デビス・カップ スイス対セルビア


  男子テニスの国別対抗戦、デビス・カップにフェデラーがいきなり出場することになったそうで、あわててネット観戦。対戦国はセルビア。試合の開催地もセルビア。

  デビス・カップは5セット制で、3セット先取したほうが勝ちという、意味不明にグランド・スラムと同じシステム。その割に勝っても獲得できるポイントは超少ない。ので、3セット制にして、2セット先取したら勝ちというシステムにしたほうが、選手たちへの負担が少ないと思うんだけど。

  フェデラーはイリヤ・ボゾリャッチ(またはボゾリャック、Ilija Bozoljac)とシングルスで対戦し、6-4、7-5、6-2で勝った。ボゾリャッチのシングルス・ランキングは現在268位とのことで、当たり前な結果。

  全豪オープンに出てたノヴァク・ジョコヴィッチは参加してない模様。怪我でもしたんだろうか?なにせ全豪オープンの直後とあって、全豪オープン中に生じた怪我や故障が治癒していないため、今回のデビス・カップへの参加を見合わせた上位選手が多数いるそうな。

  ボゾリャッチというのはサーブが凄かった。そんなに速くはないんだけど(時速190~210キロ台)、サービス・エースをバンバン取ってた。

  一方のフェデラーは、試合序盤から第2セットの途中までは、ココロもカラダもまだ準備ができてないのという感じだった。ところが、対戦相手のボゾリャッチは、確かに凄いサーブを打つんだけど、打ち合いになるとフェデラーにほとんど手も足も出ない。

  それでも第2セットの最初で、ボゾリャッチはフェデラーのサービス・ゲームをブレークした。しかし、フェデラーは異様に無表情で静か。ボゾリャッチのリードで5-4になったとき、ボゾリャッチの様子がおかしくなった。得意なサーブが入らなくなり、ミスが増えた。

  これは「勝ちビビり」といわれるらしい。このゲームを守ればセットを取れる、このゲームを守れば試合に勝てる、という気持ちが緊張をもたらし、いつもどおりのプレーができなくなる。トップ選手にもよく起きることで、フェデラーも意外にこの傾向が強い(直近では全豪オープンの対アンディ・マレー戦第3セット)。

  フェデラーはここぞとばかりに攻撃的になり、ボゾリャッチのサービス・ゲームをブレークして、5-5のタイに持ち込んでしまった。特にサーブを唯一の武器とする選手にはありがちで、このボゾリャッチもそうだったが、ダブル・フォールトが多くなってきた。フェデラーにブレーク・ポイントを握られたとき、ボゾリャッチはダブル・フォールトを犯してしまい、フェデラーにブレークさせてしまった。

  このへんからフェデラーが明らかにリラックスしてきた。フェデラーがリラックスしているサインは、遊びというかテストというか練習みたいなプレーが増える。今回は連続でドロップ・ショットを打ったり、普段はあまりやらない強打のサービス・リターンを決めたり、相手を散々振り回した末に、空いた空間にボールをふんわり打って決めたりしていた。

  サーブをする前、ラケットの縁の上にボールを載せて静止させたり動かしたりして遊ぶことも多い。ラケットの縁の上のボールを無表情でじっと見つめているので分かりにくいが、あれは遊んでいるのだと思う。更に、フェデラーがコート上で素振りをやり始めたりしたら、完全にリラックスしている証拠である。

  デビス・カップでは選手のベンチにキャプテンも座り、選手に指示やアドバイスをすることが許されている。また、選手は後ろにいる同胞の選手たちと言葉を交わすこともできる。フェデラーは休憩時間、後ろにいるスイスの選手たちに話しかけられて、ふとにっこり笑った。

  第3セットに入ると、ボゾリャッチのサーブがいよいよ入らなくなり、ダブル・フォールトも更に増えた。フェデラーもボゾリャッチのファースト・サーブを返し始めた。サーブしか武器がない相手に対しては、その唯一の武器を取り上げてしまう、当たり前といえば当たり前な戦法だよな。

  セルビアの観客は、聞くほどには行儀がわるいわけではないと思う。第1セットと第2セットの途中までは騒々しかったけれども、試合の結果が見え始めると、打って変わって静かになった。主審は、実況中継が「パスカル・マリア」と言っていた気がする。主審がかなり注意したおかげもあるだろう。

  ボゾリャッチも、試合中にカメラマンたちに対して英語で数回怒鳴っていた。カメラマンの何かがプレーの妨げになったらしい。フェデラーが苛立つボゾリャッチをなだめるような声も聞こえた(画面には映らなかった)。

  追記:スイスはスタニスラス・ワウリンカがシングルスで、ついでミヒャエル・ランマーとマルコ・キウディネッリがダブルスで勝ったので、試合2日目にして勝利が決定。よって残りのシングルス2試合は消化試合となった。フェデラーとワウリンカが当初は出場予定だったが、試合直前でランマーとキウディネッリに変更された。

  まだフェデラーが出場予定だった時点でネット中継のリストを確認したら、たくさんチャンネルが用意されていたので楽しみにしていた。ところが試合直前になったら、中継予定試合のリストからフェデラーの名前が消え、ランマーの名前に変わっていた。

  せっかくだからランマーの試合を観ようとしたら、あれほどたくさんあったチャンネルがたった3つに減っていた。なんちゅう現金な。しかも、その3チャンネルともなぜか観られない。キウディネッリに変わったワウリンカの試合のチャンネルも同じく激減。

  ワウリンカはドゥサン・ラヨヴィッチとの試合、第4セットのタイ・ブレーク中に右腕を痛めたらしいので、出場を取りやめたのはよく分かる。しかしフェデラーの試合は、たとえ消化試合でも楽しみにしていたから、かな~り残念。あと3週間(←ドバイの大会まで)もフェデラーのプレーが観られないなんて。

  勝ちが決まった以上、消化試合の結果にはこだわらないんだろう。もう勝ったんだから、別にムキになって5-0で決める必要はない、4-1、3-2になっても勝ちは勝ちだから、というスイス人の合理主義を強く感じた。

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キエフ・バレエ『白鳥の湖』(1月13日)-3


  第二幕。花嫁候補たち(カテリーナ・カザチェンコ、ユリヤ・モスカレンコ、アンナ・ムロムツェワ、アナスタシヤ・シェフチェンコ)は、4人で踊るあの踊りの後に、全員がそれぞれヴァリエーションを踊りました。4つの音楽は聴いたことがあるものも、ないものもあったと思います。4人の衣装は長いドレスではなくチュチュです。

  アナスタシヤ・シェフチェンコは脚がダントツで長いダンサーですが、長い脚をまだうまくコントロールできてないところがあります。動きが雑で粗く、ちょっと美しさに欠けるときがありました。せっかくバレエの神様からもらった長く美しい脚なのですから、有効活用してほしいものです。

  オディールとロットバルトが登場した後、ロットバルトのソロというかヴァリエーション(?)がありました。これはめずらしいのでは?音楽はあやふやですが、たぶんヌレエフ版第一幕パ・ド・サンクで、男性二人が踊るときに用いられているものと同じだったと思います。違ったらすみません。

  ダイナミックな音楽なので、振付もダイナミックなものでした。大ぶりな回転とジャンプがてんこもり。ロットバルト役のセルギイ・クリヴォコンはよくこなしていましたが、回転でちょっと不安定さが目立ったような。こうやって見ると、クリヴォコンも長身で脚が長いね~(感嘆)。キエフ・バレエの男性ダンサーも本当に層が厚い。

