりでした。驚異的な身体能力を持っていることは、ボリショイのダンサーですから当然でしょうが、加えて鉄壁の技術、そして極めて優れた演技力と表現力とを持っています。(第二幕のグラン・パ・ド・ドゥ、ヴァリエーションの最後とコーダでやや息切れしてしまったようですが、これは経験を積むことで解決していける問題でしょう)。
なにより、チホミロワはオーラというか非常に華のあるバレリーナで、自然に目が吸い寄せられました。マリーヤ・アレクサンドロワと雰囲気が似ています。また、ナターリャ・オシポワも彷彿とさせました。つまりはスター性があるということだと思います。先が楽しみです。
ボリショイ劇場管弦楽団の演奏は相変わらずテンポが爆速。「太鼓の踊り」での打楽器が特にすばらしく、高揚感をいっそう盛り上げていました。『スパルタクス』でもそうでした。ボリショイ劇場管弦楽団の打楽器は実に爽快で力強く、聴いているほうもエキサイトします。
ユーリー・グリゴローヴィチの「改訂」は、もはや「改悪」の域に達しているのでは。屋上屋を架すとはまさにこのことだと思いました。もういいかげん、毎年毎年、しつこく改変を重ねていくのは止めたほうがいいのに。
詳しい感想は、後日書けたら書きたいと思いますが、正直それほどの舞台ではなかったという気がしています。
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