  振付そのものは平凡であまり良くなかったと思います。紋切り型というかお約束の動きばかりで工夫がない。ロットバルトなんだから、もっと癖のある、アクの強い振付でもよかったのでわ。こういうの見ると、同じくロットバルトの存在の比重を大きくして、踊りも大幅に増やしてあるグリゴローヴィチ版とどうしても比べてしまいます。グリゴローヴィチ版のロットバルトの踊りのほうが、はるかに迫力あって印象に残るから、なんだかんだいって、グリゴローヴィチはやっぱりすごい振付家だなと思う。

  この後は、スペインの踊り、ヴェニスの踊り(ナポリの踊り)、ハンガリーの踊り、マズルカと普通にありました。中でもスペインの踊りが突出してすばらしかったです。男女2人ずつの4人で踊られました。その中にオレシア・ヴォロトニュクがいたのは確かだと思うのですが、あとの3人は分かりません。ともかく、4人とも動きは流麗、女性陣は腰の反り返り具合(ヘンな形容でごめん)とドレスの翻り方が美しくて、スペインの踊りが終わると大きな拍手が沸き起こりました。

  ヴェニスの踊りは男女のペアからなる群舞があり、その中央で男性ソリスト(コスチャンチン・ポジャルニツキー)が踊るという構成でした。あれ?ポジャルニツキー、さっぱり印象に残ってない…。

  ハンガリーの踊りとマズルカは、男女ペアの群舞と男女ペアのソリスト一組というよくある構成でした。指揮者のオレクシィ・バクランは、ハンガリーの踊り(チャールダーシュ)とマズルカでは猛烈にテンポを上げていき、最後は爆速で終わります。バクランの指揮には賛否両論あるでしょうが、私個人は、バクランはバレエをドラマティックに盛り上げられる振りができる指揮者だと思います。

  黒鳥のパ・ド・ドゥ。アダージョとコーダはほとんどの版が採用している音楽と同じでした。オディールのヴァリエーションの音楽はブルメイステル版、ヌレエフ版、グリゴローヴィチ版と同じで、オディールのヴァリエーションの振付(最初にアラベスクの姿勢でぐるぐる回るやつ)は、グリゴローヴィチ版とまったく同じでした。これには驚きました。オディールのヴァリエーションの振付は、グリゴローヴィチ独自の振付じゃないの?旧ソ連時代の古い振付なのだろうか。

  王子のヴァリエーションの振付は、セルゲーエフ版と同じだったように覚えています。ただし音楽はあやふや。セルゲーエフ版と同じだったような、ブルメイステル版と同じ(つまりバランシン「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」の男性ヴァリエーションと同じ)だったような…。

  ニェダクは「王子踊り」をしてました。王子系の踊りで無意味に張り切るバカ、たまにいるじゃん。去年の英国ロイヤル・バレエ団日本公演の『白鳥の湖』のパ・ド・トロワで、後ろ向き開脚ジャンプをするときに、張り切って180度以上両脚開いてドヤ顔してたヤツ(名前忘れた)みたいにさ。あれで逆に王子役のカルロス・アコスタの別格度が際立ったのを覚えている。

  ニェダクは本当は脚がもっと開くはず(←ソロルとバジルで確認済み)ですが、形が崩れるからあえて開かず、抑え目で品のある動きを保って踊っていました。それでも、空中での回転数がすごく、ジャンプからの着地が柔らかくて音がせず、着地したときの両足の位置がブレません。

  フィリピエワはもともと優しい顔立ちをしているので、目をほんのすこし見開いて、口の端をわずかに上げるだけで凄味のあるオディールになります。姿勢ひとつ、動きひとつとっても、本当に隙がない(驚嘆)。強い。途中、一か所だけ王子役のニェダクのサポートがうまくいかず、フィリピエワの身体が斜めにグラっときたときがありましたが、フィリピエワは当然のことながら顔色一つ変えず。平然として踊り続けました。

  何度も何度も同じことを書いてつまらんと思われるでしょうが、男性ダンサーにサポート、リフトされているときに、基本的に男性ダンサー任せで支えられたり持ち上げられたりしているバレリーナと、基本的に自分で自分を支え、リフトされても自力でやるべきこと(跳ぶ、身体を引き上げるなど)をやっているバレリーナは、素人目に見ても意外と分かりますな。フィリピエワは後者でした。ニェダクが手を放しても、フィリピエワは自力で大丈夫だな、と思えるのです。

  コーダでは32回転をバッチリ決め、オディール風笑顔で喝采に応えます。ああ、これぞ経験豊富なプリマの貫録と余裕!

  あと300字弱で終わるべ(私は東北人~)。第三幕の幕が開いたとき、私はすごく感動しました。青い舞台上に白い花が一斉に咲いたかのような白鳥たちの姿と、それ以上に、その美しすぎる風景に客席から一斉に漏れた、どよめきに近いため息にです。あれは日本では珍しいことです。ダンサーたちにも聞こえたと思うのです。

  特に、年配の男性客たちが、舞台上の風景の美しさに思わず漏らした「ああ…」という声に、私は不意を突かれ、我に返った思いになりました。私は批評家ヅラして舞台を観ていた自分を恥ずかしく思いました。美しいものに対して自然に感動し、感嘆のため息と声を漏らす、なんてすばらしい人たちなのか。

  第三幕はセルゲーエフ版と基本的に同じです。ラストはハッピー・エンド。これも嬉しい。オデットばかりでなく、他の白鳥たち(彼女たちもロットバルトの呪いで白鳥にされた人間の女性たちだったのですよね。よく考えたら)も、人間に戻れた喜びを漂わせ、舞台全体が穏やかな幸福感に包まれて幕。

  カーテン・コールが終わって幕が完全に閉じられると、幕の向こうから「ヒャッホー!!!」というダンサーたちの叫び声が(笑)。1ヶ月近くにわたるハードなスケジュールの公演、お疲れさまでした。2014-15年公演も楽しみにしてます

   
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キエフ・バレエ『白鳥の湖』(1月13日)-2


  パ・ド・トロワ(オリガ・キフィアク、ユリヤ・モスカレンコ、ヘンナージィ・ペトロフスキー)は、女性の第2ヴァリエーションの音楽が通常のものと違いました(ひょっとしたらその前の男性ヴァリエーションも違ったかも?)。

  第2ヴァリエーションはジョージ・バランシン振付「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」の女性ヴァリエーション、およびルドルフ・ヌレエフ版『白鳥の湖』第一幕パ・ド・サンクで、女性の第2ヴァリエーションで使われているものだったように思います。

  キフィアクとモスカレンコは盤石の出来でした。ペトロフスキーはソロで踊るときは多少の粗さがあったものの、これといった欠点の見られないきれいな動きで踊っていたし、バレリーナ2人を交互に相手にする忙しいパートナリングもきちんとこなしていました。

  コーダでは、途中でいきなりジークフリート王子(デニス・ニェダク)が乱入(笑)、ほんの一部だけ踊りました。でもダイナミックなジャンプと回転という大技ばかりで、短い間でも見ごたえがありました。

  ニェダクは王子役をやるときと、たとえば青い鳥やバジルを踊るときとは、雰囲気も踊り方も別人になりますね。ニェダクはその身体の高い柔軟性と、それに由来する動きの独特なしなやかさは、イーゴリ・コルプ(マリインスキー劇場バレエ)と非常によく似ています。

  しかし、コルプは「薔薇の精」を踊るときと、『白鳥の湖』のジークフリート王子を踊るときとでは、役柄や動きのタイプは違えど、その動きには同じ柔らかな特徴が出ています。(コルプを貶めているのでは決してないですよ。コルプはあの個性こそが魅力なんですから。)一方、ニェダクにはそういうところがありません。役柄によって動きも完全に変わります。

  雰囲気はまだ意識的に変えられるでしょうが、踊りの動きそのものを変えるのは難しいことと思います。ニェダクはそれをやってのける上に、パートナリングも相手のバレリーナが誰だろうと安定していて、更には演技にも非常に秀でています。幅広い役柄とダンス・ジャンルをこなせる人でしょう。前にも書きましたが、たとえばジョン・クランコの『オネーギン』タイトル・ロール、ジョン・ノイマイヤー『椿姫』のアルマンなどを踊っても成功するだろうと思います。

  第一幕第二場。ロットバルトはセルギイ・クリヴォコン。『ドン・キホーテ』であの超カッコいいエスパーダをやった人です。今日はロットバルトなのでデーモン小暮閣下メイクでしたが。それに衣装のデザイン、特に羽根が短くぺらぺらすぎて迫力に欠けるのがよくないのか、ヅラがおかっぱ気味なのがよくないのか、振付がバタバタしているのがよくないのか、なんかトロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団のポール・ギースリンのロットバルトそっくりだった。思わず噴き出しそうになってしまったよ。

  そしてオデットが登場し、王子と出会い、白鳥たちがS字入場してくるわけですが、同じ版を見続けたことによる「刷り込み」というのはほんとに厄介だと痛感しました。私の場合、マリインスキー劇場バレエが上演している、コンスタンティン・セルゲーエフ版『白鳥の湖』が頭に刷り込まれてしまっているらしく、このコフトゥン版には違和感を覚えることが多かったです。

  去年の夏に英国ロイヤル・バレエ団日本公演で『白鳥の湖』を観ましたが、あのときはセルゲーエフ版とは完全に別物としてとらえていたので、違和感などはありませんでした。そもそも、英国ロイヤル・バレエ団をマリインスキー劇場バレエと同じ土俵上にのせて考えるなんて、はなからしなかったから

  コフトゥン版の白鳥の群舞構成はセルゲーエフ版とかなり違いました。大きな白鳥の踊りに至っては振付がまったく違います。コフトゥン版がなまじセルゲーエフ版と同じ系統に属するだけに、私の中の違和感も大きくなったようです。たとえば、小さな白鳥と大きな白鳥たちが小走りに登場するはずのシーンなのに現われなかったり、大きな白鳥の踊りがあのダイナミックな振付ではなく、妙にこじんまりした振付だったりしたときには、かなりな物足りなさを感じました。

  しかし、その後のグラン・アダージョからコーダまでの振付は大体同じでした。セルゲーエフ版を絶対的基準にして、他の版の振付の良し悪しを決めつけるのは良くない傾向です。もっといろんな『白鳥の湖』を観て、自分の中に知らないうちにできあがってしまった絶対的基準を壊す必要がありますな。

  オデットはエレーナ・フィリピエワ。表情と雰囲気は優しく柔らかいですが、しかし強靭な筋力と正確無比な技術に裏打ちされた動きは力強く、安心して見ていることができます。フィリピエワのダンサー人生は安穏としたものではなかったろうと思います。若くしてキエフ・バレエという有名バレエ団のプリマになりながらも、その直後にソ連が崩壊、ウクライナは独立しました。独立後のウクライナは政情不安と厳しい経済情勢に苛まれ、それは今もなお続いています。

  フィリピエワの周囲には、一種の磁場のようなものがあるかのようでした。時代の波乱の中で、黙々と実直に踊り続けてきた経験と誇りからくるのであろう、深みのある踊りの周囲を、静謐で音のない透明なヴェールが包んでいるかのようなのです。

  グラン・アダージョで客席は静まりかえり、ものすごい緊張感が張りつめていました。私もそうでしたが、観客のみなが息をつめてフィリピエワとニェダクの踊りを見つめていました。静かだけど強い吸引力と凄絶な迫力を発揮する、これがフィリピエワです。

  波打つ両腕の美しさは言うまでもなく、コーダでは、オデットが羽ばたきながら軽くジャンプした瞬間に、かかとを交差させる動きの素早さと細かさには呆然としました。コーダの最後、フィリピエワのオデットが白鳥アラベスクで静止し、音楽も一瞬途切れます。その瞬間、客席から堰を切ったように歓声が飛び、大きな拍手が送られました。

  (その3に続く。次で終わり…だと思う。)

    
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キエフ・バレエ『白鳥の湖』(1月13日)-1


  ジャパン・アーツから、今年11-12月に行われるボリショイ・バレエ日本公演のDMが来ました。演目は『白鳥の湖』、『ラ・バヤデール』(ともにユーリー・グリゴローヴィチ版)、『ドン・キホーテ』(アレクセイ・ファジェーチェフ版)です。

  現時点での来日予定ダンサーは、マリーヤ・アレクサンドロワ、エフゲーニャ・オブラスツォーワ(ほお~)、エカテリーナ・シプーリナ、スヴェトラーナ・ザハロワ、セミョーン・チュージン、デヴィッド・ホールバーグ、ウラディスラフ・ラントラートフ、ミハイル・ロブーヒン、アレクサンドル・ヴォルチコフ(おお)、アンナ・ニクーリナ、オリガ・スミルノワなど。嬉しいことに、演奏もボリショイ劇場管弦楽団♪

  誰がどの演目でいつ何の役を踊るかはまだ分かりません。平日公演がほとんどだから(時間と体力が)、仕事との兼ね合いで、消去法で選ぶしかないです。まあボリショイ・バレエは、誰が主演でもハズレはないから。

  アレクサンドル・ヴォルチコフはもちろん観たいけど、マリインスキー劇場バレエから移籍したエフゲーニャ・オブラスツォーワにも興味ある。風貌、踊り方、雰囲気すべてがマリインスキー劇場バレエを体現していたようなオブラスツォーワが、ボリショイに移って、踊り方や雰囲気がどう変わったのだろうか。

  セルゲイ・フィーリンもどうなったのかな。顔はともかく、眼。視力は順調に回復しているのでしょうか。あの事件は結局、パーヴェル・ドミトリチェンコにすべての罪をかぶせて決着したわけ?納得いかない。

  さ、私の「キエフ・バレエ祭り」も今日が楽日です。楽日にふさわしく、今日のオデット/オディールはエレーナ・フィリピエワ。フィリピエワの全幕を今度はいつ観られるのか、少し寂しいような、不安なような気持ちもありました。


 『白鳥の湖』全三幕(2014年1月13日於Bunkamuraオーチャードホール)

   音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

   原振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ、フョードル・ロプホフ

   改訂振付・演出:ワレーリー・コフトゥン

   美術:マリヤ・レヴィーツカ


   オデット/オディール:エレーナ・フィリピエワ
   ジークフリート王子:デニス・ニェダク

   ロットバルト:セルギイ・クリヴォコン(ドミトロ・チェボタルより変更)

   王妃:オクサーナ・グリャーエワ
   家庭教師:セルギイ・リトヴィネンコ

   パ・ド・トロワ:オリガ・キフィアク、ユリヤ・モスカレンコ(カテリーナ・ディテンコより変更)、ヘンナージィ・ペトロフスキー

   大きな白鳥:カテリーナ・カザチェンコ、ユリヤ・モスカレンコ、アンナ・ムロムツェワ、アナスタシヤ・シェフチェンコ

   小さな白鳥:オクサーナ・シーラ、テチヤナ・ソコロワ、エリザヴェータ・ゴギードゼ、カテリーナ・カルチェンコ

   花嫁候補:カテリーナ・カザチェンコ、ユリヤ・モスカレンコ、アンナ・ムロムツェワ、アナスタシヤ・シェフチェンコ

   スペインの踊り:オレシア・ヴォロトニュク(たぶん)、他3人は不明

   ヴェニスの踊り(←「ナポリの踊り」と同じ音楽):コスチャンチン・ポジャルニツキー

   ハンガリーの踊り:不明

   マズルカ:不明

   二羽の白鳥:ユリヤ・モスカレンコ(たぶん)、アナスタシヤ・シェフチェンコ(これは間違いない)


   指揮:オレクシィ・バクラン
   演奏:ウクライナ国立歌劇場管弦楽団

   第一幕:70分、第二幕:40分、第三幕:20分


  今回上演されたのはワレーリー・コフトゥン版だということです。プティパ/イワーノフ版を基にしていますから、マリインスキー劇場バレエが上演しているコンスタンティン・セルゲーエフ版とよく似ています。

  ただし、意外にもユーリー・グリゴローヴィチ版とも同じ部分がありました。第二幕の「黒鳥のパ・ド・ドゥ」でのオディールのヴァリエーションは、音楽、振付ともにグリゴローヴィチ版とまったく同じでした。前後関係はよく分かりません。

  道化はいませんでした。道化がいない版は他にも観たことがありますが、やっぱり物足りないですな。

  舞台装置は例によって簡素でした。しかし、おそらく地元でも頻繁に上演される定番演目なのであろうせいか、衣裳はとても豪華、重厚で美しかったです。今回の日本公演で、装置と衣装が最高にショボかったのは『バヤデルカ』で、『バヤデルカ』は地元キエフでもさほど上演されていないのではないかと察せられました。

  『白鳥の湖』といえば王子が踊る場面が少ないものですが、このコフトゥン版ではジークフリート王子が踊る場面がかなり増やされています。特に第一幕第一場です。登場した直後、パ・ド・トロワのコーダの一部、みなが去った後にそれぞれソロを踊ります。これは嬉しい改訂です。『白鳥の湖』の第一幕第一場って普通はヒマくさいもん。

  めずらしい演出だなと思ったのは、王妃がジークフリート王子にボウガンを贈る前に、なんか騎士らしいオジさんが王子をひざまずかせ、その両肩に剣を当てます。ドン・キホーテが旅立つ前にサンチョ・パンザに同じことをするし、中世を舞台にした映画でも時どき目にしますが、これってどういう意味?ともかく、細かいけどなかなか凝った演出だな、と。

  (その2に続く。)

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いたー!


  といっても姿を見たわけじゃないのだが。

  去年の上海マスターズ準々決勝、ノヴァク・ジョコヴィッチ対ガエル・モンフィスの試合中、ジョコヴィッチがサーブしようとした瞬間、「アレ!モンフィース!」とわざと大声出して、2回にわたってジョコヴィッチのサーブを妨害したバカ男の観客がいました。

  そいつの声を聞いたとき、あ、これ、テニスの試合のテレビ中継でしょっちゅう聞く声だ、と思いました。

  今日の全豪オープン男子シングルス4回戦、ロジャー・フェデラー対ジョー=ウィルフライ・ツォンガの試合で、そいつの声がまーた聞こえたぞ!ワタシは人の顔を覚えるのが超苦手だが、声は人並みに覚えられる。

  第2セット第11ゲーム、ツォンガのサービス・ゲームで、フェデラーが先にポイントを取って0-15になったときです。ツォンガを応援する観客の声に交じって、「ジョーウィルフリー!」と叫んでる男の声があった。このしわがれた声、絶対にコイツだよ。世界中のいろんな大会を渡り歩いて「追っかけ」してる人なんだろう。よくそんな時間とおカネがあるなあ。うらやましい。

  第3セット、フェデラーがマッチ・ポイントを迎えたとき、フェデラーがサーブをしようとした瞬間に、複数の観客がやっぱり大声出してた。あれは応援しようとしたのか、応援するフリして邪魔しようとしたのか(たぶん両方だろう)。

  熱狂的なファンなら何やっても許されるワケじゃないだろが。悪意があろうがなかろうが、選手のプレーを妨害するなんぞ言語道断だよ。

  が、フェデラーはまったく動じず、そのままサーブを打って、最後はキレイなボレーを決めて試合終了。
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キエフ・バレエ『ドン・キホーテ』(1月9日)-3


  スペインの踊り(「ギターの踊り」とも呼ばれてる)はオレシア・ヴォロトニュクで、そこはかとない憂愁が漂う、なかなか味わい深い踊りでした。ヴォロトニュクはカスタネットを叩くのも非常に上手で、演奏とバッチリなタイミングで、高く心地よい音を響かせていました。音の強弱の付け方も見事。最初はオーケストラの奏者が鳴らしているのかと間違えたくらいです。この踊りは音楽も良いですものね。

  でも、新国立劇場バレエ団の『ドン・キホーテ』で、楠元郁子さんが踊ったギターの踊りのほうが印象に残ってるなあ。楠元さんのあの踊りはゾーンに入ってたというか、もはや悟りの境地に入ってたような踊りだった。うーん、他のダンサーと比べちゃいけないとは分かってるんだけど。

  問題はその後で、金色の衣装のエスパーダ(?)が登場します。第一幕とは異なるダンサーでした。カーテン・コールでは、白い衣装のセルギイ・クリヴォコンとこの金色衣装のダンサーが両方とも出ていたので、違うダンサーなのは確かだと思います。

  この金色衣装のダンサーもなかなか、というよりめっちゃ優れたダンサーでした。見た目も踊りも良かったので、キャスト表に名前載ってるだろうと思ったら載ってない。カーテン・コールでも後ろのほうにいたので、まだ位階の低い人なんだろうと思います。

  メルセデス役のオクサーナ・グリャーエワは、腕の使い方や雰囲気に深い味がありました。メルセデスが出てくる前にギターの踊りを踊ったオレシア・ヴォロトニュクよりも、スペイン風な腕の動かし方がうまくて長く見え、踊っている姿が大きく浮き出て見えます。かなり印象に残りました。

  第三幕で、金色の衣装を着たエスパーダらしい彼が出てきました。そして、第二幕でメルセデスを踊ったオクサーナ・グリャーエワとは別人らしい、メルセデスっぽいダンサーが出てきました。でも、これもキャスト表に名前がありません。

  今にして思えば、靴を確認すればよかったんだよな。トゥ・シューズなら大道の踊り子、キャラクター・ダンス用のシューズならメルセデス。仕事帰りで疲れで朦朧としてたので考えつかなかった。というか、キャスト表に名前載せてないほうがそもそも不親切だよなー、ぶつぶつぶつ…。

  ともかく、第三幕冒頭、金色衣装のエスパーダっぽい彼と、メルセデスもしくは大道の踊り子の彼女との踊りは大変にすばらしかったです。具体的には忘れました。すばらしいと思ったのを覚えているだけです。すみません。

  第三幕のキトリとバジルはオリガ・ゴリッツァとヤン・ヴァーニャ。ゴリッツァはやっぱりテクニックにまだ不安がありますなー。今回もバランス・キープの見せ場はほとんどスルーしてました。やっても、やる前からすでにグラグラしているので、さっさと次の動きに移っていました。

  ヴァーニャとの相性についても心配しましたが、今回はよく合っていました。キトリが片脚を横に伸ばしたまま回転し、バジルがキトリの腰を支えて止めて、キトリが上体を前に倒して開脚するところとか、しゃちほこ落としとか。

  いきなりグラン・パ・ド・ドゥだったせいか、ヴァーニャはちょっと調子が出ていなかったように見えました。それとも、バジルはあんまり向いていないのかな。でも相変わらずのきちんとした踊りでした。バジルの踊りってどう踊るのが正しいんでしょうね。許される範囲内で振付を変え、超絶技巧を披露するのがいいのか、あくまで振付からはみ出さずに踊るのがいいのか。

  ゴリッツァは、コーダでのグラン・フェッテで間に2回転入れて回り通しました。テクニックについては、得意なものもあれば、まだ不得意なものもあるということなんでしょう。しばらく様子見ですね。まだ若い(24~5歳)んだし。

  公演会場である文京シビックホールの大ホールには、オーケストラ・ピットが設けられていました。普段の列の6列目までがオーケストラ・ピットだったかな?私は舞台の奥が見切れるのが嫌で7列目(たぶん。半券もう捨てた)のチケットを取ったんだけど、行ってみたら最前列だったのでびっくりした。

  それで分かったんだけど、文京シビックホールの大ホールにオーケストラ・ピットを設けると、客席と舞台との距離がめちゃくちゃ遠くなります。東京文化会館大ホールよりも遠いと思います。そのため、ダンサーたちの踊りがなんか臨場感に欠けることになります。せっかくレベルの高い舞台だったのに、これはもったいなかった。

  私はオペラグラスを使いました。私の後ろ(8列目)に座っていた観客も、第二幕が始まる前に「意外と遠いな」と言って、オペラグラスを取り出していたようでした。結論としては、文京シビックホールの大ホールは、生オケ付きのバレエ公演には不向きである、と。交通も不便だしね。

  平日の仕事帰りにバレエを観に行くのはもう無理だな、と痛感しました。気力と体力がもちません。集中力を維持できないから、ダンサーたちの踊りがどうだったか、ところどころ記憶がすっぽり抜け落ちています。年はとりたくないもんだ。大したこと書いてない感想でほんとごめんなさい。

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キエフ・バレエ『ドン・キホーテ』(1月9日)-2


  第一幕のキトリ役はナタリア・マツァーク。最高でした!非の打ちどころのないすばらしさです。快活で溌溂とした魅力にあふれ、表情は豊かで、いたずらっぽい笑みやコミカルな表情がとてもすてき。テクニックは強靭且つ鉄壁でした。長い脚を根元から高々と上げ、えびぞりジャンプは頭とかかとがくっつかんばかりです。

  マツァークの踊りのあまりな凄さに、本当にただただ感嘆するばかりでした。第一幕だけだったら、スヴェトラーナ・ザハロワのキトリに勝ってるかも。キトリはマツァークにぴったりな役です。マツァークの良さを最も発揮できる役のように思いました。全幕通してマツァークで観たかったなあ。

  バジルはデニス・ニェダクで、やはりこれも適役。もっとも、ニェダクは役によって雰囲気や踊りのタイプをがらりと変えられる優秀なダンサーですが。ニェダクの場合は、パートナリング能力の高さも魅力の一つで、マツァークを片手だけで頭上高く支えて、長い間キープしていました。観客が「おお~っ!」とどよめきます。

  ガマーシュ役はヴィヤチェスラフ・ステリマフでした。これはステリマフのせいではなく、演出がそうなっているのだと思いますが、かなりウザいガマーシュでした。必要以上に出張ってキトリやバジルにからむの。はっきり言って目の邪魔。うるさい。

  マシモ・アクリさんが2011年の日本バレエ協会公演『ドン・キホーテ』でガマーシュをやりました。あのときのアクリさんもかなりやりすぎて、観ていてムカつきました。あのときと同じ不快感です。ガマーシュは観客を笑わせる重要な役ですが、かといって出張りすぎてもいけない。難しい役どころですね。

  独立した旧ソ連圏諸国の例に漏れず、ウクライナの経済事情もかなり深刻なんだそうです。そうした経済事情を反映してか、キエフ・バレエの舞台装置はかなり貧弱です。しかし、キエフ・バレエは、豪華な舞台装置や豪華衣装に頼れないぶん、踊りや演技の質の高さそのもので勝負しています。この姿勢が群舞のレベルの高さ(本当に群を抜いている)やダンサー一人一人の細かい演技に表れています。

  何が言いたいかっつーと、ワタシ、『ドン・キホーテ』第一幕の群舞に見とれたなんてはじめての経験よ。衣装の生地はどう見ても安っぽいのよ。でも、そのぶん色づかいを工夫して、鮮やかな色彩美を醸し出すようにしているし、その明るい色彩の衣装をまとった群舞がすばらしく踊ると、正直、舞台装置のショボさなんてどっかにふっ飛んで気にもならない。

  キトリの友人役はおなじみユリヤ・モスカレンコとアンナ・ムロムツェワ。おそらく明日のキトリ、オーロラ、ニキヤ、オデット/オディール等々になるだろう若いダンサー。この二人は第一~三幕を通して踊りました。第三幕のグラン・パ・ド・ドゥではそれぞれヴァリエーションも踊りました。二人とも脚が長いなあ、よく上がるなあ、テクニック強いなあ、と相変わらず同じことばっかり考えてた記憶はありますが、ごめんなさい、細かい具体的なことは覚えてません。

  第二幕のジプシーの踊り、カテリーナ・タラソワの踊りはよかったです。この踊りは、ただ振りだけなぞって踊ってるダンサーがよくいるけど、タラソワはきちんとジプシー女の悲哀みたいなものを漂わせてました。でも当たり前ながら、ユリアンナ・マハルシャンツ(ボリショイ・バレエ)には遠く及ばず。数年経った今でも、マハルシャンツのあのジプシーの踊りは忘れられん。「そう踊られるべきジプシーの踊り」を観られたことはラッキーだったんだなあ。

  第二幕、キトリというかドルシネア役はオリガ・キフィアクです。筋力とテクニックが強い人だから、第二幕に配したのは適切だと思います。実際に踊りも安定感のあるものでした。

  しかし、私の興味は森の女王役のカテリーナ・カザチェンコにありました。プロフィールの写真が怖くて(笑)、たぶんなんかの舞台写真だと思います。経歴もユニーク。2007-08年はエイフマン・バレエに所属してたんだって。その後またキエフ・バレエに戻ったそう。キエフ・バレエ出身者によくいる、個性の強い野心的なダンサーとみた。

  そのカザチェンコが森の女王をどう踊るのかと楽しみでした。ところがね。実にピュアで正統派な踊りではありませんか。我や個性も封じ込めて、役に徹している。雰囲気と踊りが予想と違ったので驚きましたが、もっと驚いたのがカザチェンコの脚!この人、身体の三分の二が脚だよ。長い長い。

  キエフ・バレエのバレリーナはみな脚が長いけど、カザチェンコの脚の長さは異常。でもきちんとコントロールして踊ってる。森の女王のヴァリエーションの最初(片足で立って、もう片脚を横にふり上げる)なんか、測ったら2メートル以上は軽くあるんじゃねえの、と仰天したくらい長かったです。それで余裕たっぷりにためをおいてキープ。カザチェンコ、もっと観たかった。来年はぜひ主役で。

  第二幕のバジルはドミトロ・チェボタルで、この人も長身・手足長・イケメンと三拍子揃ってる。回転は鋭く、キトリ役のオリガ・キフィアクのフィッシュ・ダイブをがっしり受け止め、パートナリング能力も高い模様。バジルの狂言自殺の演技も笑えました。キエフ・バレエの男性ダンサー人材の未来は明るい。イーゴリ・コルプやレオニード・サラファーノフのように、他のバレエ団に持ってかれて、便利屋のごとくコキ使われた挙句、使い捨てにされないよう気をつけてほしいものである。

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キエフ・バレエ『ドン・キホーテ』(1月9日)-1


  忙しくてなかなか更新できないっす。申し訳ないっす。記憶から去らないうちに(でもほとんど忘れちゃったけど)書いちゃいましょー。

  今日、新国立劇場バレエ団の『カルミナ・ブラーナ』(4月)のチケットを取りました。ゲストとして予定されていたバーミンガム・ロイヤル・バレエのイアン・マッケイが降板して、あらたに同バレエ団のタイロン・シングルトンが出演することになったそう。

  新国立劇場バレエ団の『カルミナ・ブラーナ』については、私はそもそもゲストを呼ぶ必要はもうないのではと思っているから、特に異論はなし。もう自前ダンサーだけで充分に上演できますよ。

  ついでにジャパン・アーツのサイトに行って、アメリカン・バレエ・シアター日本公演『マノン』(2月)のチケット残存状況を見てみたら、おお、かなり余ってる!ぜひともこのキャストで観たい、というこだわりはないので、いちばん良い席が余ってたポリーナ・セミオノワとコリー・スターンズ主演の日を買いました。ポリーナ・セミオノワは、今はどこのバレエ団の所属なんですか?

  アメリカン・バレエ・シアターの前回の日本公演は、『ドン・キホーテ』もマクミラン版『ロミオとジュリエット』も惨憺たる有様だったから、『マノン』も大いに不安なのですが、演目の魅力には勝てず。

  さて、キエフ・バレエの『ドン・キホーテ』は今回、一幕ごとにキトリ役とバジル役が異なるという方式で行われました。ずいぶん前のマニュエル・ルグリのガラ公演だったか、世界バレエ・フェスティバルだったかで、『白鳥の湖』を一幕ごとに主役を変えるという形で上演したように覚えています。

  こういう形の上演方式はありだとしても、私個人はあまり好きではありません。混乱するから。まさかそんなことはないとは思いますが、たとえば、スタミナの問題でキトリを三幕通しで踊れるバレリーナが現在のキエフ・バレエにいないのが理由だったとしたら、『ドン・キホーテ』を今回の日本公演の演目に入れるべきではなかったと思います。


 『ドン・キホーテ』全三幕(2014年1月9日於文京シビックホール)

   音楽:レオン・ミンクス

   原振付:マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴルスキー、K.ゴレイゾフスキー

   改訂振付・演出:ヴィクトル・リトヴィノフ

   美術:V.アレフィエフ、A.ヴラセンコ


   キトリ:ナタリア・マツァーク(第一幕)、オリガ・キフィアク(第二幕)、オリガ・ゴリッツァ(第三幕)

   バジル:デニス・ニェダク(第一幕)、ドミトロ・チェボタル(第二幕)、ヤン・ヴァーニャ(第三幕)

   ドン・キホーテ:セルギイ・リトヴィネンコ
   サンチョ・パンザ:ユーリイ・ロマネンコ
   ロレンツォ:ロマン・ザヴゴロドニー
   ガマーシュ:ヴィヤチェスラフ・ステリマフ

   大道の踊り子(第一幕):エレーナ・フィリピエワ

   エスパーダ:セルギイ・クリヴォコン
   メルセデス:オクサーナ・グリャーエワ

   森の女王:カテリーナ・カザチェンコ
   キューピッド:オクサーナ・シーラ

   キトリの友人:ユリヤ・モスカレンコ、アンナ・ムロムツェワ

   ジプシーの踊り:カテリーナ・タラソワ

   スペインの踊り(ギターの踊り):オレシア・ヴォロトニュク


   指揮:オレクシィ・バクラン
   演奏:ウクライナ国立歌劇場管弦楽団

   上演時間:第一幕 40分、第二幕 45分、第三幕 30分


  たぶん、エスパーダとメルセデスはダブル・キャストだったと思います。エスパーダは第一幕と第二・三幕でダンサーが違いました。第一幕は白い衣装、第二・三幕で踊ったのは金色の衣装のダンサーです。

  メルセデスも第二幕と第三幕でダンサーが違いました。ただしプログラムには、大道の踊り子としてエレーナ・フィリピエワとともにオリガ・キフィアクの名前が記載されていますから、第三幕でエスパーダと踊ったのは、メルセデスではなく大道の踊り子だったのかもしれません。ああもう、書いてて混乱してきた(汗)。

  『ドン・キホーテ』は、たとえば大道の踊り子という役がなく、メルセデス役のダンサーが大道の踊り子の踊りを兼任したり、第三幕のファンダンゴのリーディング・ダンサーを、別のソリストたちではなくエスパーダとメルセデス役が担当したりと、登場人物や担当する踊りが版によってかなり異なります。今回の公演では、キャスト表の不親切さが非常に目立ちました。次回の日本公演ではぜひ改善してほしい点です。

  いきなり第一幕のエスパーダに話がいきますが、エスパーダ役のセルギイ・クリヴォコンは長身、手足長し、きりっとした男前で、動きにもキレがあり、マントさばきも上手く、おお、こんな隠し玉がまだいたか、と感心しました。純白の闘牛士の衣装がよく似合います。

  クリヴォコンは13日の『白鳥の湖』でロットバルトを踊りました。キエフ・バレエが今回上演した『白鳥の湖』はワレリー・コフトゥン版で、ボリショイ・バレエが上演しているユーリー・グリゴローヴィチ版と同様、ロットバルトが踊るシーンがかなりありました。クリヴォコンの踊りには若干の不安定さはありましたが(あと振付が良くなかった)、非常にダイナミックですばらしいものでした。

  大道の踊り子はエレーナ・フィリピエワで、もちろんトゥ・シューズを穿き、ポワントで踊ります。正直言うとあまり記憶に残っていないのですが、音楽への合わせ方が絶妙なのと、揺るぎない安定した動きはさすがだなあ、と思ったことを覚えています。

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キエフ・バレエ『眠れる森の美女』(1月5日)‐3


  第三幕冒頭のポロネーズで、ディヴェルティスマンを踊るダンサーたちが次々と舞台に登場します。フロリナ王女を踊るエレーナ・フィリピエワが、青い鳥を踊るデニス・ニェダクと一緒に現れたとたん、客席から大きな拍手が沸きました。フィリピエワは本当に人気がありますね。

  青い鳥のパ・ド・ドゥが始まり、フィリピエワが現れるとまた大きな拍手、フィリピエワが踊り終わったらもちろん拍手。フィリピエワは、踊っている最中は穏やかな柔らかい微笑を浮かべたままでしたが、客席に向かってお辞儀をするとき、思わずといった感じでぱっと嬉しそうな笑顔になりました。戸惑いながらもこぼれてしまうその笑みがまた魅力的。

  ゆっくりとためをおいて踊り、必要なときにはきっちりキープ、余裕を持って片膝立ちになり、たおやかな仕草で耳に手を当てる。揺るぎない安定感と隅々までコントロールされた隙のない踊り。かのファルフ・ルジマトフがフィリピエワを「真のプロフェッショナル」と評したのもうなずけます。

  そういえば、キエフ・バレエにおけるヴァリエーションの最後のポーズは、両足ともにトゥで立ち、両腕を上に伸ばすものがほとんどです。終わりのポーズとしては、バレリーナにとって最も辛いものだと思いますが、みんなグラつかないできちっと立ってます。キエフすげー。

  青い鳥はデニス・ニェダクでした。普通に良かったと思います。フィリピエワのサポートでは少しぎこちなさが見られました。デニス・ニェダクは『バヤデルカ』でソロルも踊りましたが、身体の柔らかさや踊りのタイプからすると、青い鳥も踊るのは自然です。コーダの最初で、身体を横にくの字に曲げてジャンプするところ、ニェダクの身体の曲がり具合は尋常なものじゃありませんでした。あれは凄かったです。

  デジレ王子役はヤン・ヴァーニャです。第二幕冒頭、ヴァーニャの王子が舞台に颯爽と登場し、ダイナミックなジャンプや回転がてんこもりなソロを踊ります。ロシア系の『眠れる森の美女』では、王子が踊るシーンが意外と多いようです。ヴァーニャは深い藍色の上衣に白いタイツ姿。ヴァーニャ、絵に描いたように完璧な王子様です。

  踊り方も端正かつ上品で、しかも踊りにミスがないときたもんだ。おまけに長身なもんだから、踊りがデカいデカい。舞台が狭そう。大迫力。圧倒的。ヴァーニャがソロを踊り終えて舞台前面にすっと立ちました。ヤン様のあまりにりりしすぎる姿に、観客の間から一斉に感嘆のため息が。ある観客「脚長っ!」

  ヴァーニャはいまどき貴重な王子の逸材ですよ。190センチはあるだろう身長、手足胴体の長さのバランスが完璧に整った体型、優雅で気品漂う立ち居振る舞いと優しげな表情、ダイナミックかつ安定感ある踊り、堅実なパートナリング(ゴリッツァとの相性についてはちょっと疑問ですが)。日本で知名度ないだけで、優れたダンサーは世界にまだたくさんいる、という至極当然な事実をまたもや思い知らされます。

  ちなみに、リラの精と王子が小舟に乗ってオーロラ姫の眠る森に向かうシーン、舞台装置と仕掛けは、風景が描かれた背景の幕、横にスライドするだけの小舟、床に低く流された白煙のみと非常に簡素でした。しかし、意外にこれが非常に効果的でした。ポイントは背景の幕です。幕は下から上にゆっくりとまくれ上がっていくもので、風景が明るい空から暗くて欝蒼とした森の中へと変わっていきます。その中を小舟がスライドすると、かなりリアルに見えました。

  オーロラ姫を踊ったオリガ・ゴリッツァとヴァーニャとの踊りは、やはりちょっとガタつきがちでした。なんかヴァーニャのパートナリングがうまくいかない。第三幕のグラン・パ・ド・ドゥでそれが目立ちました。ゴリッツァは第一幕のローズ・アダージョでも、4人の王子たちと踊るとやっぱりなぜか危なっかしかったです。

  オリガ・ゴリッツァは、技術面ではまだ頼りないところがありますが、一人で踊るぶんには安定しています。それが、誰かと組んで踊るとバランスが取れない、軸足がブルブル震える、キープができない、身体が斜めになる、という状態になってしまうようです。理由は分かりません。

  第一幕最大の見せ場であるローズ・アダージョはしたがって、オーロラ姫のバランス・キープがまったくないという奇妙なものになりました。最初の時点で無理だと分かりました。王子たちの手をがっちり握ったゴリッツァの腕がガクガク震えて、ゴリッツァの身体が傾きそうになっています。ゴリッツァも下を向いてしまい、必死な表情になっちゃってました。

  大きな崩れを回避するためか、4人の王子たちは間をまったくおかずにゴリッツァの手を取っていきます。ところが、ゴリッツァが一人で踊る部分は問題なし。ローズ・アダージョの最後にはもはや拷問レベルのアティチュード・キープがありますが、もうゴリッツァの脚が落ちなければいいや、という気持ちで観ていました。

  その直後のオーロラ姫のソロは全然問題なし。第二幕でオーロラ姫の幻影の踊りは驚嘆するほどの凄まじさ。特にヴァリエーションでの、あれは何て名前の技なの?なんか細かいステップを踏んでから、片足だけでさりげなく半回転か一回転して、前に片脚をさっと上げて止まるの。うーん、うまく説明できない。

  第三幕のグラン・パ・ド・ドゥも、特にアダージョとコーダで、ゴリッツァとヴァーニャとのタイミングが合わない感が見られました。やっぱりオーロラ姫はめちゃくちゃ困難な役なんだろね。今回、ゴリッツァは踊りをこなすので精一杯で、ゴリッツァの魅力である豊かな表現力を充分に出せていなかった気がします。ゴリッツァの笑顔じゃなく、マジ顔しか覚えてない。真剣な目つきで下向いて眉根にしわ寄せた表情です。

  ナタリア・マツァークとオリガ・ゴリッツァとオリガ・キフィアクの長所を合計したのがエレーナ・フィリピエワなんでしょうが、フィリピエワほどのバレリーナは滅多に出るものではないのだなあ、と思いました。

  今回は期せずしてオリガ・ゴリッツァ主演の日に当たりました。初見のダンサー主演の全幕を短い期間に集中的に観たのは興味深い経験でした。これも何かの縁ということで、ゴリッツァにはこれからも注目していきたいです。5年後、10年後にはどんなバレリーナに成長しているのかな。

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キエフ・バレエ『眠れる森の美女』(1月5日)‐2


  なにしろ登場人物が大量なので、どのダンサーから取り上げたらいいのか困りますが、群舞から。

  このキエフ・バレエは群舞が本当にすばらしいです。みなの踊りがきちんと揃っているし、どのダンサーの動きもしっかりしてます。また今日思ったことには、群舞の振付自体も良いんじゃないかと。振付は基本的にきっかり左右対称です。列もほぼ縦と横の組み合わせオンリーとシンプル。妙な工夫をして対称を崩したりしてないところが、ダンサーたちの良さを引き出しているようです。

  ただ、なにげに難しい動きも入れてます。日体大の集団行動みたいな交差とかね。踊りながら交差しているのに、ダンサーたちの足並みや列がまったく乱れません。

  『バヤデルカ』のときから気になっていましたが、日本のバレエ学校から生徒さんが多数出演しています。みな中学生くらいの子たちです。この『眠れる森の美女』では第二幕の「花のワルツ」になんと男子6名、女子6名、総勢12名の子たちが加わって踊りました。かなり長い時間でした。フォーメーションの変化も難しかったと思います。でもこの子たちも精鋭揃い。きれいなポーズと動きで端正に踊っていました。

  キエフ・バレエの団員と日本の子どもたちによって踊られた「花のワルツ」は本当に見事でした。子どもたちの頑張りがすばらしかったのではなく、子どもたちの踊りそのものがすばらしかったのです。私は「花のワルツ」はあまり好きじゃないですが(ヒマくさいから)、今日のは見とれてしまいました。「すばらしさ」って、舞台から自然と下りてきて客席を支配するんですよ。「花のワルツ」が終わると、観客が大きく拍手しました。

  キエフ・バレエの群舞は、女子は小柄な人が多いようですが、男子は基本的にみな長身で、容姿にも体型にも恵まれた脚の長いイケメン君ばかりです。普通、男性群舞の中には、見た目は長身イケメンでも、肝心の踊りのほうがまだ追いついていない人がちらほらいるものですが、キエフ・バレエの群舞には、男女ともにバレバレに踊れない人はいないです。

  身長と体型といった容姿に関しては、かな~り厳格だと思いますよ、このバレエ団。特に男性ダンサーには厳しい条件が要求されているんじゃないでしょうか?男性ダンサーは人材不足だから、ボリショイ・バレエはもちろんマリインスキー劇場バレエでさえも、能力が高ければ見た目は過度に問わなくなっていると思うんですが、キエフ・バレエはなんか旧ソ連時代の「キーロフ・バレエ基準」をいまだに守り続けている感じがします。

  リラの精はナタリア・マツァークでした。テクニック強いのに、なんでいちばん最初の踏み出す一歩とかでつまづいたりするのかな?なのに、その後は完璧に踊ってのける。『バヤデルカ』でもそうだったし、今回もそうでした。容姿、身体能力、技術、どれ取っても完璧なのに、この不安定さは何なのか。天才肌な反面、繊細で神経質な人なのかも(多分にそんな感じがする)。

  カラボスはセルギイ・リトヴィネンコ。鉤型の付け鼻ととんがった付け顎に赤毛のカツラと、絵に描いたような魔女でした。すっごい背の高い(おそらく190センチ超)人なのに、腰をひんまげて杖をついて歩きとおしました。カーテン・コールでは、腰を曲げて出てきたのが、舞台中央でいきなり背筋を伸ばしてすっくと立ちました。そのあまりな背の高さに観客が「おおっ」とどよめき、次には笑い声とともに大きな拍手が沸きました。

  リトヴィネンコはマントさばきも非常に上手でした。きれいな円形に翻させるの。個人的にはこれが最もツボでした。

  アナスタシヤ・シェフチェンコ、アンナ・ムロムツェワ、ユリヤ・モスカレンコ、オクサーナ・シーラ、オリガ・キフィアクは、第一幕では妖精たちとオーロラ姫のご学友(?)役、第三幕ではディヴェルティスマンを踊りました。やっぱりキフィアクが突出しています。

  キフィアクは第一幕で勇気の精、第三幕でダイヤモンドを踊りました。音楽の取り方とそれに合わせた動きが絶妙でした。シャキシャキしていて、見ていて気持ちいいです。強靭で安定感があるので、安心して観ていられます。ダイヤモンド(勇気の精だったか?)の両腕の上げ方とかカッコよかったな。

  アナスタシヤ・シェフチェンコはいいっすねー。踊りはまだまだこれからなんだろうけど、恵まれた体型のせいもあってか舞台上で妙に目立ちます。観客の目を引くのも才能の一つだと思うし、一癖も二癖もありそうなところがまたイイんだよね。先が楽しみです。

  第三幕のディヴェルティスマンの中で、猫の踊り(カテリーナ・タラソワ、マクシム・コフトゥン)と赤ずきんの踊り(カテリーナ・カルチェンコ、ワシリー・ボグダン)は、ダンサーがみな凄くて、女子も男子も180度開脚で高度1メートル以上(たぶん)でバンバン跳びまくるので、ディヴェルティスマン中に漂いがちな倦怠感がありませんでした。ありがたいことです。

  シンデレラと王子の踊り(オクサーナ・シーラ、ヘンナージィ・ペトロフスキー)を観たのは今回が初めてです。音楽も聴いたことがありません。キエフ・バレエで採用してるってことは、マリインスキーやボリショイの『眠れる森の美女』にもあるのね?おそらく。王子は「フォーチュン」という名前だそうな。一瞬、「幸福な王子」という号泣ものの童話を思い出してしまった。いや、「フォーチュン王子」だったら「幸運な王子」だよ。シンデレラを見つけたからか?

  そのフォーチュン王子を踊ったヘンナージィ・ペトロフスキーは背が高くて脚が長くて若くてピチピチなイケメンでした。踊りも余裕があって安定感抜群。ジャンプ高し。明日のジークフリート、ソロル、デジレ、アルブレヒトかもしれん。

  (その3に続く。次で終わり。)

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キエフ・バレエ『眠れる森の美女』(1月5日)‐1


   あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。


  まずはテニスの話題から(興味のない方はすっとばしてね)。フェデラー、ブリスベン国際の男子シングルスで準優勝だそうで。相手はレイトン・ヒューイット(←去年のとんねるずの「スポーツ王は俺だ!」で石橋・木梨ペアの助っ人に来た)。同じおっさん同士(ともに32歳)の戦いとなりました。

  フェデラーには今季初戦を優勝で飾ってほしかったですが、相手がヒューイットなら仕方ないです。ヒューイットは頂点(世界ランキング1位)から怪我のせいでどん底に落ちて、しかも長年どん底を味わい続けて、それでも必死に頑張って這い上がってきた選手です。ヒューイットに比べたら、フェデラーはまだまだ苦労知らずの甘ちゃん。去年の「絶不調」なんて苦労のうちにも入りません。

  また、フェデラーとヒューイットとは、今はあらゆる面で立場が完全に違います。フェデラーは今後もまだグランド・スラムで優勝する可能性がある選手です。それに今回、ダブルスでベスト4、シングルスで準優勝なら、足せば優勝と同じでしょ(笑)?

  さ、次からはバレエの話題です~。


 キエフ・バレエ『眠れる森の美女』全三幕(2014年1月5日 於東京文化会館大ホール)

   作曲:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

   台本:マリウス・プティパ、イワン・フセヴォロジスキー

   原振付:マリウス・プティパ

   改定振付・演出:ヴィクトル・リトヴィノフ
   美術:マリヤ・レヴィーツカ


   オーロラ姫:オリガ・ゴリッツア
   デジレ王子:ヤン・ヴァーニャ

   リラの精:ナタリヤ・マツァーク
 
   カラボス:セルギイ・リトヴィネンコ(ロマン・ザヴゴロドニーより変更)

   カタルビュット:ヴィタリー・ネトルネンコ

   優しさの精:アナスタシヤ・シェフチェンコ
   元気の精:アンナ・ムロムツェワ
   鷹揚の精:ユリヤ・モスカレンコ
   吞気の精:オクサーナ・シーラ
   勇気の精:オリガ・キフィアク

   ダイヤモンド:オリガ・キフィアク
   サファイア:アンナ・ムロムツェワ 
   ゴールド:ユリヤ・モスカレンコ
   シルバー:アナスタシヤ・シェフチェンコ

   フロリナ王女:エレーナ・フィリピエワ
   青い鳥:デニス・ニェダク

   白い猫:カテリーナ・タラソワ
   長靴をはいた猫:マクシム・コフトゥン

   赤ずきん:カテリーナ・カルチェンコ
   狼:ワシリー・ボグダン

   シンデレラ:オクサーナ・シーラ
   フォーチュン王子:ヘンナージィ・ペトロフスキー(←イケメン)

   フロレスタン王:不明(←ちゃんとキャスト表に載せてくれよ)
   王妃:不明(←同上)


   指揮:オレクシィ・バクラン(←出たー!wwwww)

   演奏:ウクライナ国立歌劇場管弦楽団

   
   第一幕:70分、第二幕:30分、第三幕:40分


  ロシア系の『眠れる森の美女』を観るのはすっごい久しぶりです。どんな長丁場になるかと覚悟していましたが、そんなに長くなくてよかった。でも、他の古典作品と比べたらやっぱり長いよね。『眠れる森の美女』は休みの日に観るにしかず。

  指揮のオレクシィ・バクランがオーケストラ・ピットに入って来て、バクランの特大アフロ・ヘアーがピットの縁からにょっきりと突き出た途端、さっそく噴き出しそうに。アフロの円周が長くなったんじゃ?

  序曲。バクラン、このクソ寒い日にさっそく激熱です。また指揮台の上で飛び跳ねてます。バクランのアフロ頭が上下左右に激しく揺れます。バクランのアフロ頭で視界がしょっちゅうさえぎられます。邪魔です。楽しいけど。

  ミコラ・ジャジューラのテンポがめっさ遅いのと違って、バクランのテンポはいつも速めです。ときどき、てめえ、ダンサーちゃんと見て振ってねえだろ、と思えるほど暴走してしまう場合があります。今回も全体的に速めでした。でも、ダンサーたちは慣れてるようでした。あとはやはりバクランの指揮による演奏のほうが、なんかドラマティックな感じがしました。

  残った紙幅で書けることは。まずマイムの残存状況だな。第一幕、カラボスがオーロラ姫に呪いをかける部分のマイムはほぼ残してありました。それ以外は簡素にしてあるか、踊りにしてあるかのどちらかです。マイムをシンプルにしたり踊りにしたりすると、逆にストーリーが分かりにくくなるこの不思議。

  でも、イギリス系の『眠れる森の美女』には欠かさず残っている一連のマイムは、誰がどの段階で付けたのだろう?そもそもロシア系の『眠れる森の美女』には当初から存在したのだろうか?やっぱり存在したのかなあ。イギリス系の古典バレエに残存しているマイムは、元バレエ・リュスのダンサーたちが伝えたものだというから。

  それに、このキエフ・バレエの『眠れる森の美女』に見られるわずかなマイムは、「加えたもの」じゃなくて「消した跡」のように思えます。必要最小限なものだけを残し、あとは削除した感じです。『眠れる森の美女』のマイムの変遷について、プログラムに書いてくれたら嬉しいんだけどなー。

  (新年さっそくですがその2に続く。)

 
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